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駄菓子屋でのひと夏の偏愛  作者: テツヤ
33/33

ひと夏の終わり

「しかし、ヒマつぶしの物を何も持って来てないのがね。大学の課題とかは先に送っちゃってるし」

「じゃあ、俺がジュース買ってあげるから外にでようか?」

「は!? ジュースなら店にも置いてあるでしょう?」

 飯山商店の座敷で扇風機の風に当たりながらゴロゴロとしている愛菜。ヒマだとボヤく愛菜と、そのわきでは何かそわそわとしている吾郎。

「なんかおかしいね? 以前ならアンタ、薄ら笑いしながら『ゆっくりしていきな』とか言ってたのに、今日は私をここから出そうとしている」

「は!? おかしくないぜ! それと薄ら笑いもしてない!」

 ふ~ん、という感じで不審そうにする愛菜。

「まあ、私はこの夏にさんざん吾郎さんに面倒かけたってのは自覚してる。子供の頃のビョーキが復活した~、だとか言われても仕方はないよ。だからといって、ここが居づらい場所になってしまうは悲しいのだけど」

 愛菜は恋愛に失敗した苦しみから逃れるためなのか、何度かこの店に来た。一度は高校の制服を着てきて迫ったりもした。

「面倒だとか思うわけがない。愛菜ちゃんは大事な姪っ子のようなものだから」

「姪っ子だから・・か、なんか厳しい一言だね」

「あ? 厳しかった? あ、いや、いずれは愛菜ちゃんは俺の娘になる・・・、って言ったらまた嫌がりそうなんだよなあ」

 愛菜はそれには答えず不満顔。自分が子供の頃に、この吾郎に淫らに求められたあの出来事がまるで無かったように扱われてしまった。

 あの出来事は自分にとって古傷トラウマであるし、消し去ってしまいたいことだけど、それでも吾郎には忘れてほしくないことでもあるのか。

 一言、「俺は愛菜ちゃんが今でも好き」とか言ってもらえれば、自分は満たされたのかもしれない。それが無いせいで、母との結婚を考える吾郎に対してゴネてしまったのか? そう考えると、愛菜はまた自分が情けなくなる。



