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少し間が空きました。すみません。





時間だけが過ぎてゆくのは勘弁して欲しい。

仕方なく、正面突破だけを狙う事にする。最悪、身体がバラバラになっても真田さんに運んでもらって外でいったん休みにできるし。


正面から突っ込んで行くと、今まで防御というか避けに徹していた肉体が、不意に拳骨大の肉塊になりランスと同じように攻撃を仕掛けてきた。

さっきから確認をしているが、この剛毛が生えているゾンビの肉体は多分殆んどがダミーだ。切りつけても本体に何の影響もありはしないだろう。

鎌が触っても何ともなかったように本体が腰を振っていたからな。間違いない。


肉塊を叩き切っては、ゾンビの本体を切ろうと試みる。

千切った肉塊は本体に戻る事はなく、黒ずんでしなびていく。

ん?

何だか違和感があるな。なんだろう。

もう動かない肉塊にちらりと目線を投げて、俺はゾンビから離れてみる。


息が上がっている。流れる汗を拭ってみるがそんなに休憩できる訳でもない。

再び正面から切りかかると、視界が紫色一色になった。


ああ。そうか。

違和感の正体はこれだ。

身体を離れたものが力尽きるのなら、この霧はどうしてずっと存在していたのか。

戦っている間薄い色になりながらも漂い続けていた。

まだ、ゾンビのコントロールから切れていなかった訳か。


多分、顔の周りを取り巻くように包まれている。

全く見えない。

ヒュッと空気が鳴る音がして、ゾンビの一撃が腹を抉った。


「…くっ…」


息が漏れる。

痛いだろ!?

何とか見ようと立ったり屈んだりするけど、顔の周りから霧が離れていかない。

面倒くさいな、こいつ。


隙間なく覆われているために、足とか指先とか肉体の末端を見ようにも出来ないまま、俺は勘で鎌を振るっている。

近づいているのか離れているのか、それすら分からない。


「三歩前!」


その時遠くから、妹女神の声が聞こえた。

俺は疑いもなく、走り込んで鎌を振り下ろす。

肉塊の拳が撃ち込まれたが気にしない。二撃めはスカッと空気を切った。


「右横!」


自分の右手側を薙ぐように鎌で払う。

またも肉塊に当たった気配。


「こっちに来た!右斜め前に走ってきて!シロ!!」


妹女神と真田さんを先に倒そうとしたか。

言われるままにその方向に走り込む。

俺の足の方が速かったのか、駆け出してすぐに何かにぶつかった。そのまま抱えて一緒に倒れ込む。

霧のせいで見えないが掴んだものが変異体ゾンビだと分かった俺は離さずに頭を抱え込んだ。勿論噛みつかれているがそんな事は関係ない。

やっと頭に直撃を加える。鎌が深々と刺さった手ごたえと共に霧が霧散した。

視界が戻る。


腕の中で動かなくなったゾンビをどけて立ち上がると、階段の四段目ぐらいに二人がいて俺を見ていた。


右手を上げると、妹女神がぴょんと跳ねて喜んだ。


「助かった」


声を掛けながら階段に向かう。


「えへへ」


妹女神が笑うのを、隣で真田さんがやれやれと肩を竦めて見ている。


「いや、本当に助かったよ」

「連れて来て良かったでしょ?」

「うん」


俺が頷くとまた嬉しそうに笑った。

真田さんが片眉を上げてから俺に言う。


「…清い付き合いからな?シロ?」

「…はい?」


何の話でしょうか?



辺りを見回しても、他のゾンビの気配はない。

ともかく三階への階段を上る事にする。


連戦で疲れてはいるが、休む場所なんて無さそうだし。そう思って階段を上っていると三階に着いた。階段の途中にはゾンビが出て来ない不思議。

三階は下の二階とは様子が違っていた。


大きなフロアなのは一緒だが、廊下があり、幾つかの扉がついた部屋らしき区切りがあった。


「各部屋にゾンビとかだったら、嫌だなあ」

「変な事言うのね、シロ」


妹女神が可愛い顔をしかめて、俺に意見してきた。

すみません。フラグは立てないようにします。


廊下をただ歩いて四階に向かっても良いが、通り過ぎた部屋から一斉にゾンビが出て来ても対処に困るなあ。

仕方なしに、手前の扉を開けてみる事にした。


そっとノブを回す。

鍵は掛かっていなくて、簡単に扉が開いた。

少しだけ開いて中を覗いてみるがゾンビらしきものはいない。天井も壁も見るが何もいなさそうだ。


思い切って全部開いて中に入ってみる。

真っ白な部屋だった。家具も絨毯も何もかも真っ白だ。


「…なに?この部屋」


一緒に中に入って来た二人も、余りの白さに目を細めている。


三人とも中に入った瞬間に、静かに扉が閉まった。

そして、真っ白なベッドの横に誰かが現れる。


『…だれ?』


その姿を見て、俺は構えていた姿勢を解いた。

この存在は良く知った存在だ。


人間の残留思念。

人の形をしたそれは、向こうが透けるような薄い色をしている。

多分、少女のそれは俺達を見て小さく首を傾げた。





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