第二十話
(少々遅れてしまったようだな。すまない)
「もういいよ。それより、あれ外せる?」
(この中に入れば、電波を遮断して爆破させないようにすることは出来る。そうすれば、多少時間はかかるかもしれないが外せるだろう)
「なる程。じゃあ、今は取り敢えずあいつら追っ払う方向で頑張るしかないか」
ゼロ・フィールドを展開してホテルを砲撃から守り、ホテル内に残っている兵士たちが脱出するまでの時間を稼ぐ。そうこうしている間に連合軍がどんどん近づいては来ているが、あくまで命令は守れだったし、レノアを助ける前に死なせるわけにはいかない。
どこからか連邦軍がわらわら現れ、連合軍と全面的に戦い始める。戦艦まで持ち出し、完全にここを自分たちの領土としているかのような態度だった。
「なんだってここに連邦軍が居るんだよぉ!!」
「知ったこっちゃないよ!!援護してくれるってんならどうだっていいだろ!!」
事情を知らないガリバラー独立軍の兵士たちの戸惑いの声があちこちから聞こえてくる。ここで真っ先に司令官が指示を飛ばすべき状況のはずではあるが、バレルは我先にとホテルから逃げ出すのに必死でそんな気など欠片もない。
おとなしく連れられていくレノアはそんなバレルの姿に呆れるやら、逆に感心するやらで思わず笑えてしまう。しかし笑われている、と感じたのか、バレルがレノアを睨みつける。
「なんだ?言っとくがな、生きてさえいりゃあ人質の価値は残るんだ。それを忘れるなよ!」
ちょうどホテルの裏口から脱出できた所だったからか、バレルはいつも以上に大きな態度でレノアに詰め寄る。分かりやすいくらいに汚い大人の見本だった。
「今まで見ていた司令官っぽい顔は、相当無理してたみたいね!誰かさんの下っ端がやけに似合うわよ、アンタ!」
「黙れこのアバズレ!あのガキに守られてると思って付け上がってるみたいだな!」
胸ぐらを掴まれ、そのままコンクリートの地面に叩きつけられる。立ち上がろうとするが、バレルに右手を踏みつけられて思わず悲鳴を上げそうになる。
「覚えてろ。ここをくぐり抜けたら、二度とそんな口聞けなくしてやるぞ」
ダメ押しとばかりにもう一度足に体重をかけ、レノアの右手に何個か小石が突き刺さる。
「遊んでいないでさっさと来い。それと、その娘は我々が買い取ったのだ。どう扱いかは私が決める」
「ふん!連れてったって穀潰しにしかならんでしょうに」
「安心したまえ、その辺のストリップ小屋にでも預けておくさ」
駐車しておいた連邦軍の装甲車の後部ドアを開ける。そして中に入ろうとした瞬間、強烈な爆音が近くに響いた。
「なんだ!?」
「危ないぞ!!そこから離れろ!!」
イルアの声が響くと同時に装甲車の運転席が着陸した連合軍機士に踏み潰される。そしてそのままオルドランやバレルを踏み潰さんと足を上げるが、アストラル・ゼロが反重力装置で連邦軍機士を持ち上げる。
「グラビティストーム!!」
そのまま重力の嵐を起こし、連合軍機士は何が起きたのか分からないままパイロットが気絶して動かなくなった。
地面に叩き落とされた連合軍機士を前に、バレルは思わず腰を抜かす。だが、オルドランは興奮していた。
「やはりこれほどの性能が…!!ふはは…これでこの戦争は我ら連邦軍の勝利で確定したようなものだ!!そして私も、この功績で出世出来る!!そうさ、いずれは総司令官の座も…」
「残念だけど、せいぜい二階級特進が関の山よ」
「へ?」
情けない声を上げるオルドラン。次の瞬間には、レノアのドッグボムの爆破スイッチを持つ右腕を撃ち抜かれてスイッチを取り落としていた。
「二人共、スイッチはこっちで壊すわ!!」
「カレンかぁ!?」
