戦闘後
【ブラッド・チルドレン】9番隊の隊長【ゴーレム・マスター】のゴンサレスと【白き死神の白夜叉】のエルクの戦いが始まる。
【ライティア国・ライティア学院・グランド】
「それにしても、何とか無事に終わったわね。エルク」
アリスは、能力で召喚したレイピアを解除して、足元に倒れているエルクに話し掛けた。
「アリス、それって俺のこと?それとも、ゴンザレスのこと?」
「ゴンザレスに決まっているでしょう。それより、ゴンザレスに宿っていた聖霊ノームは、今度は誰に宿ったのかが気になるわね」
アリスの言う通り、聖霊は器がなくなると次の適合者を求めて転移するのだ。
「ハハハ、確かに気になるな。ん!?これは…」
苦笑いを浮かべるエルクは、アリスを見上げた瞬間に険しい表情になった。
「どうしたの?エルク。そんなに険しい表情をして。まさか、ゴンザレス以外にも近くに【ブラッド・チルドレン】がまだ居るの?それとも、アスカ様が戻ってきたの?」
「いや、それよりも、もっと深刻な問題だ」
「え!?それ以上の問題って何!?ま、まさか、【ブラッド・チルドレン】の総隊長か2番隊の隊長、3番隊の隊長が来たの?」
「いや、もっと深刻な事態が判明したんだ、アリス」
深刻な表情を浮かべるエルク。
「だから、何なのよ?」
アリスは、緊張した面持ちで固唾を飲む。
「アリス、ピンクの下着は可愛いけど、校則違反だぞ!」
エルクは真面目な顔で、アリスのスカートの中を見ながら忠告する。
「ほぇ?きゃっ!」
予想外なエルクの答えに理解ができずにいたアリスは、少し遅れてエルクの言葉の意味を理解した瞬間、瞬間湯沸し器の様に一瞬で顔を真っ赤に染めて慌てて両手でスカートを押さえた。
「けしからん、けしからんな、アリス。君は、この国のお姫様というのに校則違反するのは頂けないな。俺、個人的に欲を言えば、校則違反するなら大事なところが見えそうで見えないパンツ。そう!勝負パンツ!しかも、黒!まさに、世界中の男全員が理想としているパンツがオススメだ!どうだろう?アリス。この機に、アリスも黒の勝負パンツを履いてみないか?」
エルクは、上半身を起こして顎に手を当てて何度も頷きながら力説する。
「……。」
アリスは無言で俯いたまま、能力でレイピアを召喚し、ゆっくりとエルクの前に歩み寄り、そして、突きを放った。
アリスが放ったレイピアがエルクの頬を掠めた。
「えっ!?あ、あのアリスさん、いえ、アリス様。これは…」
「フフフ…。ねぇ?エルク」
「な、何でしょうか?」
「敵は、全力で倒さないといけないわよね?」
アリスは、殺気を放ちながらニッコリと微笑む。
「は、はい…」
(このままでは…)
地面に座っているエルクは、たじろぎながらお尻を擦り後ろに下がっていく。
「特に女の敵は確実に殺して息の根を止めないといけないと思うよね?どう思う?エルク」
「あの、アリス様、このままだと本当に冗談抜きで俺は死んでしまいますけど…」
エルクは顔が青ざめ、激怒しているアリスはレイピアを握っている右手を引いて再び突きを放とうする。
そこに、学院長であるランドールや教師のサリサとヤザンが駆けつけた。
「大丈夫ですか?アリス様、エルク君」
ランドールは、心配した面持ちでアリスとエルクを見る。
「私は大丈夫です。ですが、エルクが怪我をしていますので治療をお願いします」
ランドール達によって冷静を取り戻したアリスは、能力を解除してレイピアは光の粒子に変わり消え、エルクの治療を依頼した。
「助かった…。ところで、アリス。俺は平気だから」
「駄目よ!エルク。あなたの右腕は折れているかもしれないのよ!治療しないといけないわ!」
アリスは、心配した面持ちでエルクの左手を掴む。
「わかったよ」
今にも泣きそうなアリスの表情を見たエルクは、頭を掻きながらため息して渋々(しぶしぶ)と了承した。
「さぁ、エルク君、私と一緒に来て頂戴」
「はぁ、わかったよ。サリサ先生」
サリサとエルクは、保健の教師に診て貰うために会いに行った。
アリス達の所に生徒達と教師達が集まる。
ゴンザレスから離れて【ブラッド・チルドレン】と戦っていた教師達と教師達によって土壁に覆われて身を守って貰った生徒達は、アリスがゴンザレスを倒したと思っており興奮していた。
「アリス様、流石です!あの【ブラッド・チルドレン】の9番隊の隊長の【ゴーレム・マスター】を倒すとは!なぁ、アルダ」
