旅は道連れ
「 ケージロー! 迎えにきてあげましたわよ」
応接間の重そうな扉が 勢いよく開かれ 良く通る声が あまり広くない部屋でこだまする
医官に 手当てを受けていた 慶次郎は当ての外れた人物に目を丸くする
「シャンティ 君が来たのか?」
「まぁ 不満ですの!! 」
みるみる 彼女の顔が 不貞腐れて幼い日のまま慶次郎を睨む
「いやいや 違うよ不満とかじゃない。 今朝も君は忙しいって話してたから 違うやつが来ると思って驚いただけさ…ごめん 助かったよ」
慶次郎が 座ったまま 手を広げれば シャンティ嬢が 飛び込むように首に手を絡め 慶次郎の膝の上に腰をおろす
「…なら いいのですわ」
甘えるように 慶次郎の首もとに額をすりよせる
そのはずみで シャンティのベールがひらりと床におちた
グリーンな髪をゆるく結い上げ瞳と同じピンクのリボンで飾る髪は 今日もいい匂いをさせ 慶次郎の鼻腔を刺激する
しばらく 髪をなで 柔らかい感覚を楽しんでいると
大きな瞳が キラキラと ご褒美をくれと見つめてくる
慶次郎が、彼女の額に瞼にと キスをしお礼を述べれば
ピンクに頬を染め シャンティは、満足げに微笑んだ
「ケージロー 誰がこの様な酷いことを貴方にしましたの? 」
慶次郎の酷く腫れ上がった頬に手を伸ばしながら シャンティの顔が辛そうに歪んでいる
「…さぁね。でも誰でもなく 俺が悪いから殴られた。それだけだ。
どうしても 身元を証明する必要があったから 伝令をだしたけど 悪いのは俺だよ こうされて当然だったんだ。シャンには 心配をかけたね」
ピンクの瞳から 目をそらさず 申し訳無さげに言えば まだ何か言いたげにしている シャンティが先に折れた
「…ケージローが それで良いのなら もう私は何も聞きません」
そういうと 首に回したままの腕に力を入れて 俯いてしまう
「ありがとう シャンティ」
トントン
無機質なドアを叩く音に 慶次郎が顔をあげれば ニヒルな笑みを浮かべだ長身の青年が 開かれたままの戸口に腕を組んでたっていた
その後ろには ぜぇぜぇ 息を切らした女性が汗だくで 壁に手をついて肩をゆらしている
「あんたも来たんか?」
慶次郎が シャンティの腰を支え 床におろしてあげながら バツの悪そうに言う
「来たんか?はないんじゃないかなぁ〜急な伝令に何事かと思えば、 あなたが性犯罪者扱いされてると聞けばほっとくわけにいかないでしょ」
青年が 慶次郎の方に歩みを進める
「…しかし えらく男前をあげて」
いやらしい笑い方で 慶次郎の顔をまじまじとみる
鈍臭いなぁ〜と腹で笑ってるんだろうな
腫れた頬をなでながら
「あぁ そんな良いできか? まあぁ すぐ治るさ」
慶次郎は青年の肩を叩くと さっさと部屋を出て行く
部屋の前には 制服姿のおっさんがずらりと並んだまま 酷い顔をして やばいものを見る目でこちらをみている
「…迷惑をかけました 帰っていいですよね?」
戸口にいた おっさんに尋ねれば どもりながら 諾の弁を述べている
それを最後まで聞くこともなく 慶次郎は廊下をすすむ
歩けば あちこち身体が痛む どうやら受け身さえ取れずぶっ飛ばされたみたいだ
昨日に続き 2回も情けないなぁ俺
もうあそこには行かない方が最善だろう
…でも 無理だ 嫌だと反対する俺がいる
あの日 落ちた日から 置き去りにした幼い俺が反対している
もともと 女の子は好きだ 柔らかくあたたかい
でも…彼女は全然違う
シャンティに抱きつかれ嫌でも確認させられる
心が感情が揺さぶられない
消えてしまった彼女の 柔らかさと体温
「ケージロー?」
追いついた シャンティがまた心配そうに名前を呼ぶ
大丈夫だよ 俺はどこにも行かないさ
✳︎✳︎✳︎
落ちた日から いつも何かに追われる
さぁ 旅立つのだ 貴様は国を救う勇者だと言われて、はいわかりましたと受け入れる 平成生まれの男子高校生がいるわけもない
先ずは泣き叫び暴れてみた
…訳のわからないものの為に命はれるわけがない
鎮静剤というのは どの世界にもあるらしいという事を学ぶ
次ににげてみた
…権力って凄い 速攻捕獲
そしてこの世界 文明的に侮れない
でも3度目の逃走の時は違った
俺は 役者だった
街を抜け 森まで逃げたあの時の開放感はすごかった
このまま いつもの日常に戻れる気がした
あの木々の先には 待っいる
母さんや親父 兄貴がいるリビングに繋がってるんだ 全力で走るなんて小学校以来だ
もつれる足を叱咤して 辿り着いた先は
はっはっはっ はーー
ははっ ははっ
腹の底から笑いがとまらない
少し森が開けた 場所には ただ静かさだけが存在して 慶次郎が求めてきたものは無かった
…いくら来ても 今からは逃げられないのか
慶次郎は膝から崩れるようにしゃがみこみ 空を仰ぐ
「終わったなぁ〜 俺」
「そんな事はない」
自分を見下ろす マントの男に瞬きをするのも忘れ 固まる
…心臓破裂しそうや なんでや なんでお前がいる
マント男が にゃぁと 笑みを浮かべる
頭の中まで覗かれた関係だか 初めて顔をみた また中を読まれている気がして 胸糞悪い
〈こいつ ジジイじゃないんかい!〉
細目 たれ目野郎 えらく男前な顔をしている
笑うと目がなくなるギャプ萌えとか俺はしないからな
「落ちびとが やっと旅立たれたので お供いたしました。あっ まさかですか 上手く逃げ切れると思っていましたか? 身体能力も低い 知能も中程度 異能もない貴方では …有り得ない。
いいですか 貴方の唯一の価値は『落ちびと』です。 …良かったじゃないですか」
張り付いた笑顔 のまま 開かれた目があまりにも鋭く痛い
「…最悪」
「ふふ まぁそう言わず …同意見ですから お互い痛み分けです。あぁやっと追いついたようですよ」
マント男が 指さす先に 数名の男女がこちらをみている
一応に こちらを睨んでいるようだ
「あれらが 貴方の守護者です …いつまで寝そべってるつもりですか? 行きますよ」
そんな感じで はじまった旅
『落ちびと』の本来の存在意義
守護者達との確執
俺は 貴重な生き残った落ちびととなる