六話 ビューティフル・ロリコン
あっ、新作書いてました。申し訳ありません。
茂手木 健斗。大学2年生だ。
自惚れではなくモテモテだ。モテる理由は、顔だけではない。
端的に言うと自他共に認めるイケメン。
趣味は音楽、オシャレにだって気を使う。
彼の自分磨きは小学校から始まる。学校の昼休みに「サッカーしようぜ!」って誘えば、クラスの半分くらいの男子がついてくるリーダー的男子。それが彼だった。女子とも気軽に話し、ちょっとしたちょっかいを出しても冗談で済む。そんなモテ男人生を今まで歩んできた。
「健斗ぉ~。今日暇なら遊びにいこーよ」
「あー。今日はちょっといいや」
学科の女子を軽くいなして携帯をいじる。
こんなにも自分を磨いているのに。女の子なんて入れ食い状態なのに。
ある時期、主に高校、大学から好みの女性が現れないのだ。何人かお試しで付き合うも長続きしない。
それには理由があった。
(まさか自分がロリコンだったとは)
そう、彼は無自覚で重度のロリコンだった。
だから小中学生までしか女性に興味を持たなかったのだ。
(高校、大学なんてもうみんな大人だよなぁー)
いつか犯罪を犯しそうな思考で周りの女子を見る。
もう「学生」、というより「社会人」の階段を登り、大人の女性の魅力を醸し出し始めた彼女らは、彼にとってはいわゆる老婆に過ぎない。
最近授業をサボりがちだったので今から始まる一限目の講義くらいは真面目にやろうと、そっちに意識が移ろうとしたとき。
「うへー、この講義眠くなるんだよな」
「わかるがお前の場合寝不足が理由だろ」
大きな影と小さな影が講義の教室に入ってくる。
(……んおっ?)
巨大な人物の隣の、どう見ても子供な背丈の人物。銀の髪を揺らし、ちょこちょこと巨漢についていく。
親子くらいの身長差はあれど、ここは妻子者が来る場所ではないからあれは同年代の「生徒」だとわかる。
(……)
茂手木は久々のトキメキを感じていた。
「で、この時に使用されるのがこれこれで……」
講義の内容に耳を傾ける振りをし、必死に板書を目で追い書き写す。
今はそこまで理解していない。しかしノートは取っておかないと後で困る。こう見えて俺は勤勉な学生なのだ。
手が小さくなったせいですっごくやりにくいけどな!
「ぐおおおおおお」
隣で大いびきをかいて寝ている小野田に無言でチョップをかます。
講義終了後
「いやーよく寝たよく寝た」
「イビキうるさいからノート見せない」
「ごめんなさいまじすんません見せて」
大方深夜までゲームしてたから寝不足なんだろう。
「お前が寝るのは勝手だが静かにしろ。横にいる俺が恥ずかしいわ!」
「ごめんて」
大きな体を縮めて平謝りの小野田。俺の体に合わせてるのだろう。
なんかこっちがワガママ言ってる子供みたいじゃないか。
「もーいい」
ノートを広げて今日の板書を見せる。
「さっさと写真撮れ」
「ありがとうございます遊様!」
「ジュース一本で許してやろう」
「ははーっ!」
いつものアホみたいなノリで会話していた時。
「わりー、俺にもノート見せてくれねーかな?」
あまり聞き馴染みのない声。自分のよくわからない服を着こなすイケメンが両手を合わせて懇願のポーズ。
確か同じ学科の……
「茂手木君?」
「おう! さっき俺も寝ちゃってさー」
クラスでもよく大きな声で話してたりするので名前は知っている。男女両方共に仲の良いイケイケぱりぴ系男子の印象。
だが入学してから話したことなんてほぼないんだが。
まぁノート取らないと困る科目だから、あまり話さない俺にも頼まないといけないほど、背に腹は変えられないのかな?
