第二十四話
(少し落ち着け。ツバサ博士からの通信がきたぞ)
「ツバサ先生から?このタイミングで…!?」
いつも重要な局面は黙り込んでいるツバサ先生がわざわざ通信を送ってくるほどの事態という事なのか。ジーナもどこかの誰かからの通信を受けていた。
(いいかイルア。恐らく核ミサイルのことは本当だろう。戦闘開始前に教えた、前の連合軍のミサイル攻撃のことは覚えているな?)
「まさかあれが実験だった!?ここに核を打ち込むための…!!」
狂気の沙汰としか思えない。この島には豊富な鉱物資源に加えて非戦闘員を含む、ざっと二千人近くの島民と、侵攻中の連邦軍兵士がざっと百人近くが居ると言うのに、それをたった一人と一機を消すために巻き込むことを良しとすると言うのか。
(恐らくそうだ。使用されるミサイルは前回と同じ、かく乱とステルスの機能を併せ持った新型長距離弾道ミサイルだろう。そして、それに対抗する手段は今のところ完成していない。つまり私たちでは発射されたことは探知できても、ミサイルの軌道を察知することができないのだ)
「つまり、俺とアストラル・ゼロが目視で撃ち落とすしかないってこと!?」
「ダメだ!!さっき総司令官から連絡があった!!作戦が前倒しになって、核ミサイルがたった今三発発射されたんだ!!後二分で一発目がここに着弾する!!」
(こちらでは確認できないが…確かに妨害電波は確認できた…)
「嘘でしょーっ!!」
逃げ場はどこにも無くなった。イルアだけで、核を全て撃ち落とすしかない。
「ゼロ、核ミサイルの現在地は?」
(正確な位置は発見できない。だが、大体の場所は分かっている。後は目視で落とすだけだが…)
AIの癖に歯切れが悪いゼロ。何かを恐れているかのような感じがした。
「ゼロ!!言う事があるなら早くしてくれ!!」
(…正確ではないが、核ミサイルの位置関係からして、大気圏内で爆破させればこの島は汚染される可能性が高い。だが、大気圏外で撃破すれば、恐らく私たちは核爆発に巻き込まれるだろう)
「つまり、死ぬかもしれないってことか?」
(その可能性が高い。余計な放射能漏れを抑える為にも、爆発の中に残る必要があるからな。だが、今なら五人ほどを連れて安全圏まで退避が可能だ。どちらを選ぶ?)
核ミサイル着弾まで、後一分。選択肢は二つで、シンキングタイムは五秒以内。
なら、道は一つしかない。
「ゼロ!宇宙まで飛ぶぞ!!」
(…了解した。最後まで付き合おう)
止めようとするジーナ機を振り払い、アストラル・ゼロがふわりと飛び上がる。一瞬にして雲より高く飛び上がり、アストラ島が虫のように小さく見える。
高く高く、青い円形の大気圏が見えるほどまで飛び上がったアストラル・ゼロの中、イルアはテレパシーでレノアと繋がるのを感じた。咄嗟にキスされた右頬が熱くなる。あれ、結局どういう意味だったんだろう。だが、イルアの好きと、レノアの好きが果たして同じかどうか。それを確かめるためにも、今ここで死ぬわけにはいかない。
「グラビティ・サイクロォォォォン!!」
重力波を放ち、周囲の物をアストラル・ゼロに向けて引き寄せる必殺技。正確な位置がわからない以上、これで一気に全部まとめて集めるしかない。
(来たぞ、核ミサイルだ!!)
「信じてるぞ!ゼロ・フィィィルドッ!!」
全身全霊をかけ、赤いバリアで機体を包み込む。グラビティ・サイクロンで引き寄せられた核ミサイルがアストラル・ゼロ目掛けて飛びかかり、三つの核爆発が宇宙空間で一度に炸裂した。
「うわあああぁぁぁぁぁ!!」
全ての力を込め、あらゆるエネルギーを遮断するはずのゼロ・フィールドを展開し続ける。だが、三発分の核爆発のエネルギーはゼロ・フィールドを蝕んでいく。
(想定以上の爆発力だ…!!)
今まで無傷を誇っていたアストラル・ゼロの装甲がどんどん焼かれていく。元々赤かったアストラメタルが、本来有り得ない熱で溶け始めていた。
だが、負けるわけにはいかない。この身体は自分ひとりの物じゃない。あの島で出会えた大切な人たち全ての命と繋がる、大切な身体だ。核爆発などで失っていいものなどではない。
「負けるかぁぁぁぁぁ!!」
全ての気力を振り絞り、ゼロ・フィールドにエネルギーをまわす。装甲の白熱化が止み始めた。
(クッ!?四発目だと!?)
