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第十一話

「防衛装置の安全装置を解除!陸戦部隊の到着まで持ちこたえろ!!」

 あちこちの建物から十メートル程の大きさの四足車輪の自動砲台がわらわらと現れ、敵味方識別反応に従い連邦軍機士に襲いかかる。しかし、機動力で大幅に負ける防衛装置では足止めにしかならない。

 次々と撃ち抜かれて爆散していく防衛装置。しかし、稼いだ時間で追いついた陸戦部隊が陸にあがり水中戦用パックをパージ。そのまま後方から連邦軍を防衛装置たちと挟撃する。

「くらいなさい!!」

「海に沈められてたほうがよかったって目に合わせてやらぁ!!」

「簡単なお仕事で終わってくれなかったなぁ…」

 三者三様のリアクションを取りながらもマシンガンとバズーカで連邦軍機士に襲いかかる。しかし比較的紙装甲の連合軍機士と違い、バズーカの直撃でも完全に息の根を止めることは出来なかった。

 そして間の悪いことに、さらに後方からも八機の連邦軍に匹敵する以上の化け物が迫っていた。

「オラぁ!!まだ弾は尽きてないんだよぉ!!」

 アキがガトリングガンを乱射し、アストラメタルの装甲ですら一撃で貫く大口径の銃弾の雨あられが陸戦部隊の三人を襲った。

「くっ…ここまでの戦力差があるというのか…!?」

 本来であれば二大国同士の全面戦争の際に運用されるであろう主戦力が、二日連続して襲撃してくる。やはり、アストラル・ゼロの存在感は二大国の尻に火をつけるには十分すぎたという事か。

 司令室で歯噛みするカルマ。だがこの時、副官席が空席になっていることに気付いていなかった。




「戦況は理解できたな?」

「…絶望的、なんでしょ?」

「そうだな。このままではこのアストラルは落ちるだろう。現に防衛部隊の半数は落とされ、残りの三機も連邦軍が誇るエースに叩きのめされている」

 第三格納庫。主戦場となっている港に一番近いのは第一格納庫であり、今ここに居るのはイルアとオズマ、そして無人のまま主を待つアストラル・ゼロだけだった。

「二つに一つだ。このままこの島を見殺しにするか、この島が完全に独立を果たす時まで戦うか。今ここで決めてもらう」

 じろりと睨むオズマと、ネックレスを握り締めながらアストラル・ゼロを見上げるイルア。

 二択なんて嘘っぱちだ。そんなことを言われてしまえば、戦うしかないことくらいオズマにだって分かって言っているんだろう。

 迷いなく一歩前に踏み出すイルア。

「そうか。決断してくれて嬉しいよ。ならばまずは―――」

「父さん!!」

 レノアの怒声が響いた。オズマが思わず肩を震わせる。イルアが振り返れば、レノアの顔は今まで見たこともないくらいに怒りに満ちていた。

「レノア…なぜここに!?お前は上の避難所に居ろと…!」

「ふざけないで!なんでイルアを戦わせるの!?」

 イルアを庇うようにオズマの前に立ちはだかるレノア。しかしオズマは、愛する愛娘にあらん限りの怒りと軽蔑のこもった目で睨みつけられているのに、なぜレノアがそうするのか理解できなかった。

「これが最善の策だ!現に島の防衛部隊は壊滅状態で、お前たちを守りきるにはこの機士を出すしかない!この島の防衛を担う者として…」

「嘘!そんなの口ばっかり!!ホントはただイルアを追い払いたいだけの癖に!!」

「そんなことはない!私はただこの島を守るために…!!」

「じゃあなんで父さんが戦わないのよ!?大人の喧嘩に、子供を出すのが正しいって言うつもりなの!?」

 全身を震わせ、レノアが搾り出すように叫ぶ。オズマは、その叫びだけは聞きたくなかった。この島の独立を願い、十年間かけて様々な準備を進めてきた。

 全てはアストラルの独立のため。子供の頃から、大国の都合に振り回され苦しんできたこのアストラ島を見つめてきた。冷戦が始まるより前は、一年に一回はこの島の領有権を奪うべく大国が攻め込み、その度に島民に犠牲が出た。オズマが子供の頃大好きだった祖母は、オズマが小学五年に上がる頃に空襲で死んだ。そしてその数日後には、祖母を殺した連中が我が物顔でこの島を練り歩いていたのに、それすらもこの島ではごく当たり前の光景として流されざるを得ないことだったのだ。

「このアストラ島に住んでいる以上、この独立戦争に無関係な人間など居るものか!イルア・ジュデアス、これからもこの島で暮らしたいというのなら、最低限の責務を果たしてもらうぞ!」

「…っ!!」

 イルアの顔が微かに曇る。そして、レノアの背中の影から出てアストラル・ゼロの足元に立つ。

「やめてイルア!イルアがここに居ていい理由なんて、もう既に沢山あるんだよ!?戦わなきゃここに居る意味がないなんて、そんな悲しい理由でこの島に残ったって何の意味も…!!」

