戦闘開始と目覚める死神
【ブラッド・チルドレン】9番隊、隊長ゴンザレスの率いる部隊の奇襲を受けたエルク達。
エルク達は学園から避難を開始するが、避難している時にエルク達の前にゴーレムが現れた。
ゴーレムを倒したエルク達だったが、生徒を庇ったエルクは右腕を負傷し、【ブラッド・チルドレン】に囲まれる。
【ライティア国・ライティア学院・グランド】
黒のローブを羽織り、その下には砂の鎧を纏った子供達【ブラッド・チルドレン】9番隊は、エルク達を包囲していた。
エルクとアリスは落ち着いていたが、教師と生徒達は不安な表情になり、中には怯える者もいた。
エルクは、周囲を囲っている【ブラッド・チルドレン】達を見渡す。
「ざっと見た感じだと、およそ100人ぐらいか…」
「ええ、そうね」
エルクの意見に賛同するアリス。
包囲している【ブラッド・チルドレン】の中の一人が前に出てきた。
前に出た者からは、周りにいる【ブラッド・チルドレン】達よりも段違いの威圧感を醸し出しており、エルク達は、ただ者ではないと本能で理解した。
そして、前に出た【ブラッド・チルドレン】が右手を挙げて自身のフードに手が触れた時、右手の甲にⅨの文字の刻印が見えた。
「やはり、ゴンザレスの部隊だったか…」
見覚えのある刻印にエルクは呟く。
エルクが言った通り、フードを外して素顔を見せたのは二十歳ぐらいの青年【ブラッド・チルドレン】9番隊、隊長のゴンザレスだった。
「久しいな、【疾風のヴァルキュリア】」
ゴンザレスは、獰猛な笑みを浮かべてアリスに話し掛けた。
「ええ、そうね。こうして、あなたと直接会うのは3年ぶりだったかしら?」
アリスは、不敵な笑みを浮かべる。
「ああ、今までお前を倒しきれなかったが、今日こそは捻り潰して、この因縁を断ち切ってやる」
「それはどうかしら?残念だけど、今回はあなたが負けるわよ」
「ほう、この状況でその自信を見ると何か策でもあるみたいだな」
「え!?」
アリスは驚愕した表情でエルクを見る。
「久しぶりだな、ゴンザレス」
笑顔を浮かべながらエルクは、ゴンザレスに話し掛けた。
「お前は誰だ?聖剣でもない雑魚が、気安く俺に話し掛けるな」
ゴンザレスは、初めは訝しげな表情でエルクを見たが、思い当たる節がなく、殺気を放ちながらエルクを睨みつける。
「え?俺がわからないのか?」
「お前なんか知らんし、見覚えもない。ゴーレムを倒したみたいだから、多少は実力がある様だが精霊を宿していない時点で精霊を宿している俺の敵にすらならない」
「ちょっと、エルク。どういうことなの?何で、ゴンザレスは貴方のことを知らないのよ。同じ組織の一員だったのでしょう?」
アリスは、エルクの袖を引っ張って耳打ちをする。
「あれ?おかしいな、そんなはずはないんだけど…。ん~…。あっ、そういえば隊長達が集まる大切な集会の時は、各隊長達は不意討ちされても大丈夫な様に能力を完全解放した状態だったな。ほら、俺、白いローブでフードを深く被っていたから、ゴンザレス達は俺の素顔を知らないんだよ」
「なるほどね…って、そんなに危険で物騒な組織だったの?まぁ、反乱を起こしている組織だから物騒ではあるけど」
「いや、集会では、そんな物騒なことは1度も起こらなかったよ。ただ、俺が長老達の命令で、裏切り者や組織を抜ける者、重要な任務や簡単な任務を失敗した人などを始末していたからね。それで、皆が俺を警戒していたし、集会以外の場所では仲間を殺された恨みとかで俺に闇討ちをしたりする人達がいたぐらいだよ。あははは…」
