大人の階段と天国の階段は紙一重
エルクは国王ジニールに報告し、どうにか無罪になった。
【ライティア国・ライティア学院・教室】
アリスとエルクのクラスメイト達は、エルクに集まっていた。
「なぁ、エルク。俺達に剣術や武術を教えてくれないか?」
イルダは、エルクの肩に腕を回す。
「別に構わないけど、急にどうしてだ?イルダ」
「今回の件で、痛感したんだ」
「痛感?」
「ああ、そうだ。俺達は能力が使えたのに何もできなかった。それに比べ、エルクは能力が使えないのに俺達以上の活躍、いや、俺達を助けてくれた。そういえば、お礼はまだ言ってなかったな。ありがとう、エルク。ありがとうございます、アリス様」
イルダの隣にいるアルダは、笑顔を浮かべてお礼を言った。
「それに、アリス様が前に言っていた通り、武器の見た目よりも自身の実力が1番大切だと思い知らされたわ。特に剣術や武術の大切さをね。だから、時々(ときどき)で良いから暇な時に私達に剣術や武術を教えて欲しいの。どうかな?エルク君」
ララは、両手を合わせながらウィンクしてお願いする。
「そう言われてもな…」
頭を掻きながらエルクは、困った表情を浮かべてアリスに視線を向けた。
「別に構わないわよ、エルク。私だけエルクと訓練しているのも悪い気がするから。あと、エルク一人だと大変そうだから、時々(ときどき)で良いのなら私も参加して教えてあげるわ」
「ということで」
エルクは、笑顔を浮かべる。
「「やった…」」
クラスメイト達は、喜び合った。
「ありがとうございます。アリス様、エルク君」
ララは感謝した。
こうして、エルクとアリスは、クラスメイト達に教えることとなり、次第に他のクラスにも広まっていき人数が増えていった。
【ライティア国・ライティア学院の東側の丘の上】
エルクとアリスの特訓は週三日で、あれから1ヶ月が経とうとしていた。
生徒達は、エルクが作ってくれた自分達の能力の武器の形と重量が全く同じ木製の模型を使い訓練をしている。
学院が終わり、学院の東側にある丘でエルク達は集まって訓練をしていた。
「オラ!」
「ハッ!」
丘の上では、イルダとアルダがエルクが作ってくれた木刀を振り下ろして鍔迫り合いになりお互いに押し合う。
「やるな!アルダ」
「それは、こっちの台詞だ。イルダ」
アルダとイルダは、互いに笑みを浮かべる。
「「ハッ!」」
アルダとイルダは、同時にバックステップをして一旦離れて同じ方向に走り、再び接近する。
「ヤッ!」
「ルァ!」
お互いに木刀を振り、激しい連撃を繰り広げ、アルダの木刀はイルダの首元に、イルダの木刀はアルダの腹部の手前で止まった。
「お疲れ様、二人共。はい、タオルと飲み物よ」
ララは、アルダとイルダに歩み寄りタオルとミネラルウォーターを渡す。
「ありがとう、ララ」
「サンキュー、ララ」
アルダとイルダは、お礼を言いながらタオルとミネラルウォーターを受け取った。
「なぁ、ところでララ。どうだった?俺とアルダ、どっちの攻撃が速く先に決まっていた?」
イルダは、タオルで顔を拭きながらララに尋ねる。
「同時だったわよ。だから、引き分けよ」
「ちぇっ、また引き分けか」
「だけど、二人共、見間違えるほど強くなっているわよ」
「それは、自分自身でも実感しているけど、強くなればなるほど、エルクやアリス様の実力は俺達とかけ離れているというよりも次元が違うという事が身にしみるほど分かるよな」
アルダはため息をしながら、丘の上から離れた丘の下で訓練をしているエルクとアリスを見る。
「だな」
「そうね」
イルダとララは、肯定しながらエルクとアリスに視線を向けた。
【丘の下】
丘の下では、エルクとアリスが手合わせをしていた。
