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第二十三話

「不満そうだな」

「当然です。核の使用は国際法違反です」

「今更国際法なんか誰が気にするんだ?君がそんなことを気にしているのなら、それは無駄というやつだ」

 総司令官のゆったりとした態度を前に苛立つジーナ。見透かされている、と感じていたからだ。

 だがそれなら、わざわざ取り繕う必要もない。向こうもこの反応を予測している節がある以上、ある程度の反抗も許されるだろう。

「本心を言わせてもらいます。こんな決着のつけ方が気に入りません。私はあくまで、あの牛を一体一でステーキに調理してやりたいのです」

「なる程。核では火力が強すぎるか。不謹慎ではあるが、中々いいジョークだ。だがそれだけでもないのではないか?例えば、そう。君はガリバラーで遭遇した、アストラル・ゼロのことだ」

 脳裏に浮かぶ、大人しげで優しい目をした少年の笑顔。思わず肩を震わせるジーナを見て、総司令官は満足げに頷いた。

「君の心境を当てようか。あの機士が破壊されるのが怖いんだろう?」

 心境を見事に言い当てられ、動揺するジーナ。

「…なぜ、そんなことを?」

「簡単な話だ。私も怖いからだ」

 さらりと笑顔で言ってのける総司令官。

「だが、同時に焦ってもいる。一刻も早く、あれを破壊しなければという思いもあるのだ。そしてそのどちらも、その理由が自分の中に見つからない。これは、一体どう言うことなんだ?」

「私は、破壊しなくてはと思うことはありません。ですが、理由もなくあれを破壊してはいけないと考えてしまう。アストラル・ゼロを直接この目で見た時からずっと」

「そうか…」

 会議室の二人が凍りついたように黙り込む。まるで、この次に口にするであろう言葉を恐るように。だがそれでも、どんどん時間は過ぎていくのだ。

「…貴族院はどう考えているのです?まさか、核を使うと決意したと言うのに無関心なままというのも無いでしょう?」

「答えが分かっていて聞くのは失礼ではないかね?まあいいさ。最初こそ無関心だったが、その存在を思い知らされると共に強行的になっていったよ。まるで、存在そのものに怯えるかのようにね」

 アストラルの反乱が始まってから早くも三ヶ月近くが経とうとしていて、その間一度も目立った戦果を上げれていない。敵国の連邦も同じであり、冷静に考えれば懐柔に走る方が確実かつ現実的なはずだ。現にガリバラーの反乱には連邦軍は秘密裏に懐柔作戦を進めていたのだから。

 だがどちらもアストラルに対しては懐柔を行おうとせず、むしろより一層苛烈さをまして行くようにも見える。まるで何かに怯えるように。

「ここから先には独り言だ。私は、あれはもしかしたら世界をひっくり返す為の存在ではないのかと思う。今の地球の、二大国の対立による戦争状態を前提にした、あらゆる意味で矛盾した秩序を破壊する為に現れた。そして、我々は皆、それを無意識のうちに理解してしまっている。だからこそ、上流階級の人間になればなるほどあれを恐れるのでは無いか?」

 独り言を聞くジーナも、その説に納得できてしまった。戦っている間、常に頭の中にあった違和感。それは恐らく、地方出身の被差別階級であったジーナだからこそ一層強く感じていたのだろう。

 ならば、こんな形でアストラル・ゼロが消されることを許していいのだろうか。ガリバラーでであった二人の顔を思い浮かべる。まだ十六ほどの年齢の二人で、随分仲睦まじく見えた。あの二人の未来を、薄汚れた大人の都合で壊してはいけない。そう思えた。

「出撃命令は出せない。だが、君の機士の整備の終わっている。あれの性能があれば、三十分ほどでアストラルまで到着するだろう。そして核の発射は一時間後だ。さてどうする?」

「まだ有給は消化していませんので、使わせてもらいます」

「いいだろう」

 無言で敬礼するジーナ。あまり喋ったことが無い総司令官だったが、ガリバラーを出てから初めて出会えたイイ上司だと思えた。恐らく、もう会うことはないだろうけど。

「失礼します」

 会議室を出ると、足早に格納庫に向かう。格納庫は無人で、換気でもしているのかハッチは全開だった。

 専用機に乗り込み、カタパルトに機体を乗せる。そしてこちらからの操作で機体を射出させ、戦闘機形態に変形し、アストラル目掛けて最高速で飛び出した。

 それを窓から見つめつつ、総司令官は静かに笑った。

「これで私も解任かな?」

 満足げにタバコに火をつける。その時、懐の端末に着信が入る。今の件がもうバレたのかと思うが、聞こえてきたのは全く別の要件だった。




(右だ!数も多いぞ!!)

