02
とりあえず、近くの山穴になんとか連れて来ることが出来たがここからどうしようか。
病人をこのままほっとくわけにもいかないけれど、そろそろ村に帰らないといけない。日が落ち始めてきた。そろそろ薬も効いてくるだろから大丈夫だろう。無意識に腕のブレスレットを触る。
---私は孤児だった。10年前、村の入り口に倒れていたらしい。貧しい暮らしの村人たちの反対を押し切って、じい様が今まで拾って育ててくれた。
きっと体の大きさから6歳ぐらいだろうと言っていた。名前もわからないかった。この国で名前のない孤児は皆リーシャという名前をつけられる。じい様は反対だったらしいけど、国の決まりだからしょうがないのだろう。私の名前はリーシャ。そんな私が唯一握っていたのはこの紫色の石のついたブレスレットだった。
「じい様、ただいま。」
「おかえり、リーシャ。」
ああ、いつもの日常だ。家に帰ればじい様がいる。少し口うるさいじい様が私は大好きだ。
「リーシャ、上着はどうしたのじゃ?朝は着てたじゃろう?」
「あ、あぁ薬草を取っていたら暑くなってしまって、どこかに置いてきてしまった。」
あの男にかけてきてしまったのを忘れていた。まぁいいか。
「いいのだよ。それにもうボロだったじゃないか。」
じい様は村の薬師だ。このあたりでは有名で病気やけがになったらみんなじい様を頼る。町にいけば治癒師が魔力を使って治せるが、こんな田舎には居ないから薬草を使う。
私はそこで手伝いをしてもう10年だ。薬草だって見分けれる。少しなら煎じれる。
「明日も薬草を取りにいくのかの?」
「行く。」
「あまり無理するんじゃないぞ。今日は王都の騎士がうろちょろしてると村の者が言ってたしの。それに夜のことだって「ああ、わかってる。」
じい様は心配性だ。
あの男のことも言うとまた心配をかけてしまいそうだから言わないでおこう。
明日は何か食べる物でも男のところへ持っていこうか。じい様が「傷ついたものには優しくするんじゃぞ。」って前に言っていたし。
--あの男はどうしただろうか。
朝、起きてまず考えたことがあの男のこととは。なんだか奇妙な感じだ。
「いってきます。」
じい様といつもの朝を過ごして、ばれないように食べ物と薬を持って昨日の山穴に向かう。
「あ、君は昨日助けてくれた子かい?紫の綺麗な髪だったことしか覚えていないんだけれど君だよね?」
寝ている間に荷物を置いて帰ろうと思ったのに。
「そう。これ薬と食べ物。使って。じゃあ」
「え?あぁ。ありがとう。上着も!本当に助かった、、良かったら名前を教えてくれない?」
「名前?別に知らなくてもいいだろう。」
「そういうわけにはいかないよー。ほら、名前を知らないと不便だし。ちなみに俺のことはアルって呼んで。」
そう言って手を伸ばしてくる。アルという男。
なんだこの手は。
「リー。」
「えっ?」
「名前。リーだ。今日はもう帰る。」
あまり人と話すことがないから、どうしていいかわからない。
名前を言ったら手を出さないといけないのか?
じい様には名前を聞かれたら「リー」と答えろとしか言われなかったし・・・
とりあえずは、伸ばしてきた手を無視して帰ることにした。
--明日は毛布でも持っていってやろうか。アルという男はまだ傷が治りそうにない。