物陰から飛び出したカレンが爆破スイッチに向けてマシンガンを乱射する。それを見たイルアとレノアは、それぞれこのタイミングを逃さないように駆け出した。
「ま、待て!!爆破スイッチはそれだけでは…」
動かない右腕の代わりに左腕をスーツのポケットに入れるが、次の瞬間には二発目の狙撃で左腕までも撃ち抜かれていた。
全速力で戦場を駆け抜けるレノア。イルアもアストラル・ゼロを全速力で飛ばし、十分に近づいた所でレノアをコックピットの中にテレポートさせる。
「レノア!!」
「イルア!!」
コックピットの中で抱き合う二人。思っていたよりかなり早めの再会だったが、それでも嬉しさは十分だった。
(彼女のドッグボムの解除完了。こんな無粋な物は私の方で持ち主に返却しておこう)
ゼロの言うとおり、レノアの首に嵌められていたドッグボムが消滅する。イルアたちは知らなかったが、そのドッグボムは空中を自在に飛び回ると、両腕を撃ち抜かれた痛みで気絶したオルドランの首にすっぽりと嵌っていたのだった。
「さとて、反撃開始だ!悪いけど、連邦軍も出てってもらうよ!全力全開!スパークハリケーン!!」
超電子の嵐が戦場に広がり、ありとあらゆる機士のメインシステムがダウンしていく。一瞬の内にこの大戦争の決着は付いてしまったのだった。
「カレン…無茶ばかりして…」
少し離れた場所で狙撃銃を構えていたジーナ。戦闘の終了を感じ取り銃を下ろすと、オルドランとバレルたちを取り押さえているカレンの元に向かった。
直接顔を合わせるのは実に二年ぶりの姉妹の再会だった。
「大丈夫なの?MIAになったって聞いてたけど」
「連絡がついた早々に仕事を頼んでおいて、今更聞くことじゃないでしょ?せいぜいアバラが数本折れてるだけよ」
右胸のあたりを抑えながら軽く睨んでくるジーナを前にわざとらしく口笛を吹くカレン。呆れた顔のジーナの視線から逃げるように周りを見渡すと、戦いを終えたイルアとレノアがこっちに走ってきているのが見えた。
「カレンさん!!大丈夫ですか!?」
「大丈夫よ。姉さんが手伝ってくれたもの」
「あれ?姉さんって…」
近づいてきたあたりで隣のジーナに気づき、レノアが顔を青ざめさせた。
「イ、イルア!!まずいよ!!連合軍のヴァルキュリアだよ、あの人!!」
「え?そうなの?」
ポカンとした顔のイルアの顔がおかしくて、思わずクスクス笑うカレンとジーナ。レノアはイルアを背中に隠して威嚇するように睨みつけてくる。その顔もどこか可愛らしく思えた。
「大丈夫よ。今はMIA認定されて、除隊扱いされてるだろうから」
「だったら…もしかして、ここの独立軍に?」
「それは無理よ。あそこに転がってる二人を手土産にして、連合軍に戻るわ」
気絶したバレルと、最低限の止血を施されたオルドランを指差して言うジーナ。イルアはジーナがその台詞を言うとき、一瞬だけジーナもカレンも寂しげな顔をしていたことに気づく。
「なんで、連合軍に戻るんです?」
「あそこは、私の居場所だもの。疎ましく思われてるのも分かってるけど、軍に居る間は空を飛べるし」
「居場所…」
ジーナがカレンの姉なら、彼女の居場所はカレンの隣なんじゃないか。そうは思うが、口に出すことははばかられた。
「姉さんは、こんな狭い島で燻ってる人じゃないわ。それに、ここはもう世界中の敵だもの」
カレンもジーナが連合軍に戻ることを納得している。ならこれ以上は他人が口を挟めない問題だろう。
「でも、カレンこそいいの?この島の独立は、多分もう無理よ。バレルのやり方は確かに汚かったし、連合も見過ごせない問題ではあるけど…」
「そうですよ。俺たちなら、あのまま連邦軍に連れて行かれても自力で何とかしてみせますよ。独立が目標だったんなら…」
