表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

七話 ロリゲームセンター

お久しぶりです。おや、一年近くほったらかしじゃないですかはっはっはっは。本当にごめんない。


「ふんふーん」


 天気の良い昼下がり。平日の昼の街を俺は歩いていた。

 今日は本来講義が1コマだけあるのだが、教授が体調を崩したらしく休講となったため、丸一日が休日だ。


「いやー、同じ休みでも平日ってだけでなんでこんなお得感出るんだろう」


 土日を「無課金休日」とすると平日の休みは「課金休日」って感じだ。体調を崩した教授には悪いが。

 最近、妹の愛菜に見繕ってもらった私服を着ることが多くなってきた。あのオフ会以降味をしめたのか事あるごとに着せ替え人形にしようとするので困ったものだ。

 しかし悔しいことに本当に似合っているのと、サイズの合う服は着心地が良く最近では多用している。


(でもやっぱ少し恥ずかしいな……)


 少々周りからの視線が気になるが男の服よりずっと自然だろう。

 なお今日は大型書店で新刊漫画を買い漁ったところだ。大学帰りでも寄れないことはないのだが、いつもは早く帰宅したい気持ちが強くて行かない。ぽっとできた休日の使い道としてこれ以上有意義なものはないだろう。

 その帰り道。


「お?」


 目に入ったのは近所のゲーセン。

 といっても様々なアミューズメントと一体となった複合施設だが。

 そんなに好きというわけではないが、時々行きたくなるんだよな。


「うおー、うるせー」


 様々な音が大音量で混じり合い、奏でられる騒音。煩くて仕方ないが、このわちゃわちゃは嫌いではなかった。

 入ってすぐ目に飛び込んできたはクレーンゲームの森。ここは明るすぎて目が痛いな。

 市販お菓子のLサイズの山。チープなラジコン。マスコットのぬいぐるみ。

 様々な景品が見る者の欲求を刺激する。


(その場だと欲しくなるけど帰ってみるとそうでも無いんだよなこういうのって)


 特にこのどこのメーカー製かわからん謎のゲーム機やラジコンはなんなんだろう。クレーンゲームでしか見たことないぞ。


「うーん」


 ふと、キャラクターのぬいぐるみが目に止まった。それはかなり大きく、今の俺だと両手で抱えるくらいにはなるだろう。


(取れたら愛菜にあげるかな)


 クレーンゲームの不思議な魔力。それは一見簡単に取れそうなところにある。

 100円を入れて操作ボタンに電力が通い、アームの操作が可能になる。縦横それぞれの軸を目的のものへと合わせる。

 位置はぴったり。キャラクターの丸いお腹をアームが捕らえた。

 しかし。


「あー……」


 掴んだものの、持ち上げられた拍子にアームからすり抜ける。

 分かってはいたけどアームの力が弱い。

 上手い人はここでアームの弱さを把握して、2回目で取るらしいが、俺にそんな技量はない。


(深追いはダメだなー)


 取れるまでやるなんて馬鹿なことはしない。変に投入するとそれこそお金が消えていく。クレーンゲームで浪費した時の後悔は強い。潔く俺はその台から離れた。

 その時俺を見る人影に俺は気付かなかった。




 次に来たのは太鼓型の音ゲー、太鼓の名人。ゲーセンでやる音ゲーでは最も有名なものといえる国民的ゲームだ。


(あ、この曲知ってる)


 聞き覚えのあるフレーズ。それは今プレイしてる人が選択した曲だ。

 目で追えないほどの譜面の量。おそらく高難易度なのだろう。その動きや速さは、その男が上級者であることを示していた。

 俺以外にも何人かがそのバチ捌きを興味ありげに見ていた。


(うへぇ、どうなってるのかわからん)


 あまりに高レベルなプレイなのと、知ってる曲なので少し見学させてもらう。

 何人かの視線を受けても全く動じることはなく、顔色ひとつ変えず正確無比に譜面を処理していく。これだけ叩ければ見られても平気なのかも知れない。

 その男が曲を終える。ゲームのキャラクターが高らかに「フルコンボ!」と告げた。

 おお。俺は思わず小さく拍手する。と言っても、特に誰もしてないので音が鳴らないよう控えめなものだ。

 一方男はノーミスだというのに顔色一つ変えない。


 男がバチを鞄に仕舞う。あ、筐体についてる奴じゃなくていわゆるMyバチってやつだ。本格的だなぁ。

 一瞬こちらを見てすぐに顔を背けた。

 彼は次の人に譲ってクールに行ってしまった。


 帰り際なんでもないところでつまずいたような気もするが気のせいだろう。





「次は……」


 太鼓の名人を後にして、目に止まったのはガンシューティングのコーナー。


「お、まだこれあるんだ」


 銃の形をしたコントローラーが大画面の前に2つ置いてある。この銃を画面に向けて引き金を引くゲームだ。

 結構前からあるシリーズで、2人の主人公がテロリストを倒していくというもの。左右の銃どちらを使うかで主人公が切り替わる。といっても視点に差異があるだけでストーリーに違いはない。


「と……」


 その近くにあるのは、筐体の中に入り込んで固定された銃座でゾンビを倒すゲーム。臨場感のある3D映像と振動する座席、エア噴射など演出面は素晴らしいゲームだ。演出面は。


「これもまだあんのかぁ……」


 こっちは難易度がやたら高くて金食い虫とか呼んでたっけ。ボスから雑魚まで、敵のほとんどが「硬い、速い、怯まない」の三拍子。しかも雑魚ゾンビすら一撃で体力の半分くらい削っていく。そんな敵がたくさん襲ってくる。