「だったらミラージュ・スプラッシュ!!」

 アストラル・ゼロから放たれたビームの散弾が、接近してくる連邦軍の機士たちの足やメインカメラを撃ち抜いていく。

「更に!グラビティ・ストライク!!」

 動けなくなった所に、重力を操る新技でそのままお帰りいただく。

 戦闘開始から早くも一時間。連邦軍の軍勢は減るどころかどんどん増加していく。もしや、大陸方面の兵力の全てをこの島につぎ込んできているのではないかと思ってしまうほどだった。

(強いのが一機、こっちに近づいている。恐らくアキ・フラストワーズだ)

「とおりゃあああああ!!今後こそ勝ったるわぁ!!」

 ゼロの解析を待つまでもなく、自身の存在を知らしめつつ接近してくるアキ機。イルアはもう一度ミラージュ・スプラッシュでビームの散弾を放つが、アキは軌道を読んで正確に避けていく。何度も戦っているうちに、向こうにこっちのくせを掴まれつつある。

「負けるか!やっと戦う理由を見つけられたんだ!!」

 瞬間移動かと見間違う程の速度で接近し、プリズムセイバーでアキ機の右腕を切り落とす。だが、アキもまたアストラル・ゼロに蹴りを入れ、二発目の斬撃を避けられる距離まで飛んでみせた。

「やっぱり強いな…」

「流石に、もう動きが素人っぽくはなくなっちゃったか…」

 お互い動きを読み合いつつ、強さを内心認め合う。ある意味、イルアもアキも戦いを通じてお互いを分かりつつあった。

 防衛部隊のメンバーの疲弊もいい加減激しい。流石に七人とアストラル・ゼロでは、連合軍との連戦に加えて連邦軍の人海戦術を前に押されつつある。

(作戦完了の知らせだ。スパークハリケーンを全力で放て)

「やっとか!?」

 逆転の切り札は、ガリバラーで新たに習得した新必殺技。あれを使えば、この島全域に加えて周囲に待ち構えている連邦軍も行動不能に出来る。ただし、使えばこの島の電気製品全てがお釈迦になる。なので対策用の特殊プラスチックカバーが島中に敷かれるまでは耐えねばならなかったのだ。

「最大出力…スパークハリケーン!!」

 プリズムセイバーから放たれたイナズマのエネルギーが、アストラルの周囲一キロ全てを包み込む。当然アキも含む機士たち全てが動きを止める。

「ちょっと!?なによこれ!?」

 思わず取り乱すアキ。しかしそんな事をしても、電子装備全てを破壊されている機士が再び動くことはない。

 プリズムセイバーを突きつけ、イルアは広域通信で連邦軍に通達する。

「もう終わりだ!機体はそのまま返してやるからとっとと帰れ!!」

 イルアの通達を受け、一人、また一人と連邦軍機士からパイロットが降りていく。その光景をモニター越しに見つめつつ、カルマはようやくホッとしたため息をついた。

 その時、空席だった副官席に元気のなさそうな顔をしたオズマが駆け込んできた。

「遅くなった…と、もう終わりか」

「ああ。お前のほうこそどうだった?娘と仲直りできたか?」

「…そうだな。まあとりあえず、お前の息子に伝えろ。娘はやらんぞとな」

「何の話だ?」

「レノアが結婚を前提にお前の息子と付き合いたい、だとさ。で、お前にそれを伝えて欲しいと言われたので、ついでに俺も伝言を頼んだだけだ」

「…最近の子供は進んでいるんだな…」

 予想外すぎる展開を前にそう呟くしかないカルマ。と言うか家出娘の帰宅から、なんで結婚を前提としたお付き合いの話になり、そらにその伝言役に父親が選ばれるのだろうか。

「し、司令官!連合軍機が一機こちらに接近してきます!!」

 色々不思議な雰囲気になっているカルマたちの空気を切り裂くように報告が上がる。ちょっと元気がなくなったカルマも、流石に生き返って体を乗り出した。

「一機だけ?亡命か何かか?」

「通信を要求してきています。繋げますか?」

「ああ。繋げてくれ」

 防空レーダーに映る機影から通信が届き、モニターにうら若い女性パイロットの姿が映る。その顔は、今やこの島に住むものからすれば、忘れようのないほど出くわした顔だった。

「ジーナ・オートライト…!?なぜ貴方が!?」

「時間がないので細かな説明は省きます!連合上層部が、アストラルに対し核の使用を決定しました!!一刻も早くここから離脱してください!!」

 ジーナの切羽詰まった声がオープンチャンネルの広域無線を通じてアストラル中に響き渡る。

「この声、ジーナさん…!?」

(生体反応も同一人物と判断している。だが、核だと?)

「って何言ってんのよあのまな板!!核なんか国際法違反じゃない!!」

 コックピットから這い出たアキがすぐそばまで接近してきたジーナ機に聞こえるように叫ぶ。一瞬アキを踏み潰したい衝動に駆られるジーナだったが、ここは事情を説明するほうが先だ。通信チャンネルがわからない為ワイヤーを飛ばし、有線でアストラル・ゼロと通信する。

「イルア君?連合上層部は、核で何が何でも貴方とその機体を消すつもりよ。理由は分からないけど、それだけはダメだと思うの。だから、ここは一人でも多く連れて逃げて!!」

「でも、この島の全員を逃がすなんて無理でしょ!?さっきスパークハリケーン使っちゃって、最低限の機械以外は壊れちゃったし、何より連邦軍の人たちが多すぎる!!」

 周囲に転がる大量のスクラップの山。その全てに連邦軍兵士が乗っている上に、非常用の輸送機など、すぐには使わないと判断された物のカバーが間に合っていなかった為に使えない移動手段が多すぎる。

 司令室となっている役場の地下は核シェルターにもなっているが、収容人数は島民全員でギリギリだ。とても連邦軍の兵士たちが入るスペースはないし、そもそも全員が避難するのに三十分くらいはかかる。

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