謎の男と奇襲
ライティア学園の生徒で上級貴族であるバルサ、バスラ、ヤラダの3人は、下民のエルクを毛嫌いしていた。
授業で自分自身の能力で武器を召喚することを学んだ3人は、エルクを挑発して試し切りをしようと、エルクを連れて裏の山にウララ山に移動した。
だが、3人はエルクに返り討ちに合い、学園から追放されることになった。
【ライティア国・バーミュル家・来客室・夕方】
バーミュル家は、ライティア国内で三本指に入るほどの資産家であったが、黒い噂も多かった。
ライティア学院から追放されたバルサ、バスラ、ヤラダの3人の上級貴族の親達が来客室に集まっていた。
来客室の中央の天井には様々(さまざま)な宝石で輝いている大きなシャンデリアがあり、その真下に大きな丸テーブルとその周りに椅子が一定間隔に並べ置かれており、その椅子に3人の親が座っていた。
「なぜ、私達の子供達が学院から追放されねばならないんだ!追放されるべきは下民の方だろ!そもそも、名高いライティア学院に下民がいる時点で可笑しいだろ?」
バルサの父であるラガイル・バーミュルは、激怒しながら右拳を振り下ろして強く机を叩いた。
「そうだ!今回の件のせいで、私達は人殺し一族と言われ迫害され、由緒正しい名家の名に傷が入った。いや、それどころか客の足取りは減り、更には雇用してやっている者達がボイコットを起こし、多大な被害を受けている。このまだと、経営が破綻し潰れるかもしれん」
バーミュル家には及ばないが、同じく上級貴族で権力も高いバスラの父であるナイサルも激怒しながらギリッと歯を食い縛りながら右手を前に出して、何かを握り潰すかの様に強く拳を握り締める。
特にラガイルとナイサルは、パワハラ、セクハラ、過剰な労働勤務を強制させているなどの黒い噂が多く、実際はその通りだった。
しかし、今まで権力で脅して内部告発を抑え込んでいたが、今回の件がきっかけで内部告発されて全てが公となった。
そのため、暴動などが起こり、もう収集がつかないほど大変な事態になっていた。
「たかだか下民によって、私達はこの国に住みづらくなってしまった。絶対に許さん!必ず、殺してやる!生きていることを後悔させてやる!」
「ああ、私も全力で加勢するぞ」
ラガイルに賛同するナイサル。
「二人共、気持ちはわかるが、まずは落ち着け。一番の問題は、その下民はアリス様の直属のボディーガードということだ。下手に手出しはできんぞ」
二人を落ち着かせるヤラダの父であるマラガは、ラガイルやナイサルと同じ上級貴族であり、二人とまではなかったが被害はあっていた。
「そんなことは、百も承知の上だ!それでも、あの下民殺さないと、私の腹の虫が治まらん!それに、どのみち私達はこの国にはいられないのだ」
「ラガイル殿の言う通りだ」
ラガイルに肯定するナイサル。
その時、外の入り口に立たせている警備員の悲鳴が聞こえた。
「ぐぁ」
「がはっ」
そして、ゆっくりとドアが開き、開くと共に軋みの音響く。
「「何者だ!?」」
ラガイル達は、能力で剣を召喚して強張った表情でドアの方に視線を向ける。
「フフフ…。話は聞かせて貰ったぞ」
ドアは開き、そのドアに寄り掛かるように立っているローブ姿の男がいた。
男はフードを深く被っており、口元しか見えなかったが、男の口元は不敵に笑っていた。
「ちっ、話を聞かれたからには致し方ない。始末するしかないな」
ラガイルは、殺気を放ちながら剣を男に向ける。
「待ちな!私は、お前達に力添えしにきただけだ」
ローブを着た男は、右手を前に出して止めた。
「力添えだと!?」
ラガイルは怪訝な表情のまま警戒を強め、ナイサルとマラガは戸惑う。
