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駄菓子屋でのひと夏の偏愛  作者: テツヤ
17/33

敏子の悔い

 山波高校の3年生で、かつての十時愛菜の後輩である宇多田国男と真壁敏子は電車の座席に互いに向かい合わせで座っている。

「しかし、夏休みに予備校で講習というのもなんというか・・」

「当然でしょう。私たちは受験生なんだよ」

 国男がボヤくと、敏子は正論で答える。二人は隣町の予備校に二人して講習を受けた帰りなのだった。

「なあ、敏ちゃん。こないだの模試判定どうだった?」

「・・・国立以外はまあまあってとこだけど」

「国立は?」

「だ~から!言いたくないからボカしたのに! 国立の北皇大学はC判定ですよっ!」

「そりゃあスゲぇじゃんか! 俺なんか偏差値40台の山波大がC判定なんだぜえ」

 国男はケラケラ笑う。国男から見ても真面目人間な敏子は、なんとか国立大に受からないかと目指して頑張っているのだ。

「まったく! あなたもがんばりなさいって! まあ、私もレベルアップしないと行くのは自宅から通える山波大くらいしかないというか・・」

「まあ、敏ちゃんも来年、俺と一緒に山波大に通おうぜ」

 国男はなにやら楽しそうに笑っている。国男が楽しい理由は、イトコの敏子とこうして休日を過ごしているからだ。一応、二人は男女交際してるということにはなっているのだが。

「しっかし、大学受験がこんなに大変とは思わなかったぜ、十時先輩なんか去年の今頃なんか遊んでたんだぜえ」

 国男は去年までつきあっていた先輩の十時愛菜のことを口にする。敏子の前だから言わなかったのだが、”遊んでた”には愛菜と国男の不純異性交遊も含まれている。

 敏子は苦い思いを感じたのだがあえてそれを言わずに、自分と十時愛菜との思い出を振り返る。



 敏子が山波高校に入学したての1年生一学期の時だ。当時、テニス部に入部していた敏子は国男に誘われて、バドミントン部の見学に訪れた。

「あら、入部希望なの?」

 部室には部員であろう女生徒が二人のみ。その二人はジャージ姿で部室でトランプをして遊んでいたのだ。国男がバドミントン部の見学をしたい旨を伝えると、部長だという女生徒が立って国男と握手し、そしてつきそいの敏子にも握手を求める。

(なんてキレイな人なんだろう・・・!)

 敏子は奇妙な話だが、女ながらにその女生徒に一目ぼれをしてしまった。

 その部長はとても背が高く、当時の国男よりも少し大きいくらいだった。人並な背格好の敏子からすれば、向かい合えば顔を見上げるようになる。

「申し遅れたね、私は2年の十時愛菜っていうの」

 愛菜の笑顔が敏子にはとても清楚で朗らかに思えた。敏子は愛菜の優しくも力強い握手を今でも忘れない。敏子はその日のうちにテニス部に退部届を出して、バドミントン部に入部した。

 入部してから知ったことだが、バドミントン部の実働部員は部長の愛菜と、もう一人いた桐子、あとはたまに来る2年の女子数名というところの部活動でしかなかったのだ。運動部というよりはお遊びクラブであり、去年からそんな調子なのだそうだ。

「私、バドミントン部の部員をもっと増やしたいんです!」

 そう言う敏子に愛菜部長は笑って、「来るもの拒まずだよ」と言って喜んだ。敏子は幸せだった。バドミントンというスポーツが好きになったというのもあるが、愛菜部長の喜ぶ顔を見たかったというのがある。部員増加には男子の国男も協力的で、約1年で部員は大幅に増えて男女の垣根も無くバドミントンを楽しめるクラブになった。

 そして敏子は、国男が愛菜部長に愛の告白をした事を知る。敏子は『またか、懲りん奴』と考えたが、国男と愛菜部長は意外というか良好な関係になっていった。

 正直、国男に対し恋敵というか嫉妬の念が起きたのだが、そのような想いが理不尽ということはわかる。敏子は二人の関係を素直に喜ぶことにしたのだ、このときは。



 敏子が2年生になってから、歯車が狂い始めた。部員が増加したバドミントン部の活動方針を巡って、部長の愛菜と副部長の敏子が対立するようになってしまった。

 敏子からすれば、創設時のお遊びクラブ的な理念はともかく、バドミントン部は学校の予算が下りる正式な部活動なのであり、部の活動はそこを通したいという思いがあったのだ。だが、愛菜は敏子が部を横取りして自儘じままにしたと受け取った。

 敏子が説得のつもりで愛菜と話し合いを持とうとしても、それは愛菜を怒らせただけだった。

(・・・つらい・・・)

 そして、愛菜は周囲の目を盗んで国男と不純異性交遊をするようになる。

(いったいどういうことなのですか!)

