表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/27

21

お待たせしました。





真田兄妹を「003」と書かれたベッドルームに連れて行った後に、俺は北欧の女神がいる「006」の部屋に入って待っていてくれた女神に頭を下げた。


「有難うございます」

「サーモン美味しかった?」


見ていたのか。

俺は苦笑しながら肯く。


「美味しかったですよ。さすが本場ですね」

「そうでしょう?それは自慢できるのよ」

「でも、あれどうやって持って来たんですか?」

「ん?企業秘密」

「ええ?」


俺が笑うと女神も笑ってくれた。

理知的な眼鏡美人が笑うとやっぱり華やかだなって思う。


「シロ君ってけっこうむっつりでしょ」

「な、何を言いだすんですか急に!?」


今の流れで何処にそんな部分があったのか教えて欲しい。

女神がこの部屋にある椅子を勧めてくれたので、俺はそこに座る。

相向かいの椅子に女神も座った。


さて、何を知っているのか聞かなければならない。どうして助けてくれたのかとかは後で良い。


「今回の事態の真相って知っていますか?」

「あら、随分急かすのね。…真相っていう訳じゃないけどある程度なら知っているわよ」

「…何を知っているんですか?」

「あいまいな質問には答えられないわ」


そうか。


「…人間がゾンビになった理由は知っていますか?」

「ウイルスね」

「…自然発生ではないですよね」

「もちろん。人工的に作られたDNA変革ウイルスよ」


分かってはいたけれど、やっぱりショックを受ける。


「誰がやったか知っていますか?」

「特定の誰とは分からないけれど、一つの国じゃなくて複数の国の研究者が集まって開発していたみたいね」

「何のために?」


女神は眼鏡の位置を指で直してから、俺の質問に答える。


「元々は軍事用の強化人間を開発していたみたいよ?耐久性に優れていて上からの命令を忠実にこなすような人間が造れないかって」

「…バカげている」

「そうね。馬鹿な考え方だと思うわ。思考を画一化した人間を果たして人間と呼べるかも怪しいし」

「強いロボットとかを作っても一緒じゃないんですかね」

「あら、ロボットはそれなりに設備と資材が必要になるわ。貴重な鉱石や金属を大量に使うとしたら莫大な資金も必要になるし。その点、人間を開発するのなら実験対象だけは無料ただで無限に近い数がいるしねえ?」


そんな考えには吐き気がする。

俺の顔を見て女神が苦笑した。


「世の中の全員がシロ君みたいな考え方をしている訳じゃないわ。利益優先の人もいるし自分の知的好奇心だけを満たそうなんて人もいる。我が儘が通る場所なら人は幾らでも我が儘になれるものなのよ」

「そうでしょうけれど」


その一握りの人間の為に、世界中の人間が望みもしない未来に進まされてしまったのだとしたら、余りにも悔しすぎる。

北欧の女神は組んでいた足を組み替えて、じっと俺を見た。


そうだ。自分の感情に溺れている時間は無い。

聞きたいことは山のようにあるんだ。


「そのウイルスが最初に外に放たれたのは何処の国ですか?」

「北米だったと聞いているわ。けれど、他の国に捲かれたのも僅差の時間だったらしいわね。情報が入って来た時にはほとんどの国が感染者で埋まっていたから」


一斉に世界中にゾンビが発生した。

それはどの国でも想定していなかっただろうし、対処も出来なかっただろう。

では、この世界は本当に破滅してしまうのだろうか。


「そんな顔をしないでシロ君。私達も力になるわ」


女神が語る言葉に頷く。


「どの世界のどんな神だって、人間がいなくなっては存在意義がなくなってしまう事ぐらい承知しているわ。語り継ぐものがいない神なんて、無用の長物だもの」


女神が小さく肩を竦めた。

俺達死神にとって、人間は切っても切れない糸でつながっている存在なのだが、他の神にとっても別の理由で人間の存在が必要な事に少し安心をした。

見向きもしないと言われたら、悲しいだろうから。


「一斉にゾンビの存在を作り出すなんて、組織以外に考えられないのですが。そんな組織に心当たりはありますか?」

「遠回しな聞き方ね。私はそこには所属していないわよ?」


女神があからさまに苦笑した。

だって白衣着ているし研究者っぽいし。


春留と同じような格好に少しだけ警戒をしていたのだが、女神はそんな俺の気持ちを見透かしたように艶然と微笑んでいた。

年上の女性に俺が勝てるわけがないか。


春留が女神の言っている研究者たちの中に入っている事は間違いないだろう。

余りにも手際が良すぎるからだ。

自分の改造ゾンビを持っていたり外に出てすぐに核を操れたり。

随分前から計画されていたのだろう。


…笹原中尉は何も気付かなかったのだろうか。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