「それって、笑い事で済むことなの…」
「まぁ、闇討ちされる度に返り討ちにしていたけどね。勿論、殺してはいないよ。組織内では、仲間同士の殺し合いは御法度だったから、全治3ヶ月以上の怪我で許してやっていたよ」
「そ、そう…。でも、ゴンザレスがエルクの素顔を知らなくって良かったわ」
何とも言えない表情で返事をするアリス。
「ん?何で?」
「だって、もしもここで貴方の正体が【白き死神の白夜叉】だと皆にバレることがあれば、学院どころかライティア国から追放、もしかしたら処刑されるかもしれないもの」
「ああ、確かに」
エルクは、苦笑いを浮かべた。
「さっきから、何をコソコソっと二人で話している」
不機嫌な表情になるゴンザレスは、アリスとエルクを睨みつける。
「ところで、アリス。救援は、まだ来ないのか?」
「ゴンザレス達は堂々(どうどう)と来たから、ベル達は気付いているはずなんだけど。おそらく、そろそろ来るはずよ。そうしたら、形勢逆転するのだけど」
「俺は、何だか嫌な予感というか、胸騒ぎがするんだよな」
「やめてよ、エルク。こんな時に縁起の悪いことを言わないで。たださえ、こういう時のあなたの勘は、よく当たるんだから」
「ごめん、アリス」
「ううん、別に良いわ。こっちこそ、その、ごめんねエルク」
「ん?ごめんって、何が?」
「私達があなたの能力を封じたせいで、あなたに怪我をさせてしまった挙げ句、こうして怪我をしているのに無理をさせてしまって…。ううん、それどころか同じ組織メンバーと戦わせてしまうことになってしまって…」
申し訳なさそうな面持ちになるアリス。
「別に気にしないで良いよ、アリス。あの時、俺は生半可な覚悟でアリスと契約なんてしてないから。勿論、こんなこともあろうと予め予測していたからね」
エルクは苦笑いを浮かべた。
「エルク…ありがとう」
今まで心に刺さっていたトゲが抜け落ちて、救われた様な感じがしたアリスは、潤んだ瞳を指で拭い笑顔を見せる。
「俺達は、アリス様をお守りするぞ!」
男子の体育の教師のヤザンは檄を飛ばし、教師達を奮い立たせて士気を高める。
「「了解!(りょうかい)」」
教師達は返事をすると共に、それぞれ能力を使用して武器を召喚する。
「気持ちはとても嬉しいのですが、最前線は私とエルクに任せて貰えませんか?その代わりと言っては何ですが、先生達は一旦下がって頂いて他の生徒達を守って欲しいのですが」
「ですが、危険です。ここは、私達と力を合わせて…」
「わかりました。ですが、ご無礼だと存じますが、私と一つ約束して下さいませ。もしも、無理だと思いましたら、私達のことはお気にせず、アリス様はご自分の身の安全のことだけをお考え、お逃げ下さい」
反対の声をあげるヤザンだったが、サリサはヤザンの話を中断させるように声を被せてアリスに賛同する。
「サリサ先生、私は皆を見捨てたりなんてできません」
「アリス様のお気持ちはわかりますが、ここでアリス様が倒れれば、私達だけでなく、世界が保っている勢力のバランスが崩壊してしまい、この国に住んでいる人々(ひとびと)にも多大な影響がでます。アリス様の命は、あなた様だけのものではありません。どうか、ご了承を下さい」
「……。わかりました」
アリスは、渋々(しぶしぶ)と了承して小さく頷いた。
「私達はアリス様が仰られた通り、生徒達の護衛に回るわよ!」
「「はい」」
「ヤザン先生も、早く」
「わかった」
アリスの返事を聞いたサリサはホッと胸を撫で下ろして頷き、他の教師達と一緒に生徒達の傍へと向かう。