 敏子は叫びたかった。1年生の頃からあこがれていた愛菜先輩は崩れてしまった。他の男性とならばともかく、未熟な国男とそのような関係に落ちてうまくいくわけが無いと敏子は恐れた。愛菜の蜜月は長くは続かず、愛菜の好意を無にした国男はあろうことか別の女性と肉体関係を結ぶ。



「ちくしょうッ!!!」

 思い出の中で、憤懣ふんまん極まった敏子は右足を衝動的に蹴りだす。丁度そこに、向かいに座る国男の脚があったものだから、敏子は国男の向こうずねを蹴ったことになる。

「痛った~~~~~っ!! なんなんだよいったい!」

「あ、ごめん。ムカつくことを思い出して・・」

 つい謝った敏子はその憤懣の対象が国男であることに気が付いて、思い直す。

「違う! 私はアンタにムカついたんだよ! アンタなんで愛菜さんとの関係をあんなにしてしまったのか!」

 国男は『またか』という顔になる。

「あのさ、それはもう解決ずみじゃんか。俺は反省してるし、愛菜さんも許してくれたというか」

 敏子は国男のヤレヤレ感丸出しの態度にため息をつく。

「私はあの人に、愛菜さんに会った時から大好きだったんだよ。後輩として何かしたくて。あの人の喜ぶ顔が見たくてさ」

「マジかよ! お前はなんか愛菜さんと会うたびにつっかかてたじゃんかよ! ・・・そういやお前、一年の時は愛菜さんに懐いてたよな、うん」

 敏子は面白がって笑う国男に想いを話す。つまり、その相手が国男しかいないわけだが。

「でも私はあの人が作ったバドミントン部を変えてしまった。悪気は無かったんだけど、愛菜さんの大事なものを奪ってしまったのか、という思いはある」

「う~ん・・」

「そして、私は愛菜さんの恋まで否定してしまった」

「何ソレ!?」

 敏子はしばらく前にあった、バドミントン部の同窓会での出来事を国男に話す。肉体関係にあった女性に一方的に捨てられた国男が話題の晒し会のようなものであり、自分はそれとは知らず招かれたという事をだ。

「マジかよ! 女ってこっえ~!」

「バカか! アンタが悪いんだ!私は擁護したんだからな!」

 敏子はその席で不純異性交遊に溺れた愛菜のことを罵った。今から思うと、そんな場所で言うことでは無かったという後悔がある。

「その時、愛菜さんは、『私は国男と本気で恋をしていた』って言った。ムカついていた私はそんな愛菜さんを切って捨ててしまったんだよ」

「よしてくれ! お前も愛菜さんも悪くない!」

 国男がさえぎるように叫ぶ。

「俺が全部悪いんだよ。全部俺がな・・」

 国男が涙をこぼしているのが見えたが、敏子は気づかないふりをした。



 敏子は気まずくなってトイレに立つふりをして席を離れる。この列車では新幹線のようなまともなトイレではないので入ることもはばかられる。敏子はしばらく時間をつぶすことにした。

 敏子は愛菜への贖罪が何かできないかと思い詰める。なんとか国男と愛菜を復縁させることができないだろうかとも考えた。それで、今度こそ愛菜の喜ぶ顔が見られるのではないかと思ったのだ。

(二人はなんて言うだろうか。さすがにすぐには難しいかな・・)

 なにやら、この場にいないはずの愛菜の声が聞こえてくる。

(幻聴まで聞こえてくる、とか? 疲れてんね、私も)

 その声の方を見ると、少し離れた席に愛菜が座っていた。隣には30代くらいの男性が

座っている。

(!? ・・まあ、ローカル線で知人に会うというのはあるし。隣の人は??)

 年齢差から考えて父親かも、と考えたが、確か愛菜の父は死去していると聞いている。

「・・・なんか吾郎さんと外に出かけるのは、初めてじゃないかな・・・」

 そんな、なんとも幸せそうな愛菜の声は聞こえてくる。

 愛菜さんにゴローさんと呼ばれた隣のオッさんは何なのか!? 敏子は嫉妬の念がこみあげてくる。

「・・・私たち、ハタから見てどういう関係に見られるかなあ? ・・普通に親子って、ちょっとはボケでも入れてよ吾郎さん♪」



 長く席を離れていた敏子が戻ってきた。『長いトイレだったな』と言おうと思った国男だが、敏子を怒らせそうなので止めた。

「・・愛菜さんは新しい恋に生きてるみたい」

 少し呆然としている敏子に国男は首をかしげる。

「さっきの話なんだが、愛菜さんは敏ちゃんの事をたまにほめてたんだよ。優秀な副部長としてな。本人に言えばよかったのにな。お互いに」

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