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第十話

「敵輸送機、数三!護衛戦闘機、数四十!!防衛装置、損害多数!!」

「思ってたよりも早く動いたな…」

 アストラル司令室。敵襲の一報を受けて駆けつけたカルマに届く報告は、どれもこれも厳しい状況を伝えるものばかりだった。

「ツバサさん!!サンドラの修復状況は!?」

『隊長機以外は、なんとかね。けど、敵の数を考えたら足りないんじゃない?」

「やれるだけやるさ!五分以内に陸戦部隊を水中戦用の特殊装備に換装してくれ!空戦部隊は直ちに出撃!できる限り時間を稼げ!」

 カルマの指示を受け、ツバサは直ちに作業に取り掛かる。空戦部隊の三人が機士に乗り込み、射出用のカタパルトにちゃんと乗り込むのを見届けたあとは、大急ぎで陸戦部隊の機士に水中戦用の外装を取り付けていく。

 これこそがツバサが開発したサンドラの最大の特徴、全地形適応機能である。特殊外装を外から取り付けることで、様々な地形での運用を可能とする拡張性とOSの適応性を持つサンドラは、まさにあらゆる外敵からこの島を守る機士に相応しい機体だった。

「ったく…そのはずなのに、なんだってこんな化け物が出てきちゃうかねえ…」

 思わず舌打ちしてしまう程に、アストラル・ゼロは圧倒的な存在感を見せつけているようだった。

 しかしそんなことなど知る由もない空戦部隊の三人はカタパルトの射出でかかる強烈なGに耐えつつ、連邦軍が接近している西方面に向けて飛び去っていった。

 戦闘区域に侵入すると同時にケインが正確に輸送機の片翼を撃ち抜く。当然他の連邦軍機たちも動き出すが、連邦軍のレーダーでも正確に把握しきれない距離からの長距離射撃に為すすべもない。

「アストラル機、三機の内二機が接近!残りの一機はこちらの有効射程外から狙撃してきます!!」

「空戦適応高めの機士が三機…情報通りね。出るわ!輸送機の上に乗るから、変な動きしないでよ?」

「は?何言って…」

 予想外の命令に戸惑う下士官をよそに、食べさしのポテチの袋をそのへんに捨てて新型機士『凱仙』のコックピットに乗り込むアキ。既に島の防空圏内に入ったあたりで動力炉に火はいれてあったからすぐに動き出せる。

「確か緊急用の空中着艦ワイヤーあったでしょ?それでこの機体を繋いでくれる?」

「無茶言わないで!あれは護衛機に万一があった時の為の…」

「これが落とされちゃ万が一も糞もないでしょ?ほら、ちゃっちゃとやる!!」

 ハナからこちらの言うことなど聞く気もないアキの態度を前に、輸送機内の全員が諦めのため息と共に作業に取り掛かった。

「ん?」

 後方から狙撃で接近するカイナとドナールを援護していたケインは、一番後方を飛んでいた輸送機が、まだ飛行中だと言うのに後部ハッチを開けていることに気づく。よく観察してみれば、ワイヤーで繋がれた機士が輸送機の上に陣取ろうと登っていくところだった。

「後ろになんか馬鹿がいるよ。もしかしたら、例の闘牛かも」

「ホント?ちょっとまずいかな…」

 連合軍のヴァルキュリアに匹敵する連邦軍の闘牛、アキ・フラストワーズ。ホバータイプの連邦軍機士で、まるでハエたたきのように空中を飛び回る連合軍機士を落としていくエースパイロット。

「ヴァルキュリアには負けちまったからな。早めのリベンジと行くかぁ!」

 ドナールは馬鹿でかい対艦ヒートソードを構え、高速機動で連邦軍の弾幕を避けつつアキの機士に飛びかかった。

 アキも早速こっちに来てくれたことで思わず舌なめずりしつつライフルを撃つ。弾幕を避けつつ接近してくるのだから、大体の回避パターンは限られている。

「そこね!」

「当ててきやがる!?」

 アストラメタルの装甲のおかげで損傷こそないが、それでも正確に撃ち抜かれた事実に思わず動揺してしまう。しかもその瞬間を逃さずさらに強烈なバズーカまで撃ち込んでくる始末。

