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二階へ上がる階段の一番下で、俺が腰かけて休息をとっているのを二人が見守っている。早く先に行きたいのだが、さすがに何時間も戦った後では息が整うまで休みたかった。


安全圏ではない場所に二人を置いておくのは嫌だったが、自分の身体を整えなければ守れないのも事実で。

俺は周囲に気を配りながらも、そこから立ち上がれないでいる。


真田さんが俺の代わりに立ったまま辺りを警戒してくれている。

妹女神は俺の隣に座り、心配そうにしていた。


ここから先はまた同じ戦いなのかは分からない。

さっきまでのような、長い時間が掛かっても勝てる相手だけが居るのならいいけれど。ダンジョンってものは先に行けば行くほど厄介な敵が出て来るのが相場で。


十分ほどで息は落ち着いた。

俺が立ち上がると、二人が視線を投げてよこす。


「大丈夫です。行きましょう」

「分かった」


真田さんが頷く。妹女神の手を取って俺の後から階段を上ってくる。


二階へ続く階段は本当に幅の広い大きな階段で、ピラミッドの中にあるのが不自然なぐらいだ。何処かの富豪の大邸宅にでもあるような雰囲気の物だけど、段差の高さは人間が昇れるもので怪物用に作られていないのが何となく救いだった。


大きな段差を上れるようなものがこの先にいるって、階段を上りながら分からされるのは気分のいいものじゃない。


二階は扉もなく、階段から繋がっているフロアだった。

階段を上りきったところで全貌が見渡せるが、やはりただ大きいだけで障害物や壁などは無い。

こんな大きな建築物の下層が壁一つなく建てられているって、欠陥品じゃないだろうか?外の壁を壊したら崩れそうな気もするけど。


辺りを警戒しながらも、今来たところの差し向かいに見える階段に向かってフロアを横切る。この場所もだだっ広いが、今度はゾンビの姿は見えない。


「…何もいないな」

「でも、気配がするの」


俺の後ろで二人が呟く。

そう。俺もさっきからピリピリした雰囲気を感じ取ってはいる。けれどそれがどこに潜んでいるのかが分からない。ここに何かが潜むような場所は無いからだ。


ぽとり。


何かが落ちる音がした。

振り返ると歩いて来た床に何かが落ちて染みになっている。赤黒い染み。

天井を見上げて俺は素早く両手をひらめかせる。


「二人とも階段まで走れ!!」


俺の声に真田さんが妹女神を抱えて走り出した。

ボタリボタリと上から粘着性の何かがたくさん落ちてくる。

天井には巨大なスライムのような粘着物を纏った、変異体ゾンビがへばりついていた。


大きい。

変異体はどうして巨大化したがるんでしょう。


大鎌を振りかぶって風を放つ。

ゾンビがその風をするっと避けた。俺の風は粘着物を通り過ぎて掻き消える。

中心に当てないと駄目か?


変異体は粘着物の中を自在に移動できるようで、俺も狙いを定めにくい。

広範囲に風を展開するのは、先にいる二人に当たりそうで怖い。


やっかいだな。

そう思った時に、不意に変異体ゾンビが俺の眼の前にボタボタと落ちてきた。身体を包んでいる粘着物はどうやらゾンビの意思で動かせるようだ。

どうりで当たらない訳だな。


鎌を両手持ちに変えて中央の核になっている人型に切りかかるが、すばやく粘着物にガードされてしまう。鎌の刃が囚われるほど粘ってはいないが、刃が貫けないぐらいには固い。


頭を狙っても腹を狙っても、粘着物が邪魔をする。ならばと背後に回って切りつけたが見えてもいないのに背中も庇われた。

後ろに飛び退いていったん距離を置く。

背後に居た俺の方を見てから、その変異体はにこりと笑った。


おい、ゾンビが笑ったぞ!?


俺がその笑みに気を取られた瞬間に、粘着物が硬度を変えてまるでランスのように尖って何本も向かってきた。脇や足を掠めていくスライムランスを上手く避けられはするが掠り傷がつく。その分鎌を振るうタイミングがずれる。


粘着物の中でダンスでもするみたいに手や腰を振りながら、変異体は俺の鎌をかわしていく。

なんか腹立つなあ。


何が一番腹が立つって、結構ダンス上手いだろうって分かる所が憎い。

元は芸事をやっていた人か、夜遊びの常連さんに違いない。


左右に鎌を振りながらも、そんな事を考えてしまう。

まだこのゾンビの中に魂魄はある。生きている。こんな姿に変わる前の彼を思ってしまう。駄目だと分かっていても、仕方ない。

人に寄り添って生きていく死神のサガなのだから。


粘着物が少しずつ俺の鎌で切り取られていく。

ゾンビ変異体は悪あがきのようにランス状の物を俺に向けて放つけど、いかんせん俺は通常でも戦闘訓練を受けている身だから、生半可な攻撃ぐらいは僅差でかわせる。


切り傷ぐらいならすぐに治ってしまうし。

ただ妹女神と違うのは、俺には痛覚があるって事だけで。だから痛い。

けど、この痛みが俺を正気に保ってくれている気がする。痛みなく戦ったら本当に俺の方が化け物だろう?


剥がれた粘着物は時間が経つと蒸気になって消えていく。

ゾンビの力が及ばない範囲では存在できないのだろう。それならば。


俺は真ん中を無視して端から粘着物を切り剥がしていく事にした。丸裸にすれば戦いやすいだろう。


どうか第二形態とかありません様に。

小ボスって、変身するのがセオリーだよな?


あれ?これってフラグ?





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