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目が覚めると。

物凄い近くに女神の顔があった。


「おはよう、シロ」

「お、おはようございます」


何故に俺の膝の上に乗っているんだ。

起こすにしても、肩を揺すればいいだけじゃないか。この体制は何だ。

膝の上に暖かい質感を感じて俺は動揺しているのだけど、女神は何も気にしていないようだ。後ろのお兄さんは物凄く気にしているけど。


「シロが起きたんなら、女過じょかは降りなさい」

「ええ~?もう少し乗ってる」


何ゆえに!?


真田さんが妹女神の両脇に手を入れて、持ち上げて俺の膝の上から降ろした。

有り難い。

心臓がバクバク鳴っているのも限界で、無駄に立ち上がっちゃうところだったよ。


少し膨れている妹女神はさておき。

俺は家から出て、渋谷に向かう事を伝える。

居心地の良い家だから、このまま二人はここに居てもいいんじゃないかって思うけど。二人は俺の気持ちを分かったようだったけれど、ついて行くと言ってきた。


「…危険ですけど」

「分かっている」

「分かってるの」


兄妹が同じような顔で同時に言ってきた。そう言われては仕方ない。

二人を連れて外に出る。

窓から出て頭を下げた。この家の人にお礼は言えないから。


また雪の中を歩いていく。

それにしても。

ゾンビとは一切会わない。

全部が死滅したはずはなく、何処に潜んでいるのかが分からないから余計に不気味だ。


ようやく渋谷に着いた。

とは言っても、降り続く雪が凄くて街並みはすっかり変わっている。

歩いている足元辺りに、道を示す看板があったりする。

元国営放送局は一回行ったから分かっているけれど、何処までも雪の景色にはまってしまうと永遠に彷徨いそうだった。


ゆっくり三人で歩いていると、どこかから視線を感じた。

俺が立ち止まって辺りを見回すと、真田さんも同じように辺りを見る。


「…やっぱり、見られてますよね?」

「ああ。渋谷に入ってからずっと見られている気がしていたんだ。シロは気付いていたんだな?」

「もちろん」


今は感覚器を全開に警戒しているから、身を隠して見ていても俺には分かる。

それよりも真田さん凄いな。何か武術でもやっていたんだろうか?


「真田さんて前から何かされていたんですか?」

「なにかって?」

「ええと、武術的な」


困ったように俺が言うと、聞いた真田さんも困ったように笑った。


「特にはなにも。空手はやっていたけど、適当に道場に通っていただけだったし」

「でも」

「…ゾンビになってから、色々と変わっているからそのせいだろうな」


人として越えてはいけないモノを越えて生きているから、人ではない部分が発達したのだろうか。春留が研究したがるような話だ。

もしくは、もう研究しているのかも知れないけど。

それ以上はデリケートな話になりそうだったので、突っ込まないで歩いていく。


雪に埋もれた放送局に近付くにつれて、地響きのような音が聞こえてきた。

それは大地の上にある雪を伝わり、俺達の足元から立ち上ってくる。


「シロ。これは何だと思う?」

「さあ。見当がつきません」


俺が真田さんと相談していると、妹女神がさりげなく言った。


「人の声みたい」

「声?…確かにそうとも聞こえるが」


俺はじっと耳をそばだたせてみる。

明らかに地響きのような音がしている。よく聴けば唸り声に聞こえない事もない。

でも、こんなに響き渡るような唸り声って何だ?



やっと放送局に辿り着く。

前に来た時とはあからさまに形が変わった、元放送局の前で俺は呆然とそれを見上げた。


なんですか、この建物は。


俺の眼の前には巨大なピラミッドが、ドーンと鎮座していた。

え?何ここ。

エジプトじゃないよね?日本だよね?


「渋谷ってすごいね。こんなのがあるの?」

「…前に来た時は無かった気がするんだが」


兄妹がそんな不審な事を言っています。

断言します。

渋谷に巨大ピラミッドはありません。


どれだけ土地代が掛かると思っているんだ。財閥企業だってしり込みしちゃうでしょ、こんな所の土地を買うなんて。勇気ある行動というよりは無謀だろ?


現実逃避にどうしようもない事を考えてみたが、目の前のピラミッドは消えて無くならなかった。どうしよう。

しばしピラミッドを見上げていたが首が疲れたので、後ろの二人を振り返る。


妹女神はピンクのワンピースの上に真田さんのMA-1を着ていて、膝までしか丈がない裾からは素足の膝が見えて白い靴下とピンクのコンバースという服装で、本当に寒そうなのだが本人は平気だと言う。女神補正、恐るべし。

真田さんはゾンビになった時に着ていたシャツとデニムは身体と同一化しているので、体温的には問題ないらしい。


俺は軍の制服を着ているが、ちょっと寒い。

上着もあるのだけど、何せうちの上着は大時代的なマントなので、着るには恥ずかしいから大抵の隊員は着ない。ちょっとナルな人や帝国大時代の年代の人は着ていたりする。

バンカラって言えば聞こえは良いかも知れない。


また意味のない事を考えている。現実逃避にも程がある。

妹女神は確かに可愛いけど。


「…少し別の場所で考えませんか?」


俺が提案すると、二人が首を傾げた。


「何を?」

「今後の身の振り方について」

「「は?」」


返事がシンクロしてる。


だってさ。

ピラミッドの周りだけ雪が少なくてさ。降りやすいように雪馴らしがしてあってさ。ピラミッドの一階正面に自動ドアがついていてさ。そのガラス越しにみっちりゾンビが詰まってるのが見えたからさ。


罠だろう?これ?




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