いわゆるリセット
高校を卒業しているにもかかわらず、高校の制服を着て隣町の繁華街に来た愛菜と桐子。
時刻は夜の10時を回っており、愛菜達は遊び半分の女子高生スタイルでナンパ待ちをしているのだが、二人に声をかける者はいない。
「あ~、なんか一杯やらないとテンション上がんないね~♪」
「タコ! ビール買ってきて、飲むつもりだったのか!」
桐子は買ってきたお酒が飲めないことに不満を漏らしている。それに愛菜がストップをかけたわけだ。
「えー・・、いいでしょ。帰りは愛菜に運転してもらうってことで」
「この服装ではイヤです。それにアンタは道路交通法以前に未成年なのです」
「マジメだねー、愛菜は」
桐子はここで表情を変えて。
「・・ところで、国男とのアレはどうなったの?」
桐子が愛菜にそんなこと問うてきた。愛菜はそれに対して返答につまった。
悔いは残らず二人の恋の清算が済んだ。というわけなのだが、それを桐子に説明するのがはばかられた。
「・・いや、言いたくなければ聞かない」
桐子は愛菜の無言を返答と取った。だが、愛菜は国男からのメールの件を桐子に相談したからには説明をするべきだと思い、国男とのやり取りを話す。
「アイツからよりを戻したいとか言われたらどうしよう、などと散々悩んだけど私の空振りだったんだ。話せばちょっと長くなるけど・・」
「・・アイツ、今度は敏子ちゃんとくっついたのね。無節操ていうのかね、それ。まあ、敏子ちゃんもアイツに気があったみたいだけど」
「うん、でも二人はお互いの気持ちに早く気付くべきだった。私が愚かなつきあい方をしていた2年間で二人は遠回りしてしまったみたいで・・」
「愚かなって、愛菜は敏子ちゃんに言われたこと気にしてるんか? 国男の無節操は元からという気もするぞ」
「かもね。でも敏子ちゃんが言った、『ヤリ捨て彼女と私が同じ』というのは当たってる」
その自虐とも言える愛菜の言葉に、桐子はひきつった笑顔で。
「そ、そうかな、でも3年生になってから愛菜が国男と淫らなことを始めたことには驚いちゃったんだけどもさ」
「私は元々エッチなことが大好きなの。それも子供の頃から」
目を丸くしている桐子の顔をじっと見て、愛菜は続ける。
「お遊びでエッチなことをするのは最高だよ。お互いに興奮して気持ちよくなれるもの。何も悪いことじゃないでしょ?」
うんうん、とうなずきながらも気まずそうにする桐子。
「まあ・・・、私はそんな事で愛情も深まると思っていた。ヤリ捨て彼女は愛情を抜きにエッチを楽しめたという点で違うんだけども」
そんな愛菜に桐子はビールを差し出す。飲んで忘れろ、ということだ。愛菜はビール缶のキャップを開けて、グビグビと飲む。
「あ~・・、私はね、この夏休みが終わるまで自分に”リセット”をかけることにするのよ」
「リセット・・って?、ゲーム機でよくやる再起動みたいな?」
「そう、それ! 夏が終わるまでに私は迷走した自分を再清算したい。だから・・」
愛菜はここから先は桐子には言えなかった。
愛菜は子供の頃の自分に男の味を教えた男、飯山吾郎と再び関係を持つつもりだった。忌まわしくもあり、それ以上の愛おしさを感じるあの男と一時の遊びを楽しむ。
「ウフフフフ・・」
酒の酔いが回って変な笑いを漏らしている愛菜のことを桐子は心配そうに見ている。
長い時間が経過して18歳という年齢になって、失恋でしがらみが無くなった自分はどのように吾郎と向き合えるだろうか。あの吾郎は大人になった自分をどう扱ってくれるだろうか。愛菜はそれを考えるとなにやら楽しくなってきた。
自分は小学生のあのときと同じように、吾郎との愚かな関係に溺れてしまうかもしれない。だとしても、今度は我を忘れたりはしないつもりだった。
あくまで遊びは遊び。ひと夏だけの一時の偏愛を楽しんだら、あとは全てを忘れて、新しい自分に生きる。そのための遊び。
酔いが回った愛菜はベンチの上、桐子の横で眠り込んでいる。
「・・ったく、しょうがないねえ愛菜は。でも、この子変なことしなきゃいいけどさ」
そのときに二人の前に、中年の男女3人が現れる。
「あなたたち山波高校の生徒だよね。今、何時だと思ってる? まさか飲酒までしてるんじゃ?」
「え!? まさか先生の見回りですか? いやっ、私たちは高校生じゃなくて」
「いやいや、その制服の校章、どうみても山波高のものでしょう」
教師たちに補導されかかった桐子は運転免許証で年齢を証明したのだが、自分がナンチャッテ女子高生だと暴露することになってしまう。
「いやいやいや、高校を卒業したからっていきなり飲酒ってのはマズいでしょう?」
「はい・・、すいません」
桐子は頭を下げつつ、真っ赤な顔をして酔いつぶれている愛菜を横目に見る。
翌日の早朝。朝のラジオ体操を終えた十時純菜は飯山商店を訪れている。
さすがに営業時間前なので、買い物目的ではない。
「もしも~し飯山さ~ん」
「あ、純菜ちゃん、いらっしゃい」
「うちに電話くれたみたいだけど、その件は・・」
吾郎は純菜を奥の座敷に案内する。そこに吾郎が十時家に連絡した理由があった。
座敷に真っ赤な顔をして眠りこけている愛菜の姿。それを見て、はぁ~~、と深いため息をついている純菜だった。
「これってお酒飲んでるよね。よく眠ってること」
吾郎はどうにも気まずそうな態度をして。
「いや、午前3時回ったくらいかな。愛菜ちゃんが突然ここに訪ねて来てさ。てっきり前日にここから家の方に帰ったと思ってたんだけども」
「何もしてないでしょうね?」
純菜はジトリとした目で吾郎のことを見る。吾郎はあわてたように。
「な、何もしてないよ!」
「そうじゃなくて、コッチがってこと」
純菜は赤い顔の姉を指さす。
「ああ、何も。うん、一度吐いたくらいのことで」
「は~~・・。ところでなんでお姉ちゃんは高校の制服着てるの。・・いやまあ、どうせロクでもない理由だからね」