そんな中、ヤザンは途中で足を止めてエルク達に振り返る。
「おい!エルク。お前も自分の命を優先しろ!もしも、お前が死んだら葬式でも墓の前で、俺はお前に説教するからな!心しておけよ!」
ヤザンは、大声で話すと他の生徒達の下へと向かった。
「ハハハ…。それは、本当に嫌だな…」
「フフフ…。エルク、お互いに死なない様に頑張るわよ」
「だな」
エルクは苦笑いを浮かべていたが、最後、エルクは口元に笑みを浮かべていた。
「教師達は生徒達の方に向かったか。まぁ、当然そうするよな。本当は、こんな状況で決着をつけるのは不本意だ。お前が周りを気にせずに全力で戦える場所で決着をつけたかったのだが、今回は依頼での仕事でな。すまないが、確実に勝たせて貰うことにした」
ゴンザレスは、アリスが周りを気にして自身の切り札であるテンペストを使えないことを知っていたため舌打ちをする。
「エルク、完全とはできないけど、あなたに施しされた封印を解いた方が良いわよね?」
エルクの正体がバレてしまうので、アリスはあまり気乗りしないかったが状況が状況なため複雑な面持ちで尋ねた。
「いや、さっきアリスが言っていた通り、皆に俺の正体を知られるのも後々(のちのち)に面倒になるから、ギリギリまで封印は解かなくっていいよ。それに、俺の封印を勝手に解除したらアリスが国王様に怒られるだろ?いや、どちらかと言えば、大臣の方が五月蝿いか」
「今回は緊急事態だから、きっと大丈夫よ」
「まぁ、部下が相手なら、おそらく何とかなると思う。それに、先生達だけじゃ【ブラッド・チルドレン】を相手にはキツイと思うから、俺は先生達の援護に回るよ。アリスには悪いけど、ゴンザレスを頼むけど大丈夫?」
「ええ、ゴンザレスは私に任せて。まだ完璧ではないけど、エルクから教えて貰ったあの技を実戦で試してみたかったの」
「じゃあ、サリサ先生も言っていたけど、気をつけてアリス」
「もちろんよ。エルクも気をつけてね」
「ああ」
アリスの返事を聞いたエルクは、教師達と生徒達の下へと向かう。
「決まった様だな。行け!お前達!狩りの時間だ!」
ゴンザレスの指示で【ブラッド・チルドレン】達は、一斉に教師達に襲い掛かる。
【教師達側】
アリスの反対側にいる【ブラッド・チルドレン】達が教師や生徒達に迫ってくる。
「き、来たぞ!」
「「きゃ~」」
授業で戦闘訓練はしているが、まだ命を懸けた戦いなど無縁な教師や生徒達にとって、迫ってくる【ブラッド・チルドレン】の冷徹な瞳は心の底から恐怖するものだった。
「あ、安心して、ここは私達、先生達が命を懸けてでも、あなた達を守り抜いて見せるから」
サリサは緊張した面持ちで生徒達の前に出て剣を構える。
そのすぐ後にヤザンが続き、他の教師達もサリサとヤザンの姿を見て固唾を飲みながら覚悟を決めて前に出て構えた。
「先生か何か知らないが、戦闘経験が少ない奴等が俺達に敵うとでも思っているのか?」
次々(つぎつぎ)に【ブラッド・チルドレン】達は、サリサ達、教師達に襲い掛かる。
「ぐぁ」
「つ、強い。がはっ」
先ほどまで奮闘してゴーレムと対等以上に戦っていた教師達だったが、【ブラッド・チルドレン】達の前では全く通用せず、【ブラッド・チルドレン】達はまるで赤子の手をひねるかの様に次々(つぎつぎ)に教師達を簡単に倒していく。
その中で、学院長であるランドールと教師のサリサとヤザンの3人だけは、学院が創設する前までは騎士団に在籍しており、【ブラッド・チルドレン】との戦闘を何度も経験していたので、どうにか持ち堪えていた。