アリス達と同じクラスメイトのイルダは興奮し、双子の兄であるアルダの肩を叩く。
「そうだな!」
口元を緩めて頷くアルダ。
「それは違うわ。とどめを刺したのはアスカ様よ。見たらわかるとは思うけどゴンザレスは跡形もなく燃え尽きたわ。ほら、その証拠に、あれを見て」
頭を左右に振りながら否定したアリスは、離れた場所を指を指した。
生徒達や教師達は、アリスが指を指した場所に視線を向けると、その場所は、アスカのアポロンによってゴンザレスが跡形もなく焼き尽くされて消滅しており、大地が今も赤黒く熱を帯びていた。
「凄い…。大地が、こんなにも大きく深く抉れて、マグマの様に溶けているなんて…」
皆が呆然としている中、アリスと同じクラスメイトのララが呟く。
「これは、本当に俺達と同じ人間がしたのか…?まるで巨大なビーム兵器で攻撃した様な跡だぞ。これはもう、まるで神のみわざじゃないか」
アルダは、信じられない表情を浮かべて呟いた。
「流石、数少ない聖剣の中でも四宝と言われ崇められている【炎帝のアスカ】様だな」
教師のヤザンは、納得した様に頷く。
「アリス様!ご無事ですか?」
ライティア国の騎士団のリーダーであるベルと部下の騎士団達が駆けつける。
「ベル、遅いわよ。私は大丈夫だけど、エルクが怪我をしたわ。でも大丈夫、命には別状ないから」
「申し訳ありません、アリス様。大臣のベネゼブラ様からアリス様のところにはエルク君がいるから大丈夫だから、先に国民の皆様の避難誘導を優先にしろと言われましたので遅れました」
ベルは、片膝を地面について深々(ふかぶか)と頭を下げた。
「事情はわかったわ。だから、気にしないで良いわよベル。それに、ベネゼブラの言うことも一理あるわ。それよりも、怪我をしている先生や生徒達の治療を手伝って欲しいの。それと、お父様や国民に無事に終わったことを知らせて」
「畏まりました」
アリスの指示で、早速ベル達は行動に移った。
それから、無事に戦闘が終わったことが国中に広まっていき、次第に落ち着きを取り戻していった。
普段通りに戻ったのは、夕日が上る頃だった。
【ライティア国・ライティア城・玉座の間】
玉座の間には、国王のジニールと妃のアリーナが豪華な椅子に腰掛けており、その両隣に騎士団のリーダーであるベルと大臣のベネゼブラが立ち、国王達の前にはアリスが立ち、隣にはエルクが片膝をついて敬礼していた。
「防犯カメラを解析した者から、エルク殿は無理矢理アリス様の唇を奪い、自らの封印を解除したとの報告を受けています。これは、死刑に値する罪です!」
ベネゼブラは、大きく腕を振ってエルクを指差し国王ジニールに進言する。
「何!?唇を奪っただと!?」
ベネゼブラの話を聞いたジニールは、目を大きく開いて驚愕する。
「なっ!?ちょっと、ベネゼブラ何を勝手に解釈しているの!エルクは私や皆を守るために、仕方なく…自身の封印を解除したのよ!それに、エルク。あなたも何か反論しなさいよ!このままだと、あなた懲罰を受けるわよ」
仕方なくと言葉にしたアリスは、途中で表情が暗くなったが頭を左右に振り気持ちを入れ替えて反論した。
「アリス、庇ってくれてありがとう。だけど、無理矢理アリスの唇を奪ったのは事実だ。それが、どんな理由があっても罪は罪だ」
「そんな、エルク…」
悲痛な面持ちなるアリス。
「エルクよ、自ら認めるのだな?」
ジニールは、鋭い眼光でエルクを確かめる様に見る。
「はい」
エルクは、目を逸らさずジニールの目を見たままに落ち着いた態度と声音で肯定した。
「ちょっと、エルク!お待ち下さい、お父様。私はエルクからキ、キスをされましたけど、嫌じゃありません。む、むしろ…」
どうにかエルクを必死に庇おうとしたアリスだったが、エルクからキスをされたシーンを思い出した瞬間湯沸し器の様に一瞬で顔が真っ赤に染まる。
「あらあら、まぁ…」
愛娘の反応を見た妃のアリーナは、口元に手を当てて嬉しそうに微笑んでいた。
「そ、そんなことよりも、エルクのお蔭で私だけでなく、学院の皆は助かりました」
慌てながら話すアリス。
「姫様、お言葉ですが、【ゴーレム・マスター】のゴンザレスにとどめを刺したのは、あなた様と同じ聖剣である【炎帝のアスカ】様だとお聞きしております」
「確かにそうだけど、ゴンザレスを弱らせたのはエルクなのよ」