「そうだ、私も以前からあの下民のことが気に入らなかったのだ。しかし、あの下民に手を出せば同時に、この国を相手にすることになりかねん。国が動かないとしてもアリス様は一人でも動くだろう。そうなれば、結局、アリス様を守るために国が動くことになる」
「そんなことは承知の上だ。まさか、わざわざそんなことを言いに来たのか?」
「そうではない、落ち着け。さっきも言ったが、私はお前達の力添えをしに来たんだ。私に提案がある」
「提案だと?」
「そうだ、この際、一層のこと下民に復讐するだけではなく、この国を乗っ取ったらどうだと聞いているんだ」
「はぁ?何を言っているんだ。それこそ、馬鹿げているぞ。アリス様はだ幼いが、数少ない【聖剣】なのだぞ!お前、【聖剣】の称号を与えられている意味を知っているのか?【聖剣】の称号を与えられている者は、他の者達と違い、聖霊の加護ではなく、精霊そのものを宿している者だ。そして、その実力は一人で国を制圧できるほどの力を保有しているのだぞ。下民を始末するのは可能だが、国を乗っ取るのは無理だ」
「勿論、知っている。じゃあ、どうしたらアリス様を倒せると思うか?」
「それは…。ま、まさか、同じ【聖剣】をけしかけるのか?だが、無理だ。近くの隣国にいる【聖剣】は、アリス様と仲が良いと聞いたぞ。けしかけるのは無理だ」
「もう少し冷静になって考えてみろ。精霊を宿しているのは、本当に【聖剣】だけではない」
「ん?他に、そんな奴がこの世に存在するのか?」
ラガイルは、頭を傾げて尋ねる。
「まさか、【ブラッド・チルドレン】か!?」
ナイサルは、フッと頭に浮かんだことを口にした。
「ちょっと待ってくれ!【ブラッド・チルドレン】と言えば、反乱軍レジスタンスの切り札である子供達のことだろ?精霊を宿しているとは、噂すら聞いたことがないぞ」
「それは、そうだろう。前線に一度も出たことのないお前達には、わかるはずがない。【ブラッド・チルドレン】の隊長達の能力は異常なまでに強く、血塗れになっても戦い続け、我々(われわれ)、帝国軍に数多の犠牲をもたらした。我々(われわれ)、帝国軍は、公には公表はしていないが、【ブラッド・チルドレン】の各隊長達は、我々(われわれ)、帝国の【聖剣】達と同じく、その身に精霊を宿している可能性が高いと睨んでいた。そして、私は戦争終結後、【ブラッド・チルドレン】と繋がりができ、各隊長達は精霊を宿しているのは間違いないと知ることができた。その【ブラッド・チルドレン】の隊長の中で、土の精霊ノームを宿している9番隊長を知っている。今も、その部隊も健全だ。しかも、嬉しいことに彼等は国や権力には全く興味がなく、お金しか興味がない。だが、私、個人の資産では雇う資金が足らない」
「なるほど。そこで、我々(われわれ)がその資金を賄えれば良いのだな?」
ラガイルは、顎に手を当てて頷く。
「そういうことだ。理解が早いで助かる。で、どうする?」
「「……。」」
「わかった。資金は私が準備をして出そう。その代わり、私、自らがその子供達に直接に合って交渉させて貰う。勿論、資金を渡すのも私が直接に支払わせて貰うぞ」
ラガイルは提案を飲み、条件を出した。
「ああ、勿論だ。それは、お前の当然の権利だからな」
ローブの男は頷いた。
「ナイサル殿、マラガ殿はどうする?私は、この男の提案に賛同するが」
ラガイルは、二人に尋ねる。
「勿論、私は賛同する」
「私は…」
ナイサルは迷わずに賛同するが、マラガは言い淀む。
「マラガ殿。お前は、まだ立て直せる可能性があるから無理はするな。その代わり、このことは内密に頼む」
