表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
駄菓子屋でのひと夏の偏愛  作者: テツヤ
11/33

恋愛相談の回答

 昼下がり、十時愛菜は図書館で自習をしている。ついでというか、妹で10歳の純菜もここに連れてきている。今は8月であり、昼はクーラーなしでは過ごせない。姉妹ふたりして冷房の効いた図書館に来ているということは、自宅の電気代の節約の意味もある。

 愛菜はバドミントン部の後輩、真壁敏子に言われた言葉が憎々しさを伴って、頭の中を巡る。

(私のことをヤリマンみたいに言いやがって!)

 元、彼氏の宇多田国男との淫行を敏子に一方的に責められたわけだが、やはり納得はいかない。アレは確かに恥ずべき事だったのかもしれないけど、あくまで合意の上でのことであり、他人に責められるいわれはないはず。

「・・で、そのクニオは今、何をしてるんだろう??」

 愛菜はそんな事をつぶやいてみて、『私は何を言ってる!』と、それを打ち消した。

 愛菜のことを裏切って、なおかつ秘密まで暴露した憎い男。許す気はない、はずなのだが。

(まぁ、その秘密が以前からモロバレだったんですけど・・!)

 私が彼にした、アレも見られたのか? それとも、アレもなのか? 愛菜は自分と国男の行為のひとつひとつを思い出して、それが部のみんなに覗かれている場面を想像しては赤面する。

「お姉ちゃん、どうした?」

「あ、いや、なんでも」

 いきなり、妹から言われてあわててごまかす愛菜。

「お姉ちゃん、そろそろ帰ろうぜ」

「あ、うん。わかった」



 図書館からの帰り道に商店街の中を通る愛菜と純菜の二人。そうして愛菜は、ある店の前で足を止める。その店は、例の駄菓子屋、飯山商店。愛菜にとって飯山吾郎のいる忌まわしい場所のはずなのだが、愛菜はその店先をじっと見つめる。

「お姉ちゃん、どうした? ここに寄るんか?」

「あ・・、うん。私、用事があるから、純菜はうちに帰ってなさい」

「ふ~ん・・」

 姉にそう言われて、純菜は怪訝そうな声をしたが、言われた通り家の方向に歩いていく。

 純菜を見送った愛菜は、しばらくためらってから飯山商店の中に入る。


ピンポーン ピンポーン


 店の中に入ると、店の主を呼ぶ呼び鈴が鳴る。『そういや、コレが鳴るんだった』、とドキリとする愛菜。

「いらっしゃーい!」

 店の奥から、吾郎が現れる。かつて愛菜が、愛だの恋だの知らない子供の頃に、淫らな時間を過ごした男。愛菜に男を喜ばせるすべを教えてくれた男である。今、彼とこうして面と向かい合うと、やはり恐怖の感情もある。愛菜は、震えそうな脚をごまかす。

 それなのに、この夏に彼と再会してから、ここへたびたび会いに来るという奇妙な関係。愛菜は自分で、そのことを不思議に思った。

「ああ、愛菜ちゃんか、また来たんだね」

 その忌まわしい男は愛菜を最高の笑顔で迎えてくれた。



 吾郎は愛菜がこの夏に失恋していることを知っている。この前再会したときに、愛菜は吾郎の前で泣いてしまって、それでつい話してしまったから。母親にも話さない秘め事を、吾郎には話してしまう。愛菜は自分でもそれを奇妙に思う。

 今日は、愛菜はその吾郎に、自分と国男の関係のことを話した。自分では良かれと思ってやった、お遊び半分の肉体関係。そして自分が知らないうちに国男の気持ちが歪んでしまったのか浮気に走ったこと。彼が気持ちが冷めてもなお、自分の身体を弄ぶことはやめず結局捨てたという、全く理解できない行動について。

 なぜそれを吾郎に話したのだろう?、と愛菜は自分でも妙に考えたのだが、かつて『兄ちゃん』と呼んだ吾郎なら答えをくれると思ったのだろうか? しかし、国男との淫行を敏子に責められたことについては伏せた。それは話すにはあまりに胸クソが悪かったからだが。

「う~~~ん・・」

 吾郎は難しそうな顔をしてうなっている。私が別の男と関係を持ったことを怒ったりするかも、と心配もしていた愛菜だが、そういう感じでもない。吾郎が誰かに怒ったりしているところを自分は見てないのだと、今更ながらに愛菜は思う。

 吾郎は長く考えてから。

「あ~、そのクニオ君の気持ちもわかるな」

 吾郎はそう言ってから愛菜のひきつった表情を見て、あわてたように付け加える。

「あ~、別にその子を擁護してるわけじゃなくてよ。男ってのはそうなんだよ。本能的に性欲が強い」

 『それは・・、そうだ』、と愛菜は思った。初めは女性の身体に戸惑っていた国男も、すぐにむき出しの欲望をあらわにした。でも、その理屈だけでは納得はいかない。

「でも、だからって! 夫婦だって愛を確かめ合ったりするじゃんか! なんで私たちだけ!」

 愛菜は不満で駄々っ子のように拳を振った。でも、吾郎は。

「愛菜ちゃんに告白してきたのは、その年下のクニオ君だったよね。その子はずっと愛菜ちゃんのことを尊敬していたはずだ」

 愛菜はドキリとした。吾郎の言う通りで、バドミントン部の部長と部員と関係の頃から、くすぐったいような国男の尊敬の念を感じていた。そして、次にくる言葉も予想できる。『尊敬できない人になった』と。