「あの3人は、なかなかやるな」
「ああ、あの3人は、おそらく元騎士団だろうな。あの剣筋は騎士団のものだ」
【ブラッド・チルドレン】達は、戦闘経験が少ない弱い教師達の相手をするのが飽きてきていたので、手応えのあるサリサ達に群がっていく。
「くっ」
「サリサ先生!後ろです!」
サリサは、【ブラッド・チルドレン】の一人と剣同士の鍔迫り合いになっていた時、学院長であるランドールが大きな声で警告した。
「貰ったぜ!」
「くっ」
(間に合わない)
「ぐぉ」
【ブラッド・チルドレン】の一人が、サリサの背後から斬り掛かろうとした時、エルクが真横からサリサに襲い掛かった【ブラッド・チルドレン】の側頭部をジャンプキックで蹴り飛ばした。
「「~っ!?」」
蹴り飛ばされた【ブラッド・チルドレン】は仲間達の前に転がり、仲間達は今も気配がないエルクを前にして警戒しながら一斉にバックステップして距離を取った。
「先生達の中で、土属性の適性のある先生達は生徒達を囲うように土壁を作るんだ。少しでも、【ブラッド・チルドレン】を生徒達に近付けさせない様に阻止するんだ」
エルクは、険しい表情で指示を出す。
「わ、わかったわ」
「「アース・ウォール」」
サリサの返事と共に教師達は、剣や槍などの能力で召喚した武器を地面に突き刺して生徒達を囲うように土壁を作り出した。
「まずは、これで一安心だな。さてと…」
エルクは蹴り飛ばした【ブラッド・チルドレン】に目をやると、蹴り飛ばされた【ブラッド・チルドレン】は左手で被っている兜を押さえながら頭を左右に振って立ち上がろうとしていた。
「やはり予想はしていたが、さっきの蹴りでも殆ど効いていないみたいだな。普通なら、首の骨が折れてもおかしくないんだけど。相変わらず、呆れるほどタフな部隊だ」
(これは深刻な問題だな。武器もないし、能力も使えない今の状況で部下を倒すことはできるのか?どうする?)
必死に頭を回して突破口を探すエルク。
「糞!平和ボケをしている年下の学生が、俺を蹴り飛ばしやがって!あいつは俺の獲物だ。おれ自らの手で始末するから手を出すなよ」
エルクから蹴り飛ばされた【ブラッド・チルドレン】は、右腕で鼻血を拭いながら仲間達に指示を出した。
「ああ、好きにしな。その代わり、あの3人は俺達が貰うからな」
「ちっ、仕方ないな」
言質を取った【ブラッド・チルドレン】の仲間達は、誰一人とその場から動かずにニタニタと余裕な笑みを浮かべて見守る。
「久しぶりにムカついたぜ!なぁ?」
エルクに蹴り飛ばされた【ブラッド・チルドレン】は、怒鳴りつけるようにエルクに話し掛けて一直線にエルクに向かって走る。
「エルク君!」
サリサは、声を荒げる。
「死ねぇ!」
(何だ?こいつの瞳は、俺達やゴンザレス様以上に冷酷な気がする)
エルクに接近した【ブラッド・チルドレン】は、剣を大きく振りかぶった時に違和感を感じた。
「気絶する前に、1つ忠告してやる。怒りと俺を嘗め過ぎで大振りになっているぞ」
エルクは、剣を振り下ろされる前に【ブラッド・チルドレン】の懐へ入り、左拳で【ブラッド・チルドレン】の顎を殴った。
「ぐっ」
エルクから殴られた【ブラッド・チルドレン】は、軽い脳震盪を起こして足元がふらつく。
「ハァ!月華聖天流奥義、破城槌掌」
