表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
駄菓子屋でのひと夏の偏愛  作者: テツヤ
5/33

違法くさい謎の本

 場所は十時愛菜の実家、山波市の片隅にあるアパートの一室。十時家の親子、母と娘の愛菜と純菜の3人は父の死後の約7年前からここに移り住んで暮らしている。

 移り住んだと言っても、新居は以前の一軒家と同じ町内だったから、愛菜が小学校を転校したなどということはなかった。

 愛菜は数か月ぶりに帰省したということで、実家に残した自分の私物を整理しているところだ。



「うわぁ! 何これ! 『小学五年生』ね、お姉ちゃんが私と同い年の頃の本だよねえ」

 妹の純菜が姉の私物の中の本をあさって、広げて読み始めている。純菜は名目上は、姉の私物整理の手伝いをするということでいるのだが、愛菜は子供の純菜にそれを期待していない。

 純菜は8年前の少年少女向けの娯楽を載せた、その雑誌を面白そうに眺めている。それは大学生の愛菜には当然、無用のものであり、妹が欲しがらなければ紐でくくって捨てる部類の物だ。

 その『小学五年生』なる本が押入れに残っていたという事から、愛菜は8年前の父の死からのゴタゴタについて思い出す。

 その雑誌が父の死の前に買った本なのは間違いない。なぜなら、父の死以後にその雑誌を買う余裕が一家に無くなってしまったから。金目の家具は手放して、家賃の安いアパートに移り住んだ。

 それでも子供の私はそのとき大事にしていた本を、このアパートまで持ってきたのだろう、と愛菜は思った。

「何なの? コレ。本の間にはさまってるこの本さ」

 『小学五年生』を読んでいる純菜がそんなことを言う。愛菜が、付録か何かでしょ、と思いながらそれを見ると、そんな感じでもない。薄っぺらいところが付録っぽいのだが、これはそれとは違う怪しい感じ。

「何なのコレ!?」

 その本には少女の写真が載っている。年齢は10歳から13歳くらいの幼い感じの少女たちが笑顔で、制服、体操服、スクール水着を着けている写真。

「うわあぁぁ・・。何これ! ヤバぁ~い」

 その本のページをめくる純菜が面白半分で笑っている。

 これは明らかに女の子向けではなく、男向けの、それもアダルト本の部類に入るモノ!? なぜそんな物がここに!?

 この本は妹に読ませる物ではないと、愛菜がその本を取り上げようとしたが遅かった。その本の中ほどから少女たちの裸の写真が現れる。一糸まとわぬ姿で、カメラに向かいポーズを取る少女たち。ベッドの上で誘うようなポーズを取る少女。お風呂場でシャワーを浴びる少女。体操服を着けて下半身を露出している少女など。

「やめなさい! 見るんじゃない!」

「いいじゃんか!」

 姉妹でその本の奪い合いになってしまった。愛菜は、そのいかがわしい本を純菜から取り上げる。

「いや、たしかにキモいけどさ~。全部見させてくれてもいいじゃんか!」

「ダメです! これは子供が読む本じゃないの!」

「また子供あつかい!? だいたい、その本だってお姉ちゃんが持ってたモノでしょう??」

「私が!? 私は!こんな本なんか知らないよ!」

「お姉ちゃんの本にはさまっていたその本が、お姉ちゃんのモノでなくて何なんだよ!」

 純菜のごもっともな反論。愛菜は理由を考えるのだが。

「それは・・、ん・・、とにかく! 私がエロ本を買うわけないでしょうが! これだって誰かがこの場所に隠したと考えるべきでしょうが」

「だれが? ん~・・、もしかして死んだお父さんのモノなわけ? ムスメの本の中にかくしちゃったんだ~」

 それはありえない、愛菜はそう考えた。亡き父が仮にそういう本を所有していたとして、娘の持つ本に挟むなどありえない。



 これは、飯山吾郎の本だ。そう愛菜は結論をつける。それがなぜ自分の所にあるのかが全くわからないのだが、吾郎のよこしまな意図を感じる。

 愛菜は例のいかがわしい本を一人でめくってみる。その写真を見つめてみると、なんとなく、これが初めて見るものでないことがわかった。

(くっだらない! ガキの私は何を考えてこんなものを見てたんだ!?)

