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第八話

 司令はそれだけ言うと背を向けた。なんだかしっくりこないものを感じつつ、アキは気だるげに敬礼すると部屋を出る。

 その足でブリーフィングルームを素通りして更衣室で真新しい特注のパイロットスーツに着替える。胸のあたりがまたきつくなってきた気がするが、まあいつものスーツはついさっき脱いだので今頃は専用の洗濯機の中で回っている頃だろう。

「それにしても、ヴァルキュリアが落とされた、かぁ…」

 口にしてみれば余計にバカバカしく感じる。癪な話であるが、あのまな板の戦い方は熟知している。多少の性能差があったとしても、素人はおろか其の辺の有象無象など相手にならないだろう。

「ま、万が一落とされたってんなら腕が落ちたってことでしょ。あーせいせいするわ」

 そう思えば機嫌も良くなると言うもの。上から下までぴっちりしたパイロットスーツに着替え終えたアキは鼻歌交じりにスキップして格納庫に向かう。

「お?相変わらず早いなブ…姫様」

「あぁ?今なんか言いかけたよなぁ?」

 うっかり口を滑らせた整備兵が顔を青ざめ、周囲の同僚たちが彼を見捨ててどこかへと散っていく。アキは拳を鳴らしつつ一歩一歩整備兵に近づいていく。

「こら!なにやってんだ馬鹿ども!!さっさと新型に火ぃ入れな!」

 その時格納庫全域に響いた怒声で整備兵はおろかアキすらも背筋を伸ばす。整備兵たちのトップを司るこの基地のヌシ、ゴルドー・ザディンのお出ましだ。

「おやっさん?何よ新型って…」

「おう嬢ちゃん。相変わらず乳ばっかりでけえくせして頭はすっからかんだな。ブリーフィングにゃあ出といたほうがいいぜ」

「む…セクハラですよ、それ」

「お前さんがそんなこと気にするタマかぃ。それよりも、コイツを見な」

 おやっさんに連れられ格納庫の奥に進む。するとそこには、表面を微かに赤く輝かせた新型機がコックピットハッチを開けてアキを待っていた。

「ようやく部品が揃ったんでな。こいつがお前さんの乗る新型、『凱仙』だ。本当ならブリーフィングで教える予定だったんだがなぁ」

「うわぁ…すっごーい…」

 少年のように目を輝かせ、コックピットに飛び乗るアキ。初期設定もまだ済ませていないが、それでもモニターに表示される様々な機体データはアキのテンションを上げるのに十分だった。

「例の島から取った鉱石を機体表面にコーティングしてある。流石に動力源やらなにやらを仕上げる時間は無かったんでな。その辺は今までの流用ばっかだが、それでも機体の総重量や関節部の滑りは大幅によくなってるはずだぜ」

「ありがとー!これならヴァルキュリアを落とせるよ!」

「おいおい…今回のターゲットはヴァルキュリアじゃねえだろうに…」

 おやっさんの呆れた口調をよそに、アキは熱心に機体の初期設定を進めていく。

 作戦開始まで、後五時間。




 アストラル独立作戦の第一歩は、ある意味において成功と言えるものだった。秘匿されていた新型機部隊による連邦・連合双方の軍を撤退に追い込み、そしてその後現れたヴァルキュリア率いる連合軍の援軍さえも蹴散らした。連合帝国はそれらの情報を隠蔽しようと目論んだが、アストラルから世界中に発信された映像記録によって完全に公表されてしまっていたのだ。

 アストラルによる情報公開後まもなく、連合帝国議会及び初代皇帝ザイラー・イスカドールはアストラルを第一級反乱分子として認定。対アストラル用の特殊部隊が編成されることになる。

 しかし同時に、アストラルが公開した情報の中にはユーラシア連邦側による度重なる太平洋連合帝国に対する領域侵犯と、アストラルに対する先制攻撃の事実も存在していた。

 これを受け、連合帝国市民の間にはいつ消えるか分からない反乱分子よりも、連邦共和国に対する徹底抗戦論が爆発的に広まっていくことになる。当然ながら議会もそれに対し非難決議を全会一致で可決し、連邦共和国側も秘匿されてきた度重なる太平洋連合帝国の領域侵犯や条約違反を指摘。それらの結果として、世界は何度目かの全面戦争へと突入していくこととなった。

 ここまでは完璧。だと言うのに、アストラルの大人たちの顔色は優れなかった。

「例の機士は?」

「一応、第三格納庫にて技術班が調査中ですが…今のところ、何も分からないとのことです」

「そうか…なら、アイツは?」

 カルマの質問に、会議室中が言いにくそうに俯く。

「こちらの質問に答えてはくれているのですが…どれもよく分からないばかりで…」

「嘘発見器にも反応はありませんでした。恐らく、彼自身分かっていないのでしょう」

 思わずため息をつくカルマ。ここまで完璧に近いアストラル独立作戦において、唯一の誤算こそがイルアが乗った機士『アストラル・ゼロ』だった。

 本来の作戦ではヘラたち防衛部隊が連邦・連合両軍を追い払い、その上でこの十年の間にこの島付近で秘密裏に処理されていた軍事機密を公表し二大国間の対立を激化させる。そうなれば、正直言って小国であるアストラルに対する対処は甘くなり、その隙に独立を既成事実化させていく予定であった。

