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必死の避けに徹している俺の斜め後ろで、戸惑う様にユラユラと槍の穂先が揺れている。

攻撃をあぐねるのは仕方ないと思うけど、そろそろこれにも飽きている俺としては、俺ごとでいいからぶち抜いてほしいくらいだ。


疾風のようになっている変異型の無尽蔵に思える拳が、風圧で細かな傷を作っていくことに構っている暇はない。

この際へし折られてもいいから俺が突っ込むべきだ。


「ルイさん!任せた!!」

「え?」


いっそう体を低くして俺は変異体に飛び込んで行く。大鎌に戻した武器を腹にぶち込んでそいつの気を引く。

自分の骨の折れてる音とか視界が削れていくのとか、そんな事はどうでもいい。

腐った血飛沫が腹から吹き出している中、俺の意を汲んで刺さっている鎌を踏み台にしてルイさんがゾンビの身体を駆け上がり、その槍で眼球を貫いた。ただ力が足りないのか押し込みが足りない。全身に力を込めているのは分かるけれどゾンビの手が蠢いているからにはまだ息があって。


無数の腕に抑え込まれている俺は手を貸せない。

あと一息の押し込みが欲しい。そう思っている俺の気持ちが伝わったのか真田さんがルイさんと同じように、俺の背を駆け上っていった。

全力で押し込んでいるルイさんの槍を彼女と一緒に握りしめ押し込む。

ズルッと槍がめり込んだ。その瞬間。


「ぐやあああああああああ!?」


叫び声が響いて変異体がゆっくりと倒れ込んだ。二人は頭から飛び降りたけれど、鎌を腹に刺していた俺は、変異体ゾンビの無数の手で抑え込まれていたから素早く動くなんて出来ないし。巨大な肉塊にどっさりと乗っかられて苦しいっ。

多分俺のじたばたしている足でも見えたのだろう。下敷きになった俺を真田さんが引きずり出してくれた。


「大丈夫かシロ」

「う、視界がまだ戻りません。もうちょっと待ってください」


眼球が戻るまでにタイムラグが。その真っ暗な状態で何者かにドーンとどつかれた。

勢いあまってその何かと一緒に仰向けに倒れる。


「うえ!?」

「大丈夫かシロ!?」


勢いが半端ありません妹女神。せめてお兄さんのように待つとかできないのでしょうか。頭上の方でやれやれ的な溜め息を吐く真田さんの声が聞こえて。

それなら止めて下さいって言いたいけど言えなかった。

だって本当に吹っ飛んできた感じだったし。止めようもなかったんだろうな。


視界が戻り皆の顔を見てほっとした。

傷ついてはいるけれど誰もかけていない。良かった。

俺が目を開けたからか、皆も俺を見てほっとした顔になった。死神は死なないから大丈夫なのに。


骨も戻ったので立ち上がり、先に待っている階段を見る。

大きな階段の先に何があるのか。誰がいるのか。


この先の階に多分、置いて行ってしまった二人がいると思うから。

俺がギュッと手を握ったのを、気付いた妹女神にそっと握られた。


「大丈夫だよ、シロ」


事情を軽く話してあるから、妹女神には俺の緊張が分かるのだろうか。

この先に生者がいる可能性なんてほとんどないから。


「…ありがとう」


俺がそう言って、階段に向かうと三人も黙ってついて来た。




階段を半分ほど登ったところで立ち止まる。

見えたフロアに誰かが立っていた。

見た事のある靴。細い脚。短いスカート。


見上げると、春留がにっこりと笑った。


「よく来たな、死神」


何時も通りの口調で言う春留は、体中汚れて血塗れだった。


「…春留?」


呼ぶと小さく首を傾げる。些細な動作なのに春留の髪から血が滴る。見上げたまま一段上る。随分と顔色が悪い。薄く笑っているその表情もいつもと違って不遜さが見えない。


「…死神」

「え?」


階段を上り切らない俺の所に、春留の身体が落ちてきた。

慌てて両手で受け止めると、俺の腕の中で春留が小さく笑う。最初に会った時のように。


「…死神」


春留が小さな声で俺を呼ぶ。

俺はその命の短さをいやがおうにも確認してしまい、絶句した。





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