09
次に目を覚ますと、やはり暗闇の中で状況は変わっていなかった。手足の鎖のせいで上手く身動きがとれない。
あれからどのくらい時間が経ったのだろうか。暗闇の中では今が朝なのか夜なのかすらわからない。村のことが心配だけど、あのワンズという男の言葉を今は信じるしかない。
---暗闇の中、どのくらい時間が経ったのだろうか。どこを見つめるでもなくぼぉっとしていると話し声が聞こえてきた。
「っート様、第二王子ともあろうお方がこのような場所に何用ですかな。」
この声はワンズの声だ。なんだか揉めているような…でも誰と話しているのだろう。
「罪のない民衆が捕えられていると聞いて。確かめにきたのです。悪い噂だと思いまして。」
アル?アルの声だ。でもいつもと雰囲気が全く違う。
「何をおっしゃるのですか。ここには罪人しかおりませんよ。」
ギィっと音と共に、扉が開き眩しいくらいの光が差す。
眩しさのあまり目を細めると同時に話が進んでいく。
「この少女が罪人だとでも?それに処刑するという話も聞きましたが、刑を決めるのは王族のみのはずです。誰の許可を得てやろうとしているのですか?」
「アルバート様っ!まさか処刑など!考えてもおりませんでしたよ。ただこやつは私を侮辱し、あろうことか国に報告なしで魔力を使ったのですよ!これは立派な反逆です。」
「反逆?このような少女が?魔力を報告していないのは最近、覚醒したからではないのですか?遠い村からなら報告が王都に届くにも時間がかかるでしょう。すぐに、罪を決めるのはよくないですよ。それに魔力があるのならば国が保護し、正しい教育をする法律でしょう。ワンズ様、一人が決めることではないはずです。」
「はっ、ですが、こやつは!」
「ワンズ様、あなたが少女を檻に閉じ込め、成人もしていない娘に侮辱されたからと罪をきせる姿を第一王子が見たら悲しみますよ。この少女が魔力があるというなら私が責任を持ってオリーブ学園に入れましょう。私もいますし国の保護の元、間違いなど起こさないでしょう。いかがです?納得して頂けたらこの件は他言しませんよ。」
「………わかりました。私も少し疲れていたのでしょう。判断を間違えてしまったかな。では、この件は内密でお願いしますよ。」
そう言って、ワンズはこの場から足早に去っていった。
私は長々した話についていけず、どうしていいのかわからないままいつもとは雰囲気の違うアルを見つめていた。
「リー?大丈夫?今、出してあげるからね。」
「アル…なの?」
「そうだよ。来るのが遅くなってごめんね。」
そう言って檻の扉が開いてアルが近づいてくる。目の前が暗くなったと思ったら
あったかい感触を感じる。心地よい体温がなんだか安心する。
抱きしめられているようだ。
「おい、アル!早く鎖取って檻から出してやれよ。その子、ケガもしてるみたいだしよ。」
見知らぬ男が扉にもたりかかりながら、こちらを見ている。
「ああ!そうだね。ごめん。ごめん。え?リー、怪我してるの??痛い?すぐ医務室に連れて行くからね!」
「大丈夫だから。落ち着いて。って、きゃっ!!!!!」
アルが鎖を取ったかと思うと、いきなり体が宙に浮く。お姫様抱っこ?というやつなのかな。
「大丈夫だから、降ろして。」
「ダメ。鎖のせいで手足が紫色になってるし、それにこんなに軽いんじゃ、医務室に行くまでに倒れちゃうよ。今は大人しく運ばれて。」
なんだか笑顔で言われると、断れなくなってしまって大人しく運ばれることにした。
医務室にたどり着くまでの廊下でアルともう一人いた男の話を聞いていた。
どうやらエリクという名前らしい。
「ここでいいよ。エリク。後は先生に診てもらうから。」
「ああ、また何かあったら読んでくれ。もう脱走するなよ(笑)」
そう言って、エリクは私たちから逆方向に歩いていった。
---エリクが廊下で一人になると、誰に言うでもなくぼそりと呟いた。
「アルのあんな顏初めて見た。にやけすぎだろ。」