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二話 ロリ・ゴートゥースクール

短いです

 おかしい。

 何がおかしいって?


「お父さん、今日仕事遅くなります?」

「いや、今日は早めに帰れると思うよ」

「私今日帰りカラオケしてくからご飯いいー」

「また? あんまり遅くまで出てちゃダメよ?」

「はいはーい」


 いつもの朝だ。平日の朝。

 高校生の妹、会社員の父、パートの母。

 妹は学校に行き、父は会社に、母は近くのスーパーへ。

 何も変わらないように過ぎていく時間。机の上に置かれた朝食を小さくなった口でもさもさと咀嚼して―……


「いや違う!」

「どうしたのお姉ちゃん、お醤油?」

「ありがと!」


 俺の手元に醤油を置いてくれる向かいの妹。

 いや確かに届かなかったけどさ。ちょうど目玉焼きにかけようと思ってたけどさ。

 今なんて言った。


「おねえ……ちゃん?」

「何? へんなお姉ちゃん」


 まるで元から俺が女であるかのような言い草だ。というか俺を除いた誰一人、この状況に違和感を感じていない。

 それが正常であるかのように。


「ほら早く食べなさい。今日は一限からあるんでしょ?」

「う、うん」


 母に軽く叱られて渋々座る俺。床に若干爪先立ちになる足をぶらぶらさせる。落ち着かない。

 それを見た父はため息を吐き、一言。


「まったく、もうちょっと落ち着きを持って欲しいもんだな。そんなんじゃ嫁の貰い手がおらんぞ」


 うるせえこっちは昨日まで婿だったんだよ悪いな!

 でも今のフレーズには覚えがある。


 よく俺が身だしなみをしっかりしていなかったり、だらしないことをしていると、決まって父は「そんなんじゃ女にモテんぞ」と俺にいうのが口癖だった。

 言葉こそ違えど、雰囲気はいつもの口癖そのままだった。


 俺の姿は変わっていても、周りからの反応は大して変わっていないのか?