 流石にバズーカ弾はよけられたものの、その隙に周囲の護衛機が対処用に編隊を組み換え終えていたことでドナールはやむを得ず後退するハメにまで陥ってしまう。

 しかし最後尾が有効射程に入ったことで、ケインがようやくアキの機体を狙撃できる。正確に、風向きや輸送機の動きも計算してアキ機の動力炉の当たりを狙う。あそこまで輸送機に近ければ、爆発すれば二次被害も中々のものだろう。

 そう思いほくそ笑むと、ケインはスナイパーライフルの引き金を引いた。

「来るわねぇ!」

 しかしアキは、そのスナイパーライフルの銃弾の軌道とタイミングを見計らい、手持ちのライフルでケインの放った銃弾を撃ち落としてみせた。

「嘘でしょ…」

 思わず呟くケイン。

「流石はブルファイターね!やることが人間離れしてるわ!!」

 その光景を少し離れた所で護衛機を片付けていたカイナも思わず叫ぶ。しかし、無線もオフにしていたはずなのにアキの肩がピクリと震えた。

「ん?誰か今私を牛って言った気がするんですけど…!?」

『き、気のせいですよ!第一言ったところで聞こえるはずが…』

「そんなにこの胸が羨ましいかこんちくしょー!!」

 戦場全体に響くほどの狂気に満ちたアキの叫び声に、思わず知らず僅かに後退してしまうカイナたち。アキは機士を繋いだワイヤーを切り離すと、静止する部下たちの声を無視してホバー用のブースターを全開に吹かして飛び上がった。

「あははははは!!ただの牛がこんな機動が出来ると思うてかぁ!!」

 大きくジャンプし、次から次へと輸送機の上を飛び移っていく。

「あ、ありえねー」

 ドナールが思わず呟く。本来ホバー機能をメインに移動する連邦軍機士は、空中のような突風が吹く場所での戦闘には全くと言っていいほど向いていないはずなのに。

 しかしアキはそんな常識など知ったことではないと言わんばかりにホバーからの足裏フックを器用に使い分け、とうとう先頭の輸送機の上にたどり着いた。

「そこなら届くんだよねぇ!」

 そう叫んでライフルを撃つ。銃弾は後方で援護狙撃を担当していたケイン機に直撃した。

「うっそー…」

 思わず呟き、破損した箇所を調べつつ移動を開始するケイン。しかしアキは正確に次々とケインの回避パターンを先読みして当てて来る。アストラメタルの装甲と風向きに加え、ライフルの有効射程ギリギリの距離のおかげでダメージはそうでも無いが、このままどんどん距離を詰められていけば、いずれ装甲ごとぶち抜かれかねない。

「ここまで来れば後一歩だ!全機、着水準備!空中から一気にパージしていく!!」

 作戦指揮官の号令を受け、無事だった輸送機が後部ハッチを開けて次々と連邦軍機士を海に放り出していく。放り出された機士たちは使い捨てのバックユニットに装備された専用のパラシュートで落下速度を緩めると、そのままホバーで海面に触れるかどうかギリギリの所で浮遊してみせる。

「この三機はアタシが片付けとくから、アンタたちは島を制圧してきな!残りの四機もヨロシク!!」

「了解!!」

 アキの命令を受け、十四機の連邦軍機士が一斉に島目指して進軍していく。

 しかし、その内の三機が突如海に引きずり込まれ、ありきたりの耐水性能しか持たない連邦軍機士はあっという間に浸水して動かなくなる。

「奇襲成功!!水中戦用パックは便利ね!!」

「アンカー当ててレバーを引くだけの簡単なお仕事ってな!!」

「残り十一機!んで、空の化け物含めて十二機ってかぁ!?」

 マイ率いる、水中戦用パックを装備した陸戦部隊は、そう言いながらも次の標的に向けてアンカーを射出していく。連邦軍機士は水中に引きずり込んでしまえばもう自力で浮かび上がれない以上、まさにジョーの言うとおり、簡単なお仕事だった。

