第3話 はえ(1)
今ではほとんど見かけなくなった典型的な日本下宿的家賃参万円木造安アパートに住んでいた頃(第1話参照)、ビデオのアシスタントディレクターをやっていた。
一応、一応ですが、優秀だったみたいで(自分で言うのも嫌味ですが)編集作業を全面的に任されていた。
私はその日誰もいない編集室でコツコツと映像の編集作業をしていた。クライアント試写の日にちが迫っていて、日曜日なのに誰もいない製作会社に一人で出社してた。そこに休みの筈の事務の女性が編集室のドアを開けた。
「こんにちは、どうしたの日曜日なのに」私は言った。
その女性は三十代半ばだったと思う。
「うん、それがね…」
私はそんな女性を見ていると、何かいつもと違う事に気がついた。
──何が違う?
確かに普段着なのでいつもの服装に比べてずっとラフだが、髪型もいつもと変わらないし、さほど高くない背格好も体型もなんら変わらない──いや違う、そんな事じゃない。
なんだろう、何か違う?
そうだ、全体の雰囲気…あれ…後頭部から左肩の後ろあたり…いつもと違う、何かがいる!
別の魂が──くっついている。
見えないが、そこだけ空気というか空間というかエネルギーの流れというか、確かに違うのだ。
女性は私が座っている編集卓のそばまでゆっくりと歩み寄ると、立ったまま自分の過去を話しはじめた。
うちは兄妹が多かったから、私は、子どものいない叔母のところに養子に出されたの、そこでずっと叔母を両親として今まで育ったの──
そして、つい何年か前にある人に出会った。
その彼が私と背格好が似ていて、似てるね俺たちなんて話しをしてるうちにその人のところに遊びに行くようになって…
(ああ、やばいやばい、それ以上言わないで)
頻繁に遊ぶようになって…性格も何もかもぴったりだったから、楽しくて楽しくて──
(どうしよう?)
しばらくしてお互いの生い立ちを話す程親しくなった時、わかった。
──小さい頃に離れ離れになった一番上の兄だった。その時は既に遅かった、お互いに愛しあっていたから……。
(でたー本当にあるんだこんな事)
──しばし沈黙。




