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第二十二話

「あれ、こんな狭かったっけ…」

 たった一週間ぶりのはずなのに、随分懐かしく思える自室にカバンを置き呟く。もしかしたら、ずっと居た部屋がやたら豪華だったせいで感覚がマヒしてしまったのかもしれない。

 まあそんなことばかり考えていても仕方ない。レノアと比べれば圧倒的に少ない着替え等の荷物をテキパキとタンスにしまい、最後に今回初めて使った旅行かばんを物置にしまう。

 片付けを全部終わらせてリビングに戻る。するとそこには、案の定レノアがまだ荷物を置いたままグズグズしていた。

「レノア。まだ帰らないのか?」

「うう…だってさ、流石に騙して出て行った訳だし?そもそも家出中だった訳だしさ…どんな顔で会いに行けばいいのよーっ!!」

 レノアは島に帰ってきてからと言うもの、ずっとこんな調子で動こうとしない。そもそも自分の家に直帰せず、この家にいる時点でおかしいっちゃあおかしいんだが。

「流石に今回は母さんも怒ってるだろうしなぁ…」

「はあ…だったらさ、俺も一緒に行ってやるよ。そんで一緒に怒られようぜ」

「けどさぁ…」

「そんなこと言ってたら一生ここから動けないだろ?言っとくけど、今日はレノアの分の夕食は無いよ」

「うう…分かったわよ。行けばいいんでしょ?行けば」

 ウダウダ言いつつ、でっかい旅行かばんの取っ手を伸ばして転がし始める。荷物の重さを加味しても、その足取りは明らかに重い。いつものハキハキした言動からは想像もつかないが、それほど参っているってことなんだろう。

「じゃあ、姉さん。行ってきます」

「うん…でも、大丈夫?帽子とかかぶってないけど」

「あ、もうあれ、いいや」

 さらりと言い放ち、レノアの荷物の一部を背負って玄関を出るイルア。レノアの家まではそれほど距離があるわけではないけど、それでも大荷物を持っているからそれなりに時間がかかる。

 そうなれば、当然のごとく島民たちが湧いて来る。ぞろぞろと何処からともなく現れ、二人を一定の距離を保ちつつ囲んだままブツブツと呟き続ける。内容もいつもどおり、まるでイルアを信仰しているかのような内容でありながら、言外に監視しているぞと警告しているとしか思えない視線を浴びせてくる。

 今まではそれから逃げるように顔を隠していたイルアだったが、今日は違った。

「気分が悪いな。邪魔しないでくれよ。疲れてるんだ」

 ハッキリと聞こえるように言い放ち、囲んでいる島民たちが予想外の行動に戸惑う。その隙をついてレノアの手を取ると、イルアは島民たちの輪から早足で脱出してみせた。

「なんか、以外」

「なにが?」

 今までと違って、どこか凛々しげな顔つきに見える。改めて見れば、背の高さも若干高くなっている気さえした。

「そんな風にハッキリ人を拒絶するの、初めてってわけじゃないけど。だけどあの人たちにもそう出来るとは思ってなくってさ」

 今まで、イルアは常に孤独に怯えているのは度々思い知らされてきた。だからこそ、他人に対して、どんなことをされてもどこか拒絶しきれない態度を取ることが多かった。特に排外的な思想を持つ島民たちに対しては、敵意さえも甘んじて受け入れようとしているようにも見えていたのだが。

「そうだな。前の俺だったら、無理だったかもしれない」

「ガリバラーで成長したってこと?」

「かもね」

 もうすぐレノアの家だが、周囲にはまだ人影はない。さっきの連中も追いかけては来ないようだ。

「ずっと考えてたんだ。なんで戦うのか」

  戦わなきゃここに居られない。それを理由にしてきたが、そもそもその考え自体が間違っていると何度もレノアに言われてきた。

「本当は、あの力で何かやらなきゃいけないことがあると思うんだ。きっと大切な、俺の失った記憶に関係する特別な使命が」

「ゼロが言ってた使命のこと?」

「ああ。だけど、それを思い出すまではどうしようもないだろ?だから新しい目的が必要だと思ってさ」

「へえ…どんな目的?」

「そうだなぁ…取り敢えず、レノアをずっと守ることかな」

 さらりと言い放ち、どんどん先に進んでいくイルア。対して呆然としてしまい、置いていかれてしまうレノア。イルアが不思議そうに振り返るが、それにすら気づかずレノアは顔を真っ赤にしてあたふたし始める。

「え、ちょっと待って!?い、いきなりそんなこと言われても困るっていうか…」

「何を慌ててるんだよ。そんな変なこと言ったか?」

「ああそうよね!?べ、別にそうじゃないよね!?」

「何言ってんのか全然分かんないぞ?ちょっと落ち着けって」

 どんどん混乱していくレノアをなだめるべく、止む終えず近くのベンチに座らせる。それから暫くは、レノアが一人で顔を赤くしたり、かと思えば真顔に戻ったりを繰り返す。

 レノアが完全に元に戻ったのは、それから十分くらい経った後だった。

「落ち着いたか?」

 コクコク頷くレノア。色々変な声を出しすぎてまだ声が出ないらしい。

「さっきも言ったけどさ、やっぱり俺はこんな戦争を止めさせたいって思ってる。もしかしたら、それが使命なのかもしれない。だけどそれ以上に、俺はここが好きなんだ。父さんが居て、姉さんが居て、ツバサ先生が居て、そんで勿論レノアが居るこの島が好きだ」

