【白き死神の白夜叉】エルクと【疾風のヴァルキュリア】アリス
人類は、とうと遺伝子操作した子供が流行になり、日が経つにつれて技術が進歩し、性能が向上、加速していき、やがて人は超人となっていった。
そして、原因は不明だが、聖霊の加護を身に宿した者が生まれた。
その者は、身に宿した加護の聖霊の属性の武器を召喚できるという力だった。
それから日が絶つにつれ、異能に目覚める者が続出していった。
その中には、精霊の加護ではなく、精霊そのものを宿した者が現れた。
精霊を宿した者は、他の者達を寄せ付けないほどの絶大な力を保有しており、その者達は、やがて【聖剣】と呼ばれる様になり崇められるようになった。
そんな中、資産が少なく遺伝子操作できない平民や下民、遺伝子操作を毛嫌いする者などは猛反対し、レジスタンスという反乱軍を立ち上げる。
反乱軍のレジスタンス達は、圧倒的に人数が多く有利だったので勝てると思っていた。
だが、現実は違った。
普通の人間と遺伝子操作した人間では、銃や剣などの武器を持っていようが聖霊の力の前には無力なほど天と地の差があり、物凄い勢いでレジスタンス達は討伐されたり、取り押さえられていった。
そこで、レジスタンス達は帝国で生まれたばかりの子供を誘拐して、その子供達を命懸けの訓練させ部隊を作り上げる。
そして、その子供達は、後に【ブラッド・チルドレン】と呼ばれ、帝国達に恐れられる様になる。
このまま圧倒的有利と思われた帝国軍だったが、レジタンスの【ブラッド・チルドレン】の猛攻によって多大な被害を被るが、どうにか、かろうじて勝利を収めた。
その後、生き残った【ブラッド・チルドレン】はバラバラに散り、帝国軍はレジスタンスの討伐に乗り上げる。
その中、【ブラッド・チルドレン】の4番隊の隊長だった【白き死神の白夜叉】と呼ばれるほど恐れられていた主人公エルク・バビロンは、帝国軍の数少ない聖剣の一人である【疾風のヴァルキュリア】と呼ばれる風の精霊シルフィを宿した少女アリスと運命の出会いをし、エルクはアリスの護衛役として雇われることになり、エルクはアリスと共に学生生活を送る。
【過去・ライティア国・ライティア町・夜】
闇に紛れる様な黒色ローブを纏った反乱軍レジスタンス達がライティア町に奇襲を掛けていた。
「そこまでだ!」
帝国を守護している帝国の騎士団達がすぐ駆けつけて対応する。
「この反乱軍共が!精霊に愛されていないお前達が、俺達に楯突くとは生意気な!」
騎士団達は、自身の能力で何もない場所から様々(さまざま)な剣を召喚する。
「くっ、この異端者共が!」
レジスタンス達は、舌打ちしながら腰にかけている剣を抜刀して戦闘体勢をとった。
「アクア・ソード」
「フレイム・ソード」
「ウィンド・ソード」
「グランド・ソード」
「ライトニング・ソード」
帝国の騎士団達は、召喚した剣に水や炎、風や土、雷属性を纏わせてレジスタンスを迎撃しようとしたが、追い込まれているはずのレジスタンスが口元に笑みを浮かべていたので気になり周囲を見渡した。
離れた城壁の上に黒色ローブを纏った一人の少年の姿が見えた。
「おい!あそこに誰かいるぞ!」
見つけた騎士団の一人は、大きな声を出して少年の方向に指をさす。
「仕事だ、目覚めろ、死神の大鎌」
城壁の上にいる黒色ローブを纏った少年が、抑揚のない声音で呟きながら右手を真上に挙げると少年の背丈と同じぐらいある大きさの白い大鎌を召喚すると共に、纏っている黒色のローブが白色に変化した。
「お、おい…。あれって、あの真っ白な大鎌は【白き死神の白夜叉】じゃないのか?」
「う、嘘だろ…」
白いローブを纏った少年を見た帝国の騎士団達は、強張った表情で呟く。
白いローブを纏った少年は、召喚した白い大鎌を握り締める。
「月華聖天流奥義、三日月」
