気分転換
柳水達から竜神際に招待されたエルク達は、水の国・アクアドリームを訪れた。
エルクとアリスは、雫から近いうちに同じ聖剣であるバダカルと争いが始まると伝えられる。
【水の国・アクアドリーム国・水鈴邸】
朝日が昇り、光が窓ガラスを通り抜けてエルクの顔を照らした。
「う、う…ん」
目を覚ましたエルクは、目を擦ろうとしたが右腕にはアリス、左腕には雫が抱きついており動かせなかった。
畳の上に布団が三枚敷かれており、エルクが寝ている中央の布団一枚に三人が入っていた。
「な、何で…こんな状況になっているんだ…」
戸惑いながらも必死に昨晩のことを思い出そうとするエルク。
(確か、あの後、風呂に入って、その後、この部屋に案内されて俺は別室で寝るって言ったけど、アリスと雫から、せっかく用意して貰っているんだからと言われて真ん中の布団で寝ることになったんだった。だけど、何故俺の布団に二人が入っているんだ?まぁ良いか。それにしても、二人の胸は予想よりも大きく柔らかいな。って、しっかりしろ!俺。そんな気持ちに浸っている場合じゃない。今は、二人が目を覚ます前にこの状況を何とか脱出しないと…。もし、この状況で二人が目を覚ましたら確実に殺されてしまう…)
エルクは頭を左右に振り煩悩を追い払うと同時にどうにか抜け出そうと試みるのだが、動かす度に二人の浴衣ははだけていき、抱きついているアリスと雫の腕の力は強まり抜け出すことはできなかった。
そうしているうちに、アリスと雫が目を覚ました。
「「うん…」」
アリスと雫は、目を擦りながら着ている浴衣がはだけていることに気付いておらず、そのままの状態で上半身を起こした。
(俺、死んだ。間違いなく死んだ)
エルクの顔は青く染まった。
「お、おはよう。アリス、雫」
顔を引き攣りながら挨拶するエルク。
「ん~、おはようエルク」
「おはようございます、エルクさん」
アリスは腕を伸ばしながら挨拶し、雫は笑顔を浮かべて挨拶した。
「こ、これは、その…」
「ま、間違ってあなたの布団に入ったみたい…。だ、だから、気にしていないわ」
「そ、その私も誤って入ったので…気にしていないです…」
アリスと雫は、頬を赤く染めながら苦し紛れの言い訳をした。
「そ、そう…」
(助かったのか?)
二人の予想外な反応に戸惑うエルク。
「だけど」
「ですけど」
「ん?」
「せ、責任を取りなさいよ!」
「せ、責任を取って下さい…」
アリスと雫は、顔を赤く染めながら立ち上がりエルクを指差した。
「何の責任か知らないけどけど、1つ忠告をして良いかな?」
「何よ?」
「二人共、浴衣がはだけて下着が見えているよ。だから、浴衣を直した方が…」
「「え?きゃ~」」
エルクの言葉の意味を理解したアリスと雫は、一瞬に瞬間湯沸し器の様に顔を一瞬に真っ赤に染めながら同時に無意識でビンタをした。
「ぐぁ」
甲高い音とエルクの声が、屋敷中に響いた。
【水の国・アクアドリーム国・水鈴邸・食堂】
エルクは、左右の頬に赤い紅葉みたいな手のひらの跡がついたまま食事をしていた。
「そ、そのエルク。ごめんなさい」
「ごめんね、エルク君」
「もう気にしていないから」
「お食事中に失礼します。雫様、そろそろ竜神際のご準備のご支度を…」
「わかりました。アリスちゃん、エルク君、私は祭の準備をするために先に行くけど、気にせずにゆっくりとして行ってね」
「ええ、そうさせて貰うわ。それに、今年も祭を満喫するわ」
「雫、頑張れよ。今年も必ず、雫の舞を見に行くから」
「うん!絶対だよ!約束だよ!」
雫は微笑み、そして、仲居さんと一緒に部屋から立ち去った。
その後、エルクとアリスは食事が終わった。
「ねぇ、エルク。この後、一緒に祭に行かない?」
「それは良いけど、俺は護衛役として来ているから、まずはジニール様達に相談しないとね」
「そうよね…」
(今年は、お揃いの着物を着て二人だけで回りたかったのだけど…)
落ち込むアリス。
そんな時、突然に隣の襖が開き、ジニール、アリーナ、ベルの三人がいた。
「それなら、大丈夫よ。ねぇ、あなた」
