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駄菓子屋でのひと夏の偏愛  作者: テツヤ
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夢の中の二人は

愛菜は、いつもの駄菓子屋に今日も来ていた。

「兄ちゃん! 兄ちゃん! 今日も来たよぉ~、どうせヒマなんでしょうが、私と遊んでよ」

「ああ、とときん、いらっしゃい」

 兄ちゃんこと吾郎は愛菜のことを愛称の”とときん”と呼び、笑顔で応える。愛菜はバタバタと店の奥の座敷にあがる。まるで、自分がこの店の身内であるかのように。吾郎の笑顔は粘っこく歪んだ笑いへと変わる。

 吾郎が愛菜を追って座敷に入ると、愛菜は座敷の上に両足を投げ出して片手でうちわをバタバタと扇いでいる。

「あっち~、兄ちゃん! ここクーラー入れないの? 暑くてたまんねーよっ!」

 時は7月下旬、学校は夏休みで、小学5年生の愛菜は毎日のようにこうして吾郎のところに遊びに来ている。

「ああ、そうだな。そのうちクーラー買うか」

 そう言いながら、吾郎は愛菜の身体に視線を這わせている。吾郎は、半ズボンから出ている、程よく日焼けした太もも、そして、Tシャツを一枚着けただけの上半身を見つめる。

 小学生の少女ならば、これはごく普通の恰好なのだが、吾郎は愛菜の胸元に熱い視線を注ぐ。

「まぁたエッチな目で見てからに~、兄ちゃんってば」

 愛菜はそんな吾郎の視線には気付いている。そんな愛菜はいたずらっぽく笑っている。

「そんな目で見てたかな? とときんがかわいいからだよ、エッチな目じゃない」

「ふ~ん、カワイイねえ・・」

 愛菜はかわいいと言われて少々不満顔。このときは、それが子供あつかいと取っていたからだ。しかし、愛菜は吾郎から”かわいい”と言われる事が壺にハマることになるのだ。

「・・ていうか、今何度あんの? うわ! 32度もあるじゃんか!」

 部屋の温度計を見て、暑さに驚いた愛菜はそばの扇風機を全開にして、それに向かって「あ~~~~」と声を出している。そんな愛菜の子供らしい仕草に吾郎は微笑む。だが、その視線は愛菜の幼い尻に注がれている。

「あ~~、クソあっちぃ! 上脱ぐぞ!」

 暑さに耐えかねた愛菜はTシャツを脱ぎ捨てる。そして、愛菜の上半身があらわになった。スクール水着の日焼けあとが残る愛菜の素肌は白くまぶしかった。いやらしい視線を愛菜に注いでいたはずの吾郎は、愛菜のこの行動に驚き、とまどいと気まずさで視線をそらす。