「ほい」
ノートを広げて見せ、写真を撮らせる。
「あざーっす!」
オーバーすぎるくらいのリアクションでお礼を言ってくれる。嬉しそうで何よりだ。
「今度お礼に、どっか遊びに行こうよ! 俺が奢るからさ!」
「え、いいよべつに。気にしなくて」
なんか食事に誘われたが、あまり話したこと無い人と遊びに行っても気まずいだけだろう。
「俺の気が済まないんだよー、何かお礼させてくれよ!」
中々相手も食い下がらない。そんな大したことしてないんだけどなー。
「うーん、じゃあまた暇な時にジュースでも奢って?」
彼は知らんが、俺は次も講義があるのだ。無駄に時間食いたく無い。お手洗いも済ませときたいし。
「あっ……」
何か言われかけたが、すぐに教室を出たのでわからなかった。
「あざっしたー」
チャイムが店内に響く。もう辺りは暗くなり、車のライトの光だけが道路を滑る。
いつも通りのバイト。しかし今日は心なしか客足が少ない。バイトなので暇でもあまり関係ないが。
「朝野さん、床掃除するんで並んだら呼んでくださーい」
「了解ー」
シフト的によく一緒になる伊澤さん。
お客様が少ないので、今のうちに床掃除を済ませてしまうようだ。人が多いとそんな暇ないからね。
ただ突っ立ってるのもなんなので、無くなった割り箸やレジ袋を補充しようとレジ内にしゃがんだ。コンビニバイトとはいかに暇な時間に仕事を見つけれるかでもある。
体が小学生レベルまで縮んだせいでここで補充を探していると体が完全に隠れてしまう。なので見回りに来たオーナーに、レジに誰もいない!って怒られたことがあったなぁ。でも手が小さくなったから奥にあるタバコは引き出しやすくはなったけど。
そこに入店音。
「あ、らっしゃせー!」
すぐにレジから顔を出し、接客の挨拶をする。が、
「あ、朝野さんじゃん!」
「……えっと、茂手木?」
つい先日初めて会話したモテモテクソイケメンの茂手木が店にやってきたのだ。
俺としてはそこまで深い話をしたわけでもないので、そんな仲良くなったつもりはないが、あちらはまるで普通の友達のように話しかけてきた。
これが陽キャと陰キャの差なのか。コミュ力あるリア充ってすごいな。
「ここで働いてたんだ!」
「そ、そうだね」
「いやー、たまたま寄ったんだけどラッキーだなー。これなら毎日通っちゃうよ!(制服の朝野さんも可愛いなぁ)」
「ははは……」
陽キャ特有の社交辞令だろう。しかし同級生に接客するのがこっぱずかしいから早く帰って欲しいのが本音だ。
「な、何か買うのけ?」
「そうだった。タバコの15番お願い」
「15ね」
後ろを振り返り、並んだタバコを見上げる。
うちの店のタバコの15番は最上段だ。
手を伸ばす。ちょっと足りない。
踵上げる。それでも足りない。
「……」
別に恥ずかしくはない。この仕事をしてればいつかはぶつかる壁だ。俺は冷静だ。
知り合いの前で醜態を晒したからといって恥ずかしくはない。
「あ、朝野さん? 震えてるけど大丈夫?」
「ちょっと待ってね」
レジ下に潜る。秘密兵器の出番だ。
それは常備してある小型の脚立。本来レジ上や商品棚上部にセール品や新発売商品のパネルを貼ったりポップを貼るのに使用するもの。
今の俺には救世主のような道具だ。もはや相棒といっていい。
脚立展開、その上に乗り、指定のタバコを掴んだ。
「はい、これだね!」
「やったね朝野さん!」
大いなる目標を達成し、思わず2人で喜ぶ。
お客さんが居たら相当変なやつだと思われるだろうが今は目の前のイケメンだけだ。
「朝野さん何してるの。 」
「あっ」
伊澤さんが床掃除を一周してきたのか、レジ前に戻ってきた。小さく何か聞こえた気もするが、気のせいだろう。
そのちょっと呆れ気味の視線に恥ずかしくて冷静になる。
「……500円になります。年齢確認ボタンをお願いします」
「はい。袋はいいよー」
購入済みのタバコをジーパンのポケットにしまう茂手木。
大学生だからもう20歳なんだよなぁ。見た目はこんなちんちくりんになっちゃったけど、俺も酒とかタバコできる歳なんだよな。
この体になって見上げることが多くなったため、周りが年上に見えて仕方ない。
「ところで今日何時にバイト終わるの?」
「えっ? 今日は早くて休憩なしの8時くらいだけど」
「女の子1人で帰るの危ないし、俺が送って帰るよ? 俺バイクあるし」
一瞬ぽかんとしたが、そういえば自分は今幼女だったな。
たしかに時々夜道で襲われたらこの体では抵抗どころか一瞬でお持ち帰りだろう。家が近いとはいえ歩きは安全とはいえない。
「2人乗りとか興味ない?」
「ちょっと楽しそうだけどぉ……」
普通免許は持ってても、二輪免許やバイクはノータッチだ。興味がないといえば嘘になる。結構絶叫マシンとか好きなタイプなのだ。
「でも後1時間くらいあるし、待たせるのも悪いからいいよ」
「そんなことないよー。俺も暇だしね」
半分本音で半分嘘だ。悪いのもあるが、そこまで話したことないやつと2人乗りは想像すると気まずい。
というかなんでこんなにフレンドリーなんだ。
「前ノート見せてもらったお礼もあるしね!」
意地でも恩返しとかお前は鶴か何かなの?