「いや、私も二人について行くさ。昔からのよしみだろ。今更、お前達を見捨てることなど、できるはずがなかろう」
「マラガ…すまない」
「感謝する」
ラガイルとナイサルは、マラガに頭を下げた。
「決まったようだな。では、交渉成立で良いのだな?」
ローブを着た男はラガイルに歩み寄り、悪魔の様な不気味な笑みを浮かべながら手を差し伸べる。
まるで、悪魔との契約の様だった。
「~っ!ああ…」
1度は躊躇いそうになったラガイルだったがローブを着た男の手を取り、ナイサルとマラガも緊張した面持ちで頷いた。
【ライティア国・ライティア学院】
バルサ、バスラ、ヤラダの三人がエルクを襲った事件から翌日、バルサ達三人が退学になったことが学院中に止まるどころか国中に広まり、国中はざわついていた。
アリスのクラスも、アルダ、イルダ、ララやクラスメイトが集まって、その話題で盛り上がっていた。
「バルサとバスラとヤラダラの三人には何かしらの罰があるとは思ったが、まさか、あの三人が一斉に退学になるとは予想外だった。特に、あの三人は貴族の中でも上級貴族だったからな」
アルダは、顎に手を当てて話す。
「ああ、俺も本当に驚いたぜ。自宅謹慎か停学処分になると思っていたからな」
弟のイルダも頷いて賛同した。
「そうかしら?私は、今回の処置は妥当だと思うわ。だって、エルク君を殺そうとしたのだから当然よ。それに、あまり言いたくないけど、これで、少しは学院も国も平和になると思うわ。正直、私はあの人達のことは以前から嫌いだったの。自分達が上級貴族だからって、いつも威張っていたし、他人を見下して嘲笑っていたから」
ララは、アルダとイルダとは意見が違った。
「俺もララと同じだ。特にバルサは、エルクに対する接し方は酷いものがあったからな。だけど、まさか三人が退学になると同時に、その親達の悪事も公になって経営が破綻するとか予想外だった。何だか少し同情するけど」
クラスメイトの男子は気の毒そうな表情になる。
「そう?私は、ララと同じで自業自得だと思うな。今回の件で、全てが公となって良かったと思うわ。だって、これで働いていた人が助かるのだもの」
クラスメイト達は、それぞれの意見を主張して言い合う。
そんな話をしている時、エルクとアリスがやって来た。
「皆、おはよう」
「おはよう」
「「おはようございます」」
「ん?どうしたんだ?そんなに集まって、何を騒いでいるんだ?」
頭を傾げながら、エルクは尋ねる。
「バルサ達が退学になっただろ。しかも、それぞれの親の悪事も公になって、今、暴動や騒動が起きているから、それで話し合っていたんだぜ」
イルダが説明した。
「ん?あのさ、アリス。ところで、バルサって誰だっけ?」
頭を傾げるエルク。
「はぁ、ほら昨日あなたを襲った人よ」
アリスは、呆れてため息をする。
「ああ、そういえば、そんな名前だったな。思い出したよ。というか、彼等は退学になったんだ。まぁ、どうでもいいけど」
「「え!?」」
エルクの言葉に驚くアルダ達。
「おい、エルク。お前、本当に知らなかったのか?いや、その以前にバルサ達の名前すら覚えていなかったのか?」
イルダは、恐る恐る尋ねる。
「まぁ、興味がないし。可愛い女の子なら顔や名前だけでなく、体型や特徴もバッチリ覚えるけど…」
「エ・ル・ク!」
笑顔を浮かべて話すエルクだったが、アリスからギロっと睨まれてたじろいだ。
「っというのは、冗談だよアリス。アハハハ…。本気にしないでよ。で、でもさ、あのプライドが高い彼等が退学になったのなら、逆恨みで復讐してきそうだけど」
エルクは、苦笑いを浮かべながらはぐらかす。
