四話 ロリズリトルシスター
この時期忙しいですね
「ただいまー……」
ようやく帰宅した。
体が幼いせいかいつもの倍は疲れた気がする。
時計はもう10時を指している。
「お帰り。ご飯は?」
リビングに入ると、まだ起きている母親が録画していたドラマを消化したいた。
妹の愛菜はまだカラオケらしい。これだとオールするみたいだ。女の子がこんな夜遅くまで外出てるなんて危ないなー。
あ、ブーメランだわ。
「先にお風呂。寒いったらありゃしない」
「はいはい。沸かしてあるから」
ありがたいことだ。早速体を温めにいくか。
「まぁ真っ裸になるわけですが」
子供の裸に興奮するほどやべーやつじゃねーよ。
全然そんなの気にしない。気にしない。気にしないけど……
鏡に写るのは自分とは似ても似つかない美幼女。
「興奮以前に犯罪臭がやべえ」
未発達の体は出るとこは出てないし、お腹はいわゆるイカ腹。肌は餅のように柔らかい。
小学生高学年、ギリギリ中学生か。決して自分のような男が触れていいものではない気もするが今は自分の体なんだからしかたない。
…………いやこれで大学生は無理あるだろうなんだよこのお子様。この話に登場する登場人物は全て18歳以上ですってか?エロゲかよ。
何故こうなったかはわからないが、慣れていかないといけない。
着替えは恥ずかしくて目を瞑っていたが、慣らすために恥を捨てて入浴だ!
精神クソ童貞の遊ちゃんは恥ずかしさと謎の背徳感で顔真っ赤で、終始力強く目を閉じてましたとさ。
いつものパジャマはぶかぶか、側から見れば彼Tというやつでは?って考えたがその彼が自分自身だというのを思い出して考えるのをやめた。
今日は早く寝て疲れを癒そう。今日1日は実は夢で、寝て起きたら元に戻っているかもしれない。
「そんなことはなかったよ」
目覚めの良い朝。体は小さいまま。呟いたセルフツッコミも高く可愛い声。
かすかに下の階から聞こえてくる笑い声のようなものはテレビの音か。
スマホの時計で確認すると、もう午前10時になろうとしていた。
「うー……今日は大学もバイトもない休み……」
時間的に親はもう仕事に出ているだろう。下の物音と、テレビの音は帰ってきていた妹が見ているものかな。
まだ少し体が怠い。昨日バイトして感じたが、この体は思った以上に、というか見た目通りに体力はない。
とりあえず下に降りよう。
「おねーちゃんおはよー」
リビングに降りると案の定、妹がテレビを見ながらスナック菓子を頬張っている。
流行の商品や近日公開の映画、新発売のCDを宣伝するアイドルユニット。休日の朝番組は特に興味はないが部屋のBGMとしてかけるにはちょうど良い。
「まーた朝からお菓子ばっか食べて。だらしないなー」
「お寝坊さんなおねーちゃんには言われたくないですー」
パジャマから着替えることもなく、少々はだけさせながらソファーにだらーんと寝転んでいる。男の親族がすぐそこにいるというのに、なんて無防備な。
……そういえば今の自分姉じゃん。だったらいいのか?
「いやよくないな。よくない。どのみちだらしないのはダメだ」
「何一人でブツブツ言ってんの」
「いやーなんでもないよ」
「今日うちに友達来るからそのつもりでー。初めて来る友達だから」
「へー。じゃあなるべく遭遇しないようリビングでじっとしとくな」
「別に挨拶してもしてくれてもいいのよ?」
女子高生に挨拶してくるしゃしゃりでる兄なんていいものでもないだろう。いや姉か?
ふと妹がソファーに座り直し、自分の膝をポンポンと叩く。
「……ん? 何?」
「何っていつもの日課だよ? 早く座ってほら?」
なんの日課だそれは。そこに座れってか?
まあこの体での対人関係はよくわからないから、あんまり否定しないほうがいいだろう。
「んー……ほら」
ストンと、小さくなってしまった体を妹の膝に下ろす。
妹はいつのまにか持ってた櫛で俺の髪をときはじめた。
「おねーちゃんこそだらしないよ。いつも寝癖ひどいのに自分で直そうとしないよねー」
やっぱりこの体での俺は中々ずぼらなようだ。元が男だからだからかもしれないが。
「こんな綺麗な髪なのに、手入れが雑なんてほんと勿体無いよ!」
そんなこと言われましても。こう言ったことはやったことがないわけで。
「休日の朝くらいは私が手入れしてあげるって約束でしょ?」
そうなんだ。この世界での俺と妹は仲がいいみたいだな。良きかな良きかな。
……それよりおにーちゃんは後頭部に当たる柔らかいものが気になって仕方ないぞー?