 弾数は無限で連射も効くがあまりアテにならない。

 あらかじめ出現位置を把握しておいても大体間に合わない。コンテニューする羽目になる。



「こっちはいいかな……」


 別に難しいからお金が無駄になるとかじゃなくて、上記のように敵が怯まないので撃ってる感じがしないのだ。爽快感がない。不快感はあるが。

 ただ演出はホラーとして良くできているのて本当に惜しいゲームだなって思う。リメイクされないかな。


「こっち久々にやってみるかぁ」


 テロリストを倒す方に向かった。

 高校の頃友達とよくやってたな。自分はFPSやTPSみたいな移動も自分で行うゲームは苦手だけど、なんか銃は撃ってスッキリしたいみたいな時にこれをしていた。

 レール式と呼ばれるらしく、視点移動や立ち位置は自動で動いてくれて、プレイヤーが操作するのは照準か物陰に隠れるかだ。


「ノーコンでどれくらいいけるか……」


 100円を入れると派手な音とともに画面が暗転。慣れている左側に立って銃を取った。


「わっ。やっぱ重い」


 非力になった手に重さが手に伝わる。男の時は片手でやっていたがこれは両手で持たないとろくに狙えないし腕が疲れてしまう。

 情けないことに身長も若干足りず、銃を持った両腕をピーンと伸ばし、若干背伸びして狙う。やりにくい。

 こりゃ足のペダル操作で物陰に隠れるのが大変そうだ。


「おらー!」


 始めるとそんなこともなかった。まぁまぁやり込んだゲームなだけあって、間が空いてても意外と体が覚えているものだ。


(まぁ今の体幼女になってるんですけどね)


 心の中でどうでもいいツッコミを入れつつ、敵の頭を狙っていく。

 そうたいして上手くなくても、リロードとヘッドショットを高速でやるとプロい気がする。(気がするだけ)


「うわちゃー!」


 この体になって少しストレスが溜まっていたのかもしれない。いい発散になる。

 進めていくにつれ、小さな凡ミスが重なり、俺の体力がゼロになる。


「あ、死んだ」


 ゲームの中盤くらいで終わった。久しぶりだから鈍っていたんだ。そうだ。

 終わってから周りが見えるようになる。


「……?」


 先ほどの太鼓名人のように人が集まっていた。


(なんだ? このゲームそんな現行じゃないんだけど……)


 皆なんでそんな生温い目で見ているんだ。

 そういえば思い出す。このゲームやってる時の自分は独り言が多くて面白いって友人に言われたっけ。

 1人で奇声上げながら銃撃ってたらそりゃ見られるわ。不審者だもの。

 顔が熱くなってくのがわかる。俯いて銃を戻し、そそくさその場を離れた。





「朝野さん?」


 しばらく適当に回って一息ついた時、後ろから声をかけられた。


「え、茂手木?」

「やぁ、奇遇だね!」


 最近仲良くなったイケメンパリピの茂手木がそこにはいた。

 ひたすら良い顔がにこやかに笑いかけていた。


「朝野さんもここ来るの?」

「時々ね。どっちかっていうと隣の本屋のついでかな」


 手に持っていた書店の袋を掲げて見せる。まぁ中身は漫画なんだけどね。

「俺はここでよく音ゲーしに来るかな」

「へー。めっちゃうまそう」

「そんなことないよ、普通普通」


 他愛のない会話をしていると、手に持っている大きな袋に目がいく。

 どうやらゲーセンが出している景品を入れる袋のようだ。


「あ、これ?」


 茂手木がその袋を開けて中身を見せてくれる。


「あっ」


 それは先ほど俺が取れなかった巨大なぬいぐるみだった。


「さっき運良く一発で取れてさー」


 なんと。さっきのゆるゆるアームで一発クリアだって? 運のいいやつめ。顔も運もいいなんてずりいぞ!


「あ、そうだ」


 茂手木がぬいぐるみの袋をこちらに差し出す。


「へ?」

「これあげるよ」

「いや、悪いよ」

「いいって。一回で取れたし。取れたこと自体を楽しむタイプだから俺」


 やたら強い推しに負けてぬいぐるみを受け取る。実際持つと手に余る大きさだ。愛らしいが少し間抜けな目が袋の中から俺を見つめていた


「……あ、ありがとうな」


 ちょっと恥ずかしいけどお礼を言う。

 でも困ったな。これ妹にあげれないな……。


「どういたしまして!」


 輝くような笑顔で返される。なんだこのイケメンは。逆に怖いそ!







「また学校でー!」

「じゃあね」


 朝野さんが力強く手を振ってくれる。本当に可愛らしい笑顔だ。

 あげたぬいぐるみは普通に持つと引きずってしまうので、小脇に抱えるように持っている。


「さてと」


 朝野さんが見えなくなった時。

 俺は財布を覗く。


「しばらくは昼抜きだな」


 すっかり軽くなった財布を仕舞い、呟いた。


読んでくださりありがとうございます。

また待たせてしまったのに読んでくださった方には心から感謝しています……


近況っていう言い訳なんですけど、二作目となるレアカード転生の更新が思ったより捗ってしまい……


あっ、あと、冬コミにて10ページほど漫画を寄稿させていただきました!冬コミに自分の作品が出せて本当に嬉しいです……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったよ!投稿再開してくれ!
[一言] 面白かったです。 更新楽しみにしてます
[一言] おお、更新に気付かなかった……。(^^ゞ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