【ブラッド・チルドレン】がふらついている間に、エルクは流れる動作で【ブラッド・チルドレン】の胸元に負傷している右肘で肘打ちを打ち込み、右腕の肘間接を起点にして右腕を挙げて右拳の甲を【ブラッド・チルドレン】の顔面に当て、最後にスクリュー回転と聖霊力を加えた左手の掌底打ちで【ブラッド・チルドレン】の心臓部に連続攻撃をした。
「ぐぁ」
最後のエルクの破城槌掌によって、【ブラッド・チルドレン】が纏っていた砂の鎧は粉々(こなごな)に粉砕され、吐血しながら吹き飛ばされた。
「よくも!」
余裕を浮かべて観戦していた【ブラッド・チルドレン】の仲間の一人は、すぐに正面からエルクに襲い掛かり握っている剣を横に凪ぎはらう。
「月華聖天流奥義、天地落雷」
「そんな馬鹿な…」
エルクは、上半身を反らしながら【ブラッド・チルドレン】の凪ぎはらいを回避し、そのままバク転をしながら両足で驚愕している【ブラッド・チルドレン】の首を挟み込んで【ブラッド・チルドレン】の頭を地面に叩きつけた。
「がはっ…」
頭から地面に叩きつけられた【ブラッド・チルドレン】は気絶した。
「貰った」
エルクの背後から【ブラッド・チルドレン】が襲い掛かる。
エルクは、振り返りながら右足のハイキックして【ブラッド・チルドレン】の側頭部に蹴りを入れたが、【ブラッド・チルドレン】は少しよろめく程度で倒れなかった。
「フフフ…俺の勝ちだ!」
ハイキックを耐えた【ブラッド・チルドレン】は、勝利を確信して剣を振り下ろそうとするが、エルクの右足の甲が自分の首元に掛かったままだった。
「月華聖天流奥義、影月」
エルクは、右足の甲を【ブラッド・チルドレン】の首に掛かけたまま右足を引いて、【ブラッド・チルドレン】を地面に叩きつける。
「うぁ」
【ブラッド・チルドレン】は、悲鳴をあげながら顔面から地面に叩きつけられ気絶した。
「油断は、禁物だ。って、もう気絶しているから聞こえないか」
(やはり、この人数が相手だと能力を使わないと厳しいか。仕方ない)
エルクは、腰を落として気絶させた【ブラッド・チルドレン】の携帯用の剣を取ろうとしたが、他の【ブラッド・チルドレン】の仲間達が阻止しようと一斉に襲い掛かってきたため、剣の奪取を諦めてアリスに封印を解いて貰うためアリスの下へと走る。
「逃がすな!」
【ブラッド・チルドレン】達は、教師や生徒達を無視してエルクを追いかけた。
【アリス側】
「お前達は、手を出すなよ」
ゴンザレスは左手を挙げて、この場に待機している部下達を静止させる。
「あら?せっかくの優位を自ら捨てるの?」
「ああ、そうだ。先ほども言ったが、俺は、お前が全力が出せない、こんな状況での決着は不本意だ。だから、せめて一対一で勝負をしてやる」
「あなたは相変わらず、馬鹿正直ね。ゴンザレス」
「そもそも、テンペストが使えない、今のお前に負けるはずがないからな」
「言ってくれるわね」
「事実を言ったまでだ」
ゴンザレスは、左手でローブの胸元を掴んで空に向けて脱ぎ捨てた。
「時間がない、戦いを始めようかアリス。土の精霊ノームよ、我を守りたまえ!完全解放」
ゴンザレスは何もない場所から大剣を召喚し、両手で大剣を握り、胸元の位置まで持ち上げて能力を完全解放した。
ゴンザレスの周囲のグランドが地響きをあげて、グランドの砂がゴンザレスに吸い込まれるかの様に集まっていく。
そして、砂埃が収まり、姿を現したゴンザレスの姿は、他の【ブラッド・チルドレン】よりも頑丈で屈強な砂の鎧を纏っていた。
「いくわよ!」
アリスは、全身に風を纏いながら加速してゴンザレスの正面から斬り掛かる。
「オラッ!」