いや同性同士だから気にする方がおかしいのか?いやでも俺の中身はいい年した男だし……
「はい、ひとまずは終わり。今日もおねーちゃん可愛い!」
寝癖が一通り直ったのか、櫛を置いてこちらを向かせて抱きしめて来る。
はいはい。それは俺も認めるからその、ぎゅーって、ぎゅーってするのやめなさい。当たってますよ押し付けられてますよ。
うちの妹は身内贔屓を差し置いても可愛い部類だろう。スタイルもいいし。その、あれだ。非常に胸も大きい。
「あれ? 私の胸気になる? 確かにクラスでは大きい方だけど、小さいには小さいなりの可愛さってあるからね? お姉ちゃんは成長しちゃダメだよ?」
そんなこと聞いてない。
「あ〜ほんとお姉ちゃん抱き心地良すぎ……」
そろそろ苦しい。おっぱいに溺れて死にそうだ。
人によっては本望か?でも実際されると苦しさが強いな……
「愛菜、そろそろ苦しい……」
「あ、ごめん!」
やっとこさ離してくれた。
……正直少し嬉しかったのは内緒だ。
「あ、もう少しで人来るから準備しないとね〜」
「俺も着替えるか……」
「お姉ちゃんてなんでそんなに色気のない服しか持ってないの?」
「さぁ……」
女子の俺に言ってくれ。
しばらくして、リビングにチャイムの音が響く。
どうやら妹の友達がもう来たようだ。
「じゃあ俺はここらで自分の部屋に引きこもるとしますかね」
「そんなの気にしなくていいのにー」
「俺が気にするの」
軽い人見知りの俺に初対面の女子高生とか難易度が高すぎる。どうせ黙ってる俺見て「こいつきもーい」とか思われるにきまってる。
我ながらなんと陰キャ思考。
2階の自室にお菓子とジュースを持ち、籠城の準備。素晴らしい。これで我が軍はあと1日は引きこもれる!
「ひとまずソシャゲのスタミナ消費だぁー」
遊が自室に篭って数分でインターホンが鳴る。
この家の就任である愛菜が玄関の戸を開けると、二人の女子高生が立っていた。
「うぃーっす」
「お邪魔します……」
一人は平均的な女性の身長を上回る程度の長身、引き締まったスタイルに、肩にかからない程度のショートヘアー、適度に日焼けした健康的な肌がその少女に活発的な印象を与える。
もう一人は背が低い。身分上女子大生幼女の遊ほどではないが、中学生くらいには余裕で間違われるだろう。背中に届くロングヘアーは前髪が長めで、目線がどこを向いているのかがわかりにくい。大人しそうに小さな体をさらに縮こまらせて、気の弱さがにじみ出ている。
そんな正反対な二人が立っているとより身長差が目立つ。
「いらっしゃーい。あがってあがってー」
友人二人を呼んだのは、勉強会という名目だ。
毎回、勉強会とはいうものの、最終的にはだべっているだけのことが多い。
女友達が集まれば始まるのはおしゃべりだ。
遠慮なく適当に靴を脱いで上がる体育会系女子、しっかり靴を揃える文系女子。二人の性格が一目でわかる対比だろう。
一方その頃。
「うおおおお単発で当てちまったぁ!」
所変わって元男子大学生遊の部屋。そこにはベッドの上で飛び跳ねるように、スマホ片手にガッツポーズをする幼女。俺だ。
ソーシャルゲームでレアキャラを当ててしまった。
「やぁー、めっさうれしぃー」
そのままベッドに倒れ込みゴロゴロ。たかがスマホのデータだというのにそのウキウキとした顔は、我ながら、どんな時よりも輝いていただろう。
ちなみに微課金勢だよ。どうしても引きたいイベントにしか金を落としていかない、あまり貢献できていない勢です。すいません。
「スクショしてトゥイッターに……」
ってところで思いとどまった。
こういうガチャ自慢はやる分にはいいが、見ている側からしたら「で?」で終わってしまう。
推しキャラ欲しさに課金した時、数万突っ込んだところでようやく出たって呟いたら、「単発で出ましたぁwww」「無課金で出ましたぁwww」とかこれ見よがしに煽られた時は死にたくなったからな……。