 必死に引きとめようとするレノアをオズマが無理やり抱きとめる。今度はあらん限りの憎悪を込めた目で睨みつけるが、オズマはひるむことなくレノアを抱きとめ続けた。

 そんなレノアたちの喧騒をよそに、イルアはあくまで穏やかな笑顔で振り返る。

「ありがとうレノア。だけど、俺が戦う意味はそれだけじゃない。俺は、この島の人たちを守りたいから戦うんだ」

「ダメ…!お願いやめて…!!」

 遠くに行ってしまう。手の届かないどこかへ。声すら届かないほど遠くのどこかへ。

「必ず守るよ。だから、待っててくれ」

 そう言うと同時に赤く輝くイルアとアストラル・ゼロ。気づけば、イルアはアストラル・ゼロのコックピットに立っていた。

「ゼロ、行くぞ…!あいつらをここから追い払う!!」

(連邦軍機士九機、後方の一機を除けば残りは量産型。我々ならば片付けられそうだ)

 アストラル・ゼロがふわりと浮き上がり、レノアとオズマの頭上を音もなく飛び去っていく。

 気が付けば涙を流していたレノアは、全身の力が抜けてへたり込む。

「これでいい…今は納得できないかもしれないが、お前も大人になれば…」

「許さない」

「何?」

「アンタなんか、絶対に許さないからね」

 涙をぬぐい、全身で拒絶の意を示す。こんな汚いやり方をする人を、父親なんて認められるものか。

 立ちすくむオズマの横を走り抜けながら、レノアは久しぶりに声を上げて泣いた。その涙が、誰を思っての涙なのかはレノア自身もハッキリ分からなかった。




「防衛装置、七十パーセントが機能を停止!」

「陸戦部隊のバイタルが危険値に突入!このままでは戦闘続行は不可能です!!」

「ここまでなのか…!?」

 司令室が絶望の空気に包まれ、カルマは一人で密かに降伏の準備を進めていく。一人でも多くの島民が少しでもまともな生活を送れるようにする為にも、本土での篭城戦だけは避けなくてはならない。

 せめて第三格納庫のアストラル・ゼロを海中に投棄するようツバサに伝えようと極秘回線を開こうとしたその時、赤い輝きがモニターの向こうに現れた。

「プリズムスラッシュ!!」

 片手に光の剣プリズムセイバーを出現させ、出現と同時に横薙ぎに空を切り払う。プリズムセイバーの切っ先から光の斬撃が回転しながら飛び出し、ブーメランのように弧を描いてアストラ島に上陸していた連邦軍機士部隊の手足を切り落としていった。

「ア、アストラル・ゼロ出現!!どうなってるんだよカルマ!?出撃命令なんか出さないんじゃなかったのかよ!?」

「私はそんな命令は出して…まさか!!」

 咄嗟に第三格納庫のカメラを呼び出す。案の定、オズマが一人タバコに火をつけながらどこかを見つめ続けていた。

「お前かオズマ!!一体何のつもりだ!!せめて子供は巻き込まないことが、俺たちの最低ラインじゃなかったのか!?」

『島の子供は、だ。それに、今これ以外に島を守る手段があると言うのか?』

「オズマ!!アンタ…そんな口の利き方があるかい!?そんなんだからレノアが怒るんじゃないか!!」

 横からセレナが通信を乗っ取ると、全くカメラの方を見ようとしないオズマに向けて声を荒げる。しかしオズマはタバコの煙を吸いながら、無言で飛び立つアストラル・ゼロを見つめるばかりだった。

 その視線の先で、イルアは飛び上がる自分自身のイメージに包まれながら連邦軍の航空部隊を睨みつける。

「一回だけ言うぞ!この島に手を出すんじゃあない!!全部叩き落とすぞ!!」

「子供っぽい脅しね…けど、これならヴァルキュリアを落としたって噂は本当かもね!!」

 嬉々として輸送機から飛び降りるアキ。ガトリングガンはまだ弾が残っているが、あの機動力に当てるのは骨がいりそうだ。

「まあ取り敢えずだらっしゃぁぁぁぁ!!」

 考えるのは後。まずは戦って様子を見るのみ。

 その一心でガトリングガンの引き金を引き、アストラル・ゼロは空中を飛び回って全てを回避していく。

「避けんなぁぁぁぁ!!」

「避けるでしょ!?」

 回避パターンを予測して逃げ道を塞いでいく。とにかく弾を使う戦略ではあるが、結構効果的だ。実際イルアもどんどん弾道がアストラル・ゼロに近づいていくのを感じ取って余裕を無くしていく。

「あれ当たったら痛いのか!?」

(直撃時の損傷率は軽微だ。思い切って突っ込んでいけ!)

 もう早く言えとつっ込む気も失せた。ゼロ・フィールドを展開し、一気に飛びかかっていく。

「せめて避けろよぉぉぉぉ!!」

「一々うるさい人だなぁ!?」

 プリズムセイバーを振り、アキ機の持つガトリングガンが光の粒子になって消滅する。アキが驚く暇すら与えず、イルアは再びプリズムセイバーを振るった。しかしアキは咄嗟にアストラル・ゼロを蹴りつけて距離を取った。

「強いな…流石は連邦軍のブルファイターだっけ?」

「その名で呼ぶなコラーっ!!」

 ブチ切れたアキがバックユニットから取り出した二丁の銃を乱射する。しかしガトリングガンですら傷ひとつ付けられなかったアストラル・ゼロの装甲を前に虚しい金属音を響かせるばかり。

「チイッ!!ならコイツでどーよ!!」

 腹立たしげに銃を投げ捨て、腰のユニットから連邦軍機士専用の特殊戦術用ロッドを取り出し、戦闘用の長さにまで伸ばす。

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