「そっかぁ…だから、取り敢えずってことね…」

 心臓が破裂するかと思うほどのドキドキを乗り越え、ようやくホッとした気持ちになるレノア。だけど、ほんのちょっとだけガッカリもしていた。

 やっぱり、イルアは昔と同じくずっと子供のままなんだろうか。

 いや、多分そうなんだろう。恐らく、男女の性差も教科書以外のことを理解していなんだろう。でなきゃあんなにも気安く抱きついてきたりしない。

「…なんでだろうな。だいぶ小っ恥ずかしい台詞だってこと、分かってたハズなんだけど」

 気づけばイルアに手を繋がれていた。僅かに汗で湿っているが、どちらの手が湿っているせいなのかわからない。

「最近レノアと一緒に居ると、変な気分になるんだ。前までなら、こんなことくらい当たり前だったはずなのに、どうして上手く出来ないんだろう?」

 思わずドキッとする程悩ましげな声。恐らく本気で悩んでいるのだろうが、その内容には心当たりがあった。

 ずっと昔、イルアへの恋心を自覚する直前に、全く同じことでヘラに相談した。からかわれるだけの結果に終わったけど、だけどそれでも自覚させてくれるだけの効果はあった。

 同じことをやる勇気は無いし、そもそもそんなキャラじゃない。だけど、これは千載一遇のチャンスだった。もしこの時を逃せば、一生二人の関係はこのままな気がした。

「ねえ、イルア…私も…」

 そっと近づき、それなりに実った胸部を押し付けるように抱きつく。いつものスキンシップのハグではなくて、勇気を振り絞った本気のアプローチ。

「ずっと同じことを思ってたんだよ…?ずっと…」

 どんどん二人の間の距離が縮んでいく。視界全体がイルアの顔で埋め尽くされ、お互い同時に目を閉じる。やり方はテレビで見たのを覚えていた。

 後ちょっと、と思った瞬間、イルアのケータイが音を立てて鳴り響いた。

「!?!?!?!?も、もひもひ…」

(なんだ、いつになく動揺しているじゃないか。お邪魔だったか?)

「い、いやぁ…そういう訳じゃなくって…って何の用なんです?ツバサ先生。もしかして、何か重要なことでも…」

(ああ。出来れば今すぐ来て欲しい。例のミサイルの件で、君にも知っていて欲しいことが出来てね)

 チラリと後ろを振り返ると、レノアは一つ咳払いする。

「大丈夫。やっぱり、父さんにはアタシ一人で怒られてくるわ」

「いいのか?」

「いいの。じゃあ、また明日ね」

 荷物をまとめ、歩き出すレノア。しかしイルアのすぐ傍で立ち止まり、不意打ち気味に頬にキスした。

「!?!?!?!?!?!?!?」

「いつものお返し。じゃあね」

 それだけ言って逃げるように走り去るレノア。イルアはそれを固まりながら見送るしかなかった。

(おいどうした?まさかガリバラーで何かあったんじゃぁ…)

「先生…女の子って分かんないです…」

(はあ!?)

 予想外の返答に、ツバサは驚きのあまり手にしていたコーヒーカップを取り落とした。




「フラストワーズ、早速だが出撃だ。逝ってくれるな?」

「すいませーん。アタシ、たった今ガリバラーから帰ってきたばかりですよね?それに字面違いますよね!?アタシに死ねって言ってるんじゃないよね!?」

「申し訳ない。そうだ」

 帰還早々司令室に呼び出された挙句これである。やっぱり、そんなにも勲章踏み潰したのが気に入らないのか。

「司令官、流石にこれは納得がいきません!!しょーさいな説明をよーきゅうしまーす!!」

「子供かお前は…まあいい。実は連合が新兵器を開発したらしくてな。今日も先ほどアストラルに打撃を与えたらしい。で、それのダメージが癒えないうちに我々で追撃するという訳だ」

「なーんだ…先に言えよそれー」

 いい加減口の利き方など気にならなくなってきた司令官。相手は子供と思えば苦しくない。

「分かったら出撃しろ。それと、危険を感じたら即座に撤退しろ。連合軍の新兵器がどんなものなのか、我々は未だに掴めてはいなんだからな」

 指令を伝え終えた司令官に向け敬礼し、そそくさと格納庫に急ぐアキ。すでにこのプラント内に駐屯している兵士たちの出撃準備は整っていた。

「じゃあ行くよ!出発!!」

 アキの号令と共に飛び立つ輸送機の群れ。すでに何機か落とされてはいるが、アキがガリバラーに行っている間に補給していたらしい。

 まっすぐアストラ島に向かう連邦の輸送機。その動きは、監視衛星から連合軍にも伝わっていた。

 連合軍太平洋方面前線基地にて、連合軍総司令官はその報告を受けて少し迷うように机に肘をつく。

「思ったより早いな。やはり、連邦軍のブルファイターが合流したと考えるべきかな?我らがヴァルキュリアは、どう考える?」

「…恐らく、彼女も出撃したことでしょう。あれはそういう奴です」

感想待ってます。

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