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第十二話

 外部に高熱を発する加熱ユニットと、内部で強烈な衝撃を発生させる特殊な火薬を仕込んだ特殊戦術用ロッド。加熱ユニットで装甲を溶かし、内側から爆破の衝撃で破壊する近接特化の最強武器。基本的に連合軍機士を地上に叩き落としてから使う武器だが、アキ程の技量があれば自由落下しながらでも相手に当てられる。

「どーせ足場の輸送機は狙わないでしょ!?だったらかかってきなさいよ!!」

 凱仙を手足の延長のごとく自在に操り、特殊戦術用ロッドをバトンのように軽やかに回す。一切の隙の無い凱仙を前に、イルアはプリズムセイバーを構えつつ攻めあぐねる。

(あの特殊戦術用ロッドの威力は少々厄介だ。現状のアストラル・ゼロでは損傷する可能性もある)

「この機士が万全じゃないって言いたいのか?」

(私の中に残された数少ない記録データによると、現状では本来の五十パーセント以下の性能しか発揮できていないらしい。だが、例えそうだとしても我々の勝利は揺るがない)

「そうだ。ここで追い払わなきゃ島に居られなくなっちゃうしな!!」

 そう叫ぶと共に、イルアはプリズムセイバーを上に投げる。予想外の行動をとられて呆気にとられたアキを前に、イルアは右こぶしを握り締める。

「ストロングバスター!!」

「はっ!?」

 まっすぐ打ち出されたエネルギーの拳はアキの凱仙の右肩を撃ち抜き、特殊戦術用ロッドが飛行する輸送機の風に煽られて海へと落ちていく。

「嘘でしょー!?」

 片腕になった凱仙のコックピットの中で呻くアキ。ダメージアラートがひっきりなしに撤退を申告するのを聞き流しつつ、圧倒的なまでの性能差を思い知らされたアキは撤退するべきか、このまま意地を見せるかで悩んだ。

「言っとくが、次はコックピットだぞ!」

『少尉。撤退だ。このままではそいつに全滅させられかねん』

「しょーがないかぁ…」

 こりゃ誰も勝てないわ、と言いかけた所で口をつぐみ、アストラル・ゼロに背を向ける。

『イルア…連邦軍は撤退を始めるらしい…戻ってきてくれ…』

「父さん…?」

 撤退していく連邦軍を見送りながら、イルアは聞こえてきた父の声を反芻する。

 なぜ、あんなにも悲しげな声だったんだろう。俺はこの島を守った。確かに父さんも、ヘラ姉さんも、レノアも俺が戦うことに反対だったけれど、俺はみんながあのまま死んで欲しくなかった。だから戦ったのに、そのせいでみんなを傷つけたんだろうか。

 いくら考えても答えは出なかった。戦うことでしかこの場所に居られないのなら、誰ひとりとして死なせないために戦うことこそが、今の自分自身の生きる意味だとしか思えなかった。




「いっつ…!!」

「レノア、包丁の持ち方が違うわよ?そんなんだから指を切っちゃうんじゃない」

 アストラル独立宣言から二ヶ月が経ったある日。ジュデアス家のキッチンはいつもより慌ただしかった。普段料理などしないレノアがいきなり料理を始めるなどと言い出し、ヘラの夕食作りを手伝うという形で料理の勉強を始めたのだが…。

「きゃあぁっ!?」

「あーあー。もう、吹きこぼれちゃうから鍋の水は少なめでいいって言ったじゃない」

 料理経験などからっきしなレノアは、手伝っていると言うよりかはむしろヘラの邪魔をしているようにしか見えないのだった。

「ふう…いきなり料理したいなんて言い出すから協力してあげたものの…」

「ごめんなさい…だけどさ、居候の癖に何もしないのって悪いかなって思ってさ…」

 たはは、と笑うレノア。二か月前、イルアが戦場に立つことを決めたあの日以来、レノアは家出してこのジュデアス家に厄介になっていた。もちろん定期的にオズマが連れ戻しに来るのだが、その度にレノアは逃げ回るばかりで話し合いにすらならず、気づけばこの家に完全に住み着いていたのだった。

「何もしてないなんてことはないでしょ?私が手を離せない時とか、イルアの世話を焼いてくれてるし…この間はお風呂も一緒に…」

「あれはイルアが勝手に入ってきたの!!本当にもう…イルアったら!!」

 顔を真っ赤にしてその時の光景をまざまざと思い浮かべてしまうレノア。気持ちよく風呂に入って、後一歩で眠ってしまう瞬間、突然扉が開いて全裸のイルアが入った来たのだ。しかもお互いタオルなど巻いていないから、今も目を閉じればイルアの全裸が浮かんできてしまうほど目に焼き付いてしまった程の衝撃的な光景だったのだ。

「ごめんね。結構一緒に入ってるからあんまりそういう事気にしなくなっちゃったみたいで…」

「それ!それがおかしいのよ!!ヘラ姉はイルアのこと可愛がりすぎなのよ!!普通は十八過ぎた女性が血のつながりのない十六の男子と一緒に風呂に入らないって!!」

「ええ?でも、私たちの関係には血の繋がりなんて…」

「そんなんだから余計に怖いんじゃない!!」

 なんやかんやでイルアと同じ純朴そうなキラキラエフェクトを幻視してしまうほどにまっさらな笑顔のレノアを前に頭を抱える。

「でもね。やっぱりまだ完全には家族って言えないのかもしれない…」

 ふと表情を変え、そんなことを口にするヘラ。寂しげで、どこか口おしげな顔は同性のレノアから見ても見惚れそうになるくらい美しかった。

「ごめんね。私たちが弱いから、イルアを戦わせちゃって…」

「ヘラ姉が悪いんじゃないよ。悪いのは、勝手に戦争なんて始めて勝手にイルアを巻き込んだ父さんたちだよ」

「その大人たちの中に私は居るのよ。本当なら、私たちだけの力で勝たなくちゃいけないのに、力が足りないばっかりに、イルアを戦わせてる。こんなずるい大人になっちゃうなんて、思いもしなかった…」

