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第七話

「そこの連合軍機士!!仲間を連れてさっさと帰れ!!」

 帰らないなら、と言う代わりに右手をかざす。これ以上戦うつもりならパンチの勢いに乗せてエネルギー弾を叩き込むストロング・バスターを叩き込んでやるつもりだった。

 ジーナもそれは分かっているが、あとちょっとで来る援軍を待って反撃しろとの命令を無視できない。だけど、援軍が何十機来たところでコイツに勝てるのか?という根本的な疑問が浮かぶ。離脱までのタイムリミットをむこうが指定しなかったから、僅かでも考える時間が手に入ったことがせめてもの救いであり、ジレンマだった。

「帰る気あるのか!?本当に撃つぞ!?」

 ちょっと焦った声に「あ、コイツ素人だ」と考え付くが、そんなことこの圧倒的な性能差の前では関係ない。

 その時、島の防空レーダーとジーナ機のレーダーに連合軍の援軍の機影が映った。

「戦闘機型機士、数十!中型戦艦二隻と共に防衛機構を突破して島に接近!」

「空母は後方で高みの見物か…」

 アストラル司令室で呆然と戦いの行方を見ていたカルマたちがようやく動き出す。取り敢えずは回収出来た空戦部隊の修理と再出撃。まだ島本土に取り残されたままのヘラたち陸戦部隊の回収。そして、イルアが乗っていると思われる謎の機士の処遇の決定だ。

「あれにイルア君が乗っているとは限らんですよ。もしかしたら、乗せられているだけかも…」

 副官を務めるレノアの父、オズマ・サノレアースが耳打ちする。確かに声が聞こえたし、何よりこの上にある役場に二人がいないことを考えれば、あの機士に何らかの形で乗っていると考えるのが自然だ。

 だがしかし、アストラルの司令官として、不確定要素に振り回されて島民たちを危機にさらすわけには行かない。現に今、正体不明の怪物と連合軍が戦い、それに巻き込まれて島に被害が出つつある。これ以上被害を出さないためには、あの機士を何らかの手段で連合軍共々追い出す手段を考えるべきだろう。

「連合軍戦艦の砲撃、来ます!」

「防空用自動銃座で弾幕を貼れ!砲弾を撃ち落とせ!」

「無理です!!街に直撃します!!」

 悲鳴にも似た声が司令室に響き、カルマは思わずうめき声を上げる。このままでは街が焼かれてしまう。せめてそれだけは、と思い始めたこの反乱計画が、こうもあっさりと裏目に出続けるとは。

 しかし、モニターのむこうではあの赤い機士が動き始めていた。

 そしてその頃、戦艦二隻に加え、十機の機士があらん限りの火力でアストラルの街ごとアストラル・ゼロを焼き払おうとしていることを察したジーナが脱出した連合軍パイロットたちを回収して飛び上がる。

「回収しろっつたのはどっちよ!?全く…」

 思わず悪態をつくジーナ。

 それと同時にイルアも頭に直接接近してくる部隊の姿と火薬の固まりが映し出される。

(初撃命中まで、あと三秒。我々の損傷予測は微々たるものではあるが、このままでは街に直撃すると思われる)

「そんなのダメだ!」

(了解。接近する攻撃の予測進路を計算する)

 ゼロの予測に従い全力で飛ぶ。初撃の砲撃を片手で払いのけ、そのまま二発目の砲撃をキャッチして海へと放り投げる。だが次のミサイル群はほぼ同時にあちこちに着弾するという計算結果が頭に流れ込んできた。

「これじゃ止められないじゃないか!?」

「そんな…じゃ、じゃあせめて病院とか、役場とかの大事な場所だけでも守るとか…」

(その必要はない。防御フィールドを全開にすれば最初から全弾防げた)

「はよいえ!」

 レノアが思わずツッコミを入れる。だがイルアにはツッコミを入れるだけの時間が無かった。

「行くぞ…ゼロ・フィールド最大展開!!」

 アストラル・ゼロが両手のひらを掲げ、赤い波動が急速に広がっていく。

「何の光!?」

 アストラ島を優しく包み込むその光を遠目に見ていた司令官が思わず知らず口にする。このままいけば撃ち込んだ砲弾とミサイルであの正体不明機を島ごと炎に変えられる筈だった。

「ダメです!全弾防がれました!」

「そんな馬鹿な!?」

 思わず立ち上がる司令官。するとちょうどそのタイミングで艦に何かがぶつかり、激しい揺れに司令官が硬い床に倒れ込んでしまった。

「何だ!?何が当たった!?むこうの砲撃か!?」

「機士です!!こちら側の機士が投げつけられました!!」

 コックピットを引き抜かれた連合軍機士がご丁寧にも無人の甲板に叩きつけられ、さらにそのまま赤い閃光が超高速で戦闘機形態の連合軍機士のブースターを素手で潰していく。

「逃げるんならさっさと全員帰れよ!じゃなきゃ全部落とすぞ!!」

 イルアがただただ逃げ回る連合軍機を前に苛立った口調で叫ぶ。一応外にも聞こえているはずだが、それでも連合軍は撤退しようとしなかった。

「司令!ここは撤退して本国の指示を仰ぐべきです!このままでは全滅ですよ!」

「馬鹿言うな!たった、たった島一つ制圧できずに本国に逃げ帰れるわけが無いだろう!!」

 ようやく着艦出来たジーナの進言にも司令官はぐずるばかり。この期に及んでまだ自身の保身と出世のことしか頭にないのかと頭を抱えるジーナ。このまま全滅するのと比べれば、ここで撤退したほうが余程いいはずなのに。

 そして事情こそ知らないが、同じ思いを抱くイルアも、もうこれ以上はハッキリと力の差を見せつけるしかないと決心した。

「ゼロ!プリズムセイバーを使う!」

(了解した。武装召喚開始)