「そうだな、バルサ達がこのまま黙っているはずがないよな。特にバルサの父親であるラガイルさんは、この国ライティア国の中でも三本指に入るほどの資産家だ。それが、倒産危機まで追い込まれたのだから、大人しく黙っているはずがない。影で賞金稼ぎや犯罪者、盗賊などを高額な資金で雇ってエルクを暗殺する可能性がありそうだ」
アルダは、最悪の事態の可能性を口にする。
「それは、流石にないと思うわ。だって、そんな馬鹿なことをしたら罪が重くなるだけなのだから。それに、もしバルサ達が賞金稼ぎなどを雇ったにしてもエルクが負けるはずがないもの。それに、私も助太刀に入るから大丈夫よ。安心して」
アリスは、アルダの意見を否定する。
「アリス様の言う通りよ。エルク君なら返り討ちにできると思うし、それに、アリス様が助太刀なされるなら安全よ」
ララは、アリスに肯定する。
「今も信じられないけど、あのララが、ここまでエルクを評価しているということは、本当にエルクは、あの三人を纏めて相手をして勝ったのは本当だったということか…」
「そうなるよな…」
日頃のエルクの態度を知っているクラスメイト達は、今もエルクが一人でバルサ達を倒したことが信じられずにいたが、ララの話を聞いて信憑性が跳ね上がった。
教室に担任教師のサリサが入ってきた。
「さぁ、授業を始めるわよ。皆、席につきなさい」
「「は~い」」
サリサの指示に従う、エルクやアリス、クラスメイト達。
そして、授業が始まり、暫く経った時だった。
快晴で窓から日が差し込んでいる。
窓際の席にいるエルクは、机の上に置いてあるパソコンの影に隠れるように伏せて気持ち良さそうに爆睡していた。
「もう、エルクったら仕方ないわね」
エルクの隣の席にいるアリスは、寝ているエルクの姿を見て呆れると共に優しく微笑んだ。
教師のサリサは、指し棒でスクリーンに映し出されている文章を読みながらスライドさせていたが、後の文章をアリスに読んで貰う様に依頼する。
「そうですね。ここはアリス様、申し訳ありませんが読んで貰えませんか?」
「はい」
アリスは立ち上がり、スクリーンに映し出されている映像の文章を読んでいく。
読み終えたアリスは、椅子に座ると共にサリサが再びスクリーンに映し出されている文章を読み始めた隙を見計り、アリスはエルクの体を優しく揺らす。
「起きなさい、エルク。寝ていることがバレるわよ」
「もう少しだけ…寝かせて…」
エルクは、起きる気が全くなかった。
その時だった。
「「~っ!?」」
エルクとアリスは同時に、異常な気配を感知して、エルクはバッと顔を上げて窓の外に視線を向け、アリスはエルクの傍に駆けつけて同じく窓の外を見た。
アリスの行動を見たララ達、クラスメイト達も二人に釣られて窓際に集まる。
「どうされましたか?アリス様」
サリサは、怪訝な表情でアリスに尋ねる。
「やはり…」
「あれは…」
窓の外を見たエルクとアリスは、深刻な表情になった。
「おいおい…嘘だろ…」
皆が言葉を失い、イルダは驚愕した面持ちのままで呟く。
窓の外からは、黒色のローブを纏っている集団が、一直線にこのライティア学院に向かって来ていた。
その集団は、エルクとアリスは見覚えがあり、教師や生徒達は噂で聞いたことのあった。
「ね、ねぇ、まさか、あれって噂のレジスタンスの切り札の【ブラッド・チルドレン】じゃない?」
ララは、信じられない表情で皆に尋ねる。
「ええ、間違いないわ。ララの言う通り【ブラッド・チルドレン】だわ」
アリスは、深刻な表情で頷いて肯定した。
エルク達がいるライティア学院に一直線に向かってくる黒のローブを纏った集団は、【ブラッド・チルドレン】だった。