ゴンザレスは、その場から動かずに大剣を両手で握り締めて振り下ろして迎え撃つ。
アリスのレイピアとゴンザレスの大剣が衝突したことにより衝撃波が発生し、砂や砂埃が勢い良く周囲に舞い、近くにいた【ブラッド・チルドレン】達は、素早くその場から離れて回避した。
「フン」
「くっ」
力で勝っているゴンザレスがアリスを押し斬ろうとするが、アリスは力に逆らわずに大きくバックステップをして距離を取った。
「ちっ、クリエイト・ゴーレム」
ゴンザレスは、アリスを追いかけずに大剣を地面に突き刺してアリスを囲うように5体のゴーレムを召喚する。
ゴーレムは、赤い瞳を光らせてアリスに襲い掛かる。
「動きが遅いわ。ヤッ!」
正面にいるゴーレムが接近して右拳で殴りにきたので、アリスは怯むことなく自らも接近してゴーレムの右拳を避けながらゴーレムの胸元の中央にある核に突きを放ち破壊する。
核を破壊されたゴーレムは、体が崩れて元の砂に戻っていった。
しかし、その間にアリスの背後から接近したゴーレム4体が左拳と右拳で背中を見せているアリスに一斉に攻撃する。
「くっ、エア・スラッシュ」
アリスはジャンプをして4体のゴーレムの攻撃を回避しながら空中で体を捻り、レイピアを横に振って巨大な風のリング状の刃を放ち、4体のゴーレムの核だけでく胴体ごとを真っ二つに切断した。
4体のゴーレムは、一斉に土塊になり砂に戻った。
「5体のゴーレムをあっという間に倒すとは、流石、【疾風のヴァルキュリア】だな。だが、聖霊力を溜める時間が十分に稼ぐことができた。クリエイト・ガーディアン」
ゴンザレスが唱えると同時に巨大な影がアリスだけでなく、エルクや教師達を覆い被さった。
「相変わらずに巨大ね」
アリスは、空を見上げると全長15mぐらいある巨大なガーディアンと一体化したゴンザレスの姿があった。
「この姿になれば、テンペストが使えない、今のお前に勝ち目はない」
ゴンザレスは、ガーディアンの胸元の中央に上半身だけ外に出ており、下半身はガーディアンと一体化していた。
「それは、どうかしら?」
「なら、見せて貰おうか」
ガーディアンと一体化したゴンザレスは、巨大な左右の拳でアリスを連打する。
「エア・スラッシュ」
アリスは、機敏に素早く動いて回避しながら風の刃を何本も放つ。
しかし、アリスが放った風の刃は、ガーディアンと一体化したゴンザレスは巨大な腕をクロスにして防いだ。
ガーディアンに深い傷がつくが、すぐにガーディアンの傷は癒えて元通りに復元された。
「やはり、普通のゴーレムよりも比べ物にならないほど硬く、回復力も凄いわね」
地上に着地したアリスは、バックステップをして、一旦、ゴンザレスから距離を取った。
「だから、無駄だと始めに言っただろ」
「ええ、確かに前までは、その姿になった貴方に攻撃が通用するのは威力があり広範囲のテンペストだけだったけど、今は違うわ」
「ほう、ならば、俺に見せて貰おうか」
「ええ、良いわよ。特別に見せてあげるわ」
アリスは横を向いて腰を落とし、左手を前に出してレイピアを握っている右手を引き、聖霊力をレイピアに集中させ風がレイピアに渦巻く。
「その構えは、ま、まさか…」
ガーディアンと一体化したゴンザレスは、アリスの構えを見た瞬間、同じ組織にいた【ブラッド・チルドレン】の総隊長や2番隊の隊長、3番隊の隊長の姿と重なった。
「そ、そんなことは決してない!あるはずがない!いくぞ!」
ゴンザレスは、恐れを振り払うかの様に頭を左右に振り、雄叫びあげながら巨大な右拳でアリスに殴りにいく。