「まっ。小野田くらいには自慢しよーっと」
同じゲームをやってる大学の友人小野田にこのことをスクショして送る。
「『単発で出ましたぁwww』っと」
少々の軽口を添えて画像送信。ふふふ、やっぱりガチャは誰かに自慢してなんぼだなと、さっきとは真逆の事を思っていた。
彼もちょうどスマホを見ていたのか、すぐに既読が付き、返信が来る。
『ごめん今更持ってない奴おりゅの?www』
返信とともに添付された画像には、先程俺が当てたキャラ、そして横にも同じキャラ。
ダブらせていやがった。
「小野田ぁぁぁぁぁぁぁ!」
その煽りに俺は思わず叫んでいた。
一方リビング。
3人の少女がお菓子をつまみながら談笑していた。机にノートは広げられているが、1、2行書いているだけで既に止まっている。
「んでよー、そん時またそいつ私の名前間違えてんの、1日に2回もさっ?」
「えー嘘ぉ? 話盛ってるでしょそれ」
家主の愛菜は、体育会系少女、遥の若干荒唐無稽な笑い話にチャチャをいれた。
「いやいや本当なんだって! ボケてんじゃねえのあのジジイ」
「そ、それは言い過ぎだよ、遥ちゃん」
思わず口の悪くなった若菜をなだめるのは、文学少女の真理。基本的に人の陰口など言わない彼女は、たとえ冗談でもそう言ったことをあまり良しとしないようだ。
「真理は優しいなぁー。そんな所も可愛いぞウリウリ!」
体格差に物を言わせて抱きついて頭を撫でる。よくある女子同士のスキンシップだが、陸上部所属の彼女の力加減は下手くそらしく、少々乱暴だ。
「ちょっ、やめてよぉ!?」
可愛いと言われて照れたのか頬を紅潮させ、乱暴な手つきに顔をしかめる。
言葉では否定しているが、満更でもなさそうな表情だ。
「まあそんなことよりもさ」
「そんなことじゃないよぉ」
ぱっとあっさり手を離し、何事もなかったかのように教科書を持つ。
「一応ここの公式教えてくれねーかな」
「一応っていうかそれが本来の目的なんだけどね……ずっとだべってるけど」
「はははっ。厳しいねえ」
「あんたらいちゃつき過ぎでしょ」
やれやれと言った風で愛菜がお菓子をつまむ。手にはスマホ。結局誰一人として真面目にしていない。
ふと遥が、何かを思い出したように話題を持ち出した。
「そういえば愛菜さ、大学生くらいのお姉さんいるって言ってなかったっけ」
「うん? 居るけどどうしたの?」
「結構家に遊びに行くけど一回も見たことないなぁって。大学忙しかったり?」
「あっそれは私も気になる」
「いや全然? むしろ今も家にいるけど?」
「まじで?」
「うん。恥ずかしがって部屋にこもってるの。そんな所も可愛いんだけどね」
「なんじゃそら」
ここで友人二人は、未だにエンカウントしたことのない姉を想像した。
おっとりとした、人見知りで常に紅潮した、大人しめの美人を思い浮かぶ。
「ほーん。一回会ってみてーなー」
「私も会わせたいくらいだけどね。自慢の姉だよ」
「愛菜ちゃんお姉さん大好きだもんね。よく話には出て来るし」
ここで愛菜は少し考え、悪い顔をする。
イタズラを考えた子供のような顔だ。
「よーしじゃあ、今日はちょっと誘い出してみよっか」
遊の部屋。
煽られたので『オレ、オマエ、キライ、シネ』と半分怒りの文面で返信した後、動画サイトでチェックしてる動画を流し見していたら、妹からメッセージが届いた。
『友達、用事で帰ったから下に降りてドラマ見よう』
今日は早めに帰ったな。いつも夕飯時までくらいはいるのに。
そしてドラマとは、妹の愛菜が録画していて、偶然一緒に見た時、何だかんだ俺もハマってしまったという経緯がある。今までドラマとか見なかったが、今ではすっかり一週間の楽しみになってしまっている。
たしかに昨日はチェック中のドラマの放送日だったなー。妹と感想言いながらドラマ見るの結構好きなんだよね。