エルクとアリスの周りには、大勢の生徒達が観戦している。
「ヤッ!ハッ!ハッ!」
アリスは木製のレイピアで、風を切り裂くほどの高速で鋭い突きを放つが、エルクは体や頭を傾けながら全てを避けていく。
「ハァッ!」
アリスは、流れる動作で躱された突きから横の凪ぎはらいに繋げる。
エルクは、上半身を反らして避けながらバク転して距離を取ろうとしたが、アリスが張り付く様に距離を縮めて突きや斬撃を繰り出して攻撃の手を緩めない。
「トリプル・スピア」
アリスは3段突きを放つ。
アリスが放った3段突きは、3本のレイピアを同時に突きを放っているかの様に見える。
「くっ」
エルクは頭を傾けて1つの突きを避け、握っている木刀を使って残りの2本の突きの軌道を変えて攻撃を受け流した。
アリスは、攻撃の手を止めて一息吐いた。
「相変わらず常人離れした回避力ね、エルク。予想はしていたけど、やはり、切り札の3段突きでも攻撃が当たらなかったわ。当たらないと知っていても、とても悔しいわね」
呆れた表情を浮かべるアリス。
「いや、正直に驚いたよアリス。特に最後に見せた3段突き、トリプル・スピアだっけ?あれは見事だったよ。アリスの能力が加わったら防ぐことができず、当たっていたかもしれない」
「そ、そうかな?」
エルクに褒められたアリスは口元が緩んだ。
生徒達は、水筒やタオルを持ってアリスとエルクに駆け寄る。
「お疲れ様です!アリス様!」
「お疲れ様!エルク君」
アリスの所に多くの男子達が集まり、エルクの所には多くの女子達が集まった。
「ごめんなさい。私達は、自分のがあるから大丈夫だから。はい、エルク」
アリスは、ベンチに置いていたタオルと水筒をエルクに渡して倒れている巨木に腰掛けた。
「ありかとう、アリス」
タオルと水筒を受け取ったエルクは、タオルを肩に掛けてアリスの隣に座る。
「エ、エルク君、もし良ければ、この後、私と訓練してくれないかな?」
アリスとエルクの周り生徒達が集まっている状況中、女子の一人が緊張した声で懇願した。
「確か、ミーナさんだったかな?俺で良ければいいよ」
「は、はい!ありがとう、エルク君」
「あ、良いな。俺も」
「私も」
エルクとアリスの周りにいた生徒達は、次々(つぎつぎ)に声をあげる。
「じゃあ、そろそろ暗くなるし、最後にいつもの多数戦しようか。アリス、これ頼むよ」
エルクは、水筒の栓を閉めてアリスに渡して立ち上がった。
「頑張って、エルク」
水筒を受け取ったアリスは、手を振りながら笑顔でエルクを見送った。
あれから、30分が絶ち日が落ちて空に月と星がうっすら見える始める。
「今日は、三日月か…」
月を見上げているエルクの周りには、多数戦をした50人以上の生徒達が疲労で倒れたり、地面にへたり込んでいた。
「君は腕の力だけで剣を振っているから、意識して体全身を使うこと。君は剣を握る力に斑があるから一定にすること。そこの君は打ち込みする時の歩幅をもう少し大きくすれば威力が上がるから」
エルクは、一人一人に丁寧にアドバイスしていく。
こうして、1日の訓練が終わった。
【ライティア学院・教室】
「「おはよう」」
エルクとアリスは、挨拶しながら教室に入ると教室は、クラスメイト達がララの周り集まっていた。
「ん?」
「何かあったのかしら?」
エルクとアリスは、頭を傾げた。
「これを見て欲しいの」
ララはアルダに1枚のパンフレットを渡し、イルダ達がアルダの横や後ろからパンフレットを覗く。
「おいおい、これって、エルクが出れば優勝できるんじゃないか?」
渡されたパンフレットを目を通したアルダは、驚愕した表情で震えた。