「あ~、多少はすずしくなったぁ~」

 半ズボン一枚の恰好になった愛菜は気持ちよさそうだった。吾郎は座敷にクーラーを取り付ける件を考え直そうかと悩んだ。


ピンポーン ピンポーン


「は~い」

 店内にチャイムが鳴って、吾郎は座敷と店内をへだてるガラス戸を開けて出る。

 来客は郵便屋だった。吾郎は郵便物を受け取って座敷に戻ってくる。

「兄ちゃんってば! いきなり開けないでよ!」

「はあ?」

 座敷の愛菜が怒った顔でにらんでくる。吾郎は愛菜が怒ってる理由がすぐにはわからなかった。

 見れば、愛菜は先ほど脱いだTシャツを着なおしている。理由はそれらしかった。

「ええと、ハダカ・・、ひとに見られたくなかった?」

「当然でしょう! 私、もう子供じゃないんだよ」

 いや子供なのでは、と思ったが口にはしない吾郎。でも、さっきはとときんが自分から服を脱いだのでは?、とも思う。

「とときん、俺の前ならハダカになれるの?」

「なんだよ! 兄ちゃん、その言い方、エッチっぽい!」

 赤くなっている愛菜はとても可愛らしかった。知らず、吾郎はにんまりと笑っている。

「ごめんごめん、今度からいきなり開けたりしないからさ。今日一日はハダカのままでいるんだ。いいね」

「・・・あ、・・はい」

 少しおびえた顔をした愛菜は、それでも吾郎の前でシャツを脱ぐ。

「あ、暑いから、脱いでるんだかんね・・」

 愛菜は脱いだTシャツを胸元で抱えて恥ずかしそうに笑う。さっきは豪快にTシャツを脱ぎ捨てた愛菜だが、こうするととても可愛らしい。

 吾郎は愛菜の頭を撫でまわした。それでうれしくなった愛菜は、Tシャツを放して素肌のままで吾郎に抱きついた。

「~~兄ちゃん、大好き~~。・・・アハハ、言っちゃった。マジ、照れくさいんですけどぉ~」




「・・・う~ん。兄ちゃん・・?」

 『兄ちゃん』と、つぶやきながら、愛菜はゆっくりと目を開ける。さっきまで自分が小学生で、兄ちゃんと抱き合っていたような気分。悪い夢を見ていたようだ。

 その愛菜は妙に寝苦しい眠りから覚めた。目が腫れぼったい。目が覚めたことで、最低な失恋のこと、吾郎との再会のこと、そしてその吾郎の前で泣いたことも思い出してきた。

 知らない間に眠ってしまったようで、それで何か夢を見ていたのだが、その内容は忘れてしまった。子供の頃の自分と吾郎のやりとりだったかもしれない。

(・・いまさら、それを思い出したくもない、か・・)

 愛菜はそう思うのだが、夢の中で起きた動悸が、まだ胸の奥でドクドクと残っている。

 愛菜はタオルケットの中でゴロリと寝返りを打つ。床が固い、ここは畳の上っぽい。やけに寝苦しかったのはいつものベッドの上で寝たわけじゃないからか。・・というか、私はどこで寝転がっているのだ?、と愛菜は思って、今いる部屋の光景を見る。

 普段の寝室ではない場所で目覚めると、戸惑ってしまうことがある。それでも、愛菜がそれ以上に驚いてしまった、この見覚えがある部屋。


「・・・・!!!?」


 愛菜は跳ね起きた。愛菜は吾郎の店の座敷の上で眠っていたのだった。愛菜が封じた記憶の、その場所である。

 どうしてこんなことに・・?、と愛菜は記憶を探り巡らせる。これは、悪い夢の続きなのでは?、とも真剣に考えてしまった。

「あ~、兄ちゃんってば、私を連れ込んだってことね」

 失恋の悲しみで子供のように泣いてしまったけど、だからといって、この座敷に私を寝かせて何をしようっていうのだろう?、と愛菜は思った。

「う・・、暑い・・」

 自分にかけてあるタオルケットのせいで少々暑い。そして愛菜は、このタオルケットはどうしてかけてあるのだ?、と考える。

(アイツか、兄ちゃんがかけたんか)

 吾郎の過去の裏がある優しさのせいで、嫌な記憶を抱えている愛菜には不快感がある。でも悪い気はしない、とも考えてしまう。


「やあ・・・ちゃん・・・君が来たんだね・・・」


 店内の方で吾郎の声が聞こえる。誰かと話をしているようだ。あの男は、まだすぐそばにいるのだ。

 愛菜は震えるような気持ちでタオルケットを頭からかぶる。

 吾郎と誰かのやりとりが終わって、静かになる。来客が消えて、今は吾郎と私の二人だけなのか、と愛菜は思った。

 すうっと、音を殺すような感じでガラス戸が開かれる。そして、一人の人間が忍び足で、タオルケットで身を隠す愛菜のそばに歩み寄ってくる。

「・・・・・・」

 その人物は息を殺しているのが気配でわかった。愛菜も同じように息を殺すのだが、タオル一枚をかぶっているだけでは自分の存在は隠せない。ただ、相手は自分が眠っていると思っているだろう。

 だがしかし、吾郎は私が眠っていると思えば、何かをしてくるかもしれない、と愛菜は恐れた。今すぐに目を覚ましたほうがよいか、おとなしくしているべきか迷う。

 そうこうするうちに、かけているタオルケットはすうっ、とはぎ取られる。

「・・!!」

 愛菜は悲鳴を殺して、そして、タヌキ寝入りを強いられることになった。無遠慮にも、愛菜からタオルケットをはぎ取った人物は、じいっと愛菜の寝顔をうかがってくる。愛菜が目を閉じたままでも、それが気配で感じられた。

 無遠慮なその人物が、そおっと手を伸ばしてくる。その手が愛菜の胸元に触れた。

「何ッ! するんだよッ!!」

「わーっ!!!?」

 愛菜は怒って、自分に触れるその手をつかんで跳ね起きた。愛菜が手でつかんだその腕は、思ったよりもはるかに細く、柔らかであった。


「な・な・な! 何なの!? お姉ちゃんってば」

「ちょ・・!? 純菜じゃんか!?? 何でここに!?」


 その人物は愛菜の8つ年下の妹、十時純菜、10歳だった。純菜は驚きで目を丸くしていた。眠っていた姉を起こそうとした瞬間に、腕をつかまれて大声を出されたのだから当然だった。

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