「ま、まさか、【ブラッド・チルドレン】の総隊長【聖なる女神】が攻めて来たのか?それとも、あの数多くの国や城を滅ぼし、数人の聖剣様達も含め、何千何万の命を刈り取ったという【白き死神の白夜叉】が攻めて来たのか?」
「このライティア国が滅ぶの!?私達、ここで死ぬの!?」
「こんなところで死にたくないよ!お父さん!お母さん!」
「いや~!私も死にたくない!まだ生きたいよ!」
「皆、落ち着いて!」
担当教師のサリサがクラスメイト達を落ち着かせようとするが、クラスメイト達はパニックに陥っており騒ぎだした。
そんな中。
「ねぇ、エルク。何番隊かわかる?」
アリスは、皆に聞こえない様に小声でエルクに尋ねる。
「いや、ここからだと判別ができない」
エルクは、額に手を当てて目を凝らして見るがわからなかった。
「サリサ先生、皆、落ち着いて聞いて下さい!」
「「~っ!?」」
アリスは大声を出すとアリスの声が教室に響き渡り、騒いでいたクラスメイト達は我に返り教室が静まった。
「こっちに向かって来ているのは【ブラッド・チルドレン】で間違いありません。ここからだと何番隊か判別できませんが、大人数で此方に攻めてきています。直ちに他の生徒や先生達にこのことを伝えて、皆を避難させて下さい」
アリスは、サリサに振り返って依頼をする。
「わ、わかりました。私は、このことを他の先生達に知らせてきます。皆も早く避難をすること、良いわね?アリス様、申し訳ありませんが、私がいない間で構いませんので、私の代わりに指揮を執って皆を避難をさせて頂きたいのですが」
「わかりました」
「ありがとうございます」
アリスが了承してくれたので、サリサは慌てて教室から出て行った。
「皆、わかったわね?サリサ先生の言う通りに、今から私達も避難しましょう」
「「はい!」」
アリスは、指揮を執って皆を避難させる。
【グランド】
教師のサリサの放送によって、アリス達がグランドに出た後、続々(ぞくぞく)と他のクラスも教師を先頭にグランドに出て来て集まる。
「アリス様、誘導ありがとうございました」
学院中を駆け回って報告しに行っていた教師のサリサも無事に戻って合流した。
その後、教師達は、生徒達を連れて【ブラッド・チルドレン】が来る前に避難をすると指示を出し、教師達は、【ブラッド・チルドレン】達に追いついかれた場合のことを考え、殆どの教師は生徒達の守る様に後方にいた。
アリス達生徒達は、サリサの誘導に従って学院の裏門に向かう。
しかし…。
「追いつかれて来ているな」
「ええ」
皆と避難している最中、エルクとアリスは深刻な表情で話す。
「何だ、何が起きているの!?」
先頭を走って誘導していたサリサと他の教師達は、微弱だったが大地が揺れていることに気が付いた。
そして、避難している最中のアリス達を囲うように数ヶ所同時にの地面が盛り上がっていき、背丈3mぐらいある大型のゴーレムが現れた。
「生徒達は、後ろに下がっていなさい!心配はいらないわ!私達先生があなた達を絶対に守ってみせるから!」
ゴーレムを前にしたサリサ達教師は、怯みながらも生徒達を守るために前に出て能力で武器を召喚して構える。
「エルク!」
「ああ」
集団の真ん中の位置にいたアリスとエルクは、ジャンプして生徒達を飛び越え、教師達の前に着地した。
エルクは授業で使われる木刀を握って構え、アリスは既に能力で召喚したレイピアを握って構えた。
「エルク、このゴーレムを生み出す能力は、もしかして…」
「ああ、よりにもよって【ブラッド・チルドレン】9番隊の隊長・土の精霊ノームを宿している【ゴーレム・マスター】のゴンザレスだ。全く、面倒な奴が来たもんだな。それに、この武器だと心もとないし」