「月華聖天流奥義、秘伝、花鳥風月」
ガーディアンの巨大な右拳が迫る中、アリスは鋭い突きを放つ。
レイピアは、ガーディアンの右拳と衝突せずに手前で止まり、レイピアから突風が発生した。
その突風に触れたガーディアンの右拳は、粉々(こなごな)になって崩れていく。
「ま、まさか、そんな馬鹿な!糞、こっちに来るな!止まれぇ~!」
ゴンザレスは雄叫びをあげるが、ガーディアンは突風に触れた箇所から粉々(こなごな)に崩れていった。
そして、突風はガーディアンと一体化して胸元にいるゴンザレスに迫っていく。
「お願い!届いて~!」
アリスは、持っている聖霊力を全て使いきっており、能力の完全解放状態が解けて制服姿に戻っていた。
「ハァハァハァ…」
アリスが放った突風は、ゴンザレスの目の前で霧散して消滅したが、死ぬ思いをしたゴンザレスは過呼吸に陥っており身体中から大量の汗が吹き出して大きく息を乱していた。
「誰から教えて貰ったか知らないが、まさか、総隊長達と同じ月華聖天流奥義の中でも最強と言われる秘伝が使えるとは予想外だった。だが、まだ未完成の様だな。射程が短くって助かった。もう、俺は油断はしない。それに、今のお前の姿を見るとわかる。花鳥風月を使うには異常なまでの聖霊力が必要な様だな。今も立っているのがやっと様だな」
息を整えたゴンザレスは、話しながら破壊されたガーディアンの右半身を修復していき完全に元通りに復元した。
「ハァハァ…。まだ、あなたを倒す技があるかもよ」
(渾身の一撃だったのに、決まらなかったのは正直不味いわね。花鳥風月は破壊力があるけど、その反面、聖霊力の消費が激しいし、肉体と精神に大きな負担が掛かるから一度しかまだ使えないし、今もレイピアを召喚している状態を維持するのもギリギリだわ。早く決着をつけないと…)
平常心を装うアリスだったが、内心では不安と焦りが押し寄せてきていた。
「話は終わりだ。クリエイト・ゴーレム」
ゴンザレスは、アリスの左右と背後にゴーレムを1体ずつ召喚して包囲する。
「いくぞ!【疾風のヴァルキュリア】」
ゴンザレスの掛け声と同時に、ゴーレム達は一斉にアリスに襲い掛かる。
背後にいるゴーレムが、両手を伸ばしてアリスを捕まえようとした。
アリスは前に走って避けたが、疲労で移動スピードが遅くなっており、簡単に左右にいるゴーレムに追いつかれた。
左右にいるゴーレム達は、右拳を振り下ろした。
「うっ」
アリスはジャンプして避けようとしたが、上手く足腰に力が入らず高く跳べなかったため、ゴーレムの拳が地面に直撃して跳ねた砂が勢い良くアリスに直撃した。
「きゃ」
空中にいたアリスは、飛び散った砂が当たりバランスを崩して地面に倒れ込み転がった。
「やはり、花鳥風月の代償は大きかったようだな。満足に使えない技を使い、自滅とは呆気ない決着だった。だが、容赦はしない。これで終わりだ」
ガーディアンと一体化しているゴンザレスは、右拳を叩きつける様に振り下ろす。
「~っ!!エルク、ごめんなさい…」
間に合わないと悟ったアリスは、力強く目を閉じてエルクに謝罪をした。
ガーディアンと一体化しているゴンザレスの巨大な拳によって大地が揺れ、砂埃が舞った。
「終わったな。ん?いないだと!?何処だ!」
舞っていた砂埃がおさまり、アリスの死体を確認するために、ゴンザレスは地面に突き刺さっている拳を引いて確認したが、そこにはアリスの姿がなかった。
背後に気配があったので、ゴンザレスは振り返る。