少年は、抑揚のない声音で大鎌を横に凪ぎはらう。
大鎌から巨大な三日月の形をした白い光の閃光の斬撃が放たれた。
放たれた斬撃は多くの建物や電灯、植えられている木々(きぎ)などを真っ二つに切断していき、ライティア国の城に迫る。
【ライティア国・ライティア町・ライティア城】
「ま、まさか、この膨大で濃密な聖霊力。そして、この凄まじい攻撃は、白き死神の攻撃か!?」
白い光の斬撃が迫る中、城の前にいる騎士団達は、慌てたり狼狽えていた。
「私が、できる限り被害を抑えますので、下がっていて下さい」
そんな中、背中まで伸びた金髪の幼い少女、ここライティア国の姫であるアリスが騎士団達の前に出る。
「「アリス様!」」
騎士団達は、歓喜の声をあげた。
「シルフィ、お願い私に力を貸して。完全解放」
アリスは、右手を前に出して何もない場所からレイピアを召喚すると共に服装も変化する。
「はぁぁ!」
アリスはレイピアに聖霊力を集中させ、レイピアは風を纏い風は強まっていく。
「テンペスト」
アリスは一回転しながらレイピアを横に凪ぎはらい、巨大な竜巻を発生させた。
巨大な竜巻は、周囲にあるあらゆる物を全てを飲み込んで巻き上げる。
三日月の形をした白い光の斬撃は巨大な竜巻と衝突し、少しずつ竜巻を歪めていく。
そして、巨大な竜巻は切り裂かれ消滅したが、どうにか斬撃の軌道をそらすことに成功し、城に直撃するという最悪の事態は免れたが、城の右端の部分に掠り轟音を鳴り響きかさせながら崩壊し土埃が舞い上がった。
【ライティア国・ライティア町】
「軌道をそらされるとは予想外だったな。しかし、あれほどの巨大な竜巻を発生させることができるのは、【疾風のヴァルキュリア】か?まぁ、良い。次は全力で攻撃して確実に終わらせる」
白いローブを纏った少年は、今度は大鎌を両手で握り締めて先ほどよりも大鎌に聖霊力を込め、再び攻撃をしようとした時、無線が入った。
少年は大鎌の先端を地面につけて攻撃を中断し、左手で左耳に付けている無線機のスイッチを入れる。
「応答しろ!エルク」
無線から大人の男性の慌てた声が聞こえてきた。
「何だ?今、任務中だ。少し待て。次の一撃で任務を全うする」
「いいから人の話を聞け!緊急なんだ」
「どうかしたのか?」
「一大事なんだ。お前は、今すぐに本部に戻れ。本部が襲撃を受けているそうだ」
「本部がか?」
「そうだ」
「わかった、了解した。直ちに帰還する」
エルクは直ぐにその場から姿を消し、残された大鎌は光の粒子となって消えた。
結局、エルクは間に合わず、帝国軍と反乱軍レジスタンスとの戦いは帝国軍が勝利を収めて戦争が終結した。
【ライティア国・ライティア町・朝】
戦争終結してから三日が経とうとしていた。
今は、帝国軍はレジスタンスの力を恐れ、レジスタンスの残党狩りを行っていた。
町は、戦争が終息して間もないので未だに荒れている。
そんな町の中を朝早く、鎧を着た10歳の少女アリスは背中まで伸びている金色の髪を揺らしながら一人で町の様子を見回っていた。
「そこにいることは、わかってます。大人しく投降をおすすめします」
アリスは、気配がする物陰に視線を向けて話し掛ける。
「糞!死ねぇ!化け物が!」
物陰からナイフを持ったレジスタンスの大男が飛び出し、ナイフでアリスを突き刺そうとする。
「仕方がありません」
アリスは、能力でレイピアを召喚してナイフを弾き、剣先を大男の喉元に向けた。
「大人しく投降しますよね?」
「くっ、ああ…」
大男は、顔を引きつらせながら両手を挙げた。
「アリス様!ここに居られましたか。あとのことは、我々(われわれ)にお任せ下さい」
ライティア国の騎士団のリーダーを務めているベルが、部下5人を連れて駆けつける。
ベルは、20代の女性で髪の毛が緑色で肩まで伸びており、アリスが最も信頼を置いている。