「だよね。私も、パンフレットを見た瞬間、そう思ったよ」
「「おはよう」」
エルクとアリスは、集まっているララ達に歩み寄る。
「おっ!噂をすればエルクが来たぞ!」
イルダがエルクとアリスに気付いた。
「「おはようございます、アリス様、エルク君」」
クラスメイト達は、エルクとアリスに挨拶する。
「何かあったの?」
「あのコレなのですが…」
アリスは尋ねるとアルダは、持っていたのパンフレットをアリスに渡した。
「ん?何々(なになに)…」
パンフレットをアルダから受け取ったアリスは、目を通す。
パンフレットには、王者決定戦!集え、強者達よ。
参加条件は特になし。
武器の持ち込みあり(銃の使用はありだが、爆弾は禁止)、能力の使用あり。
命を落とす可能性あり。
死亡しても自己責任。
勝利条件は、相手が降参、または気絶、死亡など戦闘続行不可の場合。
力や戦闘に自信がある者達だけを募集中。
報酬は一千万トールと特殊合金製の盾、王直属護衛部隊の所属(希望者のみ)。
なお、王直属護衛部隊になれば、地位やお金、気に入った異性を自由できる権利などを進呈する。
イベント会場は、モラビニス国のモラビニス城内と記載されていた。
「ありかとう、ララ。それにしても、参加者の安全が確保していない以前に、この記載している感じだと、わざと殺害を仄めかせて助長させているわね。本当に物騒なイベントだわ。こんなイベントが国を挙げてのものだなんて、未だに信じられないわ。ううん、信じたくないわ」
アリスは、パンフレットをララに返して憤った。
「モラビニス国…。ん?どこかで聞いたことのある様な…。ああ、思い出した。今は聖剣上位達の者を今は四宝と言われているけど、その前は【九頭竜】と言われていた頃の一頭だった聖霊【マクスウェル】を宿していた【武帝のジノ】がいた国だったな。ジノは本当に強かっ…」
「ちょ、ちょっと!エルク!」
慌ててアリスは、エルクの口を手で塞いだ。
「「え!?」」
エルクの話を聞いたララ達は、驚きの表情で声をあげてマジマジとエルクを見る。
「あ、あの、エルク君は、あの【武帝のジノ】様と戦ったことがあるの?」
ララが恐る恐る尋ねる。
「い、いや、戦っている姿を見たことがあるんだ…アハ、アハハハ…」
エルクは、苦笑いを浮かべて苦し紛れに答えた。
「「ん?」」
あまりにも不自然なエルクの態度にクラスメイト達は頭を傾げながら怪しむ。
「た、確か、今はモラビニス国は【武帝のジノ】様の弟君であるバダカルがいたわね」
アリスは、誤魔化すように話を進める。
「そうですね、バダカル様は兄である【武帝のジノ】様が宿していた聖霊【マクスウェル】と同じ能力を持った聖霊【オーディン】を宿していて、今は【戦の大魔王】と言われてますね」
説明するララ。
「バダカルは、【武帝のジノ】様と同じ支配力が強い性格だから、正直に言うと苦手というより嫌いなのよね。生理的に無理だわ」
バダカルを思い出したアリスは、ため息を吐く。
「なぁ、ところで、エルクは出場しないのか?エルクなら能力が使えなくても優勝できるんじゃないのか?」
イルダはエルクに尋ねる。
「イルダ!お前は、自分が何を言っているかわかっているのか!友達に命の保証がない危険な大会に出ろと言っているんだぞ!」
アルダは、激怒しながら大声を出した。
「ご、ごめん、エルク。俺、軽い気持ちで言ってしまった…」
イルダは、肩を竦めて気を落として謝罪する。
「いや、気にしないで良いよイルダ。俺は、そもそも出場するつもりは全くないから」
「そうなのか?エルクのことだから、好きな女の子達とイチャイチャできるから、これを教えたら出場するかと思っていたんだけどな」
「あっ!」