そこには、アリスをお姫様抱っこしたエルクの姿があった。
「大丈夫?アリス」
「……。」
アリスはゆっくり目を開けると、目の前には顔を覗き込んで心配しているエルクの顔が間近にあった。
「~!?エ、エルク!?どうして、ここにいるの!?」
アリスは、顔を赤く染めながら声を荒げる。
「いや~、情けない話だけど、どうしても封印を解いて貰いたくってね。それで、戻って来たんだけど、そうしたら、アリスがピンチになっていたから助けたんだ。でも、間に合って良かったよ。アハハ…」
苦笑いを浮かべて話すエルク。
「さっきの餓鬼か。よくも決闘の邪魔をしてくれたな」
「今度は、俺がお前の相手をしてやるよ。ゴンザレス」
「だから、俺に気安く話し掛けるな!雑魚が!」
ゴンザレスは、額に青筋を立てて激怒しながら巨大な左拳でエルクを叩きつける様にを振り下ろす。
巨大な拳が迫る中、エルクは顔をアリスに近付ける。
「ごめんけど、アリス」
「エルク…」
苦笑いを浮かべているエルクと、顔を真っ赤に染めているアリスの唇同士が触れ合った瞬間、エルクの胸元に刻まれている刻印の外側の刻印が消え、エルクの体が光り、周囲を照らす。
「な、何だ!?何が起きているんだ!?それに、この膨大な聖霊力は、まるで精霊を宿している俺や【疾風のヴァルキュリア】と同等だと!?」
突然のことに驚愕したゴンザレスは、自身の右手で目を覆い光を遮断する。
光が終息すると共に、ガーディアンと一体化しているゴンザレスは、ガーディアンの体の違和感に気付き見てみると、エルクに向けて振り下ろした巨大な左拳だけでなく、左半身ごと真っ二つに一刀両断されており、ズレ落ちて崩れていく。
「な、何だと!?」
ガーディアンと一体化しているゴンザレスは半身を失い、バランスを崩して倒れそうになったので能力を解除して、空中で落下している大剣を右手で掴み、大剣を肩に担いだまま腰を下ろして左手を地面についた体勢で着地した。
そして、ゴンザレスは変貌したエルクの姿を見て、驚愕して言葉を失った。
エルクの姿は制服姿ではなく、白いローブを纏い、黒い髪の毛は白色に、漆黒の瞳は金色に変わり、左腕には顔を真っ赤に染めているアリスを抱き込んでおり、右手には白い巨大な大鎌を振り下ろした姿だった。
「まさか、どこでも居そうな餓鬼が、帝国軍だけでなく同じ組織内でも冷酷無比と恐れられていた。あの【白き死神の白夜叉】だったとはな」
「やっと気付いたか?ゴンザレス。で、どうする?今なら、部下を連れて撤退をするなら見逃してやるが」
エルクは大鎌を肩に担ぎ、左腕で抱いているアリスを解放する。
「あ…」
アリスは残念そうな表情を浮かべたが、すぐにエルクの邪魔になると思い、その場から離れた。
「フン、舐められたものだな。確かに、お前の破壊力は組織内で、あの総隊長に並ぶほどだったかもしれない。だが、戦闘は破壊力だけでは決まらないことをその身に教えてやる。何している?【白き死神】を囲え」
ゴンザレスは獰猛な笑みを浮かべ、エルクを追っていた【ブラッド・チルドレン】達はエルクを姿を見て驚愕し動きが止まったが、ゴンザレスの指示が聞こえて我に返りエルクを囲んだ。
「この際だ、次いでにお前の弱点を教えてやるぞ【白き死神】。今日が、お前の命日だ!行け!」
ゴンザレスが左手を前に出すと同時に【ブラッド・チルドレン】達が一斉にエルクに襲い掛かった。
投稿が遅れ、話も進まず申し訳ありません。
次回、ブラッド・チルドレンの隊長同士が戦います。
もし宜しければ、次回もご覧頂けたら幸いです。