 だが、まず最初に連合軍最強のヴァルキュリアの襲来と、それすらも追い払ってしまったアストラル・ゼロの存在は、間違いなく連邦・連合両軍のアストラルに対する危機感を煽ったことだろう。

「取り敢えず、まずは島の防衛機構の修復が先決だ。サンドラの修理と、迎撃用自動機銃の再配置。恐らく次は連邦軍が攻め込んでくるだろう。ユーラシア方面の守りを固めろ。イルアの件は、私に…」

「それには及ばないだろう」

 副官のオズマがヒヤリとするほど冷徹にカルマの宣言を遮る。会議室中の視線が集まるのを確認し、オズマは立ち上がる。

「ここまで来た以上、例のアストラル・ゼロの力は独立の為には必要だ。彼にも協力してもらう」

「まだ子供だぞ!少なくとも、十八を過ぎるまでは関わらせないのが最低限のボーダーラインだったはずだ!」

「だがあれを動かせるのは彼だけだろう。今後、より激しくなるであろう敵の侵攻に対応する為には必要不可欠な力だ。それに、そもそも彼は正確な年齢も不明なんだ。年齢制限など不要だ」

「それは詭弁だ!それにアイツが反対したらどうする気だ!?」

「説得するさ。あれほどの力を野放しにしていいはずがないんだから」

 次第にヒートアップしていく二人。会議室中が見守る中、カルマは目の前で憮然とした態度のオズマを理解できずに戸惑い、思わず一歩引いてしまう。

「説得と言っても、何をする気だ?」

「ふん…島を守るためなら、なんだってやるさ。取り敢えず、暴れられても困るからな。暫くは隔離しておくのが最低ラインじゃあないか?」

「馬鹿な…そんなことしてみろ!イルアは寂しさで死んでしまうぞ!」

「そうよ。それに、今あの子がパニックを起こして暴れたら取り返しがつかなくなるかもしれないんだよ?」

 次第に過激なことを言い出し始めるオズマを前に、ようやく妻のセレナが止めに入る。

「全く、レノアが巻き込まれたからって大人げないこと言わないどくれよ。カルマ、あの子のことはアンタに任せるよ。みんなもそれでいいかい?」

 セレナは会議室の全員が頷くのを見届けると、まだ不満げなオズマの耳を引っ張って会議室を出て行く。それを合図に一人、また一人と席を立って会議室を出て行き始めた。ただ一人席に座りながらそれらを音だけで把握するカルマ。

 思い浮かぶのはイルアの怯えた表情。島を守るためなら、最悪イルアが相手であろうとも非情になるべき。そんなことなど言われなくても分かっていたはずだったが、あの目を見てしまえばそんな覚悟など簡単に揺らいでしまう。

「親父としても…指揮官としても失格だな…」

 思わずそう自嘲し、席を立つ。会議室を出ると、すぐ傍にこの島唯一の教師であり極東の島国から亡命してきた天才女性技術者、ツバサ・テンリュウジが資料と睨めっこしながらカルマを待っていた。

「やあ。随分荒れた会議だったらしいね」

「まあな。で、成果はどうなんだ?あれから篭もりっきりだったんだろう?」

「あんまりないよ。むしろ謎は深まるばかりさ」

 ツバサは面倒くさそうにボサボサの髪の毛を掻き毟りながら手元の端末のデータを眺める。

「製造年月日、型番、設計者、どれ一つとっても分かりゃしない。あの子が言うには中にはかなり広い空間があって、そこにはゼロとか言う支援AIも居て、挙句の果ては声紋認証式の武装とパイロットトレース式の操縦と来たもんだ。私の故郷でも夢物語な技術の塊さ」

 ツバサの故郷は、かつて日本と呼ばれていたユーラシア大陸のすぐ目と鼻の先にある島だった。現在は太平洋連合帝国の傘下にあるが、主要産業である技術力を利用し二大国双方と単独で渡り合うっている。よく言えばしたたか、悪く言えばコウモリと陰口を叩かれている。

 ツバサはそこで天才の名を欲しいままにしていたが、好き勝手にやれる環境ではなかった為、ある時すべてを放り出してこの島に流れ着いた。その時以来、ちょうど学校の教員が居なくなったこともあって教師兼特別技術顧問として島に居着いている。ちなみに実年齢は不明だが、本人曰く多分まだ三十路は超えていないはず、とのことである。

「それで?せめて一つくらい分かったことはないのか?」

「ああ、一つか二つくらいならね。聞きたいかい?」

「ああ聞きたいね。出来ることなら最初からこんな面倒な前振りも無しでお願いしたい」

 少々芝居がかったセリフではあるが、これくらいの冗談を言えるくらいには気力が戻ってきた証拠だと思えばツバサもスルーしてくれるだろう。

「そうだな。まあそう大層なことでもない。あの騎士の原材料についてだ」

「…普通に合金じゃあないのか?」

「いいや。装甲やフレームはおろか、ボルトやナットに至るまで全てがアストラメタルで出来ているのさ。信じられないけれどね」

 ツバサは思わず苦笑いを浮かべる。その事実はカルマ自身も笑ってしまいそうになるくらいに現実離れしていたからだ。

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