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一章 『堪えきれないstruggle!』 その8

 ――真面目というのは褒め言葉だった。


 初めて内貴が『真面目だ』という評価を受けたのは、小学校低学年の頃だった。言われたことをひたすらやる。もういいと言われるまでやり続ける。ただそれだけのことだったが、注意力散漫な小学生にはそれは難しく、だからこそ真面目というのは褒め言葉だった。


 真面目だ、真面目ね、と褒められて。


 内貴はこれはいいことなのだと、真面目に育った。

 しかし中学に入って、真面目という言葉は徐々に変質していった。


 ――真面目な『だけ』。

 ――融通がきかない。

 ――もっと考えて行動しろ。

 ――つまらない。


 真面目という言葉の影に、様々な意味が付随し始めた。内貴はそれを知ってもなお、真面目という生き方を変えなかった。

 少なくとも、悪いことではないはずだと思ったから。真面目にやって、勉強だって成果を出した。喧嘩が弱いから、剣道部に入って少しでも体が強くなるようにした。勝てなくても、逃げるくらいの自衛行動はとれるようになった。


 真面目であることが、悪いはずがない。


 内貴にはそれしかなかったから、そう思って、進んできた。……だが。

 高校に入って、部活に入って――不良に絡まれて。

 真面目に不良たちに警告し、それでも聞き入れてくれなくて、相手も了承の上で竹刀を振い、その結果が部活動停止。

 その上、クラスメイトからは避けられて。教師はかろうじて真実を信じてくれているようだが、融通を利かせろだなんだという。

 なにも悪いことはしていないのに。

 真面目にやっていただけなのに。

 真面目だ、という言葉は――かつて褒め言葉だったはずなのに。今、その言葉は、褒め言葉ではなかった。


 悪い言葉ではない。強いて言うなら、呪いの類。

 内貴の生き方は、真面目という言葉からもう離れられない状態になってしまっていた。


 ……真面目な生き方から、逃げられなくなっていた。


 その意識はある――だが、その上でその生き方を変えようとは思っていない自分自身を、内貴は理解していた。

 十数年培ってきた真面目な自分。それを捨てることはできない。

 自分は一生、このまま真面目に生きていくしかない。……けど、できることなら。

 少しだけ変わりたいと、内貴は思っていた。少し、ほんの少し、自分の中に『遊び』ができればいいと。

『余裕』ができればいいと、思った。


 そんな時にやってきた、御手洗かすみ。

 そして、ダイベニストというもの。


 その戦いは、内貴の心を熱くした。きっと、傍からみたらとてつもなくくだらないことだろうが、それでも内貴はその戦いの場に身を投じたいと、強く思った。

 短い人生で初めて、言われなくとも、やりたいと思った。

 その心を、内貴は自分自身よく理解できていなかった。いったいなにがどうなって、今まで真面目一辺倒だった自分がこんなふざけたことに興味を示したのか。

 わからなくて、二の足を踏んだ。

 だけど――かすみは言った。思うがままに生きるがいい、と。戦いたいなら戦えばいい、と。ダイベニストの世界とはそういうものだ、と。

 ダイベニストの世界とは、きっと自由なのだろう。自由な、戦いの世界。最低限のルールを守った無法地帯。


 真面目な内貴は。

 真面目だからこそ。

 そんな場所に――行きたいと。心から、思う。


 自分にないものを求めて。

 はじめて得た熱を、ずっと眠っていた炎を、絶やしたくないと願って。

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