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五話 ロリータ・オフライン

 課題もバイトもない奇跡的な日曜日。

 有り余る時間をただ浪費してしまうのももったいないと、俺はネットゲームに興じていた。

 何?どのみち浪費と変わらないって?うるせえ!趣味に費やすことの何が悪いんだ!

 ちなみに今は自室なので下着に大きなTシャツのみという非常にだらしない格好であるがそこは見逃してほしい。体が小さくなってからこの格好が一番楽なんだ。


「ふふーん」


 鼻歌でも歌いながらベッドの上でゲームに興じるなんて何と贅沢な時間の使い方だろうか。

 ちなみに体が変わってもデータなどは特に変化はなかった。有難い。

 レイドボスも終わったので、仲間とチャットでだべっている。

 よくあるファンタジー系のMMORPGだ。恥ずかしながら自分は小規模のギルドのマスターを務めさせてもらっている。まあマスターといっても、初期から一緒にいるメンバー4人集めただけの身内ギルドなんだけどね。


『あ、 SSS出た』


 仲間の1人が先のクエストで落ちた物の中に最高レアの装備があったのを報告する。


『は? 裏山死刑』

『売却しろ』

『よこせ』

『おめでと死ね!』


 メンバーからのギルド内チャットが連打される。割とひどい罵倒ばっかりだがいつものことなので問題はない。

 仲がいいからこその悪口というやつだ。


『おー。おめ、何出た何出た?』


 気になったのでちょっと聞いてみた


『デュランダルだね』

『うっわ、新SSS剣じゃんいーなー』


 当てたのは今回の新ボスの落とす新装備だった。正直羨ましい。特効武器で今回のボスへのダメージ増加に非常に有効武器だ。

 しばらく新ボスの周回案や立ち回りなんかの話で時間を潰していたら、メンバーの1人が別の話題を振ってきた。


『そういえばマスターさ』

『ん?』

『この前言ってたオフ会いつにする?』


 ああ、そういえば前そんな話をしていたな。

 もう数年来の付き合いになっているのでオフ会を開こうって話になったんだっけ。


『中の人を正直知りたくないって気持ちはある』

『どうせみんなメガネにチェックのシャツ着てバンダナまいてビームサーベルポスターしてんだろ? 知ってるぞ!』

『ばっか体重控えめ0.1トン抜けてんぞ』

『自白してて草』

『別にネカマいるわけじゃねーしいいだろ』


 そうだ、女性キャラを使ってるプレイヤーはいるが、はっきりと男口調だしどっちかというと粗暴なので、誰もネカマだと思っていない奴しかいない。


『マスター大学生だっけ? 学校とか大丈夫?』


『土日なら大丈夫』


 チャットを打ってる途中で思い出した。そういや自分今幼女やんけ。

 別に自分の性別についてどうこう言ったことはないので、多分みんながみんな全員男と思っているだろう。

 俺もそー思ってる。


『でもマスター、キャラだけは最年長くせーのにギルドで最年少だからなw』

『うっせ』


 使用キャラはネタで作ったスキンヘッドマッチョメン。ネタで作ったのにこっちで装備が充実してしまいメインキャラになってしまったという経緯がある。

 顔は常に満面の笑みを浮かてるので見た目の暑苦しさは随一。

 メンバー全員が社会人とわかって学生の自分が年下だとわかった時は何とも複雑な気分になったものだ。


『んー。まああまりオフ会に乗り気じゃない人もいるし、今回は無しかな……』


 今の体が体なだけに会うのは得策では無いと思う。ここは華麗にかわして……


『えー。マスター前まで乗り気だったじゃん』

『しっ。多分普段からポスターサーベルしてるんだよ言ってやんなw』

『なるほどw』


 おい、なんだかずいぶん不名誉な陰口を叩くんじゃ無い。丸見えだぞ。

 こいつらは同じネタのいじりを一週間は続けるから困る。前にもチャットの打ちミスをいじられてそれがギルド内で大流行したことがあるくらいだ。

 ここで否定しないとしばらくあだ名がポスターサーベルになってしまう。


『あーいいよ! 今度オフ会開くぞおら!』

『すぐ挑発乗っちゃうマスター単純www』

『うっさいよ!』