「姫様がエルク殿と交代せず、ゴンザレスと戦った場合でもゴンサレスが弱っていたと思われます。なので、わざわざ唇を奪う必要がなかったのは明白です。それに、姫様は気にしていらっしゃらない様ですが、一国の姫の唇を奪った罪は重罪です。このことが他国に知れ渡れば…」
「アリス様もベネゼブラ様も一度落ち着いて下さい。状況から、エルク君がアリス様の身を案じて、自らゴンサレスの相手を引き受けたことの方が可能性が高いかと見受けられます。そのため、アリス様の唇を無理矢理かどうかはわかりませんが奪ったのも事実で重罪かもしれません。ですが、エルク君のお蔭でアスカ様が来られるまでの時間を稼いだのも事実だと思います」
ベルは、二人の話の仲裁に入った。
「くっ…」
ベネゼブラは、苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべる。
「ふむ、そうだな。ベルの言うことは尤もな理にかなった意見だな」
ジニールは、顎に手を当てて頷く。
「こ、国王様!ですが…」
大きな声を荒げるベネゼブラ。
「まぁ、落ち着けベネゼブラよ。ところで、私はお前に1つ確かめたいことがあるのだが」
「な、何でしょうか?国王様」
「ゴンサレスが現れた時、お前は、アリスの護衛に向かおうとしたベル達を引き止めて国民の誘導を優先する様に指示を出したそうではないか?」
「は、はい。ですが、私は第一に国民の安全を考慮してのことで、あの時の私の指示と行動は何も間違ってはいないはずです」
「うむ、確かに、お前の判断は間違ってはおらぬが、しかし、合っているとも言えぬ。なぜならば、ゴンサレスとその部下全員はアリス達がいるライティア学院に向かっていることに、お前は気付いていたはすだ。ならば何故、ベル達全員を国民の誘導する様にと指示を出したのだ?普通、誰しもその状況に陥った場合、半分か半分以上の戦力をアリス達の所に回すはずだ。ベネゼブラ、お前の指示は、わざと強制的にエルクの封印を解除せざる負えない状況に誘導している様にしか見えないのは私だけか?」
「そ、それは…」
「まぁ、答えづらいのならば良い。日頃、お前やエルクには世話になっているからな。そもそも、今回の件は、お前達双方に罪は問わぬつもりだ。それで、良いな?ベネゼブラ」
「くっ、国王様が仰るならば、わかりました。私は、まだ仕事が残っておりますので、お先に失礼させて頂きます」
ベネゼブラは、ジニールに頭を下げる。
「わかった、良かろう」
ジニールの了承を得たベネゼブラは、1度ジニールとアリーナに会釈してゆっくりと歩く。
「貴様だけは、絶対に許さんぞ」
ベネゼブラは、エルクの真横を通りすれ違う際に殺気を放ちながら小声で言った。
「ベネゼブラ、あなたね…。えっ?エルク」
ベネゼブラの声が聞こえたアリスは、問い詰めようとしたが、エルクから手を引っ張られて振り返る。
「……。」
エルクは、無表情で無言のままだった。
「フン。そもそも、ここに下民が居て良い居場所じゃない。分をわきまえろ」
「ベネゼブラ!」
ベネゼブラの捨て台詞を聞いたアリスは、激怒して声を荒げるが、ベネゼブラはそのまま部屋から退出した。
「はぁ~、そういうことだ。これで、話は終わりだ。アリス、エルク、お前達も戻って良いぞ」
「はい、わかりました。お父様」
「では、失礼します」
「エルクよ。此度の件、愛娘を助けてくれて心から感謝する」
アリスとエルクは、部屋から退出しようとした際、ジニールから話し掛けられたのでアリスとエルクは振り向くとジニールとアリーナは立ち上がって頭を下げていた。
「お二人共、頭を上げて下さい。俺は契約…いや、約束を守っただけですので、気にしないで下さい」
「これからもアリスを頼むぞ、エルク」
「はい、この命を賭けてでもお守りします」
「エルク君だからこそ、安心して任せられるわ」
「お、お父様、お母様、それにエルクも心配し過ぎです。私は聖剣の地位を与えられているのですよ。自分の身は自分で守れます!」
エルク達の会話を聞いたアリスは、顔を真っ赤かに染めて反論したが、エルクの返事が頭から離れず、アリスは口元に笑みを浮かべていた。
「フッ、そうだったな。だが、エルク、これからもアリスを…」
「は、早く行くわよ!エルク。今日は宿題が出ていたでしょう。一緒にするわよ」
アリスは、この場から逃げる様にエルクの手を取って退出した。
「「フフフ…」」
そんな二人をジニールとアリーナは、笑みを浮かべて温かく見守る様に見送った。
もし宜しければ、次回もご覧下さい。