表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/26

第十九話

 レノアが最後のペアカードを引き当て、ババ抜きが終わる。時間もちょうど良い頃合だ。筆談で相談するまでもなくアイコンタクトで会話した二人はベッドに潜り込んだ。当然お互い抱き合う姿勢だ。

 監視カメラでその光景を眺めていたバレルたち。毎晩監視していて、既に見慣れた光景になってしまった。これでもし、監視カメラの存在に既に気づいていてやっていると知ればどれほど驚くか、カレンは誰ひとりにも悟られることなくその瞬間を想像して楽しんでいた。

「侵攻は今日も無し、ですね。やっぱり連合軍の拠点をあらかた潰したのが効いてるんじゃないですか?」

「それはそうだろうな。向こうに送ったスパイの情報によれば、連合軍はこちら方面の再編計画を立てるのに必死で混乱しているそうだ。アストラル・ゼロのおかげだな」

「それが分かっているのなら、なぜ連邦軍の海上プラントを攻めないのですか?海上なら我々のフィールドでしょう?」

 既にガリバラー諸島の敵は連邦軍だけのはず。だというのに、バレルは連合軍の残党刈りばかりを命じて連邦軍との激突をあからさまに避けていた。カレンはそれを怪しく思っていたのだった。

「そうだな。そろそろ、潮時かもしれんなぁ」

 バレルはそう呟き、タバコを灰皿に押し付けて火を消す。それに反応してか、会議室に居たバレルの腹心たちが立ち上がり、カレンに銃を突きつけた。

「何よ…!?」

「悪いな。君はもう用済みなんだとさ」

 後ろ手に手錠をかけられ、左右から抱き抱えられるように拘束されたカレンはバレルを睨みつける。ふんぞり返るバレルの後ろに、明らかにここいらカリブ海出身ではない肌色をした男がひっそりと佇んでいるのが見えた。恐らく、呼ばれて後ろの扉から入ってきたのだろう。

「やっぱり、アンタは連邦と取引してたったわけね?」

「察しがいいな。その通りだよカレン。君も知っての通り、我々には自力で国を運営できるだけの資源がない。ならば、せめて商売上のお得意様は確保しておくべきだとは思わないかね?」

「最初の取引があの二人とアストラル・ゼロを売って独立を買い取るってところかしら?」

「ああ。ワリのいい商売と思わないか?元手ゼロで欲しい物が手に入るんだ。下の連中も、最初は何か言うかもしれんが…まあ納得するだろうな。恐らく君以外は」

「そうね…納得するわけがないわ。絶対に!!」

 服の袖に隠していた非常用の万能十得ナイフで両腕を拘束している二人を切りつけ、そのまま後ろ手を拘束されたまま会議室を逃げ出すカレン。追いかけてくる兵士たちの銃弾を躱しつつ、物陰に隠れて万能十徳ナイフで手錠を外す。このまま廊下を逃げつつ、寝ているであろう二人を起こしてアストラル・ゼロでここを脱出することも計画するが、生憎二人の部屋には今頃兵士たちが突入している頃だろう。

 せめて非常事態だけでも知らせるべきと思い、すぐ傍にあった非常用ベルを押して警報を鳴らす。これでイルアたちが異変に気づいて、あわよくば二人だけでも逃げてくれるかと期待するが、それを確かめる暇はない。

 こういった事態を想定して用意しておいた逃走経路を端末に表示させる。元々高級ホテルとして建造されたこの拠点は、利用しているバレルたちですら知らない経路があちこちにある。

 その内の一つである目立たない扉から従業員用の通路に入り、通気口からダクトに入って二人の部屋に向かう。手持ちに銃火器はないが、最悪万能十得ナイフを投げつけて兵士たちを追い払えるかも知れない。

 そんな事態を想定しつつダクトを進み、網状の蓋で塞がった通気口から二人の部屋を見る。しかし、既に二人の部屋はバレルたちによって占領され、二人も拘束された後だった。




 警報に驚き飛び起きた二人は、突如入ってきたバレルたちにあっという間に拘束され、今は会議室で椅子に縛り付けられていた。幸いなことに乱暴なことはされず、二人ともバラバラにされることもなかったが、目の前で不敵に笑うバレルとその取り巻きたちに加え、見知らぬロシア人らしき男にジロジロ見られているのはかなり不愉快だった。

「何よこれ!!外しなさいよ!!」

 レノアが力の限り暴れて拘束を外そうとするが、椅子の背のあたりにキッチリと固定された両手首は動く気配はなく、イルアも早々に無駄な抵抗を諦めていた。

 そんな二人の様子を満面の笑顔で無視し、バレルはロシア人に話しかけた。

「さて、残念ながら少々反抗的ではありますが、この通りご所望の品は手に入れました。これで満足頂けますかな?オルドラン准将」

「私は赤い機士と、そのパイロットを要求したつもりなのだが…どちらがそのパイロットなのかな?」

 いきなり商品扱いされた二人が睨みつけるのも気に止めず、バレルはユーラシア連邦軍准将、フェルド・オルドランに恭しく頭を下げる。

「男の方ですよ准将。彼以外には例のアストラル・ゼロを動かすことはできません」

「なら女の方は要らん。わざわざここに持ってくることもないだろう」

 要らないもの扱いされたレノアが抗議の声を上げようとするが、うまく言葉が出てこないのか口を開けたまま動かなくなる。何を言っても無駄だということを悟ったという事もあるかもしれないが、それ以上に、これから売られてしまうと言う恐怖を改めて実感したのかもしれない。

