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駄菓子屋でのひと夏の偏愛  作者: テツヤ
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最低な男の最低な話

 時は現在よりも約1年前になる。当時、公立山波高校の3年生の十時愛菜はバドミントン部の練習に顔を出していた。高校3年生といえば受験勉強の本番ということで、部活の練習からは半ば引退したりするものだが、愛菜は推薦入試の合格を手に入れて気楽な日々を送っている。

「宇多田君、ちょっと!」

「ハイ!」

 愛菜は2年生の宇多田国男に声をかけ、その国男はバドミントン部部長の愛菜に緊張した態度で答える。

「宇多田君さ、後片付けが終わったら着替えずに残ってなさい」

「ハ、ハイ。・・えっと、何か用事ですか?」

 愛菜は後輩の国男の言葉に苛立いらだたしそうな顔をして。

「あ~、もうッ! 用事よ用事っ! いいから残ってなさい、一人で!」

「ハイッ!」

 国男はビシッ、と”気をつけ”の姿勢でかしこまった。その国男の様子を部員の一人である女生徒が見つめている。



 部活の練習が終わり男子着替え室の中で、国男は愛菜に命じられた通り一人で待機している。

コンコン・・

 部屋の戸がノックされて、外から聞きなれた愛菜の声。

「そこに誰もいない?」

「ええ、俺ひとりですが・・」

 国男は戸を開けるとそこには愛菜が立っていた。体操服姿の愛菜は機嫌が良さそうな顔ではない。

「あ、あの、十時先輩、なんの用事なんですか?」

 不機嫌そうな愛菜は、その問いに答えず、言う。

「なんで男の着替え室で待ってんだよ! 女の私は入りにくいだろうがよ!」

「す、すいません・・」

 国男は愛菜が怒っていれば、その理由がイマイチわからなくても謝っている。

「まあ、ここの方が都合いいのかなあ」

 そんな事を言いながら、愛菜が部屋に入ってくる。愛菜は興味深そうに部屋の中を見回している。

「ええと、十時先輩。用事とは何なんですか」

「ク~ニオ! だから、用事ってのは、アレで・・」

 国男は愛菜からそんな返事が返ってきて、国男はひとつ察した。愛菜は普段は国男のことを苗字の宇多田で呼ぶのだが、それを『クニオ』と呼ぶのは恋人同士の時間の場合。

「イチャイチャしようぜ、クニオ」

 うれしそうで、幸せそうな愛菜の表情。用事とは愛菜と国男が放課後に二人きりになるという、単純で重要なこと。

「・・イチャイチャって、・・ええと、その・・。それは?」

「『それは?』じゃないの! 私だって恥ずかしいんだよ! クニオは前に『体操服姿でしたい』って言ってたじゃんか! ・・だから」

 非常に照れくさそうな愛菜。国男も顔が熱くなってくる。

「それは、『十時先輩は体操服姿もいい』って言ったんですよ」

「同じことでしょう!」

 それは同じではない、と思っても否定はしない国男。

「クニオ、その椅子に座りなさい。フフ・・私もなんか緊張しちゃう。ん、・・いいんだよクニオ、私に触れても。服の上からでも・・、直に触れても。・・そっちが手を出さないのなら、私の方から・・」

 愛菜の方から積極的に国男に迫っていき、淫らな雰囲気になる。そうして、体操服姿の愛菜と国男は、長いくちづけを交わす。

 愛菜との長いくちづけでとろけてしまった国男。彼はよろこびによる震えを抑えて言う。

「だ、ダメですよ、十時先輩、これ以上は。だって、ここは学校なんですよ」

 愛菜はそんな国男の反応に、フフンと鼻で笑って。

「何さ、まだキスしただけでしょう? それにさ、この前、学校の中でしたじゃんか。空き教室の中でさ」

 そのとき、部屋のすぐ外でガチャン、と音がする。なんだかんだ言って、密会を他人に見られたくない二人はビックリして音の方を見る。

「・・誰もいないですよ、十時先輩。何か物が倒れたんじゃ?」

「・・だね、続きしよ♪ ねね、終わったら、そこのシャワー室で汗、流そうよ。一緒に♪」

 国男は、愛菜のそんな提案に『えー』と照れていたが、とにかく幸せそうだ。


 着替え室の外では、2年生の女生徒、真壁敏子がスタスタと逃げるように歩いていた。

「なんなんだよ! 不潔、・・不潔、・・・不潔!!」

 敏子は部屋の中で覗き見た愛菜と国男の密会を、踏みにじるように言葉で否定する。彼女のほおを涙がこぼれ落ちる。


 その後、愛菜との蜜月を楽しんだ宇多田国男は男子特有の傲慢、自惚れにとらわれるようになっていった。好意で性行為ペッティングを許してくれる愛菜に対して、セックスまでは許さない事への不満を持つようになった。そして、交際相手の愛菜に内緒で社会人の女性との肉体的な遊びにのめり込んでしまう。

