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第十五話

 大西洋に浮かぶガリバラー諸島。独立を掲げ立ち上がった二番目の小国であり、またしても太平洋連合帝国の傘下の国だった。

 そんなガリバラーのすぐ近くの海上に、アストラル・ゼロは急停止した。

「うっ…平気か?レノア」

「大丈夫…ちょっと、痛かっただけだから…」

 流石に吸収しきれなかった衝撃がコックピットにも伝わり、転びそうになったレノアを支えるイルア。お互い周りを見渡しても見慣れない景色ばかりで不安になってしまう。

「ゼロ!!ここはどこだよ!!」

(ガリバラーより北西二十キロの海上だ。ここから北に四十キロ先で、連合軍と連邦軍が衝突している)

「なんだって連邦軍がここに…」

(不明だ。だが、それにガリバラーの漁船が数隻巻き込まれている。救援に来た以上、助けておいたほうが賢明だと予測する。だが、最終的な判断は君に任せる)

「だったら助けにいこうよ!見捨てるみたいで気分悪いよ!」

「それもそうだな…行こう!!」

 脳内に直接居場所を伝えられ、その方角に向けて飛んだ。

 ちょうどその頃、戦場となった海域で巻き込まれた漁船は、流れ弾の砲撃を受けて転覆しかけていたのを何とか堪え、必死にこの海域から逃れようともがいていた。

「エンジンもっと噴かせられんのか!?このままじゃ動けねえぞ!!」

「そんなこと言ってる暇があったら舵を取ってくれよ!お客さんも乗ってんだぞ!!」

「分かってるよんなこた…っておいおいおい!!」

 船長が気づいたときには既に目の前にまで連邦軍機士が迫っていた。このままでは正面衝突し、こっちが一方的に海の藻屑にされてしまう。だが、だからといって連邦軍機士のホバーで発生した荒波に舵をとられてまともに操舵出来ないこの状況では逃れようがない。

「もうダメか…!!」

 思わず目を閉じる船員たち。しかし、覚悟していた衝撃は何時まで経っても襲ってこなかった。

「せえいっ!!」

 漁船を跳ねようとしていた連邦軍機士を、アストラル・ゼロが横合いから飛び蹴りをかましていた。連邦軍機士は吹き飛ばされ、漁船は無事に戦闘海域を脱出することに成功した。

「あの人たちは無事か…後は、あいつらを追っ払うだけだ!!」

「やっちゃえ!!」

 プリズムセイバーを召喚し、戦闘をやめてこちらに狙いを定めつつある連合・連邦の双方を睨みつける。

「なんで赤いのがココに居るんだよぉ!!アストラ島に居るんじゃねえのか!?」

「なんでだろうね!?プリズムシュート!!」

 プリズムセイバーの切っ先から光の光線が出て、一瞬で連合軍の隊長機のメインカメラを撃ち抜く。そしてそのままプリズムセイバーを横薙ぎに振る。

「うわぁぁぁ!?」

 悲鳴を上げて混乱する連合軍機士たち。一瞬にして全てのメインカメラを切り落とされれば混乱するのも当然だろう。

「そんで次!!ミラージュ・スプラッシュ!!」

 空いてる左手から放たれた拡散レーザービームが連邦軍機士の武装を撃ち抜く。この間、わずか一分足らず。見守る方も、やられた側も呆然とするしかない。

「どうする?まだ続けるか!?」

「て、撤退だ!!本部に連絡しろーっ!!」

「覚えてやがれーっ!!次はうちの闘牛を連れてきてやるからな!!」

 二方向に逃げていく連合軍と連邦軍の機士たち。まさにテンプレな捨て台詞ではあるが、どちらもここに戦力を集中させる準備は既に整っていることを思わせる台詞でもある。

 そんな中、少し離れた場所から戦いを見守っていた漁船の中で、一人の女性がポツリと呟いた。

「これが…あの赤い機士の力…」

 漁船の中では明らかに場違いな可憐さを漂わせ、彼女は小さくため息をつく。そんな彼女の様子など知ったことではなく、船は戦いを終えたアストラル・ゼロ目指し動き始めていた。




