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駄菓子屋でのひと夏の偏愛  作者: テツヤ
12/33

新しい恋の始まり

 十時愛菜は自分のことを裏切った年下の男、宇多田国男からメールが届く。

 帰省早々に、ずいぶんと遅まきにその裏切りを知って、そのときに愛想がつきたはずの男からのメールを見て、愛菜の心は沸き立つ。彼女の心が沸き立つ原因は、それは怒りだけなのだろうか?

 愛菜は、自分ひとりではそのメールについて処置が決められず、高校の同級生だった桐子に電話をかける。


「あ、もしもし。桐子?、愛菜だけど。今、ちょっといい?」

『ん!? いいけど、何?』

「実は・・・」


 電話の向こうの桐子は、愛菜から国男からのメールのことを説明されて、それで、考えこむようにうなっていた。

「えと・・、桐子?」

『あ・・、うん。ゴメン、私にはどう答えて良いのかわかんない』

「それって・・」

『わかんない、というのは難しいというより、その答えは愛菜自身にしか出せないんだ』

「うん、でも・・」

『この場合、愛菜がそれについて”どうしたいのか?”なんだよ』

 愛菜は返す言葉が無かった。それをコッチに相談されても答えようが無い、とは言われてしまう。

『しかし、国男の奴。何が《一度会って話がしたい。ちゃんと謝りたい》だよ。それって、神妙とか殊勝とかいうの?アイツの今までの行動から考えて。愛菜は怒ってないの?』

「いや、怒ってる・・けどさ」

『何ソレ! 優しくてマジメで、そんな表の顔とは裏腹に激情家な愛菜らしくねーぜ!』

「おい桐子!、私をそんなふうに見てたんか!」

『とにかく! 国男の真意はロクなものじゃない。この場合、会っても”よりを戻したい”とか言いそうだな、オイ』

 愛菜は国男の気持ちについて、桐子からそう指摘されて心が波打った。胸が高鳴って、身体が知らず熱くなってくる。

『・・って、聞いてる?』

「あ、ゴメンゴメン。聞いてる」

『ちゃんとわかってる? アンタは国男に安く見られてるってことなんだよ』

「・・・うん、そうだよね・・・」



 翌日、愛菜は母校の山波高校に向かって歩いている。

「国男のやつは、私に考える時間もくれないんだ・・」

 国男が送ってきたメールでの会う時間の指定が1日後の午前9時。愛菜の言う、考える時間も無いとはこれのことだが。そして、会う場所が山波高校の校舎裏。ということで、愛菜はかつての去年までの登校路を歩いているわけだが、学校は夏休みということで道には高校の生徒はいない。

 愛菜は国男のメールには返信をしていない。だから、二人が会う約束自体が存在していないとも言えるのだが、愛菜は約束の場所に向かっている。

「会って、それで、私は、どうするんだよ、わかんない」

 声に出してつぶやくのも意味がない、と思い直して黙るのだが何も解決していない。愛菜は母校の校門についてしまった。

 校内では、生徒たちのかすかな声が聞こえてくる。愛菜は部外者感を持ちながらも、校門をくぐった。



 愛菜は待ち合わせの場所に、だいぶ早く着いた。校舎裏というのは、人がいるかいないか微妙なスポットだが、今は誰もいない。

(いっそ、誰かいてくれてたらよかったのに・・)

 などと考えてしまう愛菜だった。それだけ、逃げ出したいという気持ちが強い。

(よりよって、この場所なんだ)

 この場所は2年前の、高校2年生だった頃に国男から告白された場所だった。今となっては良い思い出の場所ではない。

(やっぱり帰ろう!)

 愛菜がこの場から逃げ出そうとしたときに、真の前に男子生徒が現れた。愛菜を悩ませている張本人である、宇多田国男である。

 国男は、愛菜がこの場にいることに驚いているような顔をしていた。呼び出した本人であるのに。国男は気まずそうに、発する言葉を考えているのか、口の中でもごもごとしていた。

「久しぶり、だね。国男」

「あ・・、うん」

 気まずいのは愛菜も同じだ。仕方がなくというか、年上の自分が言葉を出す。



「それで、君は私に何を言いたいのかな?」

 メールでは『謝りたい』などと書かれていたが、愛菜は国男に一応問うた。

「ええと、十時先輩に謝りたくて」

「何について?」

「ええと、浮気をしていたことについて」

「何だよ! ソレ!」

 愛菜はそばの壁をズドンと蹴った。愛菜にしてみれば”浮気”の2文字で済まされたくない。

 国男は愛菜のその態度に震え上がっている。国男にとって愛菜は甘えさせてくれる優しい女性だったから。それでも、愛菜を怒らせているのは自分だという自覚はあるのか、取り繕う。

「ええと、男らしくありませんでした。なんというか、途中から俺はおかしくなったというか。エロいことばかり考えていて」

「・・それだけなら、いい。私ががっかりしているのは、私への気持ちが無くなったあとも二股をかけたうえで身体はもてあそんで。学校を卒業したからって、いつのまにか切られてて。あなたにとって私はなんだったのだ?」

