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「ゾンビいっぱい居るんだけど、どうしようかな」


俺は二人に語り掛けながら、どうしても別の事を思ってしまう。

放送局に残ることを選んだ二人が、あの中で生きているとは思えない。

残念だけど、多分もう。


だけど、自分の目で確かめない事には桃香さんに報告が出来ない。

彼らが居たのは最上階の一つ下。

もしピラミッドが同じ構造ならば、そこを目指して上っていかないといけない。多分エレベーターなんて無いだろうし。


「どうりで、辺りにゾンビがいなかった訳だ」


真田さんの言葉に頷く。

辺りのゾンビをピラミッドに詰め込んだのだろう。


問題は、そんな事をしたのは誰かという事で。


「シロが言う、はるるという人物ではないの?」


妹女神が聞いてくるが、俺は確信が持てないので頷けない。


緊急避難場所に選んだビルは色んなモノが転がっていたけど、俺と真田さんとで片づけてから妹女神を座らせている。

元は複合施設の洋服屋だったであろう店舗跡で、俺達は話していた。

ピラミッドの前で話すには蠢いている影が気になって仕方なかったからだ。

視覚域を広げてあるのが災いした。


「とにかく、俺は行かなければいけません」


俺が言うと、二人は困ったように頷いた。


「でも、二人は行く必要はないです」


その言葉に、真田さんは仕方なさそうに頷いた。

それはそうだろう。どう見てもゾンビが何百体っている様に見える中に妹女神を連れて行くのは得策ではない。


彼女には戦う力はないのだろうから。

真田さんは戦えるかもしれないが、あの数では歯が立つまい。俺は彼らを気にせずに鎌を振るえる方が戦いやすい。結論は最初から分かっている。


「いやだ。わたしも行く」


しかし心配されている本人がそんな事を言った。


「え?でも、ゾンビがいっぱいいるんだよ?」

「分かっている」

「…ええと、女過さんは戦えないでしょう?」

「頑張る」

「え~…」


妹女神はグッと両こぶしを握った。

いや。

そんなに力んで言われても、許可できませんよ?ねえ、お兄さん?

困って真田さんを見ると。

仕方ないなあって顔をして笑っていた。


うそ。

それで了解しちゃうの?

だって、妹女神は人間だよ!?まだ生きてるんだよ!?ゾンビの群れの中に突っ込むのは無謀でしょ!?


「大丈夫シロ。私は誰にも傷つけられない。むしろ、シロの鎌の方が怖い」


俺は途方に暮れて真田さんを見続けている。

そんな俺の顔を見て真田さんが苦笑した。


「女過は他者に傷つけられる事はない。飛ばされたり刺されたりしても傷つかない。痛くも無いらしい」

「前にもクラスの女子に叩かれたり落とされたりしたけど、無傷だった」


妹女神がエヘンと言う様に腰に手を当てて言った。

胸を張って言う事じゃないだろ、それ。虐められていたのか。


すでに実証されていますって顔で俺を見ている妹女神に、俺は何と答えて良いのか悩む。じゃあ、一緒に行こうって言いにくい。物凄く言いにくいのだが。

何だろうこの「一緒に戦おうぜ!」って言わなきゃいけない雰囲気。


「どうやって、戦うっていうんだ?」

「こうやって、えいって」


真田さんが妹女神に聞くと、柔道の投げ技のような仕草で、可愛らしくエイって言った。

いや、可愛いのはいいんだけど。

そんな事でゾンビには立ち向かえません。


「…行くんですか?」

「俺が女過を守りながら後を付いて行くしかないな。足手まといだろうけど、シロはそれでもいいのか?」


俺か。

それは、来ないでいてくれた方が気楽だけど。

あのピラミッドの中にゾンビの殆んどが入っているのなら、渋谷から離れて隠れていてくれた方が安全な気はするし。


ちらりと妹女神を見ると、ニコッと笑顔を向けられた。

そうじゃなくて。

…どうしようか。このまま悩んでいても無駄に時間が過ぎるだけだ。



「俺は行きます。…来るのなら、なるべく俺の傍にいて下さい。何があるのか分かりませんので」

「もちろん、シロの傍に居る」


妹女神が俺にくっついて来た。

ちょ!?

お兄さんが睨んでるから!こめかみに怒りマークが見えるから!?


「…行こうか、シロ」

「は、はい」


俺は真田さんに押し出されるように、その場を離れた。

ちょ、本当に押してますよね!?

行きます、行きますから!


微妙に背中が痛いまま、再び巨大ピラミッドの前に立って見上げてみる。

本当に巨大すぎてどうしたら攻略できるのかがさっぱり分からない。

何時こんな事になったのか。


この異変が起きてから一週間余り。ここに在った建物をこんな形に変える事なんて人間では不可能だ。

何らかの力を持った者の介入があったと考えるのが妥当だろう。

神レベルの介入が。


妹女神は転生体で特別な能力は皆無らしいので、そういう存在ではないだろう。

俺のように人間の身体に受肉した者。

そういう者がいるはずだ。


受肉という行為は、俺のように死産する者の身体を貰う以外に、もっと手早く出来る方法もある。それは生きている者の魂を刈り取って、そこに入るというやり方だ。

死神に頼む必要性があり、無理矢理に入り込むやり方だから肉体と神々の魂が馴染む時間はなく、数年で人間の肉体が腐り果ててしまう。


そのやり方をしている神を、俺は今までに二人しか見ていない。

どちらも外つ国の神で、もう消え去ってしまったはずだ。神々の中でもこのやり方は賭け事みたいなものだと不評で、頻繁に起こる事でもない。


けれど、いるはずだ。

こんな事が出来る人間が、いるはずはない。

此処までの力を保有していたら、その寿命は極端に短いはずで、人として人生を全うできるはずもない。


もしも、人生八十年をすべて投げ出してピラミッドを作りたいなんて思う人間がいたら、それはもう感心する以外にないな。作り上げたピラミッドを一目見ただけで、すぐに息絶える事を分かってやれる人間なんているのかな。


万が一、人の欲望によって作り出されているのなら更に用心しないといけないだろう。

可能性は皆無じゃない。気を引き締めていこう。



さあ、ゾンビダンジョン攻略開始だ。





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