「よく来てくれたな。アストラルの戦士よ。私はこのガリバラー独立軍の司令官、バレル・ガレードだ」

 助けた漁船に連れられて、あれよあれよと気づけば本来の目的地であったガリバラー独立軍の本拠地にたどり着いていた。そこで出くわしたのは、海賊のような眼帯をつけたガリバラーの司令官バレルだった。

 だが、どうも目が怖い。一流の軍人の凄みと、爬虫類の薄気味悪さが闇鍋のごとく混じったような目で、イルアは不気味に思えて、イルア自身珍しく出来れば近寄りがたい印象を抱いた。

「はい。父さ、じゃなかったカルマ・ジュデアス司令官の要請を受けて、俺たちが貴方達の独立を支援します」

「なる程…早速、噂にたがわぬ実力を見せてくれたようだが、そちらの娘さんは?戦力と数えてもいいのか?」

「いや、アタシは…」

「レノアは付き添いです。俺一人じゃ、色々まずいことがあるので」

 こそっとレノアを背中に隠し、一刻も早くこの会談を終わらせようとイルアは早口で会話を進める。

「取り敢えず、今のこのガリバラーの現状を教えてくれませんか?」

「ふむ…そういうことなら、適任者が居るな。おい、彼女を呼んでくれ」

 バレルが傍らに立つ副官にそう言うと、副官は足早に部屋を出て行く。しばらくお互い無言の時間が続くが、そう長く待たずして副官が女性を連れて戻ってきた。

「紹介しよう。カレンだ。ここにいる間、君たちの世話をしてくれる」

「はじめまして。カレンといいます。先ほどは、助けていただいてありがとうございました」

「先ほど?」

「ええ。実は、連合軍基地の偵察から戻る途中、あの漁船に同乗させてもらっていました。ですので、貴方達は命の恩人ということになりますわ」

 柔和な笑顔を浮かべ、ごく自然に二人に近づき手を取る。その時イルアは、初めて嗅いだ柔らかい香りに一瞬意識を持って行かれそうな気分になった。

 それを察してか、隣でむっとした顔をするレノア。そんな二人の様子も気にせず、カレンはニッコリと笑ってみせた。

「これから、よろしくお願いしますね?」

「まずは部屋に案内してもらおう。カレン、彼らを客室に連れて行ってくれ」

「分かりました。では、お二人共」

 カレンに連れられ、やたら綺麗な廊下を進んでいく二人。その背中をぼーっと見つめるイルアを、レノアは横から強めに抓る。

 痛いな、何するんだよ。別に。

 アイコンタクトだけでそんな会話をしていると、ふとカレンが立ち止まった。

「そうでした。このガリバラーの現状を教えるのでしたね?歩きながらで構わないかしら?」

「え?あ、お願いします…」

 いきなり話しかけられて若干挙動不審気味なイルアを、レノアはイライラしながら睨む。そんな二人の感情の機微を、気づかない振りをしてカレンは大きめの窓の傍まで歩く。

「一週間前から、私たちは独立の為戦い始めました。ですが、参加出来ているのはこのガリバラー諸島全体のうち、この島だけです」

「この島だけ?ガリバラー諸島って確か、五つくらいの島で構成されてるんじゃ…」

「ええ。ここから見える本島を中心に、円形に並ぶ五つの島がガリバラー諸島です。だけど、元々連合軍の前線基地としての機能を押し付けられてきた島ですので、私たち独立軍は一番手薄だったこの島を奪還するので精一杯だったんです。それでも開戦後すぐに海軍戦力を手に入れて、希望も見えてきたのですが…」

 今度は真反対側の窓まで歩き、外を見る。見渡す限りの海が広がっているが、双眼鏡を渡されて見てみると、そこにはアストラルと同じく連邦軍の海上プラントが建造されていた。