「あ”ーもう!!うっとおしいわよアンタたち!!」

 しかし、そんな状況に業を煮やしたアキはブースターを全開にして飛び上がると、まず手始めに空戦部隊のドナールに接近し、脚部ブースターの勢いを込めて蹴り飛ばした。一応空戦部隊の近接特化型を任されているドナールをして一切反応できない程の手際の良さだった。

「マジかよぉ…」

 そのまま別の輸送機の上に乗り込むと同時にバズーカをカイナ機に向けてぶっぱなす。カイナもなんとか回避するが、回避パターンを正確に読んだアキはライフル弾をぶち込み、カイナ機のメインブースターを炎上させた。

「また!?なんで毎回こーなるのよーっ!!」

 錐揉み落下していくカイナ機を回収するケイン。しかし、アキはその背中にも一発ライフル弾を叩き込み、気づけば空戦部隊はまたしても一瞬で片付けられてしまった。

「んで次!!海の中からね!!」

 流石に手持ちの火器では対処できない。そう判断したアキはホバージャンプで輸送機の後部ハッチに戻る。

「もう一回ワイヤーで繋いで!!あと、あの銃座借りるわよ!!」

「もう好きにしてくれ!!」

 再びアキ機がワイヤーで繋がれ、アキはそれを支えにして輸送機上部に取り付けられている防空用のガトリングガンを力尽くで取り外す。輸送機の中に居る全員が諦めの表情で見つめる中、アキ機は手にしたガトリングガンで海めがけて落下しながら手当たり次第に撃ちまくる。

 本来同じクラスの輸送機や戦闘用の大型空中戦艦を相手取る為のガトリングガンであり、機士が扱う代物ではないが、アストラメタルで強化されたこの凱仙であれば反動にも耐えられる。

 海中でようやく二機目の連邦軍機士を海に引きずり込んだマイは、突如海面越しに降り注いできた銃弾の雨に驚き、そして直撃を受けた水中戦用の追加装甲に穴が空いたアラートに心臓が止まりそうになった。

「化け物かよぉ…マイ機、パックに損傷の為島本土まで一時撤退します!!バーニィ、ジョー!!上からくるわよ!気をつけて!!」

 口惜しげにそう申告すると、マイは浸水しかけている右肩を抑えつつ島めがけて一直線に進んでいく。速度では連邦軍機士と同じくらいだけど、僅かに距離が空いていて先に向こうが島に到着してしまう。

 そしてそんな戦況を司令室も把握していた。

「了解した。ならバーニィとジョーも島に戻ってくれ。陸戦で決着をつけろ」

 このままでは連邦軍のブルファイターに上から狙い撃ちにされるばかり。こうなれば、残った三機と島本土の防衛装置で八機の連邦軍機士とブルファイター率いる戦闘機部隊を相手にするしかない。

「やるしかない!防衛装置起動!島民の避難状況は!?」

「完了してます!各所の防衛装置も、問題なく動きます!」

「よし!この際ある程度の被害は厭わん!全身全霊を持って連邦軍を――」

「連邦軍機士、島本土に上陸しました!!」

 オペレーターのセレナが悲鳴混じりの声で叫ぶ。モニターの向こうでは、既に八機の連邦軍機士がライフルを片手に司令室のある役場を目指して進軍している。

 このままでは。だけど、この状況をひっくり返せる策など無い。そう、今ある戦力だけでなんとかするしかないんだ。でなければ、イルアはまた戦ってしまう。

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