「え…?」
その時、四発目の核ミサイルが宇宙空間で爆発した。
「着弾確認…」
監視衛星から送られてくる望遠映像に映る眩い核の光。想定より爆発範囲が狭いが、その分エネルギーは凝縮されていた。
「やった…倒したぞ!!これで我が連合帝国の未来は約束されたも同然だ!!」
まるで子供のようにはしゃぐ太平洋連合帝国皇帝。隣でそれを冷めた目で見つめる総司令官。つい三十分前、皇帝がなんの前触れもなくいきなり現れ、勅命で核ミサイルの発射を強行したのだ。本来であれば後三十分は時間がある筈だったが、これではジーナが到着したかどうかも怪しい。
しかし、これで終わったのだろうか。核爆発の影響でノイズで埋め尽くされた監視衛星からの映像を眺めつつ、総司令官は胸によぎる不安と焦燥がどんどん高まっていくのを感じる。
「さて、これで最後だ!幸い鉱山は無事だ。ならば、アストラ島を制圧して例の鉱物を…」
「目標地点に機影を確認!!」
「馬鹿な!?」
「監視衛星、復旧します!!」
ノイズが消えて、真っ暗な宇宙の光景がモニターに映っていく。そこには確かに赤い機体が居た。しかしあちこちの装甲が剥がれ、両腕も肘から先は無くなっていた。
出現が確認されてから、初めての損傷だった。
「ば、馬鹿な!?くそっ、もう一発だ!!核はまだあるんだろう!?ありったけあれにぶつけろ!!」
「しかし…」
「私の命令が聞けないのか!?あの目障りな化物を一刻も早く消せと言っているんだ!!」
「陛下!!モ、モニターをご覧下さい!!」
「なんだこれは…!?」
司令室の全員が息を呑む。モニターの向こうでは、確かにアストラル・ゼロが再生を始めていたのだった。
(ここは、どこだ…?)
意識が遠い。体が重い。一体何が起きているのだろうか。
まるで泥の中を泳いでいるかのような感覚に囚われ、えも言われぬ恐怖に襲われる。何とか逃げ出さなければと手を伸ばすが、何一つ掴むこともできずに空を切る。
怖い。ただ兎に角、ひたすらに怖い。
(どこなんだよ、ここ…)
やがて手が何かに届き、今いる場所が何か箱情の物の中だという事はわかった。
閉じ込められている。だが、いったい誰に?
必死に目の前の壁を押し、外に出ようともがく。やがて微かな光が箱の中に差し込み、イルアは満身創痍になりながらも外へと飛び出す。
体がうまく動かない。やけに視界が低いが、そんなこと気にしている余裕はない。上がりきらない膝を持ち上げ、少しずつ階段を上がっていく。そしてようやく見つけた扉を開く。そしてそこには―――
(自己修復プログラム、完全起動を確認。パイロットの生命反応に問題無し。意識の覚醒を確認。脳波、心拍数に若干の変動アリ)
ようやく目を開けるイルア。全身汗ビッショリで、まるでフルマラソンを走りきった直後のように疲れきっていた。
(修復率五十パーセント。外部装甲の修復完了。続いて内部機構の修復にかかる。パイロット、正常に覚醒。脳波の変動率低下。安定期に突入)
「…ゼロ。お前も、思い出したのか?」
(記憶領域の修復は完了している。恐らく、先ほどの核爆発の衝撃で緊急時用の非常プログラムが起動したと思われる)
「そうか…なら、やれそうだな…」
ようやく全てを思い出した。そう、私がここにいることは最初から決まっていたのだ。
「場所もちょうどいいな…ゼロ、テレパシーフィールド展開開始だ」
(了解。地球上の、全ての人類の脳とのシンクロを開始する)
イルアが目を閉じ、アストラル・ゼロから赤い波動が放たれ始める。波動は地球の大気圏を包み込み、そのまま地球全土へと降り注いでいく。
レノアはジーナやアキたちと共にアストラ島でその光景を見つめていた。この光がなんなのかは分からなかったが、とても大切なことであることは理解していた。
やがてレノアたちに赤い光が降り注ぎ、気がついたときにはレノアはアストラル・ゼロのコックピットの中に居た。
「イルア!?これは一体…」
思わず駆け寄るが、イルアはまるで別人のような雰囲気を醸し出していて思わず立ち止まってしまう。
しかしイルアはそんなレノアに優しく微笑むと、そのまま全人類に向けて語りかけた。
「この地球に住む人類全てに告げます。私は今から九十年後の未来の人間であり、最後の地球人であります」
そしてアストラル・ゼロのコックピットの風景が変わった。
映し出されるのは、二大国の全面戦争の光景。機士たちが戦場を練り歩き、街や自然が焼き払われていく。
「私が居た本来の未来。アストラル独立宣言から始まった連合・連邦の二大国による全面戦争が、本来の歴史において、人類最後の戦争になりました」
生々しく映る核爆発のキノコ雲。宇宙からでも確認できるほどの威力を持った核爆発が、地球上のあらゆる場所で発生している。
「放射能除去技術の完成で核抑止の破綻により歯止めが効かなくなり、双方は泥沼の核戦争を開始しました。ですが、この戦争の最中、地球に奴らが攻め込んできました」
現れたのは、見たこともない形をした戦闘機の数々。二大国の軍が立ち向かうも、手も足も出せず次々と撃墜されていく。
「宇宙からやって来た彼らは対話の可能性すらなく、一方的に地球を攻撃しました。世界中の主要都市に対し放たれたビームにより、世界中の人口の殆どが死滅しました。何とか生き残った者も居ましたが、彼らの放ったビームの残留エネルギーは人類に取って毒であり、地下シェルターに逃げ込んだ人も、まもなく死滅しました。アストラルの生き残りが唯一完成させた血清と完成間際のアストラル・ゼロを託された、当時生まれたばかりの私を除き、全てが…」
周囲に映し出された寒々とした赤い砂漠。あまりにリアルで、画面越しに見ているだけで心の全てをへし折りそうな光景だった。
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