「お互い肌を触れ合う関係になったクニオ君には、愛菜ちゃんへのありがた味が急激に薄れていった」

 皮肉ともなんともつかない痛烈な吾郎の言葉。その国男と肌を触れ合っていた愛菜には彼の気持ちの変化は感じていた。自分が彼にとってありがた味のない存在になっていた、と言われて『違う!』と言えない愛菜。

 吾郎は頭をポリポリかきながら。

「俺だったら~、絶世の美女が目の前に現れてさ、素っ裸でキスしてくれて胸も触らせてくれて毎日、何でも言うこと聞いてくれたとする。まぁ・・、2週間~、いや3週間でその美女に対する気持ちは全く残らなくなるな」

 まさに品のないオヤジ丸出しの吾郎だった。例え話の美女が君だ、と皮肉を言っているようなものなのだが。

「・・・やめて・・・」

「あ! いや、ゴメン!言葉が過ぎたぜ! オヤジの言葉と思って流して・・」

「もういいから!」

 振り切るように飯山商店から出ようとする愛菜。しかし、店先で妹の純菜と鉢合わせになる。先ほど家に帰ったはずなのだが。

「恋愛相談終わった?お姉ちゃん。夕立降ってきたから傘持ってきてあげたんだけど」

 空からは小ぶりの雨が降っていた。地面の様子からどしゃ降りの雨がきていたようだが、実のところ傘は必要ないくらいにはなっている。



 家の帰り道を歩く愛菜と純菜の姉妹。吾郎とのやりとりの場に子供の純菜がいた気まずさがあって、愛菜は妹に気がかりなことを問う。

「さっきの聞いてた?」

「ん、途中から」

「どの辺から?」

「お姉ちゃんが、クニオと肉体かんけいがどうこう言ってた辺りかな」

 ぷっ、と愛菜の唇が小さく鳴った。子供の純菜に聞かれてはマズイ辺りが丸々聞かれていることになる。

「あー! 子供のアンタには意味不明な会話だったろうけどぉ。・・忘れて」

「わかるよ。私、もう子供じゃないし。性教育せーきょーいくだって受けたもん」

 そうなのか!?、と思った愛菜。実のところ、自分が小学校でどこまで”性交”について教わったか覚えてないのだが。

「お姉ちゃん、クニオに毎日ハダカになってキスしたりムネさわらせたりしてたんか?」

 愛菜は、『うちの妹は何を言ってる!』と怒った。この辺りはやはり子供だ。どうも最後の吾郎の例え話が耳に残っているようだが。

 愛菜は妹の問いに、ごまかすか正直に言うか迷ったが、結局は。

「うん、した。いや、毎日じゃなかったけど」

「ふぅ~ん」

 いや、その『ふ~ん』は何だ? 愛菜はこの話題は打ち切りたかったのだが。

「男の子って! そんなことしたらどんなはんのうするんだろ! スカートめくりなんかするやつらにおしり見せたりすんの! あ!そっか! そういうときにアレすんの? アレ~・・、そう!”ボッキ”ってやつ」

「もういいから! アンタには十年早い!」

 でも、純菜は止まらない。ほおをふくらませて唇を尖らせる。

「でもぉ、お姉ちゃんとクニオには早くなかったの? ハダカを見たり見せたりするの、18才からでしょ?」

 『お姉ちゃんとクニオには早くなかったの?』 聞き飛ばしても、無視してもいいような子供の発言。愛菜はそれにハッ、となった。妹はそれにかまわず、笑って話題を続けている。

「まぁ、うちの学校の男子もネットの18禁のエロエロ動画、へいぜんと見て、なんかじまんすらしてるよ。それ”いほう”でしょ!いほう」

 18歳未満の者にわいせつな行為をしたり、わいせつな物を見せることは違法。それが条例だったか法律だったのか、法学部ではない愛菜はわからなかったが。

(なぜ、そんな法令があるのかと言えば、精神が未熟な者にそのような事をすれば精神、価値観に重大な悪影響を与えるからだ!)

 愛菜も、面白半分にエロ本を読もうとした妹からそれを取り上げた。

 大人達は未熟な青少年を守るためにこの法令を作った。18禁な物に触れる子供も悪いが、大人達はそれを青少年に触れさせてはいけないのだ。と、愛菜は思い返した。

(私はそれを国男にしてしまったのか・・!?)

 自分が面白半分で国男にしたことが、彼に重い悪影響を与えてしまったのか? そう、自問自答をする愛菜。

 その愛菜は、ままごとのような男女交際をしていた頃の自分達を思い出す。学校で会って、話して、部活して、そんなありきたりの学生生活を送っていた幸せを思い返す。

「私は・・」

 飯山商店の吾郎は年端のいかない年齢の愛菜に淫らな行いをした。それは愛菜にとって決して良い思い出ではない。そして、刑法で罰せられても仕方がない行いでもある。

 吾郎の被害者とも言える自分が、その吾郎と同じ行為をしていたというのか?

 答えは出ず、夕食時には食欲は失せていた。



 愛菜は中断している大学の課題に手がつかず、モヤモヤとしているところに、携帯からメールの着信音。そのメールの送信者は、『宇多田国男』だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