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第十八話

「そっか…ちょっと予想外だけど、うん。素敵な答え」

 小さく笑うカレンを前に、レノアもちょっと複雑な笑顔を浮かべる。

「なんだよ。人がせっかく勇気を出して言ったのにさ。まあ、確かに厨二と言うか子供っぽいと言うか…」

「ううん。違うよ。イルアも、ちゃんと自分の意見があるんだなって思うと嬉しくてさ」

「島じゃ言えないからな。こんなこと…」

 どんどん近くなっていく二人の距離を傍で優しい目で眺めるカレン。そろそろ盗聴器をもう一度入れ直さないと不審に思われるだろう。

 盗聴器のスイッチを入れ直すと同時に胸元の端末が震える。チラリと遠くを見れば、バレルがカレンを睨みつけていた。

「ごめんね二人共。私、ちょっと抜けるから。つまらなかったら先に部屋に戻ってていいよ」

「あ、カレンさん?」

 イルアがこっちに手を伸ばすのを気付かなかったフリをしてパーティー会場を出る。廊下を暫く歩いて会議室の扉をノックし入っていけば、ついさっきカレンが追い払った男たちがこっちを睨みつけていた。

「やっぱり、先にレノアの方をたぶらかす方針に変えたのね」

「君が乗り気じゃないらしいからな。親しくなれとは言ったが、馴れ合えとは命令していないぞ」

「だからと言ってあんな強引なやり方、同じ女として見過ごせなかっただけよ」

「安心しろ。途中で別の救世主が現れる予定だった」

「少女漫画じゃあるまいし…」

 タバコに火を点け、不機嫌そうに煙を吸うバレル。何よりも自分の目論見が外れる事を嫌うこの男が、こんなお粗末な作戦をたてるとは意外だったが、それでもこんな馬鹿げた真似に手を貸すつもりは一切ない。

「私たちの目的はこのガリバラーの独立でしょ?だったらあの子達を必要以上にここに置いておく必要なんて無いじゃない。現にアストラルは半ば厄介払いに近い形であの子を援軍に指名したのよ?」

「目的地の違いだな。私は独立だけがゴールとは思っていない。その時に手元に一枚でも強力なカードは持っておきたいんだよ。君だってこのまま独立を果たせたとして、ガリバラーだけでやっていける目測がある訳じゃあないだろう?」

「それを決める前に兵士たちを煽って宣戦布告したのは貴方でしょ…」

 バレルの右眉がピクリと動き、男たちがカレンに一歩近づく。よせ、とバレルが静止した為に何も起こらなかったが、一瞬カレンは身の危険を感じて後ずさってしまった。

「あまり私を怒らせるもんじゃあない。一応私はここのリーダーなんだ。裏切り者の妹をそうそう野放しにしておけるものでもない。そう、例えば…」

 タバコを思い切り吸い込み、会議室の椅子に腰掛けて後ろを向く。それを合図に男たちはカレンを追い詰めるように近づいてきた。咄嗟に会議室のドアを開けて逃げようとするが、ドアは鍵をかけられていて出られない。

 思わず目を閉じ、身を縮こまらせる。が、次の瞬間ドアが開いた。

「ついつい目を離した隙に、末端の兵士が手を出すかもしれないな。それが嫌ならせいぜい私の視線を釘付けにしておくことだ」

「姉さんは裏切り者じゃない。裏切ったのは私たちよ」

 四年前、十八になったのを気に実家の酒屋を出て連合軍に入ったジーナの背中を思い出す。経営が傾き、まともな食い扶持にも困りそうな状況を打開する為に、大学進学を諦め軍に入ったジーナ。地方の小国出身が勤められるまともな職業など、軍以外に存在しなかったからだった。

 そこで一体どんな苦労を積み重ねてきたのかは知らない。ただ、地方出身の女性兵士が受ける差別を撥ね退け機士のパイロットに選抜されたジーナの努力を、たった一人の男に唆されて踏みにじった自覚だけはあった。

「そう言えば君の姉だが、今日の戦闘でMIAになったそうだ。誰が撃墜したかは知らないがね」

「…そうですか…失礼します」

 これ以上会話していたくない。その一心で会議室を出ると、カレンは自室まで走り、ベッドに飛び込んだ。ベッドのスプリングと、盗聴器と思わしき異物の感触を感じつつ、カレンは一人すすり泣くばかりだった。




 アキ・フラストワーズは水浸しの凱仙をぶすっとした顔で睨みつけていた。フルパワーのイナズマキックをジーナ機に叩き込んだはいいが、その後の予想外の抵抗を受けて振り払われた挙句に海に叩き込まれてしまった。何とか機体は欠損無しで、アキ本人にも痕に残る傷もない。せいぜい機体が水没したせいで全部品そう取っ替えするハメになり、しばらくの間は出撃出来ないと言うペナルティが課せられてしまったくらいだ。

「よう嬢ちゃん。つれねえ顔だな」

「おやっさん…アタシはもう疲れたよ…」

「いいじゃねえか。俺たちゃお前さんのせいで夜も眠れず仕事三昧だ。本気で疲れるってのはそういうことさ。暇で疲れるなんてことはありえねえのさ」

「ならアタシがその第一号なの…暇で暇でしょうがないの…ヴァルキュリアはMIAで出てこないし、例の赤いのは連合軍ばっか相手にしてて戦わせてくれないし…」

 いつもの親切な司令官と違い、今回お世話になっている臨時基地の司令官はあまりアキを自由にはさせてくれなかった。まあ、一応建前上は連合からの独立を目論む独立軍の支援に来ている以上、アストラル・ゼロと戦えないのは仕方ないのだが。