「そうだけど、ベル。未だにレジスタンスの切り札であるブラッド・チルドレンの各隊長達を一人も捕縛や目撃したという情報が一切入って来ない以上、聖剣である私が見回らないと…」
「ん?その手の甲の刺青は、お前はレジスタンスの者だな!大人しくしていろ!」
騎士団二人が大男を拘束する。
「痛いぞ。俺は、何も抵抗していないだろ!もう少し優しく扱えよな!」
「仕方ない、わかった」
「「うぁ」」
騎士団二人は大男を拘束を緩めた瞬間、大男は騎士団の隙をつき、体当たりをして騎士団二人を押し倒しながら騎士団の腰に掛けてあった剣を抜き取り、アリスに斬り掛かる。
アリスは、すぐに反応できていたが、間近に騎士団が三人いたので身動きが制限されて避けることも防ぐこともできない状況に陥り、ベルはアリスを助けようとしたが部下が邪魔で間に合わず、騎士団三人は反応できずにただ唖然と立ち尽くしていた。
「くっ」
アリスは、左右の手で隣で棒立ちしている騎士団を押して危険から遠ざけたが、自身が無防備になってしまった。
「ククク…。これで終わりだ!」
勝利を確信した大男は、獰猛な笑みを浮かべて剣を振り下ろそうとする。
「アリス様!」
ベルは、叫びながら手をアリスに伸ばすが間に合わない。
その時、アリスの背後からアリスが弾いた大男のナイフが通り過ぎ、大男の眉間に突き刺さった。
「ぐぁ」
大男は、獰猛な笑みを浮かべたまま崩れる様に倒れた。
「アリス様、申し訳ありません。大丈夫ですか?お怪我は?」
「私は大丈夫。怪我はしていないわ。それよりも…」
アリスはナイフが飛んできた背後に振り返ると、そこには空のワイン樽の上に片足を置いて蹲っているアリスと同い年の少年がいた。
(全く気付かなかったわ。今も、目の前にいるのに気配が全く感じとれない。一体、何者なの?)
アリスと騎士団達は、警戒しながら少年に歩み寄る。
「ありがとう、あなたのお蔭で助かったわ。ところで、あなたは?」
「……。」
アリスが尋ねたが、少年は何も言わずに無言のままだった。
「おい!聖剣であられるアリス様が貴様に感謝をし、質問をなされているのだぞ!さっさと答えろ!」
騎士団の一人が少年を威圧しながら大声を出したが、アリスが左手を横に挙げたので押し止まった。
「ごめんなさい。別に話したくないのなら良いの。誰だって話したくないこともあるから」
「まず、そちらから自己紹介するのが礼儀だろ?」
「貴様!姫様に対して無礼だぞ!言葉遣いに気を付けろ!」
再び、騎士団は声を荒げたが、アリスから睨まれて大人しくなる。
「本当に、ごめんなさい。あなたの言う通りだわ。私はアリス・ライティア。この国の姫よ。ところで、1つ聞きたいのだけど、ここで何をしているの?」
「何も…」
「そう…。ん?あなた、何処かで私と会ったことはない?」
アリスは悲しい表情になったが、少年の声音を聞いて違和感がした。
「さぁな、いちいち人の顔や名前を覚えていない」
警戒して様子を見守っていたベルは、チラッとだったが少年の襟が開いていた隙間から右の胸元に【Ⅳ】と刻印されているのが見えた。
「アリス様!その者からお離れ下さい!」
ベルは、大きな声を出しながらアリスの前に飛び出し、剣先を少年の喉元に向ける。
「貴様は、【白き死神の白夜叉】だな」
「「えっ!?」」
ベルの質問を聞いたアリス達は驚いた。
「そうだ…」
少年は、剣先を喉元に向けられているが怯えた様子もなく、ただ何事もないかの様に肯定する。
「特に貴様の様なレジスタンスの切り札であるブラッド・チルドレンの隊長達は危険すぎて捕縛ではなく、始末することに決まっている。悪いがここで死んで貰う」
ベルは、殺気を放つと同時にベルの剣を中心に水流が渦巻く。
「そうか…。なら、ひと思いに殺せ」
「敵ながら、その心意気は見事だ。良いだろう、お望み通りに苦しまない様に一瞬で終わらせてやる。アクア…」
