第四話
扉が完全に開く。内部が外から見えるようになり、四機の全く見覚えのない機士がそれぞれ武器を構えて危なげなく歩き出す。
陽の光を浴び、赤みがかった装甲を見せつけつつ四機の機士が連邦・連合双方の機士に銃口を向ける。
(太平洋連合帝国、ユーラシア連邦共和国、そして今もなおニ大国の狭間で苦しみ続ける世界中に告げる。我々はアストラル。ニ大国どちらかにも属することのない、独立国家である)
「こいつら…何を言っているんだ?」
隊長が訳も分からず呆然と呟く。独立国家?アストラル?二つに分かれたこの地球で、そのような勢力は存在し得ない。例え現れたとしてもニ大国がそれを許すはずもなく、一瞬で歴史の教科書の一単語になることなど誰もが理解しているはずなのだ。
(我々はニ大国の間で資源採掘の為の奴隷としてのみ生きることを強要されてきた。世界を二分したことは、確かに戦争の一極化を実現し、前線の大幅な縮小を実現かもしれない。だが、その影で本来あるべき自由を奪われ、前線の苦労全てを押し付けられてきたのは我々だ!だからこそ、我々はニ大国の情勢に左右されない独立国家を建国する!その為の武力も手にした!志を同じくする同胞があれば、この島の鉱物と技術を提供しよう!ニ大国の支配に抵抗するものが居るならば、我々は拒むことはない!立ち上がる時が来たのだ!)
カルマの演説と共に、ヘラが改めて操縦桿を握り締める。ロックオンは直前までせず、あくまで照準を敵機に合わせておく。後少しで演説が終わり、戦いの火蓋が切って落とされるのだから。
(だからこそ我々は、太平洋連合帝国、ユーラシア連邦共和国に対し宣戦を布告する!!)
世界中に響き渡ったカルマの宣戦布告と共に、ヘラたちは一斉に操縦桿の引き金を引いた。『サンドラ』の専用銃が火を噴き、連邦・連合双方の機士に直撃した。
完全に不意を疲れた上に、本来は変形機構を活用した一撃離脱を前提に作られている連合軍機士は、隊長機一機を残して『サンドラ』の銃弾によって一瞬で蜂の巣になる。コックピットのある頭部と胸部の間に空いた穴からエンジンオイルに赤いものが混じった液体が漏れ出た。ヘラたちはそこから意図せず目をそらしつつ、ある程度の被弾を前提に強固に作られた連邦軍機士に視線を向ける。
変形し戦闘機形態でヘラを狙う連合の隊長機。部下たちを奇襲でもって撃破した四機に向けてミサイルの照準を合わせる。
しかしそれに気づいた様子は無い。やはり素人か。
連合軍の隊長は敵のあまり高くない練度に対し安心と、こんな連中に部下を全滅させられた屈辱で燃え上がる。
「今時反乱など、時代遅れなんだよ!!」
そう独り言を呟くと操縦桿を握り締める。しかし次の瞬間、レーダーに新たに三機の機影が写り連合軍隊長は思わず操縦桿を引く。
隊長機を狙ったと思われる銃弾が空を切り海に着水する。銃弾が飛んできた方向にメインカメラを向ける。するとそこには、人型形態のまま空に浮かぶ空戦型『サンドラ』が三機が居た。
「バカな…変形もせず飛ぶ機士だと!?」
連合軍隊長が驚愕の呟きを漏らす。知ってか知らずか、先頭の機体に乗るカイナはニヤリと口角をあげる。
「やるよ!ドナール、ケイン!!」
「おうよ!!」
「やってみます!!」
空戦近接特化型に乗るドナールがヒートソードで斬りかかり、連合軍隊長機は戦闘機形態の機動力でそれを回避する。
「何なんだ!?人型であんなにも飛べるものなのか!?」
ありえない、と叫びつつ、空戦遠距離射撃型に乗るケインのスナイパーライフルの狙撃を紙一重で回避する。ケインは空中と言う不安定な状況をものともせず飛び回る戦闘機を狙撃して行く。
やがてケインの狙撃を避けきれず、ブースターの片方が損傷し炎上する。とっさに連合軍隊長はそれをパージするが、その結果当然ながら機動力が大幅に落ちてしまう。そしてその隙を突き、ドナールが斬りかかり、連合軍隊長機は片翼を失う。
「今だ!!」
空戦中距離型に乗るカイナは錐揉みして落下していく連合軍隊長機を二丁のガトリングガンで一気に蜂の巣に変えた。
そして地上。連合軍機最後の機士はヘラたちの目の前で海に落下し、爆発した。
「こっちもやらなくちゃね…マイ、作戦通りバーニィとジョーの二人を連れて回り込んで!私が切り込むわ!!」
「大丈夫なの!?」
「一応、私がリーダーだもの!!やれるだけやってみせるわ!!」
ヘラは自分に言い聞かせるように叫ぶと操縦桿を握り締め、ようやく反撃態勢に入った連邦軍機の内、真ん中の一機に銃弾をお見舞いする。当たって、と内心思いながらだったが、連邦軍機はそれをあっさりと回避し三機一斉に反撃してきた。
とっさにシールドで防御するヘラだが、シールドから機体に走る三機分の銃弾の衝撃で操縦桿を握る両腕が痺れ始める。
「そらそらぁ!!」
「横がガラ空きだぜぇ!!」