 アストラル・ゼロの機体からゼロ・フィールドの時と同じ赤い波動が溢れ出し、それが機体の右手に集まる。そして赤い波動はやがて剣の形に変わると、光が実体を得てプリズムセイバーが召喚された。

「加減できるかな…?」

(やってみよう)

 どうすればいいか大体分かる。一人も殺さず、それでいてもう二度とここに攻めてくる気にならなくする為、圧倒的な制圧力を見せつける。普通は無理でも、この機体ならできる。

 プリズムセイバーを掲げ、高らかに叫ぶ。

「シャイニング、ストォォォムッ!!」

 プリズムセイバーが眩く輝き、天に向かって一本の細い光の線が雲を切り裂いて登っていく。光の線は雲の上で光の帯に変わり、上空から戦艦の砲台と敵機のブースターとバランサーをロックオン。そして一瞬、上空から降り注いだレーザービームがそれらを撃ち抜いた。

 次々と海に墜落していく連合軍機士。それでいてどの機体も爆発せず、コックピットも無傷。誰ひとりとして死ぬことは愚か傷一つない。コックピットの中でパイロットたちは、呆然とするか笑うしかない。

「次はコックピットとブリッジだ!誰も死にたかないだろ!?」

 イルアの声を聞き黙り込む連合軍の兵士たち。空母のブリッジでは指揮権を持つ司令官に視線が集まるが、肝心の司令官はプルプル震えるばかりでまともな判断など出来そうにもなかった。

「司令。ここは撤退するべきです。あの正体不明機の戦闘データさえ持ち帰れば上層部も文句は言わないかと思われます!」

「そ、そうだ。そうだな!総員撤退開始!機士部隊の回収とデータの整理を進めろ!」

 無線越しに届いたジーナからの進言を、あたかも自分の意見のように扱う司令官に全員がため息をつきながらも撤退を開始する。それを見届けたイルアとレノアは知らず知らずの内に腰を抜かし、お互い抱き合ったままへたり込んだのだった。

「連合艦隊、撤退開始…島内に島民以外のバイタル反応無し…」

 島の周囲を観測するレーダーが遠ざかる連合軍を映し、それを見届けたフォルテが気の抜けた声で報告する。

「私たちの勝ちなのか…」

 カルマが何とか絞り出した声に、反応するものは居なかった。

 その時アストラル・ゼロを操るイルアは膝をついて優しくヘラ機を抱き起こし、必死にヘラ機に向けて叫んでいたのだった。

「姉さん!これに乗ってるの姉さんなんでしょ!?」

 最も損傷が激しく、コックピット付近にも何箇所か銃痕が残っている。沸き上がってくる不安に押しつぶされそうになりながらイルアは叫び続ける。そんな中、僅かに冷静さを残していたレノアが顔を上げた。

「ゼロ!中の反応は!?」

(反応アリ。生命活動に問題は無い)

 それを聞いてようやく良かった、とホッとするイルア。へなへなと再びへたり込み、今度はレノアに抱きとめられる。

「良かった…姉さん…」

 心の底からにじみ出た安堵のため息。そんなイルアを抱きとめるレノアもまた、やっと戦いが終わったことを実感した。

 しかし、そんな二人の安息を引き裂くかのように、聞き覚えのある声が聞いたこともないような声音で叫んできた。

(そこの赤い機士!聞こえるか!!)

「父さん…?なんで…」

 イルアとレノアの戸惑いをよそに、島の大人たちで構成された特殊部隊がアストラル・ゼロを囲む。ロケットランチャーやアサルトライフルの銃口を向けられ、イルアは混乱しながらも思わず手を挙げるしかなかった。




 ユーラシア連邦共和国軍上海基地。すぐ近くに太平洋連合帝国との国境である日本があることもあって常に緊張状態にあるこの基地で、基地司令室に反省文を届けに行くはずだったアキは気づけば新しい指令書を手にしていた。

「これ、本当なの?どー見たって信じられないんですけど」

「紛れもない事実だ。今から三十分ほど前、太平洋のちょうど中央に位置するアストラ島が太平洋連合帝国に反乱を起こし、連合軍の艦隊を撤退にまで追い込んだ。またこの時、秘密裏に領域侵犯を行っていたこちら側の部隊も壊滅。君が大好きなヴァルキュリアも落とされたそうだ」

「何馬鹿なこと言ってんです?たかが島一つの反乱で、あのヴァルキュリアが落とされるとか…ってかあれを落とせるのはアタシだけだし」

「お前は少しは口の利き方に気をつけたほうがいいぞ…」

 思わずこめかみを抑える基地司令をよそに胡散臭げに指令書と報告書を見比べるアキ。規律違反の常習犯であり、とっくの昔に僻地に飛ばされるか、あるいは軍から放り出されてもおかしくない立場ではあるのだが、この基地司令がアキの腕を見込みある程度の融通を利かせてくれている為今のところは自由にやらせてもらっているのだ。

「でもおかしいじゃない。例え反乱軍の新型がどれほど高性能でも、それを操るノウハウも無いだろうし、何より連合軍の数とヴァルキュリアの腕なら何の問題もないはずでしょ?」

「そうだ。だが、報告書には載っていない未確認の情報ではあるが、どうも常識はずれの化け物が島側に加勢したとのことだ。どうもそいつが連合軍の艦隊もヴァルキュリアもまとめて片付けれしまったらしい」

「余計信じられないんですけどぉ」

「信じてもらおう。実在するかどうかはともかくとして、今から君たちはアストラ島に侵攻するんだ。そのくらいの化け物がいるかもしれん、くらいの心構えを持って行きたまえ。以上だ」

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