「・・・それは、その」

「生きたダッチワイフか、何か?」

 ガバッ!、と国男が地面に土下座する。

「申し訳ありませんでしたっ!」

 チッ!、と舌打ちをする愛菜。

「ダッチワイフってとこは否定しろよな。我が身が哀れすぎる・・」



「もう、謝らなくていい。ホラ、涙をふけ」

 愛菜はハンカチで国男の顔をふく。

「すいません、やっぱり十時先輩は優しいです・・」

 愛菜は苦笑いしつつ。

「君は最後まで”十時先輩”と呼ぶんだな、”愛菜”ではなくて」

「すいません・・」

「実を言うと・・、君が『よりを戻したい』などと言い出していたら・・。私は揺らいでいた。うん、おそらくね」

 国男は驚いた顔で愛菜の顔をみつめてくる。

「君はそんな気持ちじゃないみたいだがな。私がバカなだけだ」

「そんなことありません・・」

「ところで、君は今まで誰彼かまわず年上に告白しまくっていたんだって? 君から告白されてのぼせ上ってしまった私がバカだよな」

 その話は昨日、桐子から聞いたことだ。

「ええと、誰彼かまわずというわけでは・・。十時先輩は魅力的なひとです!」

 生真面目な表情を作っている国男のことを、愛菜はやっぱり好きだと思った。ここで、愛菜は桐子から聞いた許せない一事を国男にぶつける。

「ウゼエッ! お前は私の前に桐子に告白してたんだろがっ! 私はアイツの次点候補かよ!」

 国男はそれについてはごまかしきれず、苦笑いして頭をかく。

 愛菜は、もうそろそろ話はおわりにしよう、とばかりに歩き出す。愛菜はここに来てよかったと心から思った。色々と間違いのあった恋愛がこれで終わったわけだが、妙にさわやかな気分だった。最後に、国男に対して皮肉を言ってやろうと、愛菜は思った。

「次の恋人はちゃんと大事にしてやれよ」

「はい、必ず・・」

 愛菜は国男のその返事に違和感を感じてしまう。

「次が、もういるの!?」



 愛菜が国男と別れてから向かったのが、バドミントン部のコートだった。夏休みであるのに部員の女生徒たちが練習に励んでいる。

 夏休みの高校では当たり前の光景なのかもしれないが、愛菜の後をうけて女子部部長を継いだ真壁敏子が仕切ってからはこうなのだ。

 十時愛菜部長が発足した当時、幽霊部員を合わせて5名だったバドミントン部は部員数を増やして現在では20名にもなる。もっとも、その大部分は敏子がまとめる女子部であり、国男がまとめるはずの男子部は数名となっているのだが。

 後輩の部員たちの練習を見つめていた敏子は、近づいてくる愛菜に気付くと嫌な顔をする。愛菜と敏子は、この前の喫茶店でのやりあい以前に、バドミントン部の方針を巡って何度もやりあっている間柄なのだ。

 仲良しクラブを作りたかった愛菜と、対外試合に勝てるチーム作りを目指した敏子は、部員たちを戸惑わせるほど衝突した。前部長の愛菜が卒業してからは、敏子は自分の好きに部を動かしている。

「なぁんですか? 十時先輩。見ての通り練習中なんですがぁ」

 敏子は愛菜に対して露骨に嫌な態度を取っている。それでも、愛菜は笑顔だった。

「敏子ちゃん、国男とつきあうんだって?」

「・・聞いたんですか。国男のやつから。それが、何か?」

「妙だと思ったんだよ。あの国男が、私に謝るためだけに会いたいと伝えてきた理由がね。私とは二度と会いたくないというのが本心なハズなのにさ。敏子ちゃんが、『ちゃんと謝れ』って言ったんだね」

 愛菜からそう言われると、口元に拳を当てて気まずそうに横を向く。それは自分の表情をごまかすためなのか。

「当然でしょう? 国男はそれだけのことをしたんです。先輩からリンチされてでもケジメを付けろって言ってやったんですよ」

 この前、喫茶店では『悪いのは淫乱のアンタ』みたいな態度を取ったのにさ、と思った愛菜はニヤニヤと笑う。

「まぁ、スッキリはしたよ。敏子ちゃんには礼を言っとく。これからも国男と部のことはよろしくね」

 握手を求める愛菜にしぶしぶ応じる敏子。

「部はともかく、国男のことはよろしくされてもダメなんですよ。国男とつきあうための条件は2つあって、ひとつはさっきの『ちゃんと謝る』のと、もうひとつが『結婚まではしない』なんです」

「なんだって!?」

 この『結婚まではしない』というのを、男とつきあう条件に付けるというのは聞いたことが無い。欲ボケの国男がこれに耐えられるとも思えないのだ。

「だってそうでしょ? あまり知られてないですが、私と国男はイトコ同士なんです。合法とはいえ近親結婚なんてできますかっての」

 聞いた話では幼馴染でずっと仲良しだった敏子と国男。敏子は国男を好きだったに違いないのだが、近親者ゆえの隔たりを置いているわけだ。

 愛菜と国男のただれた密会を知った敏子は苦しんだ。しかし、立場上それを止めることは避けた。

「私は、惚れ症に加えて、誰かさんに欲ボケ症まで付けられた国男を真人間に直すというだけです。アイツが次の恋人を見つけるまでにね」

 そんなふうに、皮肉を付け足した敏子の気持ちを知って、愛菜は彼女の肩を叩くと笑ってコートを後にする。

 しばらくして、敏子の元に国男が駆け寄ってくる。

「ねえねえ、敏子ちゃん。十時先輩、何て言ってたん?」

 そんな国男の顔をまじまじと見て敏子は。

「アンタ、先輩にリンチされたんじゃなかったの?」



 愛菜は例の駄菓子屋の座敷に寝そべっている。

「ねぇ~、兄ちゃん。いいじゃんか~、もっと甘えさせてよ~。ホラ、昔みたいにさ」

 吾郎は突然やってきて、自分に甘えてくる愛菜に戸惑っている。それでも、身体を半ば預けてくる愛菜の髪を優しくなでる。

「あ・・、そうそう。そんな感じぃ、気持ちいいよ、兄ちゃん。男の欲望をごまかしてるつもりの、このネチッこい撫で方、ずいぶんと久しぶりで・・」

「いったいどうしたの愛菜ちゃん?」

「私のバカげた恋が終わったという、ほんとそれだけのこと・・」

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