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ポトフ

「お待たせしました ポトフです」



「結婚してくれませんか?」


藪から棒に されたプロポーズ

3度目 やっとまともに店でご飯を注文できた男に 温かいポトフを運んできたフロールは 目を丸くする


…この人 まだ殴られたりないのかしら


昨日 兄に殴られた頬は 歪にゆがみ どす黒い斑模様になってしまっている

そんな汚らしい顔で 真剣に見つめる眼差しに 胸がざわざわする

下町に似合わない仕立ての良い服

自分と同じ黒髮に黒い瞳の男

…まるで おばあちゃんの語る物語の登場人物みたい

ぼろぼろな顔だけど


フロールは盆を胸元に抱えながら 正面の席に座る


そんなフロールの行動に男が 予想してなかったのか 腰を浮かせあわてだした



テーブルが動き カチャン ポトフの皿に添えられたスプーンが 鳴る


今度は 下から男をフロールが見上げる番だ

やっと ちゃんと男の顔を見た気がするわ


「ポトフ 冷めちゃいますよ まず一口食べて欲しいです」


落ちついた声に冷静さを取り戻し 椅子に座りなおした男は スプーンを持つと熱そうな野菜を口に頬張る

男の熱さに 寄った眉間のシワが 消え 柔らかな表情にかわる


「美味しいでしょ? 朝早くから 仕込んだんですよ 」


旨そに ポトフを 男は何度も頷きながら平らげていく

その様子を フロールはただ見ていた


多分誰か似た人と私を重ねているのよね?

3度も 続けば 嫌でも気付かされるわ

珍しい色彩 フロールも他人では久しぶりに見かけている

綺麗な所作て食べる手や腕は 騎士を思わすが 身なりは良いとこの息子で学生?


そんな思考を巡らしていると 男が空になった皿の上にスプーンを置き こちらをみていた

その顔が 何処か泣きそうで…


「だれかにそんなに似ていますか?」


えっと 男が目を見開くが 言葉が続かないようだ


「似てるんですよね〜多分 面識もない飯屋の小娘に求婚してしまう程度には 似てるんでしょ?」


誰かに重ねられて見られるなど どんな人間でも 腹立つものだ 増してやそんな理由でされたプロポーズが初めてなら尚更 フロールの声もきつくなったとしてだれにも責められはしない

さぁ 情けなく言い訳でもしたらいいわ

小娘だからって馬鹿にしないで


フロールの怒りが伝わると

男は ただ悲しげに笑って 首を振る



怪訝に見やるフロールに 男が重たい口を開く


「…誰かに似ていたからじゃないんだ。僕の国は 単一民族でね 皆黒髪黒目で黄色い色味の肌なんだ。…この国では同郷の人に会う事なんて無くて いつも探していた気がする。

だから君をお祭り騒ぎの町で見かけ時 本当にびっくりした。

そして嬉しかった…是非 会いたいと思った。

君を探したよ

すぐに黒髪の君を見つけた…ずっと情けない姿しか見せてない もう来るべきでない事もわかってる 周りにも止められたしね

でも 苦しいだ

君にもう会えないと思うと…苦しいんだ」


真剣な目をしながら呆れた話を男は 語る

髪が黒ければ誰にでも求婚したんだわ

たまたま私が 最初だっただけ

嫌な人


でも 何故か 胸が締め付けられる

客の冷やかしとは違う

真剣な眼差しに 頬が染まる


「貴方のような身なりの良い人が 求婚すべき娘でないですよ

それでも 苦しいのなら

しばらく毎日 店に通って下さい

…だけど 変わらず貴方の気持ちに嘘がないなら もう一度 考えてみる」


男は わかったと ありがとうと何度も頷いた


あの時 何故あんな風に応えたんだろう

今でも 私らしくないとフロールは思う


こんな会話の後 名前を聞けば ケイジロウなんて変な名前の彼は 言いにくそうにしている私に


「ケイでいいよ 」

「ケイ? じゃあ ケイさんって呼ぶは いい?」

「あぁ そうしてくれ フロールさん」

「さんはやめて フロールで大丈夫よ

あと 抱きつくのもダメよ また周りが心配して殴ってしまうわ ちゃんとしてね」


「…フロール わかった ありがとう」


誰も他にいない店で 二人は色んな話をした






















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