 ここでせめてレノアを奮い立たせる言葉を言えれば一人前の男と自称してもいいかもしれないが、残念ながらイルアの脳内にそんな便利な言葉の引き出しは無かった。

「彼は正直言って扱いにくいのですよ。例え殺すと命令しても、意に反することは絶対にしないでしょう。ですが…」

 そこまで言っておもむろにモニターに映像を再生する。そこには、二人が一緒にベッドで眠るところなどといった、第三者的に見て明らかにいちゃついているシーンが映っていた。

 今後の流れを悟って顔を微かに青ざめさせるイルアと、改めて映像で見て恥ずかしくなって赤くなるレノア。しかし、オルドランはようやく満足気な笑顔を浮かべてみせた。

「なる程、ならば実験するとしようか」

 悪趣味に笑うオルドランとバレル。手下に命じてレノアを手元に連れてくると、イルアの拘束を解いた。

「まずは、そうだな。服従の証に跪いてもらおうか?この娘の悲鳴を聞きたくなければな」

 ナイフを取り出し、レノアの顔に切っ先を突きつける。断ればナイフでレノアの顔を傷つけると言う意味だろう。

「ダメ…ゼロを呼んでこのまま逃げて…」

「無理。ゴメン」

 レノアの懇願をあっさりと退け、その場に跪く。会議室中が爆笑の渦に包まれた。そんな中、一切表情を変えないイルアを見て、オルドランは満足した顔で頷く。

「もういい。十分だ」

 ナイフを仕舞い、代わりにドッグボムをレノアの首に嵌める。そして爆破装置を作動させると、一つのスイッチを手にしてイルアによく見えるように掲げる。

「ドラマで見たことくらいはあるだろう?本来なら国際法違反だが、まあ気にしているものなどそうはおるまいて」

 全大戦の時、捕虜への尋問によく使われたドッグボム。目の前で捉えたもう一人の捕虜の首に嵌めて尋問すれば、大体のことは吐いたと有名だった。当然非人道的として戦後に製造や使用が禁止されているが、二大国の両方がそれを当たり前のように破っているのが現実だった。

「イルア…ごめん…!!」

 拘束を解かれ、イルアの腕の中に抱きとめられるレノア。首元で規則的に光るドッグボムの冷たい感触に震えるレノアの背中を抱きとめるしか出来ない自分に苛立つが、今は耐え忍ぶしかない。

 ゼロの力で外してもらうかどうか試すか、それか行方のわからないカレンが何とかしてくれるのを待つ。取り敢えずはそれ以外に現状打つ手はないが、それでも打つ手が有るだけマシなはずだ。

「さて、ならば運ぶとしようか。アストラル・ゼロを我々の海上プラントに…」

 その時、拠点としているホテルに砲撃が入った。最上階のフロアが吹き飛び、ガレキが下の階や周囲の駐車場に落下していく。

「司令官!!連合軍の攻撃です!!かなりの数の機士や戦艦ですよ!!

「馬鹿な!?再編計画を練っている最中ではなかったのか!?」

 焦るバレルとオルドラン。しかしそんな中二発目の砲撃でホテルが大きく傾いた。根元に近い部分が吹き飛んだのだ。

「小僧!!アストラル・ゼロで私たちを守れ!!命令だ!!」

「言われなくても呼ぶよ!!こんな状況…!!」

 どんどん傾いていく床に足を取られつつ、脳波でゼロを呼び出す。この混乱の中で思ったよりも早くレノアを助けられるかもしれない。

「それとその娘をこっちによこせ!!連れて逃げられちゃ叶わんからな!!」

「うっ…」

 抱きしめているレノアの肩が震える。どうやら敵は思ったより冷静らしい。

「さあ早くこっちによこせ!!爆破させられたいのか!!」

 後少しでアストラル・ゼロが来る。そうすればきっと何とかしてくれるかもしれないが、あくまで可能性だ。もし、ゼロでも外すことができなければ、恐らくその場でレノアは殺されてしまう。それだけは絶対に嫌だ。

 そして同時に、レノアもこのままではドッグボムが爆破されることを考える。ドッグボムの破壊力がどれほどのものかは知らないが、少なくとも歴史モノのドラマや映画では画面が爆炎に包まれるほどの爆発力があった。

 あそこまでとは考えにくいが、それでもこの密着した状態で爆破すれば、間違いなくイルアにも被害が及んでしまう。それだけは絶対に嫌だ。

「イルア。アタシ、絶対助けに来てくれるって信じてるから」

「当たり前だろ。絶対に助けてみせるから、待っててくれるか?」

 震える手を押さえ、最後のハグ。今にもキス出来そうな雰囲気だけど、それは次にまで取っておこう。

「イルア、大好きだよ」

 イルアの背に回していた手を離し、傾いた床の流れに沿ってオルドランの元に向かう。

 ちゃんとたどり着いた所を見届けると、イルアはようやくたどり着いた相棒の中へと跳んだ。

感想待ってます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