自身を奮い立たせるように叫び、陸戦近接特化型の専用機に乗ったバーニィが斬りかかり、陸戦中距離射撃型に乗ったジョーがマシンガンを乱射する。
二機の攻撃はそれぞれ防がれたものの、その隙に陸戦後方砲撃型を操縦するマイが正確に迫撃砲をぶち込み、連邦軍機の内の一機は直撃を受けて爆散した。
「まず一機!!」
残り二機。それぞれ空戦部隊と陸戦部隊の二方向にマシンガンを乱射して接近を阻止しようとするが、既に背後に回ったヘラの乗る総合型リーダー機が二本の超高熱ヒートナイフが的確に二機の連邦軍機のジェネレーターを焼き切る。
「今よ!!みんな!!」
動きが止まった二機が熱暴走を始め、爆発一歩手前の状態になる。それを確認した六人はそれぞれの手持ちの重火器を一斉に打ち放ち、二機の連邦軍機を海まで吹き飛ばした。
「すっごーい…」
呆気にとられた顔でレノアが窓の外の機士部隊を見つめる。機士たちは見せつけるようにそれぞれの武器を高く掲げ、周りの子供たちが歓声を上げる。しかしイルアは真ん中の一機から目を離せなかった。
「もしかして、姉さんなのか?」
「え?」
何故と聞かれても分からないが、イルアには真ん中の機士に乗っているのがヘラだと分かった。それだけじゃない。その周りの機士六機全てのパイロットに機体の名前と特性がまるで知っているかのように分かる。
何もかもまるで見てきたかのように把握できてしまうことに強烈な違和感を覚えるイルア。しかし同時にこのままではいけない、と言う強迫観念に囚われ駆け出した。
いや、それ以上に誰かに呼ばれた気がしたからなのかもしれなかった。
頭の中で声がする。このままではダメだ。だから早くここに来い、と。
後ろでレノアが驚いて呼び止めるも、イルアは気にもとめず走り続ける。このままじゃまずい。何か、ずっと怖いものがこの島に近づいてきてる。
イルアが出処のわからない予感に身を任せて駆け出したのと同じ頃。中央司令室のカルマの元には背筋を凍りつかせる情報が届いていた。
「防衛機構が破られただと…!?」
「数は一機ですが、データに無い速度で島本土に接近中!!恐らく、連合軍の新型です!!」
戦闘機形態に変形した新型試作機を操縦しつつ、ジーナはコックピットに備え付けられた無線からの指示に耳を傾け、人知れず顔をしかめる。
「鉱山さえ無事なら良し。立て篭った島民たちの生死は問わず、か。そんなんだから反乱なんかを起こされるのよ…」
(オートライト少尉。作戦に若干の変更アリだ。立て篭り犯たちの開発した機士の性能を確認したいのでできる限り無傷で回収しろとのことだ)
「…了解。でも、できなくて壊しちゃっても減俸になんかしないで下さいね」
この状況下にあって未だ頭にあるのは自分たちの都合ばかり。自身もかつては独立国家であった小国出身のジーナはアストラルの立場を憂いため息をつく。
反乱を起こしたくなる気持ちは痛いほど分かる。特にアストラルなどは資源国家として、なんの資源もマンパワーを持たないジーナの故郷とは比べ物にならないほどの苦行に耐えてきたのだろう。
だが、それでもこの冷戦の情勢下で反乱など許されることではない。ニ大国間の実力が拮抗しているからこそ保たれている歪で空虚な平和であっても、そこにはその平和の中でしか生きれない人々が大勢いるのだ。たったの一つの国家の反乱であっても、その均衡を揺るがせばどうなるかくらい理解できるだろうに。
フットペダルを踏み込み、高速でアストラ島に向かうジーナ機。やがてレーダーに三機の機影が映った。
「アストラルの新型ね…性能はどんなものかしら!?」
レーダーの動きは確かに高々度を移動しているが、早さが戦闘機のものではない事が気になるジーナ。やがて雲の切れ間から現れたのは、人型のまま空中を飛ぶ『サンドラ』空戦部隊の姿だった。
「人型のまま…!?なるほど、技術部が欲しがるわけね!!」
ジーナは三機同時に警告なしで撃ってくるのを華麗に避けつつ、一瞬の隙をついて変形して正確に編隊の真ん中を飛ぶ空戦中距離型サンドラのブースターを撃ち抜く。
「でもパイロットは素人、か。まあそこまで余裕は無かったってことね」
微かに失望しつつ、ジーナはサブブースターで自由落下を制御しつつ動揺する残り二機に向けて発砲する。なんとかそれをシールドで防いだドナールはそのまま落下していくカイナ機を回収し、ケインはスナイパーライフルで落下していくジーナ機を狙撃するが、ジーナは器用にそれを回避し反撃してくる。
「くそっ!!なんで当たらないんだよぉ!!」
「足を止めてちゃただの的よ!!」
思わず悪態をつくケインをよそに、ジーナは正確にケイン機のスナイパーライフルを撃ち抜いて見せる。ケインは何が起きたか分からないままに爆発したスナイパーライフルの爆発の衝撃で体勢を崩して錐揉みしながら海へと落下していった。
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