そこに黙ってた伊澤さんが口を開いた。
「お客様。他のお客様の迷惑になりますので」
若干声が怖いのは気のせいか。
「他のお客様のいないけど」
「店内でのナンパはおやめください」
「ナンパじゃないよ、俺は朝野さんが心配で」
「早よ帰れチャラ男」
「俺客だよね?」
伊澤さんは俺が変な客に絡まれていると思っているのだろう。心遣いはありがたいが、誤解を解かなければならない。
「伊澤さん、この人は学校の同級生で……」
「えっ、この人小学生なの!?」
「大学生なんだけど!?」
「あっごめん間違えた」
思わぬところから攻撃が飛んでくる。たしかに大学生かと言われたら怪しい見た目だけどさ。
この見た目になってから何度補導されかけたかわからない。
「そうそう。俺は朝野さんの友達の茂手木。だから怪しいものじゃないって」
「は? 男が女を家に送る8割がた下心あるって科学的に証明されてるんだけど」
残りの2割に謝ろう。ていうかそれは科学なのか?
「朝野さん、こういうやつは甘い言葉で騙して朝野さんみたいな超可愛い女の子を食いまくってるから」
「そ、そうなの?」
「私にはわかる。 」
「え?」
「失礼な。俺はただ心配で」
そうだ。茂手木は女の引く手数多のイケメンだ。こんな小学生みたいなちんちくりんなんか興味ないだろう。
あるとしたら相当なロリコンってやつだ。
「そこまで言うなら……ちょっとバイク興味あるし……」
この背丈だし多分一生乗ることは無いだろうから、気分だけでも。
「朝野さん!?」
そんな信じられないといった感じで驚かなくても伊澤さん。
「おっ。じゃあ時間まで待っとくよ。ついでに肉まん1つ」
「ほーい」
あ。カラシが切れてる。
退勤時間。
まだ勤務中の伊澤さんに「ぎをづげでねえ"え"」と泣きながら言われたが帰宅する。いやほんと泣きすぎでしょ。
「しっかり掴まってね。はいこれヘルメット」
「お、おー」
長い髪を纏めて、フルフェイスのヘルメットを装着。
いざ乗るとなると緊張してきた。大まかな行き先はもう伝えてある。
大きな真紅のバイクだ。俺はそういうことに全然詳しく無いけど、乗り手の愛をなんとなく感じる。
「コーナー曲がる時とかは俺と同じ方に。反対側に体重かけると危ないからね」
「うん」
「あっこれ。寒いと思うから上着」
「あ、ありがとう……」
2人乗りって意外と準備がいるんだな。
でもなんかやたら準備がいいな?
「どうぞ」
「し、失礼しまーす」
乗ったのはいいが、どこを掴めばいいのか不安になる。
ひとまず前にいる茂手木の腰に手を回して抱きつく。
冷静に考えると男に抱きつくってどうなんだ。
「おっ、嬉しいけど片手はそこの持つところ持った方が安定するよ。怖い思いはさせたくないからね」
「う、うん……」
よく見ると後ろに掴む場所があった。確かにこれはいい。
こいつ結構いいやつなのかもしれない。
「じゃ、出るよ!」
「おー!」
夜の風を切るドライブが始まった。
「楽しかった!」
「それは良かった(可愛い)」
玄関前。バイク初体験だったが無事帰宅できた。
信号待ち中にちょっと会話したが、偶然同じゲームをしているのがわかって話も弾んだ。コミュ力高いイケメンってすげえな。
「あっ、ついでにライン交換しよ」
「ええで!」
すっかり打ち解けた。馴れ馴れしいやつだと思ってほんと申し訳ない。
なんにせよ友達が増えるのはいいことだ。
「もうこんな時間、じゃあね!」
「おう。またなー!」
手を振って家の中に入った。
「帰ろう。…………4駅分か」
彼の自宅が決してすぐ寄れるようなところにないのは内緒である。
この小説ギャグなんで茂手木くんはただのいいやつです。(念押し)
新作もよろしければ。