そこまで言った所で、カレンはそっとイルアの口に指を押し当てて黙らせる。
「そんなの、決まってるじゃない。貴方達に、これ以上怖い目にあって欲しく無かったのよ」
何もかも見透かしたような目で見つめてくるカレン。あの夜、初めて口にした戦う度に恐怖を感じていること。
多分、カレンにはイルアが感じている恐怖はそれだけじゃないことまで気づかれているんだろう。
うまく言葉に言い表すことが出来ないが、まるで今にも全てを失ってしまいそうな、常に心を蝕んでいる恐怖。
だけどカレンはすぐにフッといたずらっぽい笑顔になった。
「それにね。バレルのやり方じゃ、結局は支配者が連合から連邦に変わるだけだと思ったのよ。この男、連邦のスパイみたいなもんだし」
「じゃあ、これからどうするつもり?二大国を敵に回すなんて、まともなやり方じゃ無理よ」
「ええ。だから、これからはあちこちの反抗勢力と繋がりを築いていくつもりよ。その第一歩が、貴方達アストラル。貴方達の司令官に、口添えしてくれるかしら?」
「やたらと準備がいいわね…」
断る理由なんて一つもない。もしかしたら、カレンはある程度この状況を視野に入れてこれまで動いていたのかもしれないとおもってしまう程の手際のよさに、イルアたちは思わず笑ってしまった。
四人がひとしきり笑いあった後、やがてジーナは表情を切り替え一歩引いた。
「そろそろ行くわ。次に会うときは、敵同士よ」
「淋しいです。たったこれだけしか会えてないのに」
元々何度も戦ってきた上に、カレンの姉という事もあってかどこか親近感を抱きつつあったイルアは思わず呟く。そしてジーナもまた、それを悪くないと思ってしまう程に、イルアのことを気に入りつつあった。
だが、それは表に出すことを許されることではない。敵同士になる以上、親愛の情は元より家族の情さえも捨てねばならないのだから。
「さよなら。出来ることなら、もう二度と会わないことを祈っているわ」
ジーナはそれだけ言うと、調達した連合軍製の装甲車に捕虜二人を乗せて走り去っていった。三人はそれをしばらくの間それを見届けていた。
やがて、独立軍の誰かがカレンを呼ぶ声が聞こえてくる。既にバレルの素性と末路は知れ渡っており、今はカレンがここの司令官だ。
「私もそろそろ行かなきゃ。二人共、アストラルに帰りなさい。もうここに居る理由は無いでしょ?」
「はい。お世話になりました。カレンさん」
「ふふふ…最後まで可愛いなぁ」
不意に、カレンがイルアを抱きしめた。レノアが顔を真っ赤にして硬直する。しかしイルアは、今までに感じたことのない安らぎを感じた。
イルア自身、経験が無いから確かめようがないが、まるで母親に抱きしめられているかのような安心感だった。
「カ、カレンさん!!そのくらいで…」
「うんうん。レノアちゃんも、顔赤くしちゃって可愛い!」
今度はレノアをしっかりと抱きしめる。包容力のある抱きしめ方に惑わされ、一瞬力が抜ける。しかしすぐに恥ずかしくなって抜け出そうとするが、カレンは放してくれなかった。
「いい?イルアを本当に支えてあげられるのは、きっとレノアちゃんだけだよ」
「え?」
「忘れないで。イルアが、最後に頼れる相手は貴方だけだってことを」
レノアだけに聞こえるよう耳元でそう呟き、カレンはそっとレノアから離れていった。
「じゃあね。色々あったけど、二人に会えて良かったわ!」
最後にしっかりと笑顔を見せ、カレンは独立軍のメンバーの元に走っていった。
残された二人はその背中をいつまでも見つめ続ける。
「…レノア。帰ろっか」
「そうだね。島に帰ろう」
やがて二人も、夕焼けに照らされるアストラル・ゼロに乗り込みガリバラーから姿を消したのだった。
感想待ってます。




