vol.1
っつ〜。
目が覚める。目の前には荒野。ブラックな職場からようやく這い出た後、終電間際の駅のホームにいたのが最後の記憶。
なんだ、こんなところで寝て、行き倒れか?
誰かが顔を覗き込んでいる。声をかけてくれたのか。
まあ、何はともあれ、うちに来な。たいしたもてなしはできないだろうが、地面に寝てるよりはマシだ。
ジープに乗せられ、砂ぼこりを巻き上げながら、遠い地平線の彼方を目指して走り出した。何時間経ったのだろうか。
私は、一香だ。用心棒の真似ごとをしている。あんたは?兼言というのか。なに?サラリーマンだと。滅私奉公で金を貰うのか いいんだか、悪いんだか。
明日は円卓会議だ。円卓会議を知らんのか?ほんとに別の国から来たみたいだな。まあいい、円卓会議ってのはこの世界の主要なことを決めるところだ。いろんな国から偉いさんが集まるもんで、私みたいなのにも仕事が回ってくるのさ。さあ、明日は早いぞ。
そういうか早いか寝息が聞こえてきた。
翌日、大きな街に連れられてきた。ひときわ目を引く大勢の人だかりの中心に目を向けた。
あれが円卓会議の面々だ。いわば、世界の縮図だな。ほらあそこに見える老人が円卓会議を仕切っているトップの吉越だ。
青年を連れ添って歩いている長身の男性が見えた。
隣の青年?知らん。あそこは人の入れ替わりが激しくてな。
ろくに青年を見ようともせずに言い切ると足早にその場を去った。
ちょっと寄り道してもいいか。
構わないと言ったら、下着屋に連れられてきた。いや、昨日今日知り合った女性と一緒に入れんだろ。そんなことには全く気にすることなく入っていった。
ここの下着は動きやすくて生地も傷みにくくてお気に入りなんだ。
品々を熱く説明していくれるのはいいが、あんまりまじまじ見るのは憚れる気がして、直視することができない。適当に相槌を打つ。
気に入ってもらえてなによりだわ。
後ろから声が聞こえた。振り返ると妙齢のキャリアウーマンのような女性と眼鏡を掛けたおっとりした女性の二人組がいた。
聞けば、下着を作っている会社のオーナーらしい。しかも円卓会議のメンバーだという。一香とキャリア女性と意気投合している間、眼鏡を掛けた女性からひたすら胡散臭げな目で見られていた。そりゃあ、我ながら怪しい人物だと思われても仕方がないと思う。
おっと、こんな時間か、また良かったら来てくれ。
そう言うとさっそうと立ち去って行った。
カッコイイー!私もあんな風になりたい。
瞳を輝かせて一香が言う。好きにしてくれ。とりあえず落ち着かないこの場から一刻も早く立ち去りたい。
両手に買い物袋を持ち、店を後にして歩いていると向かってくる人とぶつかりそうになった。
おっと、ゴメンよ、にいちゃん。ちょっと尋ねるが、頭を知らんか?浅田って名前なんだが。髪が短くて、背が高くて。
顔がゴツいの?
そうそう。
誰の顔がゴツいんだって?
わあっ、びっくりしたー!
急に後ろから声を掛けられて驚いている。
あ、頭、そこにいたんですね。心配しましたよ。さ、円卓会議に行きましょう。
あんなもの時間ギリギリに行けばいいんだ。
そんなこと言わないで、みんなを待たせちゃ悪いですよ。
悪さなら円卓会議の奴らのほうが上手だろうが。
いえ、頭も負けておりません。むしろぶっちぎりかと。じゃあ、邪魔したな、にいちゃん。
そう言うと、人だかりの中に消えていった。
へぇ、珍しいな円卓会議のメンバーにまた会うとは。しかもあれ、目的のためには手段を選ばないと言われる、浅田と正木のコンビだったな。その強引な手法で最近のし上がってきた連中だ。とって喰われなくてよかったな。
お前、声をかけられた時、物陰にこそっと隠れてたろ。薄情なやつめ。