ベルは、水流が渦巻いている剣で突きを放とうする。
「ベル!待って!」
咄嗟にアリスは、ベルの腕を掴んで止めた。
「アリス様、なぜ止めるのですか?ここで、確実に仕留めた方が良いです。それほど、この者は危険です。アリス様だって、ご存知のはずです。以前、聖剣であられる【水の巫女】と共闘しても、この死神に殺されかけたでしょう」
「ええ、ベル。あなたが言っていることは正しいわ。【白き死神の白夜叉】が相手だと、正直、私は勝てないわ。だけど、様子がおかしいと思わない?」
「確かに様子が可笑しいと思いますが、危険なことには変わりありません」
「でも、今さっき助けて貰ったわ。敵である私を。だからお願い、ベル。少しだけで良いからお話させてくれないかしら?」
「はぁ、わかりました。その代わり、少しでもその子が怪しい動きをしましたら殺しますよ」
「ええ、わかったわ。ありがとう、ベル」
「ねぇ、死神さん。これから、どうするつもりだったの?」
「エルクで構わない」
「エルクって?」
「エルク・バビロンは、俺の名前だ」
「わかったわ、エルク。それで、これからどうするつもりだったの?」
「さっき、言った通りだ。何もしない、ただ死が訪れるのを待っている。お前達が俺らの長老達を倒したから俺に命令する奴がいなくなり、何もすることがなくなった」
「……。ねぇ、もし良かったらだけど、私に仕えてみない?」
アリスは右手を顎に当てて考え込み、エルクに尋ねる。
「俺は敵だぞ」
「今は違うでしょう?だって、あなたが敵なら私を助けずに見殺しにしたはず。それに、あなたなら一人でも私達全員を殺せるでしょう?」
「……。俺に何かメリットはあるのか?」
「あるわ。仕えている間に、あなたがしたいことや趣味や興味、夢中になれるものが見つかるかもしれないわ。どうかしら?」
「……そうだな、わかった。お前に仕えてみよう」
エルクが承諾した瞬間にエルクの姿が消え、気付けばアリスの正面に立っていた。
エルク以外の者達は、一瞬、呼吸が止まり、背筋が凍りつくほど驚愕した。
エルクは気にした様子もなく、無表情で手をアリスに差し出す。
「これから、よろしくアリス」
「え、ええ、こちらこそ、よろしくね。エルク」
驚愕したことによって一呼吸、反応が遅れたアリスだったが、すぐに笑顔を浮かべてエルクの手を取り握手をした。
こうして、エルクはアリス直属の護衛役となった。
【ライティア国・ライティア学院・グランド】
エルクがアリスの護衛役になってから、3年という月日が経った。
エルクとアリスが通っているライティア学院は、主に貴族と上級の平民が通う名門の学校で有名だった。
現在、3時限目の体育の時間は男子はマラソンだったが、エルクは抜け出して、ある競技の試合に釘付けになっていた。
「そこだ!もっと走って動くんだ!」
エルクの視線の先には、この国の姫であるアリス・ライティアがスペル・スカッシュというテニスに似た競技の試合をしている。
この世界のスポーツで、簡単に言えば結界の中でするテニス。
普通のテニスのルールに、わざと結界に当ててバウンドさせてコートに入れることもありという競技だ。
「ゲームセット、6ー0。アリス」
「ふぅ、よし!」
勝利したアリスは、笑顔を浮かべて左拳を握り締めガッツポーズをした。
「「きゃ~!アリス様!素敵~!」」
「「こっち向いて下さ~い!」」
審判の宣言で、女子達の声援がコートに響く。
アリスは、ベンチに置いていたタオルを取って汗を拭き取り、辺りを見渡してエルクを見つけた。
アリスは、駆け足で応援していた女子達の間を通り抜けて、笑顔を浮かべてエルクのもとに駆けつける。
「どうだった?エルク。私の試合」
アリスは試合中にエルクが見に来ていることに気付いており、とても嬉しかった。