「エルク、泣き言を言っている暇は無いわよ」
「わかっているよ、アリス」
舌打ちをするエルク。
「「グォォ…」」
召喚された数体のゴーレムは、目を赤色に光らせてアリス達に襲い掛かる。
「はぁ、面倒だな…」
エルクは、面倒そうにため息を吐いた。
「エルク、油断は禁物よ!油断していると怪我をするわよ」
「わかったよ、アリス。じゃあ、討伐を始めるか」
エルクは、木刀を握っている手に力が入る。
「ええ」
教師達は待ち受けて迎撃するつもりだったが、アリスとエルクは自ら接近する。
エルクとアリスの正面から接近した2体のゴーレムは、それぞれ大きな拳を振り下ろす。
エルクはジャンプして、振り下ろされたゴーレムの右拳を回避し、地面にめり込んでいるゴーレムの右手の甲に着地した。
「月華聖天流奥義、一閃」
エルクは、そのままゴーレムの右腕の上を走り、途中でジャンプして勢いがついたまま木刀に聖霊力を込めてゴーレムの胸の中心にある球体の核に高速の突きを放つ。
ゴーレムの胸元にある核は、エルクの聖霊力を込められた高速の突きによって木刀が奥深くまで突き刺さり、そこから、ヒビが入っていき、まるでガラスが割れる様な音を立てながら砕けた。
「グォ…」
核を打ち砕かれたゴーレムは、赤く光っていた目の光が点滅して消えたと同時にゴーレムの身体中に無数のヒビが入っていき、そこから崩れて砂に戻った。
「エア・スラッシュ!」
一方アリスは、ゴーレムの大きな拳が迫る中、アリスは召喚しているレイピアに風を纏わせて振り下ろした。
アリスのレイピアは、ゴーレムが振り下ろした拳を切断しただけでなく、胸元に埋め込まれている核ごとゴーレムの体は真っ二つに切断され砂に戻った。
目の前のゴーレムを倒したエルクとアリスは、苦戦を強いられている教師達の援護しに向い、次々(つぎつぎ)にゴーレムを倒していく。
「「アリス様!とエルク君!?」」
教師達はアリスの強さは知っていたが、エルクの実力は知らなかったので、間近でエルクの実力を垣間見て驚愕した。
【グランド・生徒側】
生徒達は、教師達の後ろで避難していた。
「流石、アリス様。あの強そうなゴーレムを次々(つぎつぎ)に倒しているわ。私もあんなふうに戦える様になりたいわ」
ララは、目に焼き付ける様にアリスの戦いを見ていた。
「ああ、しかし、エルクは予想外だよな」
エルクの戦いを見たイルダは、予想外な展開に呆けた表情になった。
「だな。アリス様のボディーガードを任せられているだけのことはある」
アルダは、エルクの実力を目の当たりにしても特に驚いてはいなかった。
「そうね…」
エルクやアリスと一緒のクラスメイト達は、エルクの実力を目の当たりにして呆然と呟く者と納得する者に分かれた。
他のクラスの生徒達もエルクとアリスの戦いを見て唖然としていた。
「凄いな…」
「だな…」
「確かに凄いが、よく見て考えてみろ。能力が使えない下民があんなに簡単にゴーレムを倒せるなら、俺達でも簡単にゴーレムを倒せるんじゃないのか?」
「無理だよ。私達は武器は召喚できるようになったけど、まだ能力を最大限に発揮できないし、属性の解放もできないんだよ」
「確かに、俺達は、まだ能力の解放はできないのは事実だが、しかし、あの下民が使っているのは、ただの木刀だぞ。俺達の能力で召喚した武器は、あの木刀よりも斬れ味など武器の性能は上回ってはずだ」
「そうだな!この機にアリス様の目の前で活躍すれば、感謝されて将来は、あの下民と同じアリス様の直轄のボディーガードになれるどころか、この国ライティア国の英雄になってアリス様と結婚でき、この国の国王になれるかもしれないな」