パンフレットの内容を思い出したエルクは、つい声が出てしまい、アリスから睨まれた。
「エ、ル、ク?今の「あ!」は、どう意味のなのかしら?」
微笑みながら尋ねるアリス。
「い、いや、その…。ゴホン、と、ところで、何でララが離れているモラビニス国のパンフレットを持っているんだ?」
「私のお父様は貿易商しているの。このパンフレットは、モラビニス国周辺の国にも配布されていて、偶々(たまたま)モラビニス国の隣国との貿易で偶然に手に入ったの」
「あ~、なるほど」
頷きながら納得するエルク。
「まぁ、私とエルクは【水の巫女】から竜神際に招待されているの。だから、どのみちモラビニス国へは行けないわ」
アリスは、自分の鞄から竜の絵柄の刻印が刻まれた招待状を出して見せた。
「そういえば、アリス。竜神際は、確か水の神様に感謝する祭だったかな?」
「ええ、そうよ。エルク」
「エルク、マジで羨ましいな!竜神際は、貴族の中でも上級貴族しか拝見ができないほど大人気な儀式だぞ」
イルダは、興奮気味で説明する。
「儀式か…。そんなこと言われても、全く興味がないな」
「エルク、お前、何か勘違いしてないか?【水の巫女】で在られる雫様が舞うんだぞ」
「な、何だと!?あの糞婆じゃないのか?」
「エルク、お前な。巫女様に向かって糞婆って、あんまりじゃないか。去年から、雫様に世代交代したんだぞ」
「そんな大事なことは、早く言ってくれイルダ。糞、俺も今から練習と準備をしないとな」
「練習と準備だと?おい、お前はいったい何を想像しているんだエルク」
「イルダ、お前こそ何を寝ぼけたことを言っているんだ。巫女が舞うんだぞ。これは、超が付くほど、お決まりのアレをしないとな」
「アレだと?」
「巫女と言えば、「よいではないか、よいではないか」っと言いながら巫女の帯を回して脱がすのが常識だろ?」
「お前は、何処ぞの悪代官か!」
「フッ、妬むなよイルダ。俺は、お前達よりも一足先に大人の階段を上ってくるぜ。そのためにも、蝮やすっぽんなどの精力剤の準備を整え…ん?どうしたんだ?皆、急に静かになって…」
皆が自分の周りから遠ざかっていくのに気付いたエルクは、背後から殺気を感じると共に肩を掴まれ、恐る恐る振り返ると般若の顔をしたアリスがいた。
「ねぇ、エルク。あなた雫に手を出すつもりなのかしら?」
「あ…。そ、そんなことするわけないじゃないですか。雫様は、アリス様の大切な幼馴染ですから…」
「エルク、覚悟できているわよね?」
「アハハ…。た、助けてくれ!イルダ~!」
苦笑いを浮かべたエルクは、本能が助からないと最大限に警告を鳴らしていたので、藁にもすがる思いでアリスの後ろにいるイルダに手を伸ばして助けを求める。
しかし、無情にもアリスの右手がエルクの恐怖に歪んだ顔を覆って鷲掴む。
「エルク、祈りは終わった?まぁ、終わっていなくても待たないけどね、制裁!」
アリスは、エルクにアイアンクローして片手でエルクを持ち上げる。
「ぐぁぁ、これじゃあ、俺は大人の階段じゃなくて、決して上ったらいけない天国の階段を上ってしまう…ああぁ~」
アリスの指がめり込んでいき、エルクは悲鳴をあげながら意識を失った。
「もう、だらしないわねエルクったら。仕方ないわ、エルクが気を失ったから、私はエルクを連れて早退して帰るから。先生に伝えてくれないかしら?」
「「は、はい」」
ララ達は、ビクッとして背筋をピーンっと伸ばして返事をする。
アリスは、気を失って人形の様に手足がだらりとなっているエルクを掴んだまま教室を出て帰宅するであった。
やっと、話が進みます。
次回、水の国アクアドリーム国編に入ります。
もし宜しければ、次回もご覧下さい。