「あいつら。二大国に振り回されてきた小国の意地を見せる、とか言ってたくせにさ。結局は連合軍ばっか相手にしてくれちゃってさぁ。アタシらはその援護射撃ばっかで、まともな作戦なんか昨日の一回だけだよ?」

「あちらさんにも戦力の限界っつうもんがあるのさ。一度にやり合えるだけの戦力なんかそうそうあってたまるか」

「だったらあの赤いのは何でここに来たのよー。あれのおかげでアストラルは二大国追い払えるんだから、ここも同じようにアタシらにも喧嘩売ってくればいいじゃん」

「そりゃ確かに気になるわな。例の赤いのが来た時点で、半分勝負は決まっちまってるもんだしな」

「何よ。おやっさんもあれには勝てないって思ってるわけ?」

 くっくっくと笑うおやっさんを見て思わず舌打ちするアキ。確かに、連邦軍だけでなく連合軍にもアストラル・ゼロには勝てないと考える兵士は多い。そもそも性能差がどれだけ軽く見積もっても一輪車と戦車くらいあるのだから、わざわざ貴重な資材や人員を投入することなく独立を認めるべきと言う意見が双方の議会で主張されている程だった。

「技術屋として言わせてもらえば、あんな性能の機士は見たことねえし、多分俺たちがどんなに頑張ってもあれに勝てるのは作れやしないと思うぜ。お前さんの腕がどれだけ優れていてもな」

「よーするに、おやっさんの敗北宣言ってこと?そんなの聞きたくなかったなぁ」

「俺だって言いたかねえよ。ただな、一人の人間として言わせてもらうんなら…」

「人間としてなら?」

 珍しく言いよどむおやっさん。アキは不思議に思って顔を覗き込むが、おやっさんは悩んでいるというより恥ずかしがっているようにも見えた。

「そうだな。あれに勝っちゃいけねえ気がするんだよ。なんだかな、あれと戦っていること自体が間違っているっつーか。本当なら、俺たちはあの赤いのの邪魔しちゃいけねえって思っちまうのさ」

「なにそれ…」

「年寄りの戯言だ。忘れてくれぃ」

 そう言っておやっさんは作業に戻っていった。アキはただそれを見送ることしか出来なかった。予想外すぎることを言われて混乱した、と言うことも勿論あったが、それ以上におやっさんの意見に無意識の内に賛同してしまっていたからだった。

 アストラル・ゼロと戦っている時、実はいつも強烈な違和感を覚え続けていたのだ。まるで、自分が戦うべき相手はコイツじゃないと、本能が叫んでいるかのように。

「あーもうやめやめ!!取り敢えず今は、持ち込んだプラモでも片付けるかぁ…」

 そうつぶやき、いそいそと部屋に戻っていくアキ。勿論、必要以上の私物の持ち込みは禁止事項であることを知っていての台詞だった。




「やっぱさ、ここに居ると落ち着かないよ」

「そう?」

「うん。無駄に色々豪華だし、ベッドだって毎日変わってるっぽいんだよ?アタシたちみたいな庶民の肌に合わないっていうかさ…」

 ガリバラーに到着してから四日目の夜。イルアとレノアはトランプをしながらそんな会話をしていた。

「俺はそんなに気にならないけどね。あ、八揃った」

「そりゃ、イルアはいっつもアタシを抱き枕にしてるんだから気にならないでしょ。ってかむしろアタシの方を気にしなさいよ。げ、ジョーカー…」

「…二人でババ抜きやってるのってなんかおかしいよな。これ…カレンさん呼ぶ?」

「さっきお休みしたじゃん。それに、最近疲れてるみたいだしさ」

 いつもどおりの会話。盗聴器越しに監視している兵士たちも飽きが来る頃合だった。

 しかし兵士たちは知らなかった。二人がトランプのカードに混ぜたメッセージカードで筆談しているということを。

『やっぱり、俺たちにこんなこと教えてくれちゃまずかったのかな?』

「それもそうだよな…ま、二人でできるゲームなんか限られてるし、仕方ないか」

『でも、なんで教えてくれたんだろう。盗聴器の数と、監視カメラの位置と死角』

「そうそう。それ、ジョーカーだからさっさと引いてよ」

 あのパーティーが終わった直後、カレンは真夜中に二人の部屋に忍び込んできた。そして、起きたイルアの枕元で盗聴器と監視カメラのことを教え、その上でバレルについて警告してきたのだった。

 バレルを信用しないほうがいい。アイツは、君たちを何らかの形で利用しようとしている。

 それだけ筆談で伝えると、今二人が使っているトランプを置いて自分の部屋に戻っていった。その日以来、この筆談トランプは唯一二人が安心して会話できる手段になったのだ。

『バレルが怪しい、か。確かにあの人、爬虫類みたいで気持ちわるいんだよな』

『珍しいよね。イルアが第一印象で人のこと嫌うの』

『あんまり初対面の人と会う機会が無かったってこともあるけどね』

 何気ない会話をしつつ、必要なことは筆談で会話する。監視カメラからの角度からはただのトランプに見える仕組みなので、かなり堂々と渡し会える。

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