 愛菜はそう心でつぶやきながらも、可愛らしい少女二人が一緒に裸で撮られている写真を見て、なにやら胸が熱くなってしまう。

 愛菜が次のページに指をかけると、そのページは”何か”でくっついていた。

 愛菜は嫌悪感でその本を床に叩きつける。



 飯山吾郎は、例の駄菓子屋こと飯山商店で店番をしている。吾郎の目に愛菜が店に向かって歩いてくるのが見えた。

「おっ! 愛菜ちゃん、俺に会いにきたんかよ・・」

 吾郎はニタリと笑ってしまうが、その愛菜は険しい表情で、視線も刺すような感じがする。

「いらっしゃい! 愛菜ちゃん!」

「・・・コレ」

 愛菜は汚いものを放るように、少女の写真本を吾郎の前に置く。

「・・・これは」

「兄ちゃ・・、吾郎さんのでしょう? ソレ」

 吾郎は例の本をペラペラとめくって、笑顔になる。愛菜はその笑顔が腹立たしかった。

「いやあ、愛菜ちゃん、この本をやっと返してくれたんだ。8年ぶりに見るぜ。てっきり俺は取られ損だと、あきらめてたんだが」

「私が取ったって!? その本を? どういうこと!?」

 愛菜は一度は、この汚い本を捨てようかと思った。しかし、愛菜はこの汚い本でも持ち主に返すのが礼儀だと思ったのだ。そして、この本が自分の所にある理由も聞くつもりだった。

「いや、言い方が悪かった。君が俺から借りたというか、結局借りパクになってしまったんだが」

「この本を私が読みたがった・・、と、そういうことですか?」

「そう、そういうことなんです」


ドーン!!


 吾郎の前の机が激しく音を立てた。愛菜が両手を強くそこに叩きつけたのだ。

「そのとき、合意があったって言いたいのでしょう! アナタは! 大人のアナタが断りなさいよ、そのときに! 分別を持ってなかった私は! アナタに・・!!」

 愛菜は吾郎をののしる言葉を後につなげてやろうかと迷った。例の少女エロ本のことでそこまでは怒らない。

 吾郎と自分の間にあった性的関係のことで、当人から誠意ある謝罪やら、深い反省やらを勝ち取ろうと思ってしまう。

 しかし愛菜は、それは無かったことにしたいというのが本音だし、10歳当時の自分の吾郎に対する情愛も自分自身で否定できなかった。

 その吾郎といえば、薄ら笑いをして言う。

「愛菜ちゃんは、どこまで覚えている? どこまで思い出したの?」


 愛菜は吾郎のその質問を無礼と取って答えず、足早に帰宅の途につく。

(ちくしょう!)

 吾郎が言った『どこまで思い出した』の言葉が、愛菜の胸でムカムカと蒸し返されてくる。




 8年前の飯山商店。

 29歳の吾郎は、店の奥の座敷から現れた愛菜に気づかないふりをした。

 とときんはアレをする、『だ~れだ』をしてくると思った。吾郎は愛菜の子供じみたお遊びにつきあうのが大好きだった。

「ばあ~~っ」

 しかし、愛菜がしてきたのは『だ~れだ』と似て、非なるものだった。背後から愛菜によって吾郎の顔の前に本が覆いかぶされる。

「な! 何? 何なのこれ!」

 吾郎がその本を見れば、裏ルートから手に入れた少女写真集だった。吾郎が仰天してしまう。これは他人に見つからないように、辞典の間に挟んでおいたのだが。

「あ、あの~、とときんさ、これをどこで? ・・って聞くまでもないか」

「兄ちゃんなんて本読んでんだよ! 子供のハダカがのってるエロ本なんて初めて読んだぜ!」

「・・いや」

 吾郎にすれば、この本は愛菜にだけは見られなくなかった。自分が愛菜に邪な感情を持っていることが暴露されるようなものだから。

「まぁ、子供っていってもみんなエロカワじゃんかよ!ギャハハハ! これってカメラマンは男なんだろ!みんな、よくこんなかっこうできるじゃんかよ!」

 しかし、愛菜は無邪気に騒ぎながら読んでいる。どうも、愛菜はこれがエロ本の一種とだけ思っているようだ。

「しっかし、兄ちゃん、こんな本ばっか買ってるとけいさつにつかまんよ~」

 愛菜の無邪気ではあるが、的確なる警告にギクリとなる吾郎。

「お~、この女の子二人でヌードになってるのメッチャいいんですけど~。マジかわいすぎ~。カルチャーショックとでもいうのコレ」

 わくわくしてきた、と言わんばかりの愛菜は本を閉じる。そいて、それを吾郎の前でピラピラとさせると。

「兄ちゃん、これちょっとだけかりるね」

 そう言って、愛菜は吾郎の本を持って家に帰っていった。

「おいおい、君は俺から借りたものを何も返してないだろ!」

 吾郎はガッカリするのだが、思い直す。吾郎はあの本が愛菜を”落とす”きっかけになるかもしれないと考えた。

(そろそろアプローチをかけようと考えていたところだしな・・)

 エロ本を読んでいた時の愛菜のあの反応。案外と、愛菜の方からアプローチしてくるかもしれないと吾郎は思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