「ご馳走さま……」


 食べ終えた俺は自室に戻る。





「部屋には特に変わったことはなし……」


 朝は自身の変化で見れてなかったが、部屋に異常は無かった。

 俺がもともと女であるという認識である世界になっているのなら、何かしらの変化があると思ったが、特にはないようだ。


「漫画も変わりないし、スマホの中身も同じもの、散らかり具合だって汚いままだし……」


 ふと気になったことがあったのである戸棚を調べる。

 本棚についている戸棚は厚底になっていて、物を隠せるよう細工してある。

 その、なんだ、年頃の男子なら誰でも持っているであろう、いわゆるマスターベーションに使ういやらしい道具など、主に筒状の道具を隠しているのだが……


「うっわなんもねぇ……」


 道具どころか厚底さえなかった。まぁ今の俺はナニが無いのにそんなの持ってる方がおかしいんだがな。


 そしてもう一つの変化。


「下着とかは変わってるのな……」


 部屋にしまってある下着は全て女児用であるが女物の下着だ。下のみ。ブラの類はない。まぁこんな平坦な胸にそんなものはいらないだろうけど。


 現状わかっていることを整理しよう。


 下着などの類などから、元から俺は女だったことになっている。

 年齢、立場、周りからの反応は俺の知ってる前の自分と変わりはない。

 ほぼ変わらないが、女だったら持たないようなものは無くなっている。

 そしてこのことを感知しているのは俺自身のみであるということ。


 どういう状況だ。


「くっ……でも立場とか変わってないならひとまずは大学に行かないと……」


 俺が違和感を感じているだけで周りは俺が元からこんな見た目であるという認識だ。このまま大学に行ってもおそらく問題はないだろう。


「とりあえず着替えて……」


 クローゼットを開くと、そこにはなんというか、地味な中身が。

 シャツ、ジーパン、ジャンパーなど、なぜかスカートなどの女物は見当たらない。

 男だった時のクローゼットから変化が無いかと錯覚するレベルだ。

 サイズが男のものから今の自分に合ったものになっている。しかしそれでも若干大きい。


「女の俺どんだけお洒落に疎いんだよ」


 いや、男の俺もお洒落とは程遠い人物だったけどさ。

 女子ならもうちょっと気を遣おうぜ、自分だけど。


「まぁとりあえず適当なもの着て大学行くか……時間も迫ってるし……」


 子供のとはいえ裸を見ないようにしたのは内緒である。











 大学とは学校とはいうものの、生徒はもう社会人。行き交う人は皆もう立派な大人である。


 その中にぽつんと小さな影。

 それは高校、中学どころか小学生に見まごう背丈。白く輝く髪が朝日を反射し、光を放つ。

 場違いなその存在に目を向けるものはほんの僅かで、大多数が興味なさげに通り過ぎて行く。



 大学についた。

 今のところ不都合はない。問題は講義を受けれるかだ。



 今の自分は、シャツにジーパン、少し肌寒いのでジャンパーを羽織っている。俺にお洒落のセンスなぞ無い。

 ジャンパーは大きいせいかいわゆる萌え袖状態。兄のお下がりでも着てると思えば微笑ましいものだ。実際は自分のものだが。


「一限は外国語だったな……」


 指定された部屋に向かう。








 特に指定はないが、だいたいが皆決まった席に座っている。 

 周りの生徒が大きく見えて落ち着かない。

 いつもの後ろから5番目、真ん中にちょこんと座る。この講義はいつも仲のいい友人と並んで受けている。

 そろそろ来てもいい時間だが。


「お、来た」


 講義室の扉から来たのは、身長190はあろう巨漢。その体格のせいか、肥満というよりガタイがいいという印象を受ける。

 のっそのっそとこちらの隣まで来て座る。

 今の俺と並ぶとまるで巨人と小人だ。


「お、おはよう……」

「おはよー」


 一見厳つい見た目だが、ニコニコと朗らかに挨拶を返す巨漢。

 彼の名前は小野田 武。名前にぴったりな見た目だが、温厚で真面目、趣味はゲーム、読書などインドア派というなんともギャップの激しい人物である。

 人のこと言えないか。


「宿題やってたからぜんぜんゲームできなかったよ、今日は帰ってすぐやるぞー」

「ほんと好きだね。前貸したのはどこまでいったんだっけ?」

「第五章序盤くらいー」

「一日で? はええー」


 無意識レベルでの自然な会話が成り立っている。どうやら交友関係は変わりはないようだ。

 本格的に日常生活に支障なさそうだ。


「……んー」

「どったの小野田?」


 他愛ない会話をしてる途中、小野田が考えるようにこっちを見つめる。


「いや、なんでもないよ。まあさっきの続きだけど」


「……? うん」









 小野田 武。


 僕はいたって普通の大学二年。

 友人は人数より一人一人の交友を深めていきたいタイプである。

 いつもどおり大学にいっていつも隣に座る友人を見つけて座る。


 僕の友人、朝野 遊は一言で言えば幼女だ。

 ぱっと見幼い女の子にしか見えないが、れっきとした大学二年生である。

 趣味のゲームが合い、意気投合した。今ではどこかによく遊びに行くくらいの仲である。


 はっきり言うと非常に愛らしい見た目をしている。輝くような白髪に青い目。日本人離れした要素に、無邪気に話しかけてくれる声は甘く高い。


 正直こんな大柄な男が隣にいるだけで通報されないかと思うのだが……誰も特に気にした様子はない。


 ……なぜ僕は今までこんなことを気にしなかったのだろう?今日はやけに気になる。


「どったの小野田」


 身長差のせいか自然と上目遣いの彼女が考え事をしていた僕に聞いてくる。

 まぁ、違和感はあれど、遊が愛らしい天使なことには変わりわないからいいか。


 趣味の合う女の子と仲が良くなるなんて良く考えたらいいことじゃないか。


 それも今更なんで気がついたのだろう。


「なんでもないよ」


 





「終わったー!」

「次は無いね。どっかで暇つぶす?」


 一限の眠い講義を乗り切った俺達は、開いたコマである二限に暇つぶしがてらゲームでもして時間を潰すことにした。

 休憩室はチラホラ人がいたが、二人分の席は空いていた。


「今日こそは勝つかんな!」


 俺はいつも小野田に負けている。雪辱を今こそ晴らすのだ。


「はいはい」


 数分後。


「がでない……」

「半べそにならんでも……」


 本気出してないって言い訳しつつもこっそり全力でやって倍くらいの精神ダメージを食らう。

 こいつはいつもそうだ。こんな格闘家みたいなガタイのよさをしてながらなかなかのゲーマーなのだ。


「は? 泣いてねーし」


 いつもなら悔しいだけなのだが、何故だか今日は目頭が熱くなる。体が幼いからか?情けなさ過ぎる。

 顔を小野田からぷいっと背けて誤魔化す。こんなに惨めなことがあってたまるか。


「ま、まぁ。昼までもう少しだし、食堂にでも行こうよ」

「まだ腹減ってねーし」


 気を遣って話題転換してくれるも、また余計に情けなくなるだけだ。


 くきゅう……

 可愛らしくお腹が鳴った。

 鏡は見てないが、顔が熱くなるのを感じる。今頃顔が真っ赤だろう。


「わかった。行く……」


 俯きがちに、顔を見せないよう小野田の袖を引っ張った。

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