「連邦軍が支援と称して介入してきて以来、連合軍も本腰を入れて攻め込み始めました。噂では、連邦軍のブルファイターも参加していると言う情報もあります」

「俺たちの島より状況は悪いみたいだね…」

「ええ。ですから、助けを求めさせてもらいました」

 説明はそこで終わり、やがて二人は中々豪華な二人部屋に通された。ベッドもやたら大きく、冷暖房にテレビやシャワー室も完備と、まさにいたれりつくせり。

「え、こんな豪華な…」

 呆然と呟くレノア。二人共正直言って、どれもこれもテレビでしか見たことがない物ばかりでどうリアクションをしていいか分からなかった。

 そんな二人を、カレンはクスクス笑う。

「この島は、連合が一度は観光地として再開発しようとしていたんです。だからこんな豪華な施設があちこちにあるの」

「へえ…俺たちの島には、こんなの一つも無かったのに」

「私たちの島は、アストラルのような鉱物資源がありませんでしたから」

 そう呟いて窓際まで歩き、外を見つめるカレン。憂いを帯びたその横顔は、イルアの心を僅かにざわつかせる。

「連合だけが私たちの敵じゃないの。独立後、どうやって生き残るのか…この島だけで自給自足なんて出来る訳がないし…」

「そんなこと、言っていいの?」

「いいわよ別に。みんなの前じゃとても言えないんだもの」

 あっけらかんと言い放つその顔に、さっきまでの憂いは消えていた。あれは、一体何だったんだろう。

 イルアが不思議に思っていると知るはずもなく、カレンは懐から小さい端末を取り出すと世話役であるレノアに手渡した。

「これが連絡用だから、あなたが持ってて。出て欲しい会議の時とか、出撃の時はこれで呼ぶから」

「うん…えっと、使い方は…?」

「それならここに書いてあるから…」

 しばらくの間、機械に若干弱いレノアに通信端末の使い方をレクチャーしていった。カレンだけじゃ時間がかかりすぎるし、途中から大体分かってきたイルアも参加してようやく終わった。

「じゃあ、今日はもう終わりです。明日また来ますね?」

「はい。また、明日…」

 疲れの色を見せる二人に見送られ、カレンはクスッと笑いながら部屋を出る。事前に言われた通りその足で作戦室に向かうと、バレル達ガリバラー独立軍の幹部たちが勢ぞろいしていた。

「戻りました。言われた通り端末は渡しましたが」

「ああ。おかげで色々聞こえる」

 ニヤリと笑うバレルに促され、カレンはヘッドフォンを装着する。当然のことながら、カレンの耳にさっき二人に渡した端末に仕込まれた盗聴器から送られてくる音声が聞こえた。

(…もう、初対面なのにデレデレしちゃってさ。イルアって、ああいう大人っぽい人が好みなんだね?)

(そんなんじゃないよ。ただ、今まで会ったことない雰囲気だったから戸惑っちゃってさ。何て言うのかな?ああいうの)

「ほう、中々好印象みたいじゃあないか。当初の予定通り、君に世話役を頼んだのは間違いじゃなかったらしい」

 ゲスイ笑顔を隠そうともしないバレルの視線を躱しつつヘッドフォンを外すカレン。イルアが救援に来ると分かった時、バレルにイルアを誘惑するよう命令されていたのだった。一応連れ添いに同年代の女子が付いてくると分かった段階で半ば諦められていたのだが、どうやら命令自体は生きていたらしい。

 不満を隠しきれないカレン。それを察してか、バレルはそっと耳元に顔を寄せてくる。中年の加齢臭に顔をしかめるが、バレルはぼそっとカレンだけに聞こえるよう呟く。

「お姉さんのこと、考えれば選択肢は無いだろう?」

 息を呑み、睨みつける。その反応を見て満足したバレルは、どことなくいやらしい手つきでカレンの肩を叩く。

「まあ頑張ってくれ。君の働き如何では、独立後にはそれ相応の地位を約束しよう」

 この男のやり方はいつもこうだった。逃げ道を塞いだ上で甘い汁を目の前でちらつかせる。釣られる以外に道がないのだ。

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