 ノリでまずいこと言っちゃったのではと、後悔するのはログアウトしてからだった。






 その日の夜、帰ってきた妹に今日のことを告げる。


「次の日曜、ちょっと人と会ってくるから」

「え?」


 いきなりでぽかんとした我が妹。


「結構な遠出だから、留守番お願い」


 集合場所はさまざまな場所から来るということで、日帰りとはいえかなり遠い。


「誰に会いに行くの?」

「ネットゲームの友達。オフ会開くんだ」

「大丈夫なの? 顔も知らないんでしょ?」


 まあ当然の反応ではある。世間ではネット上の知り合いはあまり信用してはいけない、というような風潮がある。まあ自分も別の意味で不安ではあるのだが。


「うん。何だかんだ付き合い長いから」

「お姉ちゃんがいいならいいけど」


 それなりの信用があることを伝えると、愛菜も納得してくれたようだ。

 しかし妹は別のことを心配しているようで。


「初対面の人に会いに行くんだから、オシャレしないとね!」








「愛菜め……」


 オフ会当日。人が行き交う駅前の噴水。休日の昼ということで人通りが多い。

 地元より都会なせいか人口が多い街に来た俺は、数多の視線に晒されていた。

 あの後、妹に連れ回され、自分の所持している衣服よりも遥かに女性らしい服を買うために一日中連れ回された。見知らぬ人と会うという口実を大義名分に拒否できなかったのだ。

 現在の自分の格好はキャミソールワンピース?という奴らしいが精神が男の俺には全くわからない。夏らしく麦わら帽を被っているが、自分の体が小さいせいか若干大きくて邪魔だ。


 俺は集合場所である大きな噴水に腰掛けて待ってるが、通り過ぎる人からの好奇の視線がグサグサと刺さる。

 見た目だけなら異国の美少女なので物珍しいのはわかる。しかし目立ちすぎでは無いか。


「うー……なんか変なのかな……」


 ワンピースの裾を直したり麦わら帽を何度も触ったり。

 顔が熱くなって来たぞ。早く来ないか皆。こういうのは早めに来るもんだぞ。

 時計を見ると時間まで30分弱。遅刻だけはしたく無いので早めに来たのが仇になった。

 SNSのギルドグループにメッセージを送る。


『俺もう着いたから待ってるで。一番乗り』


 即座に既読が複数つく。返信も届いた。


『マスター早いなー。俺ももうすぐそば』

『私もー』

『俺は頼れるマスターだからね。時間は守るものさ!』

『そんな奴いた?』

『さあ?』

『お前ら覚えとけよ』


 ゲーム内と変わらない、いつも通りの会話を済ませて待つ。もうすぐで到着しそうだな。

 しかし俺の扱いマスターなのに酷いな?それほど慕われてるってことにしとこう。

 ほんの少し待つと1人の男性が噴水に腰掛ける。俺のちょっと横だ。おそらくこいつだろう。

 しかし


『マスターいねえじゃん』

『いやいるよ』

『どこだよ』


 あ、見た目的に海外旅行客だと思われているのか?

 仕方ないので横にいる男性に話しかけることにした。


「あの……」


「はい?」


 本当に普通のサラリーマンといった感じの男性。まさか話しかけられとは思わなかったのだろう、素っ頓狂な声を出す


「ペーとん……だよね? 俺だよマスターだよ!」


 これは今着いたと言ったメンバーのキャラネームだ。

 他にそれらしい人はいないし確定だろう。


「え……え?」


 信じられないものを見たと言った顔だ。

 まあ普通に男口調でチャットしてた相手がこんな見た目とは思わんわな。


「まじで?」

「マジマジ。ポスターサーベルはしてないだろ?」

「うっわまじかよ……」


 メンバー内のノリで返すと信じたようだ。おもむろにスマホを向けられシャッター音が鳴る。

 おい何撮ってんだ。

 そのままスマホを操作すると、俺の方にも通知が来た。


『【速報】マスターが洋ロリだった』


 写真が添付される。


『www』

『ま?』

『草、どこの子だよ情報よろ』


ぺーとんがスマホから顔を上げる。


「マスター信じてもらえてないんでツーショットいいすっか?」

「えー……」


 その後合流したメンバーにいちいち説明してたらすっごく疲れました。










(視点三人称)

