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俺は死神だ。


本来死神というのは、死期を迎えた人間の元へ行ってその魂を肉体から解放し、黄泉路へと連れて行く役割だ。

ただ、まんべんなくそれをしてやれるかって言うとそうもいかない。

人手不足なんだよな、この業界もさ。

だから自然に分離して、黄泉路へ行く魂の方が多い訳だ実際は。その際に道を外れたり彷徨ったりするのもいる。


自然に分離した魂の中には、死ぬ寸前まで心にこだわりが残っていたモノが魂と引きはがされて、肉体付近にとどまってしまう事もよくある。

それが残留思念。いわゆる残滓だ。


残滓は意識が薄いものの生前の記憶は持っていて、本人だけにしか分からない事象へのこだわりが解消されるまでそこに留まる。

俺達はその残滓をそこから剥がす能力も持っている。


簡単にはがせるものじゃない。叫びきるまでその悲しみを聞いたり、叶えたかった夢や恋人に対する未練や、家族に向けた愛なんかを繰り返し聞いたりする。本人の気持ちが収まるまでは聞きに行くので、長い時は半年ほどかかる事もある。

気がすむとそれまでのこだわりが嘘のようにあっさりと残滓が自然に剥がれる。

それを本体の魂魄と引き合わせて黄泉路へ行かせるのも、死神としての重要な役目だ。



だから、これは見慣れている。

何でピラミッドの中のこんな部屋に居るのかは、知らないけれど。


『だれ?』

「…死神だよ。君を迎えに来たんだ」

『迎え?』

「そう。…君はどうしてそこに居るんだい?」


少女は首を傾げてから、俺をじっと見て黙っている。

残滓は非常に考えがゆっくりだから、こちらが急かしてはいけない。


俺の雰囲気を読んだのか、二人は部屋の端まで行って座っていた。

空気が読める兄妹なのが有り難い。


『連れて来られたの。パパもママも倒れちゃって動かなくて』

「…うん」

『泣いていたら人が来たの。真っ黒な服を着た女の人』


黒い服の女性。

ピラミッドの中に少女を連れてくるって事は、敵の陣営だろうな。


『長い髪の毛が真っ白で、美人な人だったの。その人にここに居てねって言われて、寝ていたら身体が透けていたの』

「…そうか」


少女も放射能の影響を受けてこと切れたのだろう。

母親と父親が守っていたのだろうが、それで守り切れる脅威じゃない。


「…パパとママの所に行きたい?」

『うん。連れて行ってくれるの?』

「もちろん。俺が案内する」

『うん。行く』


少女が頷いたので、俺は少女の手を取る。

つないだ手の先からゆっくりと姿が消えていく。残滓が鎌に縋りつき消える。

今頃は黄泉路で両親に会っている事だろう。


それにしても。

正常な人の残滓はゾンビの魂と違って、なんて力を秘めているのか。


「終わったの?シロ?」

「ああ。静かにしていてくれてありがとう」

「シロのお仕事だから良いの」


お仕事。

まあ、そうとも言えるけど。

妹女神が立ち上がり、俺の立っているベッドの脇に来る。

それからベッドに横たわっている少女を見降ろして優しく笑った。


「…可愛い子」


そう言って前髪を指先ですくった。

もう体温も無く冷えた肉体なのだろうけれど、少女の寝顔は穏やかで俺もほっとする。



「この部屋に敵意は無い様だな。何かが潜んでいる気配もない」

「ええ。何のためにここに連れて来られたのかは分かりませんが」

「そうだな。敵の考えが読めないな」


俺と真田さんがそう言っているうちに、妹女神はふわあっと大あくびをした。


「ここで寝てもいい?」

「えっ!?」


俺がびっくりして見ても、本人はもうその気で床に横たわっている。

ここ、敵陣営の中ですよ!?

何でそんなに自由ですか!?


「安全なのでしょう?」

「今はそうだけど、何時ひっくり返るか」

「シロがいるから大丈夫…」


そう言いながら目を閉じてしまった。


「ええと」


真田さんを見ると、困ったように微笑まれた。


「中に入ってから十時間が過ぎている。休めるなら休んだ方が良いだろう」

「え、でも」

「シロも座ったらどうだ?」


真田さんまで床に座り込んじゃって。

俺どうしたらいいの?

此処が安全地帯って思えないんだけど。


俺がおろおろしている間に、座った真田さんまでがスウスウと寝てしまった。全面的に俺を信じてくれているのは嬉しいのだけれど。

出来れば俺も休みたかったりする。


だけど、敵地で休むなんて。

俺の職場だったらどれだけでも罵られる悪手だよなあ。


軽く息をはいてからもう一度部屋を見まわす。真っ白な部屋には確かに何もなくて安全そうだけれど。

ふと扉の近くに白い色では無いものを見つけて、近寄ってみる。

それは真鍮で出来た鍵の束だった。


ええと。

何となく展開が読めたぞ?


俺は二人を起こさないように部屋の外に出る。

それから扉についていたホテルのようなナンバープレートを確認すると、『001』と書いてあった。

もちろん鍵にも同じ番号がある。

鍵穴にそっと鍵を差し込んで回すと、カチリと音がして鍵がかかった。


これで一応は安全なのかな。

俺は同じ左側の次の部屋の扉を開けてみた。

中はさっきの部屋と同じように真っ白だけど、そこにはテーブルと椅子があり、その先にはカーテンで仕切られたバスルームがあって。


首を傾げながら部屋を出る。

もう一つ先の部屋にも入ってみる。

そこは何も考えなくても分かるベッドルームだった。


つまりこの階は、ゲームで言うと「旅の途中の宿屋のある村」な訳だ。


何で敵地にそんなものがあるんだよ!?

このピラミッドをゾンビダンジョンとは言ってみたけれど、本当にダンジョン的な造りなんておかしいだろ!?


何を考えているんだ!?ここに居る敵はっ!?





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