「まだ、もう少し見ていたかったよ」
「え!?そ、そう…」
真っ赤に顔を染めるアリス。
「うん」
「そ、それより、私の試合のどのセットが一番良かった?」
誤魔化すようにアリスは、再び尋ねた。
「もちろん!全セット最高だったよ。動くたびに揺れるおっぱい、パンツじゃないのは残念だけどチラチラと覗くアンダースコート。スペル・スカッシュは、まさに神の競技だよね」
エルクは、目を輝かせながら右手の人差し指を立てて断言する。
いつの間にか周りにいる女子達の声援が消え、静寂が訪れていた。
「「……。」」
「あれ?」
エルクは、頭を傾げる。
「エルク、聞きたいのだけど。あなたは、試合中に何を必死に見ていたの…」
アリスは、顔を俯せたまま体を震わせながら小さな声で尋ねる。
「だから、おっぱいとアンダースコートだって」
迷いなく、真顔で答えるエルク。
「もう、信じらんない。馬鹿~!」
赤く染まっていた顔をさらに赤く染めたアリスは、目を瞑りながらラケットを勢い良く振り下ろす。
ラケットのフレームが、エルクの頭の頭頂部に当たった。
「ぐはっ」
うつ伏せに倒れて気絶したエルクは、ピクピクと痙攣する。
「期待していた私が馬鹿だったわ!」
アリスは気絶して倒れているエルクをゴミを見るような目で一瞥して、スタスタと校舎に戻った。
「最低よね」
「本当よ」
「しかも、あの男子って、噂の下民じゃない?」
「穢らわしいですわね」
「なぜアリス様は、こんな猿なんかと関わるのかしら?」
「さぁ?憐れみだと思うわ」
他の女子達もエルクをゴミを見るような目で見てヒソヒソと囁き、その場を離れていった。
それから、すぐにエルクを見つけた大男の男子の体育教師であるヤザンは、激怒しながらエルクのもとへとやってきた。
「やはり、ここにいたかエルク!お前は、いつもいつもサボり、女子達のところに…。って、もう既に制裁が下っているか…」
激怒していたヤザンは、腹の虫が収まらず追い討ちするかの様に気絶しているエルクを殴り、エルクの片足を掴んで、そのまま引きずって保健室ではなく生徒指導室へと連行した。
【昼休み・生徒指導室前の廊下】
3時限目の体育の後、エルクは体育教師のヤザンに1時限分丸々(まるまる)の指導を受けたので、4時限目の授業を受けれなかった。
アリスは、エルクが心配で生徒指導室まで迎えに行き、一緒に教室に戻ろうとしていた。
「はぁ、午前中から気絶するほどの一撃とヤザンコングの指導を受けるなんて最悪な日だな…。しかも、なぜか後頭部も痛いし…」
エルクは、ため息を吐きながら頭を撫でる。
「はぁ、それは自業自得よ。エルク」
ため息をしたアリスだったが、チラチラとエルクを見て、エルクの容態を心配していた。
周りは、そんな二人を見てヒソヒソと話をしている。
「あのさ、アリス。下民の俺と一緒に行動するのは控えた方が良いと思うけど?なんなら、俺は学園の外から護衛しようか?」
周りの様子を見てエルクは、提案する。
「どうして?」
「周りを見たらわかるだろ?」
「私は、そんなことを気にしないわ。好きな様に言わせて置けば良いのよ」
「はぁ、アリスが良いのなら別に良いけど」
「なら、何も問題ないわね」
再び、エルクはため息をして、アリスと共に一緒に教室へと戻る。
【昼休み・教室前の廊下】
「幼い頃から一緒にいるけど、今まで、ずっと思っていたことがるのだけど。男の子って、いつも頭の中はエッチなことしか考えていないわけ?」
「そりゃあ、男だからね」
エルクは、満面な笑顔を浮かべながら親指を立ててグッドサインをした。
「はぁ、別に褒めていないから」
呆れて、ため息をするアリス。
((違いますアリス様!いつもエッチなことを考えているのは、そいつだけです))
周りにいた男子達は、エルクとアリスの会話を聞いて嘆いた。