 所は変わってカラオケ店。人数は5人。女性2人、男性3人。

 一番見た目が幼いマスターの遊。会社員のぺーとん。二十代後半の好青年のアルダ。若干小太りだが人の良さそうなイクス。若い女性のラスティ。

 ギルドの面々はそこで現実で会えたことを喜びつつ積もる話をする予定であった。


「ちょっとトイレー」

「い、いってらー」


 この集団を束ねる外見の幼い少女が席を立つ。それを全員どこか不自然な笑顔で送る。

 少女が見えなくなったあたりでその体裁を崩す。


「ちょっと待って何の冗談だよあれ」

「ああラスティが女だなんて吹っ飛ぶくらいの衝撃だよ」

「私も女は自分だけかなとか考えてた」

「ムッチャかわいい」


 想像していた人物像と大きくかけ離れたリーダーの姿に動揺を隠せない。それはそうだ。筋肉マッチョキャラの中身が美幼女だなんて誰が想像できるものか。


「実はドッキリじゃ無いの? カメラ探せカメラ」

「それが一番ありうる」

「どーいうドッキリよ、『もしオフ会開いたら幼女がいた』とか?」

「企画者ロリコンだろ」



 その時ちょうど遊が帰って来た。


「たっだいまー」

「「「「おかえりー」」」」


 皆の口が揃う。素晴らしい変わり身だ。


「よいしょっと」


 すとんと可愛らしく席に座る。


((((可愛い))))


 心の声も揃う。口裏合わせたわけでも無いのに驚異のシンクロである。


「……いやーマスターとラスティが女だとは……」

「聞かれなかったしね」

「同じくー」


 正しくは、片方の中身は男性なのだがそんなことを知るよしもない。


「えっと……ラスティはともかく、マスターまじで20歳なの?」

「うん。大学2年。免許もあるよ」


 財布の免許証を取り出し皆に見せる。そこには確かにそこの人物と同じ顔の写真が貼ってあった。

 生年月日から20歳。


「合法ロリかよ……」

「合法いうな」

「まあせっかく会ったんだし、今日は楽しもうよ!」


 小太りの青年、イクスが手を叩いて仕切り直す。

 マイクを遊に渡す。


「ささ、マスターどうぞ」

「うえっ!? 俺から!?」


 可愛らしく両手にマイクを握って面食らう。

 遊はこういう時トップバッターを務めるのが苦手だった。


「うー……あんま上手くないから笑うなよ!」


 実を言うとこの体になってのカラオケが初めてなので本当に自信がないのだ。


「笑わないって。録音していい?」

「だ、ダメに決まってんだろ!」


 甘ったるいロリボイスで不慣れな歌声がまた一同を悶絶させたのはまたの話。





「今日楽しかったねー」

「なー」


 もう日は暮れ街の灯りが眩しくなり、星が見えるようになっていた。

 一日限りのオフ会はもうお開き。男性陣が女性陣を送るとという形で駅に向かっている。


「楽しかった! みんなに会えてよかった! またやろ!」


 一番はしゃいでいる遊。それは見た目相応で、見るものを和ませた。ラスティと手を繋いでいるのも親子のようだ。

 仲良く談笑しながら歩いているとすぐに駅に着いた。


「んじゃーまたゲームで」

「おう」

「じゃーね」

「またな!」


 乗る電車がそれぞれ違うのでここから本当に解散である。

 ニッコニコで手を振り何度も名残惜しそうに振り返る。

 姿が見えなくなったあたりで、残された男性陣の中のペーとんが呟く。


「俺ロリコンじゃないんだがな」

「俺も」

「一生ついてく」


 チーム内のアイドル誕生の瞬間である。

読んでくださりありがとうございます。

感想誤字脱字などありましたらよろしくお願いします。

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