「何、馬鹿なことを考えているのよ。危険だよ。やめた方が良いと、私は思う」
「そうだよ。危険だし、アリス様や先生の足手まといや邪魔になると思うからやめなよ」
「はぁ?お前らは何を怯えているんだ?あの下民を見ろよ。あの能力も使えない下民が、ただの木刀で簡単に倒しているんだ。俺達も簡単に倒せるはずだろ。こんな美味しい話を見過ごすのは勿体無いだろ?どんなことを言われようが、俺は将来のために戦うぞ!」
「俺もだ!」
他のクラスの男子達は、女子達の制止を振り切り、次々(つぎつぎ)に男子達は能力で武器を召喚して前線に向かう。
【グランド・教師側】
目の前のゴーレムを倒したサリサは、周囲を見渡してゴーレムの数を確認した。
「ふぅ、これなら行ける。あとゴーレムは数体です。このまま、油断せずに行きましょう!」
「「おう!」」
「「はい!」」
サリサの檄により、気力と体力を消耗していた他の教師達は息を吹き返した。
そこに、数名の男子生徒達がやって来た。
「先生!俺達も加勢しに来たぜ!」
「「なっ!?」」
希望が見えた教師達だったが、生徒達が此方向かって来ているのを見て絶句する。
「この馬鹿野郎共!なぜ此処に来たんだ!お前達は、早く戻れ!ここは危険なんだぞ!」
激怒したヤザンは、怒鳴りつける。
「先生達だけ美味しい思いはさせないぜ」
「そうだ」
「はぁ?お前達は、何を言っているんだ?それよりも、早く戻れ!ここは危険だ!何度も言わせるな!」
「先生達は、誤魔化しているだろ?本当は、このゴーレムは大したことないんだろ?」
「お前達は、さっきから、一体、何を言っているんだ?」
「まだ、誤魔化すのですね。まぁ、良いですよ。行くぞ!」
「「おお!」」
「止まれ!お前達!本当に死ぬぞ」
男子生徒達は、教師の制止を振り切り、ゴーレムに向かって行く。
「糞っ、あいつらは一体、何を考えているんだ!?」
ヤザンは、舌打ちをしながら急いで生徒達を追い、他の教師達も後を追った。
「ゴーレムの胸の中央にある赤い核を狙うぞ!あれを破壊すれば、倒すことができはずだ!」
「「おう!」」
男子達生徒8人は、一体のゴーレムに向かって接近する。
「ゴォォ」
ゴーレムは、大きな右拳で殴りにいく。
「「うぁっ」」
先陣を切っていた二人の男子生徒は、避けることができず、剣で防いだが力負けをして後ろに吹き飛ばされた。
「くっ、固まるな!左右に分かれ…え?」
男子生徒は指示を出していた時、一体のゴーレムに気を取られていたので背後から迫るゴーレムに気付かず、背後から大きな影に覆われたことで気付き、振り返るとゴーレムが左拳を振り上げていた。
「ゴォォォ」
ゴーレムは、振り向いた男子生徒に向かって左拳を振り下ろした。
「ぐぁ」
「「うぁ」」
男子生徒は、ゴーレムの拳が直撃して吹き飛ばされ、近くにいた男子生徒三人にぶつかり四人は倒れた。
残った男子生徒二人は、後から気付いたゴーレムの懐に入ることができた。
「「貰った!」」
男子生徒二人は、剣を振り下ろしてゴーレムの胸元の中心にある核を攻撃した。
だが、ゴーレムの核は無傷で、二人の剣は弾かれる。
「「なっ!?」」
想定外なことが起き、男子生徒の二人は驚愕する。
「どうなっているんだ!?なぁ?おい!」
「つ、突きだ!下民は突きで破壊していた。俺達も突きで破壊するぞ!」
「そ、そうだったな。わかった」
「「ウォォ!」」
エルクが突きで破壊していたの思い出して男子生徒二人は、すぐに同時に突きを放つ。
しかし、ゴーレムの核は球体なので、二人が放った突きは、核の表面を滑って突き刺さらなかった。