教室の廊下の影に、他のクラスの上級貴族のバルサ達三人が隠れており、エルクとアリスを見ていた。
「あいつ、俺達の品格を下げやがって!」
上級貴族のバルサは、上級貴族の中でも、この国で三本指に入るほどの資産家の子供だった。
バルサは、右拳を内側から外側に振り壁を叩く。
「ああ。それに、薄汚い下民の癖に少し頭が良いからってアリス様の教育係兼、護衛役とか生意気なんだよな。俺達貴族でも、アリス様にお声を掛けづらいというのに」
貴族のバスラは肯定する。
「そうだ。一度、痛い目に合わせれば懲りるだろう」
バルサは、獰猛な笑みを浮かべた。
「そうですね。上手くすれば、教育係は変わりませんが、護衛役としては問題ありと判断され解雇され、俺達が護衛役になれるかもしれません」
同じく貴族のヤラダは、不敵な笑みを浮かべる。
「それは、良い案だな」
バルサ達は、薄らと含みのある笑みを浮かべ頷き合った。
【昼休み・教室】
エルクとアリスが教室に入ると、クラスの男子達は満面の笑みを浮かべていた。
「「出所おめでとう、エルク」」
「何が出所だよ」
クラスの男子達の歓迎に、エルクはため息をつく。
その近くではアリスが、クラスの女子達に相談していた。
「……とエルクに聞いたのよ。そしたら、エルクが……。どう思う?ララ」
「アハハハ…。それは、違うと思いますよアリス様。いつもエッチなことを考えているのはエルク君だけですよ。きっと」
ララは、苦笑いしながら答えた。
「そうなの?」
頭を傾げるアリス。
「そうだぜ、アリス様。あんなにオープンなのは、エロクだけだぜ。なぁ」
イルダは、笑いながら腕をエルクの肩に掛け、もう片方の手でエルクの頭をグシャグシャにする。
「よせって、それにエロクって言うな。イルダ」
イルダの手を止めるエルク。
「はぁ。イルダ、お前…。その言い方だと。俺達は、ただムッツリなだけで、結局はエルクと同類だぞ」
イルダの双子の兄アルダは、ため息をしながら訂正する。
「それも、そうか。ハハハ…」
頭を掻きながら笑うイルダ。
そんなアルダとイルダを見て、クラスメイトの皆も笑った。
「アリス、そろそろ食堂でも行こうか?」
「エルク、あのね。えっと…その…」
アリスは、後ろに両手で弁当箱を隠し持っており、隠したままモジモジする。
「ん?ああ、友達と一緒に食べるのか?なら、俺は、一人で食べてくるよ。そんなに気にしないで良いよ、アリス」
「ま、待って!ち、違うのエルク。今日は、そ、そのお弁当を作ってきたの。だから、一緒に食べない?」
アリスは、顔を真っ赤にして、後ろに隠していた弁当箱を前に出した。
「おお!ありがとうアリス」
「あうう…」
エルクは笑顔でお礼を言い、アリスは湯気が出そうなほど一気に顔が真っ赤になった。
「ここで食べる?」
「今日は晴れているし、せっかくだから屋上で食べましょう」
「わかった」
エルクとアリスは、弁当を持って教室を出て屋上へと向かった。
「エルク君って、アリス様の教育係兼、護衛として入学しているけど。どう見ても恋人同士にしか見えないのは、私だけなのかな?」
ララは、左手の人差し指を口元に当てて呟いた。
「アリス様が、エルクに好意を向けているのはわかるが。エルクは鈍感だからな。アリス様は苦労をなされているよ。というより、アリス様は、あいつの何処が好きになったんだろう?確かに容姿は、まぁまぁ格好いい方だし、頭の良さはこの国で一番だけどさ。でも、エルクの頭の中は絶対にエッチなことしか考えていないだろ?」
「だね」
アルダは頭を傾げながら尋ね、ララや他のクラスメイト達も頭を傾げながら肯定した。
今回は、エッチな主人公にしてみました。
というより、変態ですね。
本文があらすじになっており、大変申し訳ありませんでした。
ご指摘ありがとうございます。
もし、宜しければ、次回も御覧ください。
では失礼します。