「だけど、そう思ってるだけ父さんよりかはマシよ!あの人は、イルアが戦うことなんか当然だって言うのよ!?信じられない!!」

 言っているうちにヒートアップしてきたのか声が大きくなるレノア。それに反応したようなタイミングで再び鍋が吹きこぼれる。

「…イルアはどう思ってるのかな…戦いたいなんて思う子じゃないのは分かってるのに…」

 コンロの火を消し、一瞬無音になったキッチンで、ヘラは小さく呟いた。

「多分戦わなきゃこの島に居られないって思ってるよ。じゃなきゃ虫も殺せないアイツが戦えるもんか」

 戦いがあった日は、必ず夜寝るたびに震えているイルア。その度にレノアとヘラは二人で一緒に寝て落ち着かせるが、その頻度は明らかに増えつつあった。特に最近は、一部の島民と顔を合わせる度に怯える程にまで精神が不安定になりつつある。

「そうね…今は、学校でツバサ先生の所でアストラル・ゼロの解析実験に協力してるんだったっけ?」

「うん。だから多分、もうすぐ帰ってくるよ」

 今はこれだけしかしてあげられることはないけれど、それでも精一杯イルアを支える努力をし続ける。戦うことのできないレノアも、力不足ゆえに守ることのできないヘラも、今は取り敢えず帰ってきた時に腹いっぱいご飯を食べさせてあげることに集中するだけだ。

「よーし!ヘラ姉、次は何すればいい?」

「う、うーん…まず、包丁の持ち方は変えようね?それだとサスペンスドラマ風だから…」




「駆動試験完了。お疲れさん。降りていいよ」

 様々な機械を弄りつつ、ツバサは疲れきった顔で隠そうともせずに大あくびをかました。光の粒子になってアストラル・ゼロのコックピットから降りてきたイルアは、学生時代からよく見るいつものズボラなツバサ先生を見て少しだけほっとする。それを見たツバサは怪訝そうな顔をする。

「なんだ、人の顔をジロジロ見て」

「いや、ツバサ先生っていつもあくびしてるなぁって思って」

「失礼なやつだな。いつも故あって寝不足になんかなっているんだ」

 ほーとつまらなさそうに返すイルア。取り敢えず、今の寝不足の原因はイルアにあることは分かっていないらしい。

「さて、もうこれ以上調べることはないな。と言うか、もう調べる方法がないと行ったほうが正確かな。この私の頭脳をもってしても、調べるための機械がないんじゃねえ」

「…だってさゼロ。記憶データくらいはそろそろ回復しないか?」

(無理だ。その他の部分の修復を優先しなくてはならない以上、記憶データはどうしても後回しにしなくてはならないからな)

「まあ、仕方ないね。私としちゃあデータが一番欲しいけど、平和な時分にゆっくりやるほうが効率的さ」

 もう既に当たり前なことになってきたゼロのテレパシーを受けて長いボサボサの髪を掻き毟るツバサ。しばらくはムスっとした顔でそれを続けていたが、やがて諦めたように顔を上げた。

「そろそろ帰るかい。イルア、アンタも帰んな。多分家でヘラやレノアがアンタを待ってるよ」

「そうだよね…じゃあゼロ、また明日…」

(ああ。ゆっくり休んでくれ。私も少しデータの方を探ってみるとしよう…)

 そう呟いて両目のツインアイカメラを消灯するアストラル・ゼロ。イルアとツバサは、それを見届けてリフトに乗り込み作業場を後にした。

 アストラルハイスクールの地下に隠されたツバサ専用ラボ。出入りするには役場の地下の司令室からの直通通路か学校の体育倉庫の二箇所しか使えない、ある意味この島で一番人気の少ない場所でもある。

「こんな所に作業場があったなんて、全然知らなかった…」

「知られないようにしていたからな。今ではこの学校も立派な要塞だよ。いざとなればプールが開いてアストラル・ゼロが出てくる」

「すぐバリアが割れてピンチになりそうな要塞ですね」

 リフトが登っている間、取り留めのない話をしながらも体育倉庫までたどり着く。ツバサが鍵を閉めるのを帽子をかぶりながら待ち、二人は揃って校門を出る。

 最近、様々な要因があってイルアは一人で行動してはいけないというルールが出来たからだった。

「おお…イルアだ…!!」

「イルア!貴方様のお力で、何卒次の戦いも…」

「我々に勝利を…!!独立の夢を…!!」

 待ち構えていた島民たちが次々と寄っていくる。しかしそれでいて全員がある程度の距離を保ちつつ、一歩引いたところから延々と同じような言葉を繰り返す様は、この二か月の間で既に見慣れつつある光景でもあった。

「車を取ってくるから待っていてくれ…と言える状況でもないな。付いてきなさい」

 それでも思わず目を背けてしまうイルアの手をそっと引き、少し離れた駐車場まで早歩きで進んでいくツバサ。島民たちは、それを少し離れた一定の距離を保ちつつ追いかけてくる。

「不気味な連中だ…今時ゾンビだってもう少し動けるぞ」

 車に乗り込み、クラクションを鳴らして島民たちを追い払いつつ呟くツバサ。助手席のイルアは、フロントガラス越しに瞬きすらせず見つめ続ける島民たちの視線か逃れるようにシートを倒した。

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