 あろうことか、国男は愛菜との二股的な関係を残しておいて楽しみつつも、それを愛菜の大学進学と同時に自然消滅あつかいにした。

 愛菜は、そんな国男の気持ちの変化に気付くことなく、彼の裏切りを疑うことも無かった。ある意味、愛菜の幸せの時間はその分伸びたのかもしれない。




 時間は現在に戻る。愛菜は友人の『国男のいい話が聞ける』との言葉が気になり、その呼び出しに応じたのだが。

 とある喫茶店で、バドミントン部のいわゆる同窓会的な女子会が開かれている。田舎の高校の同好会的な部活であったので、部員同士が友達同士のような雰囲気があった。愛菜のような既卒者と、現役の部員も呼ばれて8人ほどが集まっていた。

 愛菜を電話で呼び出した同学年で友人の桐子とうこが瓶ビールをコップについでグビグビと飲んでいる。

「あ~、おいしい! ビールおいしい! おい!愛菜も飲めよ」

 桐子はそんな事を言いながら、愛菜にもビールを勧める。

「あのー、私はまだ未成年者だから。というか、アンタもそうでしょ」

「な~に言ってんのさ! 18歳って言えばもう選挙権が得られるんだよ。もう、大人なんだし」

「いや、それと成人かどうかは別の話でしょう」

 そのやりとりを聞いて、後輩の3年生はクスクス笑っている。

「ウフフ、やっぱり十時さんってマジメなんですよねえ」

 元部長で部をまとめていた愛菜は、後輩からはそのような印象を持たれている。

「いやいや、この桐子が不真面目なんでしょ!」

 愛菜は苦笑いして、そう反論する。

「うんにゃ、愛菜はマジメだよ。だから、国立大にも受かっちゃってさ。ウラヤマシイ・・」

 桐子は少々酒が回った感じで、ニヤニヤ笑っている。その笑いの裏には、愛菜がマジメ一辺倒の人間でないことを知っているというのもある。そして、愛菜の家庭事情で私立大進学の選択は無かったというのも知っている。

「ところでよー、男子部に宇多田国男ってのがいたじゃんか」

 そんな事を言う桐子に、愛菜はビックリしてしまった。『国男のいい話』というのを突然に、皆の前で話すとは思っていなかった。友人の愛菜にとってそれが良い恥さらしになる事もわからないのか?、と。

「ちょっと! 桐子! その話を今しちゃうわけ!?」

「いや、まあ聞けよ、皆に聞いてもらうからいいんだよ。クニオのヤツさあ・・」


「待ってください!」


 桐子が言いかけた所で、それを制止する声。声の主は、3年生の真壁敏子。現在のバドミントン部女子部部長なのだが。

「どうしたの? 敏子ちゃん」

「う・・・、それは宇多田君のプライベートな話です! 何もこの場で・・」

 敏子は訴えるような目をしている。愛菜にとっては反感を持つ相手の国男なのだが、その国男をかばう者が現れるとは思っていなかった。

 愛菜は少々、挑戦的な感情が湧いてきた。そして、それを後輩の敏子に向けてしまう。

「・・いいんじゃない。話してよ、桐子。クニオ・・宇多田君が何か悪い事をしてないのなら不都合はないんじゃないの?」

「・・・」

 敏子は無言で不満そうにしている。

 桐子も桐子で迷ってしまった。まさか、国男の噂話の件で板挟みになってしまうとも考えてなかった。迷う理由は噂話の内容にもある。桐子は愛菜の方に逆らえず、それを話し始める。

「・・うん、クニオの奴さあ。聞いた話によるとさ、年上の彼女に振られたんだわ。いや、振られたというのも変かな。つまりぃ・・、ヤリ捨て?」

 キャー!、という感じで皆の中で笑い声が上がる。皆の間では遊び人になった国男への反感が少なからずあったのだ。それは、国男がかつて関係があった愛菜への同情の念があるなしに関わらずで。そんな皆は、独り、怒りに震える敏子に気が付かない。

「アイツ、好きモノ女と遊んで楽しんでたら、突然、連絡が取れなくなったんだとよ! 気が付いたら愛しい彼女の電話番号すら手元には無い! ねえねえ、どう思います? 十時部長~?」

 酒が回った頭で、おどけた態度になっている桐子は、話をいきなり愛菜に振る。

 『・・え?』、と思った愛菜。自分を最低な切り捨て方をした男の残念話を聞いて、愛菜の頭にあるのは喜びやあざけりではなかった。頭の中が真っ白になっていた。

 愛菜は、そんな状態で発言を求められて、心とは裏腹の言葉を発する。

「フン! ざまあ無いんだよクニオの奴!」


「何、言ってんですか! 十時先輩だって宇多田君に似たような事をしたんじゃないんですか!?」


 そう言ったのは、先ほど反発した後輩の敏子。愛菜は後輩の発言を理解するのに数秒時間を要した。そうして、ガタン、と席から立ちあがって敏子を見る。


「・・何だって・・!?」

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