「んじゃ降りっかなー」
「あっ降りてきたよ」
妹が友人に指を口の前に立てて「静かに」とジェスチャーをする。
トットットと、可愛いらしい足音が聞こえてくる。ストンと一際大きな足跡がしたので、最後の数段は飛び降りたようだ。
リビングの扉が開く。
「愛菜ー。ドラマ見ようー」
開いた扉戸の先にいたのは銀の髪を揺らしながら、サイズの合ってない衣服に身を包む「幼女」だった。
あどけない顔がポカンとした表情でこちらを見ている。
「あれ?」
可愛らしく首を傾げる仕草は大学生には見えなかった。
「愛菜。どういうつもりなんでしょうか」
「お姉ちゃんも一緒に遊ぼうかと」
「お姉ちゃんで遊ぼうの間違いですよね」
遊は絶賛弄ばれていた。
高身長の遙には抱きかかえられてずっとハグされている。
真理はサラサラした銀糸を手櫛ですくように撫でている。
「なんだよ愛菜。お姉さんじゃなくて妹がいたのか! シスターはシスターでもリトルシスターだったのか!」
「お姉ちゃんだよ」
「髪色的におかしいよ。愛菜ちゃん。悪い事は言わないから自首しよう?」
「誘拐じゃないよ」
若干困った様子の愛菜。友人の想像していた姿とは全然違ったのだろう。ざまあ。
しかし俺も困ったな。この子妹の何倍も力が強いぞ。振りほどけない。
妹は姉という事で通しているらしいが、全然信じてもらえていない。小野田やバイトの同僚だとすんなり「そういうもの」だと認識していたが、顔を合わせたことのないこの子達には関係ないのか?
そりゃそうか、こんな洋ロリまず見ないだろうしな。
「いやー。私、末っ子だから羨ましいよ。遊ちゃんっていうのかー」
抱きしめる力を強める。ふぎゅる。
「話聞いて?」
「やっぱり海外旅行のついでに現地の子連れ帰っちゃったとか?」
「私のことなんだと思ってるの?」
この状況をセッティングしたはずの愛菜が一番困ってて草が生えそうだ。
人を騙した報いだね。
人の話を聞かない後ろの子はともかく、真理と呼ばれたこは割と本気で通報しそうな勢いだ。
仕方ないので助け舟を出してやるか。
恥を忍んで解決策をな!
「ねぇねぇお姉ちゃん!」
「んー? どうしたー?」
デレデレな顔の遥。こいつ子供好きだな?
「そろそろ離して?」
上目遣いで媚びっ媚びの声で言ってみる。
「あ、ああ! ごめんな!?」
拘束から解放される。効果は抜群だったようだな。俺のメンタルは崩壊寸前だがな。
妹の後ろに隠れて少しだけ顔を出す。
「お父さんのほうの遠い親戚がヨーロッパ系なの! お姉ちゃんを悪く言わないで!」
適当な理由をでっち上げる。
見えない位置から愛菜の尻を叩く。話を合わせろという合図だ。
「いたっ? そ、そうだよ! ちゃんと血は繋がってるから大丈夫!」
「そうなの……?」
まだ若干疑っている真理ちゃんだが、何とか信じてもらえたようだ。
「そうなのか! フックの法則ってすごいな!」
「そこはメンデルだよ遥ちゃん」
遥ちゃんは何とか誤魔化せている。少々心配になるくらいだが
「んじゃあ遊、一緒にゲームでもして遊ぼっか!」
「わ、わーい!」
夕方まで本当の女児のフリをさせられる羽目となった。
「またな! 遊! また遊びに来るからな!」
もう来ないでほしい。
「……またね、愛菜ちゃん、遊ちゃん」
この子はまだ怪しんでいるな、どういう意味かまではわからないが。
「ばいばーい!」
元気よく手を振って無邪気な子供を演じる。
2人が見えなくなったくらいに素に戻る。
「はぁ……」
「ごめんねお姉ちゃ……遊ちゃん?」
「ちょっとそこに座りなさい。お話があります」
「ごめんなさい」
原因の妹を玄関先で正座させてお説教開始。
今日ついた嘘が、後々ボディーブローのようにジワジワ来る結果となるとは、俺も予想していなかった。
読んでくださりありがとうございます。