「愛菜ちゃん、JRのサイト見たんだが、電車が再開したみたいだぜ」

 吾郎さんは、やはり私を追い出そうとしている。

 愛菜はそう思ったが、吾郎から電車の再開を告げられてはここにいる理由も無くなってしまった。悲しい気持ちを表に出さないようにして、愛菜は最後のお願いを吾郎にする。

「吾郎さん、アレやってよ”せいくらべ”を」

「”せいくらべ”? って、アレか? あの柱に書いた」

 吾郎は座敷の柱にあるあの印を指さす。あの、8年前の愛菜が10歳の時に背の高さをしるしたものを。

 愛菜は嬉々として柱の前で、”きをつけ”の姿勢に。吾郎が愛菜の頭に定規を当てて、彼女の今の身長を柱に印す。

「愛菜ちゃん、ずいぶんと身長伸びたじゃないか」

 吾郎は愛菜が子供の頃に印した線と、今付けた印を見比べて感慨深げに。でも、愛菜は。

「当たり前でしょうが! 8年もブランクがあるんだし!」

「でも、昔の愛菜ちゃんってこんくらいの背だったんだ」

 吾郎は小学生の愛菜を思い出しているのか、8年前の線の高さで手のひらを”ナデナデ”の形で動かしている。そして、今の愛菜の頭の高さを見てクスッ、と苦笑いした。

「あ、いいじゃんか。今もやってよ、ナデナデ」

 愛菜は少し身をかがんで吾郎にナデナデを催促する。吾郎は笑って愛菜の頭に手のひらを乗せてナデナデをしてあげる。

「えへへ、なんか安心するぅ~」

「愛菜ちゃんってこんなことで満たされるんだな。俺はそんなことにも気づけなかったんだ。愚かしいよ」

 言われれば、愛菜もそんなことにも気づかず、淫らなことばかり求めてしまった。昔も今も。愛菜は愚か者同士、見つめあって照れ笑いした。



 吾郎は、名残惜しそうな愛菜を店の前まで出て見送った。彼女の姿が見えなくなるまで見届けると店の座敷に戻る。

「なんだ、まだ出てきてないのか? とときん」

「あっつ~~~~~~!」

 愛菜のかつての愛称であった『とときん』で呼ばれた女の子が暑苦しそうに押入れから這い出てくる。その『とときん』なる女の子は愛菜の妹の純菜であった。

「熱中症で死ぬかと思ったわよ! ただでさえクーラーが付いてない部屋なのに!」

「あの・・、別に隠れなくても良かったと思うんだが。とときん」

「そ~れ~は~。ううう、まあそうなんだけど。条件反射というか、怪しまれると思ったんで」

「隠れたら、よけい怪しいよ」

「一度かくれちゃったら、出れなくなっちゃったわよ!まったく!」

 吾郎は純菜に扇風機の風を全力で当ててあげて、そそくさとアイスを手渡す。

「ありがとねえ。しっかし、お姉ちゃんにもあきれちゃったわよ、ホント今回は」

「あー、愛菜ちゃんのことは悪く見ないでおくれよ~」

 純菜はアイスをほおばりながらジトリと吾郎を見る。

「お姉ちゃんはクニオにふられたからって吾郎さんにせまるようになるとは思わなかったわよ! ピンチだっつうの、それ」

「いや・・、まあ、ね」

「子供の頃の関係が母さんにバレたらもうアウトなのに、今になって肉体関係を求めるなんね」

「まあ・・、ね」

 吾郎は自分が説教されてるように正座してうなだれる。元はと言えば自分が若い頃の不始末でもある。

「そして、母さんと吾郎さんの仲をこわそうとしたのが許せないわよ」

「いやっ、それは!彼女は悪意があったわけじゃ。でも、『昔の関係をバラす』というのはかなりヤバい発言ではあって、どうしていいかわからなくなった」

「そうだよ、あの時は私がアドバイスしてあげたから、なんとかしのげたのよ。『ウチの母さんに言えるだけ伝えなさい』ってね」

「いやあ、あの対応は愛菜ちゃんを怒らせかねないものだったし・・。今思っても恐ろしい」

「あのね、脅してくる相手には、ただ従うってのが悪手なんですよ」

 ごもっとも、という感じで吾郎は純菜に頭を下げる。純菜は憎々し気に笑って。

「お姉ちゃんってば、色々とゴネたあげくにやっとこ結婚賛成に回ってくれたんだけど、私が結婚反対を言うと思ってたんだわ。なんかね」

「そうなんだ・・」



 純菜は吾郎の家の浴室でシャワーを浴びると、「あ~、サッパリした!」と言って上がってくる。

「しっかし、お姉ちゃんってば10歳のときに吾郎さんと一緒にお風呂入ったりしてたんだ?」

「うん、まあ・・」

「ありえないわよ! もう子供じゃないっつうの! 私はお姉ちゃんみたいに軽くないからね!」

「ああ、俺もそれは求めてないし」

「本当に!? でも、私が『お姉ちゃんのエロ写真全部処分せよ』って言ったの正解だったでしょう?」

 そうなのだ、以前に愛菜が自分の裸の写真、画像を吾郎に差し出すように求めたときに、それらはすでに処分されていた。

「でも、それらは愛菜ちゃんの前で処分した方が良かったような。かえって不信を買っちゃったんだよ。それに、なんでとときんは俺が愛菜ちゃんのヌードを持ってるとわかったんだ?」

 純菜は一枚の写真を吾郎に見せる。その写真にはこの飯山商店の座敷で撮影された愛菜の少女ヌードが写っていた。

「これはっ!? 一枚残らず処分したはずなのに?? なんでこれをとときんが!?」

「これはウチにあったお姉ちゃんのこども向け百科事典の間で私がたまたま発見したもので~す。わかる?これは母さんが発見してもおかしくなかったんだよ。ここの座敷が写り込んでいる、言い逃れのできない吾郎さんのわいせつ行為の証拠がね」

 吾郎がその写真に手を伸ばすのを見て、おかしそうに笑う純菜は素直にそれを渡した。

 吾郎はその写真を眺めて、少し迷っていたが着火器を使って焼却処分する。



 純菜は吾郎に対して、母の結婚についての条件を色々と付けてきた。

 一家の日常生活、娯楽、そして自分の学費などに充分な費用をかけること。くだらない幼女趣味に二度と走らないこと、などなど。吾郎にしてみれば、大学生の愛菜よりも小学生の純菜の方が求めることが現実的で、おかしくもあり恐ろしくも感じた。

「あ! それと、母さんとの結婚で、一家の名字を『飯山』にそろえるなんてのは絶対無しだからね! 名字変えるなんて私がクラスで笑われちゃうわよ!」

「あ、それは問題ないよ。俺も十時姓になる方がいい。飯山家はもう俺ひとりだしな。それに名字変えると、とときんがとときんじゃなくなるだろう?」

「バカ! その”とときん”ってあだ名は昔”とときん”だったお姉ちゃんにとって一発NGなんですよ! もう使わないこと!」



 夕方になって少し涼しくなった頃。少し疲れたのか、純菜は座敷で眠りこける。

 吾郎はこの間、駅前公園で撮影した十時家の夕菜、愛菜、純菜、そして自分の4人の写真を額に入れて飾って眺めている。

 吾郎はこの夏を思い返して色々とくたびれることばかりだったと考える。それでも、十時家の3人を手に入れられる幸せをかみしめている。

 額に映り込んだ自分の顔を見て、それが歪んだ笑いだと気づいて直してみる。

「んあ~~・・」

 純菜の声に吾郎が振り返ると、純菜は寝相が崩れて短めのスカートからパンツが丸出しの状態になっている。

 吾郎はあわててスマホを取り出して、そのカメラを純菜に向けるのだが、すぐに思い直して。

「バカ、父親だったらこうだろ・・」

 そう言って、吾郎は純菜のスカートを直すのだった。

やっとこ終わりました。通して読んでくれた方には、御礼申し上げます。

次回作は、作るか否かも含めて気分しだいです。

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