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駄菓子屋でのひと夏の偏愛  作者: テツヤ
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愛菜の敵対宣言

 愛菜は自分と吾郎が、表向きには客と店主の関係なのだと思い込んでいた。しかし、母からその吾郎と親戚関係なのだと告げられる。

 考えてみれば、自分が彼にとってお気に入りの客というだけだと不自然なのだった。小学生の時には飯山家の座敷に上がり込むわ、そこで自由に遊ぶわ、けっこう気ままにくつろいでいたわけで。

「いやっ、私は・・、あの吾郎さんが寛容性がある人だくらいに思ってて」

「身内とは思ってなかったとか? 今日だってサーカスに連れてってくれ~と、あの人に言ったんでしょうが。失礼なんじゃないの、それ」

 それを言った(らしき)のは子供の頃だし!金銭的には自己負担だし!、と思ったが言わないでおく。

「あの人は、死んだお父さんのイトコなんだよ。二人は歳はひとつ違いなだけで、高校まで同じ学校に通った兄弟に近い関係だった。あの吾郎さんにしてみれば、アンタはイトコの娘ということで姪っ子のようなものなのさ」

 その話は愛菜には初耳だった。8年前の小学生の頃に死んだ父の記憶はおぼろげになりつつあるが、その父に歳の近いイトコがいたとは全く知らない。

「私はこの歳になって、そんな親戚を知らなかったなんて。でも・・、親のイトコとなると全部を把握しているかと言われると厳しいな~」

 親のイトコということは、祖父母の兄弟の子なのだから数も多いし、愛菜から見れば縁も薄いとも言える。

「まあ、アンタが知らなかったってのも無理は無いのかねえ。ウチは飯山商店とこと疎遠になってたからさ」

 実際にそうだ、と愛菜は思った。ウチと飯山商店では以前から親戚づきあいらしきものは無い。その割には吾郎の側からウチに対して援助に近い行為がたびたびあったことは気になる。

 家族が今暮らしているアパートの紹介。愛菜のローンやアパートの保証人に吾郎がなっている件。そして、今回のマンションの一室の貸与の件。

 それらは、裕福な親戚がいればあるという範囲の援助かもしれない。だが、愛菜は”相手は吾郎だ”という理由で警戒に近い気分にさせられる。

 吾郎からは愛菜への並みならぬ好意はあるだろう。愛菜も吾郎にすり寄っていくような真似をした。18歳になった愛菜は、吾郎のよこしまな好意をも手玉に取る自信があったわけで、かつて子供の自分を弄んだ吾郎を翻弄ほんろうすることで勝利感に満ちた遊びを楽しめる。自分はそんな風に思っていたのだろう。


「ところで、私と吾郎さんがどういう関係なのかってことなんだけど」


 母がそう言った。確かに愛菜はそれについて母に説明を求めた。だが、それは自分と吾郎が親戚だと知った今では無用の勘繰りだった、と愛菜はそう思ったのだが。


「私と吾郎さんはかつてつきあっていた。あの人は今でもおそらく私に好意を持っている」


 愛菜の頭に電撃と激音が走る。愛菜は母のこのような言葉を聞きたくなかったから、『二人はどういう関係なのか?』と聞いたのかもしれない。

「あの人の私への好意が並々ならないことはわかっていた。一度プロポーズもされちゃったしね」

 愛菜は、吾郎が母へ好意を持っていると聞き平静ではいられなかった。かつてよこしまなる欲情を幼い自分に向けてきた吾郎が、母にその感情を向けていたのだ。

「プッ!? プロポーズってバカなんじゃねーの?? いや、断ったんでしょ? いや当然か、聞くまでもないよね」

「うん、断った」

 愛菜は額の汗をぬぐいながら、必要以上にあせってしまったと思い直した。頭の悪い吾郎が身の程をわきまえず、しっかり者の母に求婚して自滅したのだと思ったのだが。

「いや、あの時はさすがにね。私もOKは出せなかったわよ。幼い子供を二人抱えていっぱいいっぱいだったし」

「え!? まさか、そのプロポーズしたのって、父さんと結婚する前のことじゃなくて?」

「あ・・? うん、それはお父さんが死んで1年くらいの頃だったかな。7年かそんくらい前なんかねえ」

 愛菜の頭に負の感情が満たされていく。自分が知らない所で吾郎が母に求婚をしていたという事実。それは吾郎が自分に淫らな行為を働いた後のことだし、父が死んだ後のことでもある。

「ありえない・・・」

 愛菜は知らずつぶやいていた。

「確かに、色々とありえなかったわねえ」

 母は愛菜に答えるかのようにつぶやく。

「プロポーズの条件というか、プレゼントが色々とマズかったのよ」

「・・・まだ、なんかあったの」

「このアパートに移り住む以前の住まいは覚えてるよね?」

「純菜はともかく私は小五まで暮らした家だよ。忘れるわけないよ」

 かつて父が建てた一軒家は、父の死後に手放すしかなく現在は空き家だった。妹の純菜は2歳だったからそれに愛着など無いだろうが。

「今は空き家になってるけど、たまに見に行くことはある」

「そう、あれは古い家じゃないし、今の所有者が空き家のままにする理由なんて本当は無いんだよ」

 愛菜はそんなことまでは考えなかった。住む者がいない、かつての我が家をただ哀れだと思っていた。

「今の所有者ってのが吾郎さんなんだよ。あの家がプロポーズの条件だった。・・・その時の私は、ただ怒ってしまった」



 翌日、愛菜は飯山商店の吾郎の前にいた。表情は無表情なのだが、彼女の顔には決意が感じられる。

「どうしたの愛菜ちゃん?」

「母から、あなたが母に好意を持っているという話を聞きましたが、間違いありませんか?」

「どうしちゃったの?愛菜ちゃん。まあ、そうだな。そういうことで間違いない」

「今後、母に近づかないでくれませんか」

 吾郎は無言だった。しかし、その顔には困惑と拒絶の色がある。愛菜はその吾郎に捨て身とも言える言葉を放つ。

「あなたが母に対して無用の接触を行う場合、私はかつてのあなたとの性的関係を母に暴露します」

 吾郎は愛菜のその言葉を聞くと、がっくりとうなだれた。

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