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妹女神が何の事象からも影響を受けない事は聞いていた。
だけど、これは。
真田さんの前に立って全ての攻撃を彼女が一身に受けていた。
殆んど全方位からの攻撃に眉をしかめて耐えていて、後ろの真田さんが身体を変異させて大ぶりの爪を出して攻撃をしている。
真田さんは泣きそうな顔をしていたが妹女神が自分の盾になっている事を無駄にしないために必死で戦っていた。
その間にも身体がガクガクと揺れている妹女神は無傷のままで攻撃を受け続けている。痛くないと言っていたがそれだって揺れる衝撃は感じているはずで。
俺は走り出していた。
鎌を振りかぶってゾンビの背中に切り込む。
俺を振り返ったゾンビに応戦しながら、ちらりと二人を見ると真田さんは泣きそうな顔をしたままだったが、何故か俺の視線と妹女神の視線がばっちりと合った。それから妹女神がこっちに向かって走ってきて、俺に当たるはずのゾンビの拳を後頭部に受けながら、俺の胸に飛び込んできた。
「何をしに来た!?」
俺が叫ぶと妹女神まで叫んだ。
「シロを守りに来たの!」
そう言いながら妹女神はゾンビの拳を手で受け止める。
撓むんじゃないかってぐらいに手が弾かれたけど、何ともないようにまた胸の前で腕を構える。
襲い来る拳を全部その身で受け止めながら、俺を見上げて嬉しそうに笑った。
ああ、無理!この状況!
お兄さん何とかして下さい!!
慌てふためく俺をゾンビが見逃すはずもなく、攻撃はさらに加速していく。
仕方なく妹女神を抱え上げて真田さんの方へ全力で放り投げる。
「シロのバカー!」
不満の声は聴いてやらない。
急に盾になっていたモノを遠くへ投げた俺に驚いたゾンビが動きを一瞬とめた。その隙をついてゾンビの腹を下から切り上げる。三体目ともなるとこちらにも余裕は出て来るし、何よりルイさんと共闘できるなら仕留めるのも早いはずだ。
そんな事を思った俺がいけなかったのか、ゾンビの動きが変化した。
振り上げた腕が根元からにちゃりと割れて二本に分かれた。他の腕も次々と分裂していき六本の腕を持っていたゾンビは、まるで千手の神様のような姿になる。
怪物であるゾンビにそんな例えをするのは失礼かもしれないけど。
「本当にへカトンケイルみたいねえ」
ルイさんの意見もちょっと不穏かもしれない。
見上げていた俺に向かって連打を繰り出してきた。無数に見えるその拳が烈風を纏って襲い掛かってくる。
一つ一つの拳の威力も軽減されるわけでは無くて、さらに加速しているその動きは、もはや体の周りに黒い風を纏っているかのようだった。
後ろに下がって事を構えなおしたいのだけれど、風圧が凄くて下がる事も出来ない。
拳を避けるのが精いっぱいな俺の後ろで、ルイさんもまた隙を狙いあぐねている様だった。戸惑いの気配が伝わってきた。後ろから見れば避けている俺と攻撃しているゾンビともに素早い動きをし続けているのだから、何処が隙やら分からないだろう。