「な、何で刺さらないんだよ!?」
「「うぁぁ」」
「ゴォォ…」
ゴーレムは、泣き喚く二人に向かって右手の掌を振り下ろし押して潰そうとする。
「「うぁぁ…」」
二人は、恐怖で腰が抜けて動けず涙を溢しながら叫ぶしかできなかった。
そんな時、エルクが二人の後ろに現れて二人の後ろの襟首を掴んで後ろに放り投げる。
「「わぁ!?うっ…」」
男子生徒二人は、地面に転びながら倒れて呻き声をあげた。
「エルク!」
離れていた場所でゴーレムを倒していたアリスは、悲鳴な様な声をあげる。
直ぐ様、エルクは後方にジャンプして、振り下ろされるゴーレムの右手を避けようとしたが、間に合わずゴーレムの右手の指先がエルクの右肘を掠り、右肘の骨が折れて血が滴る。
「ぐっ」
エルクは、放り投げて助けた男子生徒二人の前に着地した。
「ちっ、しくじった」
エルクは、左手で負傷した右肘を押さえて舌打ちをする。
「くっ!邪魔よ!そこを退きなさい!」
アリスは、一刻でも早くエルクのもとに駆けつけたかったが、目の前のゴーレム達が行く手を塞ぐ。
「ゴォォォ」
ゴーレムは、エルクと男子生徒二人に追い打ちをしようと走って迫る。
そんな中、男子生徒二人は腰が抜けており逃げることもできず、ただ呆然と目の前にいるエルクの右肘から血が滴るのを見ていた。
「すまない」
「すまん」
転んで倒れたままの男子生徒二人は、もう助からないと思いつつも、エルクに謝る。
「そんなことは良いから、謝る暇があるなら早く立ち上がって、下がってくれた方が助かる」
「いや、それが腰が抜けて立てないんだ。だから、俺達を見捨ててくれ」
「はぁ、本当に最悪な事態に陥ると続くよな…」
ため息を吐いたエルクは、右手に握っていた木刀を左手に持ち替えて追いかけてくるゴーレムに向かって走る。
「ゴォォォ」
ゴーレムは、両手を開いてエルクを叩き潰すように手を叩く。
エルクは、ジャンプしてゴーレムの攻撃を躱し、ゴーレムの左腕の上に着地した瞬間、すぐに再びジャンプしてゴーレムの胸元にある核に接近した。
「月華聖天流奥義、一閃」
エルクは、勢いがついたまま木刀に聖霊力を込めて高速の突きをゴーレムの核に放つ。
ゴーレムの核はヒビが入ったが、核が砕ける前にエルクの木刀の刀身の半ばが砕け散った。
ゴーレムは、腰を落として右手でエルクを叩き潰そうとする。
「月華聖天流奥義、破城槌掌」
ゴーレムの大きな手が頭上に迫る中、エルクは左手に握っている折れた木刀を捨てて体を横に向け、左手を引いてスクリュー回転をかけた左手の掌底打ちでゴーレムの核に突き刺さっている折れた木刀を押し込む。
ゴーレムの核に入っていたヒビが更に広がっていき、そして、パリンっと音を立てながら砕け散った。
エルクの頭上まで接近していたゴーレムの大きな右手は、エルクに触れる寸前のところで止まり、砂となって崩れ落ちた。
その後、ゴーレムの攻撃を受けた男子生徒達の中には、重傷者もいたが全員命には別状はなく、教師達が男子生徒達を支えたり抱えて避難させた。
最後のゴーレムを倒したアリスは、エルクの傍に駆けつけた。
「エルク!その怪我どうしたの!?大丈夫たの?」
アリスは、心配した表情になる。
「大丈夫だけど、この状況は非常に不味い」
「ええ…」
エルクとアリスは、深刻な表情で辺りを見渡す。
エルク達は、既に砂の鎧を纏った子供達【ブラッド・チルドレン】9番隊に包囲されていたのだった。
次回、目覚める死神と【ブラッド・チルドレン】9番隊長ゴンザレス
とうと、【ブラッド・チルドレン】同士の戦いが始まります!
もし宜しければ、次回もご覧下さい。




