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駄菓子屋でのひと夏の偏愛  作者: テツヤ
13/33

ナンチャッテ女子高生

 愛菜は真夏で暑い盛りだというのに、薄手のコートを羽織って町の商店街を歩いている。

「あ~、さすがにこの恰好はあつい、あつい、あつい・・」

 愛菜はそんなことをつぶやきながら、コートのボタンをひとつ外して手のひらでパタパタとあおいでいる。

 雨が降っているわけでもなく、暑ければコートは脱いでもいいはずなのだが愛菜がこの恰好をしているのには理由がある。愛菜は暑がりながらも、視線を迷わせてそわそわと人目を気にしている様子。ハタから見て少々不審なこの姿のこともだが、愛菜が気にしている理由がこのコートの下にある。



 愛菜は飯山商店に入る。ピンポーン、と呼び鈴が鳴って、店主の飯山吾郎が現れる。

「あ、愛菜ちゃん! いらっしゃい!」

 愛菜は吾郎の顔を見ると照れくさそうに笑う。

「あ、あの吾郎さん。今日はその、ええと、私、吾郎さんに言われた通りにしてきた」

「えー、言われた通りってのはなに?」

 愛菜は吾郎のトボけたようなというか、本当にわかってないかのような反応に怒って顔を真っ赤に染める。

「ま~たっ! わかっててそんなこと言うんだから!」

「・・もしかして、その暑そうな恰好が? そのコートの下が・・その?」

 愛菜は苛立たしそうに、店の奥の座敷に上がろうとする。

「早く、暑くてかなわない! 兄ちゃんもコッチに上がって!」

 愛菜は子供の頃にそうしたように、我が物顔で店の座敷に上がり込み、吾郎をいざなうと引き戸を閉じる。



 愛菜は、自分で早く脱ぎたいと言ったコートを脱げずにいた。

「うー・・、いざとなるとやっぱ恥ずかしい~」

 愛菜が吾郎の方を見れば、吾郎は野蛮な視線を自分の胸元に送っている。愛菜は羞恥心で爆発しそうになりながらもコートのボタンを順番に外していく。コートのボタンを全て外すと、愛菜は自分の身体をかばうようにコートを絞ってしまう。

「・・・それじゃ見れないよ、愛菜ちゃん。脱いで」

「いや・・、でもさ」

 愛菜は照れくさそうに身をよじっている。なんとも初々しい色気がある。

「だいたい、初めて見せるわけじゃないだろ?」

「それはっ! それを言ったらそうだけど! 吾郎さんにはまだ見せてない・・!」

 吾郎は粘っこい笑いを浮かべてカメラを手にする。

「え!? ちょっと、何それ! まさかソレで撮るつもりなの!?」

「ああ、そうだ。せっかくだから記念撮影をする」

 愛菜は驚いて、手を振って拒絶する。

「まってまってまって! そんなコト、国男にも許したことないのに!」

「だめだ、脱ぐんだ。愛菜ちゃん」

「・・はい」

 吾郎が命令口調になると、愛菜はおびえた顔で従う。

 このようなやり取りが8年前にも何度かあったように思う。淫らなことを命じる吾郎に黙って従うことに、幼い愛菜は独特な喜びを感じていた。

 愛菜がコートの前をはだけると、汗ばんだ身体が体温による熱気から解放される涼しさ。

 愛菜が脱いだコートを畳の上に放ると、吾郎は興奮した感じで愛菜の姿を撮影していく。愛菜は恨めしそうな目で吾郎のことを睨む。



 山波高校の夏の制服を着てポーズを取る愛菜を吾郎は撮影していた。

「あ~、制服姿の愛菜ちゃん。とっても可愛い~」

「・・ったく、こういうのは国男にも許したことないんだが」

 大学生にもなって高校生時代の制服を着るというのは愛菜には羞恥な出来事ではあった。しかし、それを吾郎にせがまれれば断るわけもない。

 バカバカしいとは思うのだが、親にも誰にも話せない遊びに愛菜はひたることにした。

「ホラホラ、ここも撮影するかい? お兄さん?」

 愛菜は自ら丈の短いスカートをまくり上げる。吾郎はそんな愛菜の行為に驚愕してしまったのか固まっている。吾郎は目を丸くしながらも、視線は愛菜のスカートの中を見つめている。

「ばあ~~っ」

 愛菜がまくりあげたスカートの下にはスパッツが着用されていた。それで吾郎の表情が半ば落胆したものに変わった事で、愛菜は喜ぶ。

「ギャハハ! 私は高校ではこれを着けていたのだよ。ガッカリした? ガッカリした?」

「あ、うん。ちょっと」

「ギャハハ! 誰かさんみたいなスケベがいるのに無防備でいられますかっての!」

 愛菜はこの夏に帰省してから、これだけ笑ったのは初めてだった。帰省早々に彼氏の裏切りが発覚するなど、気鬱な気分が続いていたから。もっとも、その気鬱の原因の半分はこの吾郎との再会だったのだが。