「そうだぞ、私とアリーナにはベルがいるからな。それに、柳水殿が、この国の騎士団を派遣してくれいるのだ。だから、私達のことは心配せずに、二人で祭を楽しんでくれば良い」
「私にお任せ下さい、アリス様」
ベルは、会釈する。
「ありがとう。じゃあ、エルク。1時間後水鈴邸の玄関で。ちゃんと、買った着物を着てきなさいよ」
「わかったよ、アリス」
「わかれば、よし!では、お先に失礼します。お父様、お母様」
アリスは、両親に会釈して嬉しそうな表情を浮かべて部屋から立ち去った。
「どうした?エルク。何か私達に用でもあるのか?」
「はい、モラビニス国とのことで」
「何だ?」
「ジニール様達は、アリスを連れてご帰還して頂きたいのです。アクアドリーム国の助力は私一人だけで…」
「それには、訳はあるのだな?」
「はい、まだライティア国は、何者かに狙われている可能性が非常に高く、出国する前に近くに潜んでいるのか周囲を徹底的に捜査しましたので、流石に三日ではライティア国に【ブラッド・チルドレン】の奇襲はないと存じますが、日が延びると話は違います。もし【ブラッド・チルドレン】が侵攻してきてもアリスがいれば阻止できると思います。逆を申せば…」
「国は落ちると言いたいのだな?」
「申しにくいのですが、その通りです」
「柳水殿」
「私は、それでも構わない」
「大変、申し訳ない」
ジニールとアリーナは、頭を下げた。
「ジニール様、アリーナ様、頭を上げて下さい。国のためです。仕方ありません」
妃の瑞樹は、慌てて声を掛ける。
「かたじけない」
「ところで、雫からバダカルが【ブラッド・チルドレン】を勧誘したとお聞きしたのですが、【ブラッド・チルドレン】の誰なのでしょうか?」
「【ブラッド・チルドレン】7番隊、隊長の【クレイジー・ピエロ】だ。我々(われわれ)より詳しく知っているとは思うが年齢問わず、命乞いをする者達を笑いながら平気で殺す。思考も行動もイカれている少女だ」
「よりによって、あの痴女か…」
「ん?痴女だと?」
「気にしないで下さい。こちらの話です。あと最後に、大変、申しにくいのですが…」
「お前の封印のことだな?」
「はい」
「あなた」
「わかっておる。私は、決してエルクを疑っておらん。それどころか、寧ろ心から信頼しているほどだ。だが、他の者達の想いもある。そこで、条件を2つ出す。まず1つは、封印解除は私達が帰国する際に行う。そして、最後の1つはアリスの封印解除か私達が所持している制約の封印解除の片方だけだ。すまないが、完全な封印解除できない」
「わかりました。片方だけでも感謝しております。では…」
【水鈴邸・玄関】
(完全な封印解除しないままで、あいつに勝てるのか…。)
「お待たせ、エルク」
(いや、それ以前に完全な封印解除しても身体や反応、戦闘の勘が鈍っている今のままでは微妙かもしれない…)
「エルク?」
(いや、何を弱気になっているんだ。勝てるか、どうかじゃない。やるしかないんだ)
「ねぇ!エルクってば!」
アリスは、両手でエルクの頬を摘まんで引っ張った。
「痛だだ…。何すんだ?アリス」
「話し掛けても、気付いてくれなかったじゃない。そんな深刻な表情して何を考えていたの?」
「ごめん、去年の竜神際を思い出していたんだ」
「嘘、だって、思い出すだけなら、あんなに険しい表情しないもの。大方、バダカルのことを考えていたのでしょう?」
「アハハ…。バレていたか。アリスには隠し事はできないな」
「エルク、あなた一人じゃないわよ。私と雫も一緒に協力して戦うのよ。だから、心配ないわ。大丈夫に決まっているわよ。それに、そんな深刻な表情でいたら雫が心配するでしょう?」
「それもそうだな」
「わかれば善し!じゃあ、気分転換も兼ねて、早く祭に行くわよ!エルク」
アリスは、エルクの手を取って引っ張りながら振り向いて微笑んだままウィンクした。
「あ、ああ…」
エルクはアリスの笑顔に見とれて反応が遅れ、そのままアリスに引っ張られて一緒に祭に向かった。
次回、竜神際です。
もし、宜しければ次回もご覧下さい。




