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お待たせしました。
兎に角だ。
「ええと、時間を止めてるって言いましたか?」
「言ったわよ?」
「外の部屋に居るゾンビが動いてる気がするんですが」
「ああ、ゾンビ?あの部屋からは出られないから気にしなくていいわよ?」
そうか。
それなら話を聞く前にやりたい事がある。
「あの。連れを別の部屋に写しても良いですか?」
「…良いわよ。時間はまだあるしね」
「どれくらいですか?」
「ん?シロ君が望むだけ」
「へ?」
うふふと北欧の女神が笑う。
「私はシロ君の事が気にいってるの。だから色々サービスするわよ」
「…どうも」
会った事もない女神に気に入られる要素が全く分からないのだが、こんな事態の中でチャンスは逃がさないのが鉄則だろう。
俺は部屋を出て廊下を通って二人がいる部屋に入る。扉を閉めてから二人に声を掛けた。
「真田さん、女過さん。隣の部屋がご飯の部屋だから行きましょう」
「なんだそれ?」
「ご飯があるの?すぐ行く」
妹女神が食いついて来た。目が真ん丸だから結構お腹が空いていたらしい。
そう言えば空腹で一人で外に出ちゃうぐらいには、食いしん坊キャラだっけ。
「シロが変な事を考えている」
「え!?いやいや考えてないよ?」
勘が鋭いぞ妹女神。
二人を外に出す前に扉の前立ち止まると、二人も立ち止まり俺を見てきた。
いや、違ったら違うでいいんだけど、さっきの女神の行動が気になるから。
「廊下では絶対に声を出さないでください」
「え?」
「なんで?」
「…何かの誓約になっているかも知れないので」
「「分かった」」
ハモる返事が素晴らしい。素直な人は好きだな、俺。
そそくさと廊下を歩いて「002」と書かれた部屋に入る。さっき見たままのリビングとバスルームだけの部屋だ。冷蔵庫とキッチンがあるのが素晴らしい。
ただし、キッチンはガスですけどね。ピラミッドがオール電化だったら逆に怖いから。
冷蔵庫を開けると何故か魚介が多めに入っている。
久しぶりに見たなあ鮮度のいい魚。冷凍シーフードミックスにも心が引かれたが冷蔵してある魚の切り身の誘惑には勝てない。
ご飯を炊いて塩鮭を焼く。お味噌汁は豆腐とわかめ。ほうれん草のお浸しと魚に添える大根おろしも忘れずに。納豆と味海苔欲しかったけど、外つ国の人には不評な事がある食べ物だからなくても納得。
日本人でも嫌いな人もいるしなあ。
俺が勝手に作っている間、二人は椅子に座って興味深そうにこっちを伺っていた。
言っとくけど軍隊仕込みで割と適当だからね?
あんまり心の中でハードルあげないでね?
「お待たせ」
「シロ、早く!!」
椅子に座ったまま足をバタバタさせている妹女神の催促が半端ない。
三人分をテーブルに並び終えるまで待てない様な気配が凄いぞ!?
待て!ステイ!
「はいどうぞ」
「いただきまーす!」
俺も座ってお味噌汁を飲む。
ああ。まともな食事ってすごく久しぶり。
あの女神はこれをどこから持って来たのだろう?
まさか北欧だから、ノルウェーサーモン?
そんなオチを付ける様な食材選びでいいのか。
いやいやまてよ。自分の国の名産品を集めてみましたとかいつも食べているものを選んだとか、そういう家庭的な選択肢かも知れないぞ。
決して「日本人ッテ、コウイウノガ好キデスヨネ」的なノリじゃないはずだ。
「うーん」
「何を悩んでいるの?シロ?卵焼きがなかったから残念だとかそういう事?」
あ。残念だったんだ。ごめんね。
ご飯を食べた後妹女神がお風呂に入っている間、俺と真田さんはリビングで待機している。真田さんは風呂には入らないし、俺は女性より先に入る習慣がない。
「シロは何で自國衛守大隊に入ったんだ?」
「流れ的に」
「流れって…何か目的があって入ったのかと思った」
「まあ、軍隊に憧れはなかったですよ。入る事になるまでは普通にサラリーマンになるつもりでしたし」
「…死神なのにサラリーマンって…」
真田さんが苦笑を浮かべた。
まあ、この状況で会った人には変かもしれないけど、俺だって昔から死神を名乗っていた訳では無くて、軍隊に入っていなければ死神の役目はひっそりとやって、謎がちょっとある変わったパパさんになるつもりだったんですけどね。
日曜のゴルフの代わりに死神の役目をやって来るだけの、パパさんに。
結構、憧れていたんだけどなあ。
「結婚するつもりだったんだ?」
「何で過去形なんですか真田さん!?俺だって結婚したいですよ!?」
「いやあ、シロは難しいだろうなあ」
「え!?なんで!?」
どうしてそんな事が言えるんですか!?
俺の一体何を見てそんな事を!?
真田さんはニヤニヤして何も言ってくれない。どうしたらいいんだろう。
「何でそんな雰囲気なの?」
お風呂から出て来た妹女神に声を掛けられて、俺が見ると不思議そうな顔でこっちを見ている表情に出くわした。
いや、見た瞬間にドキドキして何だかよく分からないけど。
やっぱり美人だなあ、妹女神。
黒髪が濡れていて艶々だし、頬がほんのりピンクに染まっていて何とも言えない。
「シロ。見過ぎ」
お隣からブラックなオーラと共に剣呑な声が掛けられてくる。
ちらりと横目で見ると、薄く笑った真田さんが見ていて本気で怖い。
「どうしたの?」
首を傾げて真田さんを見た妹女神には、満面の笑みで答えている真田さんが凄い。シスコンってこういう人に使う言葉なんだなって納得した。
そんな事を思った俺をまだ睨んでいるけれど。
「もう一つ向こうの部屋がベッドルームになっています。二人はそこで寝ていてください」
「シロはどうするんだ?」
「一緒に寝ないの?シロ?」
「俺はこうしてくれている人に話があるので」
二人が一瞬ひるんだ気がした。
「敵じゃないのか?」
「敵じゃないの?」
同時に聞かれた。俺は微笑みながら首を横に降る。
「違います…多分」
「「ええ~?たぶん?」」
二人の声が重なって部屋に響いた。