「ねえ、兄ちゃん。一緒に映ろうよ・・」

 吾郎は少し驚いた顔をしている。それでも喜んで応じてくれた。

「これってタイマー撮影ってできるの? ・・やったことないって、ボッチのアンタらしいな。・・ここをこうするんじゃない?」

 愛菜と吾郎は一緒に自分達の姿を撮影した。撮影された画像を見れば、親子でピースサインしながら自宅撮影したかのような野暮ったいモノではあった。結局、親子ほど歳が離れているのだから仕方ない。



 少々疲れた愛菜はけだるそうに吾郎に身を預けている。

「ねえ・・」

「何? 愛菜ちゃん」

「襲わねえの?」

 プッ!、と吾郎の唇が鳴る。

「いったい、何を。愛菜ちゃん、どうかしたの? この前から」

「私の制服姿を見たいって言ったことは、制服姿でしたいってことじゃなかったの?」

「いやいやいや、それって全く違うし! それに長く疎遠だったから、『制服姿の君も見たかった』って言ったんだよ」

「ぶ~・・、まあいいや」

 よっこらせ、という感じで起き上がった愛菜は引き戸を開けて、自分の靴を履く。

「じゃあ、また来るわね♪ 吾郎さん」

 愛菜はわざと声色を作って吾郎にウインクする。その愛菜は無人の店先を通って帰宅の途につく。その愛菜は大事な忘れ物をしていることに気が付かなかった。



 愛菜は自宅への帰り道の途中にあるウインドウをのぞき込んでいる。

「まあ、ウインドウショッピングってやつかね・・」

 飾ってあるものを買うでもなく、欲しがるでもなく。そんな愛菜がガラスに映った自分の姿を見て、あることに気が付いた。

(私、高校生の恰好してるわ・・!)

 すぐに、駄菓子屋にコートを忘れていることを思い出した。それを取りに戻ろうと考えたが、明らかに距離が遠い。それよりも一旦、自宅に戻ってから出直すのが実際的だ。

(今、私、すんごくみっともなくない!?)

 高校を卒業してから、またその制服を着るという、要説明的なスタイル。それがイヤだから行きにはコートを着たのに、なぜ帰りで忘れたという。

(いやいや、私だって去年まで女子高生だったわけで)

 年齢的に言えば、この姿は全く不自然ではない。問題なのは、自分がすでに高校を卒業しているということを知っている人物に見られること。

 例えば、同じ山波高校に通っていた生徒。その中でも顔見知りの限定された者に見られなければ・・。例えば・・。

「もしかして愛菜か・・!?」

 聞きなれたような若い女性の声にギクリとした愛菜。名前を呼ばれたということは、明らかに自分を知っている。愛菜は聞こえないふりをして、逃げるように歩き去ろうとしたのだが。

「やっぱ、愛菜じゃんか! どうしたのさ、高校の制服なんか着てさ!」

 やっぱりコイツか、と思って見れば、声の主は山波高校の卒業生で、元バドミントン部の友人である桐子とうこだった。桐子は運転している乗用車の窓から愛菜の姿を見つめている。

「ええと、この服は・・と、特に気にすることじゃないからスルーしていいよ」

 愛菜はこの場を切り抜けるために、ごまかそうとするのだが。

「ふ~~~~ん!? ・・・ああ!そうか、わかった! 面白そうじゃねえか!私もつきあうぜ!」

「え!? いや、待ってよ!」

 桐子は勝手に納得すると、車へ強引に愛菜を乗せると走り出す。



「だから、なんでアンタまで高校の制服着てるんだよ!」

 二人して女子高生スタイルになった桐子と愛菜は、乗用車で夜の道を市街地に向けて突っ走っている。

「いや、その恰好はナンチャッテ女子高生なんだろ? 街でナンパ待ちとか、逆ナンとかするつもりなんだろう?」

「違うわ! お前と一緒にすんな!」

「じゃあ、その恰好にどんな理由があったってんだよ?」

「・・・いや、・・・それは」

 愛菜にはとても本当の理由は話せない。誤魔化す言葉も浮かばない。

「ほらな! まあアタシもアンタのお遊びに一晩つきあってやるわ」

 アカンこいつ、と愛菜は思った。桐子の運転する車は交番の前を横切る。愛菜は自分達の姿が警官らから見られたような気がした。

「あの、桐子。この恰好で車の運転はマズくねえ? ・・・、いや!アンタが免許持ってるのは知ってるって!」

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